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  • TTCバイオカフェ「新型コロナとの闘いから学んだこと」

    2021年11月19日、TTCバイオカフェを東京テクニカレッジ(TTC)と共催で、オンライン開催いたしました。お話は東京大学医科学研究所付属病院 病院長 四柳宏さんによる「新型コロナとの戦いから学んだこと~コロナ対策の課題とこれから」です。3回目のワクチン接種、デルタ株など、みんながうかがいたいことをわかりやすく、すべてお話しいただきました。

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    ポスター

    主なお話

    1.現状

    11月18日の海外の様子をみると、世界では南北アメリカ、ヨーロッパ、ロシアなどでは感染が拡大しており、地域によって随分違いがある。特にドイツ、オランダ、オーストリアあたりが厳しい状況になっている。日本は患者数が少なくなったが韓国は多い。理由はよくわからない。
    日本は第1波から5波まで経験し、最大で6,000人が入院し、3万人が在宅で頑張った。

    2.マスク

    日本の人は皆、マスクをきちんとしていることは、日本での感染が収まってきている理由の一つだと言えるだろう。感染ルートには、飛沫、接触、空気感染が考えられる。
    飛沫感染:多くの人が触る物に着いていた飛沫が口に入る。インフルエンザの飛沫の実験をみると、5マイクロメートルの粒子の飛ぶ距離は1メートルくらい。
    空気感染:とても小さい粒子にウイルスが入ってしまうと、いつまでも漂っている。
    コロナの一番の問題は、症状が出る前に感染すること。発症をゼロ日とすると、マイナス2日から感染が起こるので、いつもマスクをしていることは意味がある。未来館の動画でマスクによって飛沫やエアロゾルが前方向に出るのを抑えることが示されている。
    医科研の河岡先生は、マネキンにマスクをつけて50㎝の距離で実験を行った。受け手だけがマスクをすることで47%、話す人がマスクをすると出る飛沫は70%カットされる。両者がマスクすると75%はカットできる。でもゼロにはならない。
    気を付けて頂きたいのは鼻を出さないこと。材質や着け方、フィット状況で効果は違ってくる。不織布マスクを正しくつけると、8割がカットできる。

    3.ワクチン接種後の再感染

    ファイザーを2回接種した人を見ていると、感染を防げる率は半分くらいになっているようだ。入院の予防では8-9割の効果があることがわかってきた。かからないわけではないので、重症化を防ぐものだと割り切って考えてほしい。これは、インフルエンザワクチンでも同じ。
    病原体は私たちにとっては抗原(体内にないタンパク質)。抗原検査では、ウイルスのエンベロップといわれる、周りを覆うタンパク質を壊して中からタンパク質を取り出して調べる。PCR検査では、ウイルスの外側のタンパク質を界面活性剤で壊し、ひも状のRNAを調べる。
    ワクチン接種直後には、体内に抗体がいっぱいできる。中和抗体量の変化をみると、モデルナでは7か月、ファイザーは5か月で下がってくる。一般にワクチンは接種後半年以上たつとだんだんに下がり、また感染者がでることは想像がつく。
    イスラエルは接種を早く始め、高齢者は2021年1月に接種した。イスラエルの世代ごとの発生状況をみると、ワクチンの効果が接種後2-3か月が最大で現れている。若い人は重症化することが少ない。ワクチンをうつことで高齢者の重症化も減ったと考えられる。ワクチンをうつこと、特に高齢者はワクチンをうつことが大事。
    重症化は発症7日くらいから起こるが、そこまでは軽症の人と変わらない。7日目くらいでワクチンをうっている人はウイルス量が減り、重症化率はさがっているといえると考える。
    これから3回目の接種が始まると思う。1,2回目の接種の時に副作用で大変だった人もいるかもしれないが、自分の副作用を知って、上手に対応してほしいと思う。3回目の副作用は、1回目、2回目にでなかった新しい副作用はまず出ないと考えてよいでしょう。

