2021年度科学ジャーナリスト賞受賞作品最終選考会開かれる
2022年4月16日、プレスセンター会議室で、2021年度科学ジャーナリスト賞受賞作品最終選考会が開かれました。元村有希子委員長の司会のもと、外部委員と科学技術ジャーナリスト会議(JSTJ)担当理事ら全員が集まり、活発な意見交換が行われました。2年ぶりの大賞を含めて以下の4作品が選ばれました。
受賞に限定せず、最終選考で議論されたこと、筆者が感じたことを報告したいと思います。
科学技術ジャーナリスト(JASTJ)賞大賞 書籍「福島第1原発事故の『真実』」
震災10年余を経て、NHKの番組を担当した取材班が、発生からの経緯、吉田所長の対応、東京電力と政府の方針・対応などについて、詳細な記録をとりまとめた大著です。ジャーナリストにとっては既知の内容でしたが、これだけの資料を残すことの意義に対して異論を述べた委員はいませんでした。2年間、大賞に価する作品がないなか、本作品が大賞に価するかどうかを議論しました。そして、科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)は震災を忘れないという意思表明の意味もこめて、大賞とすることになりました。
JASTJ賞 新聞「なぜ君は病にー社会的処方 医師たちの挑戦」
病気は医療・医薬品だけで治せるのではなく、貧困、孤独など人々との関りや社会の仕組みによって改善される(社会的処方)ことが、いろいろな取材によって報告されています。主に医学部の学生らの「社会的処方」に真摯に取り組む姿が紹介され、明日への期待を持たせる作品です。
JASTJ賞 書籍「早すぎた男 南部一郎物語 時代は彼に追いついたか」
ノーベル賞を受賞した南部陽一氏の理論は難解で、あまり知られていません。本著は、南部氏の人となりを暖かく描きながら、理論物理にも触れて、いつの間にか終わりまで読ませてしまう、テンポのよい作品です。同時代、多くの日本の物理学者らが世界で活躍していた、誇らしい歴史が紹介されている良書でもあります。
JASTJ賞 映像「ネアンデルタール人は核の夢を見るかー“核のごみ”と科学と民主主義」
高レベル放射性廃棄物の最終処分場をめぐる寿都町での地域の問題と国策の問題が浮き彫りにされています。自分の棲んでいるところと離れていても、核エネルギーにお世話になっている私たちに、寿都町は「あなたの街ならどう向かい合うか」という課題を私たちに突き付けてきます。一方、番組の中で紹介された鳥島を処分場の候補地とすることへの再考も、期待したいと思いました。
受賞に届かなかった作品
- WEB作品:調査報道 通称「宮崎・早野論文」から『科学的』の正体―私たちは、実験台だったのか」
伊達市に住む一般市民が、専門家らと力を合わせて膨大な資料を読み解いていった「研究成果」の記録は高く評価されるものです。しかし、ジャーナリズムに欠かせない対立する立場から取材がなく、情報源が偏ってしまったのが残念でした。 - 映像 NHKスペシャル「津波避難 何が生死を分けたのか」
津波のときに避難の連鎖が起こっていたことを含めて、各人がとった行動と、被害の実態の関係が、詳細な調査をもとに科学的に分析されています。被災された方の苦悩は非常に深く重いものですが、今後の防災の研究に活かそうとする未来に視線を向けた作品であると思いました。 - 映像 NHKスペシャル「パンデミック激動の世界」検証“医療先進国”(前編) なぜ保健所は追い込まれたか」
新型コロナウィルス感染症の流行が長く続く中で、日本の保健所の実態と貢献が描かれています。タイトルにあるように追い込まれながら、なんとか工夫して機能している保健所に関わる方々に本当に頭が下がります。私たち一人一人は、感染してもしなくても、保健所に支えられて生きられていると自覚すべきだと思いました。 - 書籍 「ネコが30歳まで生きる日」
筆者はこの作品を候補作品として推薦しましたが、一次選考通過はかないませんでした。タイトルにあるようなネコの腎不全に限った話ではなく、日本の研究者が発見したAIMという物質の可能性と期待が描かれています。今回のJ賞には届きませんでしたが、AIMは透析を受けている患者さんの巧妙になることも期待される物質で、製剤化され再び脚光を浴びる研究成果であると筆者は思っています。