TTCバイオカフェ「我が家の犬猫としあわせに暮らすために」
2022年2月25日、TTCバイオカフェをオンラインカフェでひらきました。お話は獣医 入交真巳(いりまじりまみ)さんによる「我が家の犬猫としあわせに暮らすために」でした。
全国からご参加いただきました。家のワンちゃんやニャンちゃんと参加された方も何人かおられました。
主なお話
はじめに
「動物愛護」は動物を愛して 護ることで、主語は私。私の感覚で動物を幸せにすること。
「動物福祉」の主語は動物。動物が幸せになれるか、苦痛なく暮らせるか、私たちといる動物は幸せか、彼らの幸せは何かを考えること。Animal welfareというのが、welfareには「よく生きる」という意味がある。
1970年代 動物福祉の5つ約束が以下のように定められた。これは動物を快適に楽に暮らさせるための考え方で「5つの自由:The Five Freedom of Animal」と言う。
- 飢えと渇きからの自由 飢えや乾きがないこと。
- 不快からの自由 不快でないこと
- 痛み・障害・病気からの自由 苦痛、苦悩のない暮らし。例えば快適な温度
- 恐怖や抑圧からの自由 病気や痛みがない
- 正常な行動を表現する自由 動物本来の行動ができる環境。昔の動物園は全部同じケージに入れていた。例えば、土を掘りたいブタをコンクリートのケージに入れてはだめ。
動物の幸せと、ホモサピエンスの幸せは一致しないこともあるので、今日はご一緒に考えてみましょう。
1.犬と人の関係
「犬になめられてはいけない」「犬のボスになれ!」「犬を従わせることで犬は幸せなのだ」という意見がある。その理由は、犬はオオカミの子孫であり、彼らは一位のオオカミに従って社会を構成するのだから、人がオオカミのように犬のボスになるのがいいという考えから。
私の専門の動物行動学からすると、人、犬、オオカミを同じに考えるのはおかしいと思う。
オオカミのボスは群れを率いるが、困難な状況では経験値がある老オオカミの判断を尊重し、子どもオオカミの行動も容認することで上手に平和な社会を回すボスの役割を担う。
犬は1.5万年前に人と暮らすために家畜化した動物で、オオカミではない。
犬と人は、相手を思いやり仲良くなって共に暮らし、オキシトシンという「幸せホルモン」出るほどの絆をつくってきた。決して主従関係を作っているわけではない。
犬が不安な時や葛藤状態にあるときにみせる行動
葛藤行動と言って、飛び上がったり、マウンティングしたりその場にそぐわない動きをする。口をもぐもぐさせる。あちこちを視る(横や上)。唇をなめる。体を引っかいたり、なめたりする。暑くないのにハアハアと息をする。目を細める。あくびをする。口角を引いて奥歯まで歯を見せる。
例えば、足をふいたり耳を触ったりすると、人に攻撃する犬がいるとする。通常犬は耳や脚を触られるのは嫌いなので(怖いから)、上記のような不安を示す行動をとり相手に自分の気持ちを伝えている。しかし、その犬の言葉が人に伝わらなかった場合、「不安だからやめて」というためにガブッとなったり、ウウとうなったりする。抗げっき行動も自分の不安な気持ちが伝わらなかった結果といえる。それなのに、人が間違って、攻撃行動は犬が生意気になっているからだと勘違いして、犬の不安表現に対してたたいたり、叱ったりすると、犬と人のコミュニケーションは破綻する。
耳の手入れをするときには、お菓子を少し与えて、は触られても大丈夫とほめて練習する。
足を触られるのが嫌いな犬には、足を拭く代わりに濡れたバスタオルの上で餌を与えていったり来たりさせて足をきれいにする。無理強いをしないようにするとよい。小さな子供を歯医者さんに慣れさせるのと一緒で、無理に押さえつけていやなことをしたらダメなので、優しくなだめて、木をそらせてほめていくのと同じである。
犬は怖いときに目をそらす。目をそらしたら、犬が怯えていることを理解しましょう。犬がわっと吠える前に、口をもぐもぐしたり、目をそらすなどの不安行動をしたりしていたら、その背景を読んであげましょう。