    4.変異株

    ウイルスは、増殖するときに自分のRNAを作って増えていく。RNAのコピーをつくって増えていくときに、RNAを読み間違えて変異が起きる。DNAには読み間違いを修復する機能があるがRNAにはないので、RNAは変異が入りやすく、ウイルスも変っていく。世界中にいろんな型のコロナウイルスが存在している。
    初めの「武漢株」、欧州から来た「アルファ株」は、今の日本にはない。今、懸念されるのは、べ―タ株、ガンマ株、デルタ株の3株。デルタ株は英国のアルファ株より4割感染力大きく、頭痛や鼻水がひどい。
    イギリスは50%の2回ワクチン接種で5月におさえこんでいた。そのころ、日本の接種は遅れていた。オリンピックのころ、2回接種が済んだ人はやっと30%に達した。それでも、この程度でしのげたのはマスク着用など、個人の努力だと思う。

    5.減った理由

    10月、日本はデルタばかりなっていたが、今は本当に減っている。その理由は複雑すぎてわからないし、理由を理解するためのデータも足りない。
    尾身茂先生は、9月末、連休やお盆休みなどの拡大につながる要素が集中する時期を過ぎ、医療の危機的状況が改善されてきたことが共有されたこと。ワクチン接種が進んだことなどを挙げられている。
    仲田泰祐先生は、定量分析から基本再生産数、周期(流行の波)、医療ひっ迫によるリスク回避行動が減少に貢献したのではないか、デルタ株の感染力が想定よりも低かったことも考えられるといわれている。 
    こうしたことに加えて私の考えている理由は、渡航者へのPCRと10-14日間待機によって持ち込みをおさえたこと、ワクチン接種の加速化、他人の目を気にする気質の影響があるのではないか。
    日本は鎖国状態をいつまで続けるかという考え方もある。国内で抑え込んでも、海外から必ず持ち込まれる。また、最近、昼カラオケでクラスターが発生した事例があった。日常生活の場に比べてカラオケで感染率は400倍にあがり、2番目のレストランでフルコースを食べると200倍と考えており、まだまだ注意が必要。
    日本は現在2回接種の済んだ人が、世界5位で71%を超えた。海外をみると70%の壁は結構、高い。アメリカは、60%の壁、ロシアは30%の壁で苦しんでいる。
    一方、日本での感染者へのSNSの中傷は、いつ、自分もかかるかわからないのに、心が痛む。

    6.後遺症

    国立国際医療センターは後遺症外来があって、後遺症に取り組んでいる。
    半年後で4人に一人くらいに、後遺症があるようだ。倦怠感など精神系のことが多く、日常生活ができなくなる。1年後には5%くらいに減る。記憶力や注意力の減退、うつなどが国立医療センターから報告されている。全体を見渡したら、在宅の人も対象にしたら、後遺症はもっと出ているかもしれない。女性の方がでやすく、軽症でも後遺症が出ることがある。

    7.一般生活者の意識

    若い人はワクチンをうたないと言われたが、接種率も急増してきた。都民アンケート(1000人)の結果をみると、接種率があがってもマスクをする人が95%、手洗いを続ける人は92%、換気を心がける人は75%、テレワークは3割。多くの人がこのように気を付けていることはよい傾向。ワクチン接種の意向調査をみると、日本は、ワクチン接種率80%超えを実現できるかもしれない!
    これらの結果は、日本人は意識がとても高いことを意味しており、このような努力のもと、ひどい流行は近いうちには起こらないのではないだろうか。

