「科学ジャーナリスト賞2021」授賞式開催
2021年12月4日、「科学ジャーナリスト賞2021」授賞式がプレスセンターで行われました。科学ジャーナリスト賞とは、日本科学技術ジャーナリスト会議が1年間に発表された、優れた新聞、図書、SNS記事、映像、展示に与える賞です。今回は、昨年度授賞式が行われなかった、一部の2020年度受賞者も集まり、オンラインを併用しての開催になりました。
関連サイト 科学ジャーナリスト賞 – 日本科学技術ジャーナリスト会議 (jastj.jp)
2021年度受賞作品
今回は大賞該当作品はありませんでしたが、3作品に科学ジャーナリスト賞が授与されました。
- 新聞連載「サクラエビ異変」(2018/11~連載中)
静岡新聞社清水支局長 坂本昌信氏ほか
駿河湾におけるサクラエビの不漁の原因を幅広い取材を通じて、今も探し続けている連載です。産業の負の産物と短絡的に結びつけるのでなく、気候変動などとの関連を調査したり、地元の人たちの声を丹念に集めたり、文学作品にも触れたり、読者が身近なこととして環境のことを考えるように伝えるという、真摯な姿勢が伝わってきました。
受賞者のことば:アカデミアとジャーナリストの対等な連携関係は誇れるものと思っており、今も継続しています。 - 書籍「理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!」(中央公論新社)
京都大学大学院医学研究科教授 西浦博殿氏、小説家 川端裕人氏
理論疫学者の西浦先生が、新型コロナウィルス感染症の第一波の中で、科学者として、行政との関わりの中で、サイエンスコミュニケーションにあり方を考えながら、どんなに奮闘されたかが、生き生きと伝わってきました。
西浦氏からの聞き取りをまとめた小説家 川端裕人氏のことば:科学を解説する役割を担っていますが、最後までわからないこともあります。そこを単純化することなく迫っていきたいと思います。 - 映像「BS1 スペシャル 『デジタルハンター ~謎のネット調査集団を追う~』」日本放送協会(NHK)
国際放送局チーフ・プロデューサー 高木徹氏ほか
公開されている人工衛星画像などデータを駆使して、実態を明らかにする「オープンソース・インヴェスティゲーション(」。航空機墜落事故の原因がわかったり、世界で不平等な環境に置かれている人たちがいることがわかったり、ひたすら事実を探求していく、この活動に関わる人たちの正義感に打たれました。
受賞のことば:ミャンマーのクーデターについて、オープンリソースインヴェスティゲ―ションを使って迫った次回作は新聞協会賞を受賞しました。頑張っていきます。
一次選考通過作品の中から
賞には届きませんでしたが、心に残る一次選考通過作品を紹介したいと思います。
- 新聞 連載企画「記憶を拓く 信州 半島 世界」第6部「断絶が覆う世界に」
信濃毎日新聞 田中陽介氏ほか
宮入慶之助博士の業績が紹介され、彼の影響を受けた研究者たちが、世界の寄生虫の研究や患者の治療に関わって力を発揮していることが紹介されています。海外での患者との間の意思疎通の苦労など読み物としても面白いと思います。日本人の業績を知ることで、コロナ禍下にある私たちは励まされると思いました。 - 書籍「中国、科学技術覇権への野望」
中央公論新社 倉澤治雄氏
長く中国に関わってきた著者により、情報系、エネルギー系、宇宙といろいろな科学分野で躍進する中国の実態がわかりやすく書かれています。その発展ぶりはまぶしいほどですが、著者が一番言いたかったのは、日本の科学はどこへ行くか、科学に関わるいろいろな立場のへの問いかけではないかと思いました。 - 映像 NHKBS1スペシャル 「見えざる敵を観る~ミクロの目で迫る新型コロナの正体~」
瀬尾拡史氏ほか
医師でありCGクリエーターである瀬尾氏が、コロナウイルスの文献にあたり、ウイルス研究者と議論しながら、コロナウイルスの姿、細胞内でのふるまいを精緻なCGにしていくプロセスが描かれています。CGを観ることで治療法のアイディアが生まれたり、瀬尾さんがよりキイになるプロセスの詳細化に気づいたりすることもあったようです。最後にウイルス研究者が語った「見えない敵とそのふるまいを可視化されることで、一般の人を「正しい恐れる」方向に導くのではないか」という発言が印象的でした。 - 映像NNNドキュメント「闘う君~Fukushima後も変わらないもの~」
福島中央テレビ 岳野高弘氏ほか
東日本大震災で被災し、避難生活に伴う転校、自宅にもどって感じる避難しなかった人たちとの間の隔たり。その中で震災をめぐる発信をすることで傷つく人が生まれることに悩みつつ、youtubeで発信していく高校生。Youtubeにあまり興味を見せない級友、そしてカナダ留学。大人の残した負の遺産を責めるだけでは解決しないと、闘い続けます。30分に満たない作品から、震災から10年経って私たちが向かい合わなくてはならないことを、静かな語り口で突きつけられた思いがしました。
<科学ジャーナリスト賞選考委員(50 音順、敬称略)>
〔有識者委員〕
相澤益男(国立研究開発法人科学技術振興機構顧問)、浅島誠(東京大学名誉教授、帝京大学特任教授)、大隅典子(東北大学副学長)、白川英樹(筑波大学名誉教授)、村上陽一郎(東京大学名誉教授、国際基督教大学名誉教授)
〔JASTJ委員〕
大池淳一(JASTJ理事)、佐々義子(同)、滝田恭子(同)、林勝彦(同)、元村有希子(同、選考委員長)