ビデオ1)2頭の同居する犬同士のけんかの原因を考えるビデオ。
3歳の犬が9か月の犬を襲ってしまうご家庭であるが、9か月の犬は3歳の犬に対し、きちんとコミュニケーションをとり、攻撃性を出させない態度をとっているのに、子犬の時期の社会化期にべなかった犬同士のコミュニケーションをまなべなかった3歳の犬が意味もなく、9か月位の犬を襲ってしまっているケースであった。犬同士の社会化期(3-16週齢)に犬同士ちゃんとコミュニケーションを取らせていたかでうまく犬との関係が気付けるか否かがきます。早期に無理にペットショップにおろされてしまっていたり、子犬同士で遊ばせる機会を与えないとほかの犬との関係を気づけにくい。また社会化期にほかの犬との接触がなかった犬は、ドッグランなどで無理にほかの犬と合わせると非常にストレスとなってしまう。
ビデオ2)宅急便に吠える犬
宅急便屋さんへの攻撃の意味は「我が家に誰か来た!」「怖いよ!」と家族に伝えている。「静かに!」と人間が大声でいうと、飼い主も大声を出して自分と一緒に戦ってくれていると思い込み、吠えることがいいことだと学習する。
対策1 犬が飛び出せないように柵を作って安全対策を講じる。
対策2 ベルが鳴るとおやつを与えて、ベルがなっても怖くないことを伝える。
家族にかみつくのはどんなときか。噛みつくとき、自分は嫌であることや不安を表していることがほとんどである。反抗や生意気ではない。人の上に立って主従関係が破綻しているからでもない。犬の知能はヒトの2歳児程度で、学習能力は9歳児程度と言われる。だから、人の幼児教育と同じで、むやみにたたいたり叱ったりしてはいけない。恐怖を覚えてしまうだけで何も学習しない。呼び鈴を鳴らした人は、侵入者で怖い人ではなく、大丈夫だから警戒しなくてもよい、と教えないといけない。人間の方も急に犬が吠えたりしてもあわてずに,呼び鈴が鳴ったら、おやつを与え、犬に大丈夫だから落ち着こうね、教える。
犬のしつけの基本は、悪い行動は無視し、その悪い行動をしても家族は何もしないし、何も得られないよ、ということを伝える(オペラント条件付けの負の罰)、その代わり何をすべきか伝え、できたらほめて報酬を与えるという訓練をする。
2. 猫と人の関係
キプロス島で9500年前の墓から猫とヒトがでてきた。ネズミ退治に猫を使っていたらしい。この猫は人と緒にいた猫。日本には、穀物貯蔵のネズミ退治に必要であることから、猫が大陸から来た。弥生時代の遺跡に人と猫の骨がある。
猫の祖先はヤマネコで、縄張りで孤立していたが、家猫はコミュニケーションし、社会をつくる。
仲良し猫は首から上をなめあう。首から下は自分でなめられるから。だから、猫には、首から下が触られるのが苦手な猫もいる。従って、なでられのが苦手な猫をなでるときは首から上を軽く短時間なでるのはOK。
猫同士の相性で猫同士の距離感は異なる。仲良い猫はくっついて寝る。馬が合わないと距離をとる。同じ家の中での多頭飼育の場合、猫同士でも相性が合わない猫もいるかもしれないので、猫が寝る場所とご飯のお皿の場所はあちこちに設置し、馬の合わない猫同士が近くに居なくてもいいような環境を整える。
祖先であるヤマネコからの習性で、猫は餌をとるときはひとりでハンティングをするが、帰ってくると体をすり寄せて、「お帰り」と「ただいま」もする。猫が尾を立てて近づいてきた時はフレンドリーな挨拶であなたを気に入っている証。
今は猫の屋内飼いが普通になってきた。猫の生活時間の半分以上は睡眠と休息なので、特に多頭飼いのときは柔らかいベッドがあちこちにあるといい。猫の祖先は危険があれば樹上で安全を確保することも多いので、上にあがってリラックスできる場所を確保しよう。キャットタワーでなくても、本棚や机、出窓など高い場所にも猫の居場所があると良い。