    8.3回目の接種

    長崎大学熱帯医学研究所が中心になって、全国の医療機関と協力して、第5波のときのデータをまとめたものをみると、16歳以上のファイザーかモデルナを2回摂取した人のワクチン有効率は86.8%だったことがわかった。日本人は数か月たっても7割くらいは有効だといえそうだ。
    3回目の副作用の調査はデータがないが、自衛隊でのモデルナのデータをみると、3回目の方が2回目より軽い傾向があることがわかってきている。ファイザーでは、副作用は2回目より3回目がやや軽いか変わらない位。
    国の方針は、できるだけワクチンをうってほしい。RNAワクチンがいいだろうといっている。新しい薬がでるとすれば、2022年下半期だろう。
    3回目は原則として、2回接種から8か月以上だが、各国の状況もみていくことになる。日本はワクチンをつくる体制がなかったので、準備ができず、日本のデータもなく、海外の状況をみて海外のワクチンを使うしかなかった。今回は仕方なかったが、日本のワクチンの政策については検討の余地があると思っている人は少なくない。

    9.海外から学ぶこと

    世界全体では、日本の波とは重ならない所もあるが、周期があって増減している。 アジアをみると、台湾は抑え込んできたがデルタ株が入ってきてやられてしまった。中国は武漢以降は発症なしと発表している。日本は5波までを経験してきた。
    台湾ではGPSで隔離された人の動きをチェックし、感染すると強制的に登録され、違反者はショートメールで注意が届く。従わないと強制収容され、罰金を課せられる国の仕組みを1月29日から機能している。中国も国の力で抑え込める。日本ではここまではできないが、人出、年代、時系列の変化がスマホ情報から得られている。
    イギリスでは、1回目のロックダウンでおさえこみ、ワクチンも進んだ。しかし、我慢ができるのは1回目までで、2回目のロックダウンは耐えられないという気持ちがあるようで、感染がおさまっていない。
    フランスは、街中でマスクをして部屋の中では外しているそうだ。波もあるが、おさえこんでいる。
    ロシアでは、マスクが嫌いな人が多く、ワクチン接種率も3割くらいで、今も増加中。

    10.今後

    今は感染者がいなくて分析できないが、東京都では2022年2月ごろ、飲食店の時短をやめて酒類も提供するようになることを想定してシミュレーションをしている。すると、12月に立ち上がり始めて2月に波のピークが来ると予想している。流行の波はくりかえされるだろう。
    ワクチン・検査パッケージ(ワクチン接種歴または陰性の検査結果)を利用して、クラスターをつくらないようにし、病床ひっ迫を防ぐことをめざす。
    皆さんは、換気をよく行い、マスクをはずす時間を最小限にし、ワクチン追加接種を受けてください。ワクチン・検査パッケージをしっかり利用しましょう。
    最後に、みなさんに私からお願いしたいこと。
    (1) 若い人でも肺が真っ白になるような、重症化があることを知っていてください。
    (2) 親子で入院できる施設はなく、家族でひとりでも感染者がでると本当に大変です。このくらい平気だろうと気を許さないでください。

    質疑応答(〇は参加者、→はスピーカーの発言)

    • コロナウイルスのワクチン接種をしたいが、インフルエンザワクチンの影響は?
      →同時接種もできるというが、1週間か2週間あけましょう。生ワクチンにはウイルスが入っているので、1か月あけてください。インフルエンザとコロナでは、余裕をもって2週間にしてください。
    • 自治体により接種のタイミングがばらばらだった、3回目はみな平等に受けられるようにしてほしい。
      →行政と医者の間の話し合い、リーダーの持つ危機感、サポート体制の違いによる差だと思う。墨田モデル、中央モデルは模範的な自治体でうまく進められた。自治体の予算規模も残念ながら影響する。これまでより差は縮まるだろうが、遅れる傾向は続いてしまうかもしれない。
    • ワクチン接種を躊躇する人もいる。間をあければインフルエンザも接種できるとか、今日のようなお話を行政はしてくれないでしょうか。
      →厚労省のHPは案外見られていない。ワクチンQAもあり、見やすくできている。ワクチンの情報も更新されている。自分の副作用を楽にする方法を考えてほしい。私もアセトアミノフェンをのみました。
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