猫が活動する時間帯は薄明薄暮性の動物なので、夕暮れと早朝である。。だから人と生活しやしかもしれない。例えば仕事を持つ人が飼うには、猫の活動時間はあっているかもしれない。近年は猫と暮らせる家づくりなども盛んになってきた。
猫には遊びが大事で、遊びながら喧嘩のルールや互いの距離感を学ぶ。遊ぶことは猫だけでなく、犬にも人にも大事だと思う。最近は、猫の1人遊びのおもちゃも売っている。箱に大小の穴をあけて餌を入れたり、穴を開けたガチャボールに餌を入れたりするなど、餌さがしの一人遊びおもちゃも手作りできる。
猫のトレーニングは、報酬としておやつをあげながら行う。餌のドライフードを用いたり、おやつを用いる場合は、総カロリーの1-2割までなら問題ない。おやつを与えるときは、カロリー総和をあわせておやつをあげた分だけ食事の量を減らし、カロリー過多にならないようにする。
猫のトイレ
猫は広い場所で穴をほって排泄し、埋める習性がある。家の中にこのような行動できる環境をつくることが大事。
猫の頭からしっぽの根元までの距離の1.5倍位の長さがある大きさのトイレ(砂の入った箱)がいい。カバーがないほうが猫は好きであるが、十分に大きいトイレであれば大きなふたをつけても大丈夫。猫砂には砂のような細かい粒子のものが好きである。人同様汚れているトイレは嫌がる。トイレを複数おいておくと、きれいなトイレを選んで使えるようになるため複数個トイレは自宅に用意する。システムトイレより固まる砂のタイプのトイレの方が猫は好む。
質疑応答(〇は参加者、→はスピーカーの発言)
- 犬は嗅覚が強いので離れていてもわかるのではないか
→最初は遠隔から目で確認している。嗅覚もにおいの流れを伝ってはいるが興味があると近づき、そのあと近くで嗅覚で確認することの方が多いと思う。 - 家に出入りしている猫に交じってアライグマが入ってきた。猫とはコミュニケーションができているようだが、私を見たアライグマはとても驚いたようだった。まったく動じてなかったです。
- 外に出さない猫などは病原菌をもっていないのか。自分の家の中だけで飼っている猫は汚くないと思っている飼い主もいると思う
→感染症の観点で、猫や犬の良く持っている細菌がいるので、衛生的に距離を保って暮らしてもらいたい。具体的には、口移しで食べさせたり、口にキスをしたり、同じ食器から食べたりしないほうが良い。健康な人がペットと一緒に寝る分にはおそらく問題はないが、小さなお子様や、免疫機能の弱っている方の場合は注意が必要。 - 動物それぞれに固有の微生物と共存している。種を超えて悪さをすることがあるので人と犬や猫の間には適切な関係が大事。そこを理解しないと動物にはいい迷惑のこともある。人が動物に病気を移してしまうかもしれない。
- アライグマは特定外来種で、獰猛で危ない。アメリカのアライグマは狂犬病をもっていることもあるので、ここでも動物とのいい関係が大事。アライグマには触らないほうがいいでしょう。
- 猫が皿をテーブルから落として割るのはなぜ
→家族の関心をひきたい。食事の間は食卓から遠ざけるか、下にいる時におやつをあげ続ける。一番簡単なのは、食事中は猫をほかの部屋に入れておき、猫が退屈しないように一人遊びさせる(動くおもちゃなど)を与えておくこと。 - 親戚が猫を飼っているが、獲った蛇を家に持ち帰るのはなぜか
→理由はよくわかっていない。親猫は離乳の段階で子猫にまだ生きている獲物を持ち帰って、遊びながらハンティングの方法や何を狩るべきかを教える。家族にハンティングを教えようとして蛇を持ちかえるのか、戦利品を見せてほめられたいのか? - キャットフードを与えているが、とってきた獲物も食べる。もぐらは食べない。私も匂いを嗅いでみたところ、モグラはとても臭かったので食べないのだろうと思った←猫の餌の好みは親が教える。親は好む味を教えるので、その地域でよくとれる獲物の味が好きになることが多い。
- 初代の猫はアメリカの捨て猫で、マクドナルドのハンバーガーとポテトが好きだった。