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  • 「食品添加物は『悪』か~『無添加』表示をめぐる消費者行政の混乱を考える」開かれる

    2021年10月15日、日本科学技術ジャーナリスト会議例会「食品添加物は『悪』か~『無添加』表示をめぐる消費者行政の混乱を考える」が開かれました。講師は食の安全安心財団理事長・東京大学名誉教授 唐木英明さんでした。食品衛生法、健康増進法、JAS法が食品表示法に一元化された2015年からの流れに沿って、原料原産地表示、遺伝子組み換え食品の表示、食品添加物の表示について解説がありました。最後に消費者の誤解の上に展開される「誤解ビジネス」のお話があり、質疑応答では、誤解ビジネスを進めないようにするためにジャーナリストは何ができるかという積極的な発言がありました。

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    唐木英明さん

    お話の主な内容

    1,食品表示の見直しのはじまり

    2015年、食品衛生法、健康増進法、JAS法の表示に関する部分を一元化した、「食品表示法」ができて、消費者庁の所管となった。
    表示には消費者が求める情報(売り手が宣伝したい差別化情報を含むる)と安全に関わる情報が書かれている。
    差別化情報は社会通念の範囲内で誇張されることはあるが、不正確はいけない(景競法の優良誤認に該当)。これには、消費者の不安を了する誤解がビジネスチャンスにつながる恐れもある。

    2.原料・原産地表示の義務化(2016年)

    2008年、毒入り餃子事件から中国産加工食品へのパニックが起こった。これは犯罪であったが、未だに中国産を避ける消費者いる。実際に国産と輸入の抜き取り検査の結果を比較すると違反件数の割合は0.05-0.06%とあまり変わらない。
    そんな中で原料原産地表示の義務化が、日本再興戦略(2016年)として、政治判断で決まった。加工食品の原料の輸入は価格や季節によって毎月変化するので、全加工食品の原産地表示の義務化は不可能。そこで、「国産または輸入」というような苦しい表示方法が決まり、2022年から行われることになってしまった。本当は、〇〇産は危ないという誤解を解くのが先ではないか。

    3.遺伝子組換え表示の厳密化(2017年)

    現在の表示は遺伝子組換え原料を「使用している」「分別流通管理を行っていない(不分別)」の義務表示と、「遺伝子組換えでない」と書ける任意表示が行われている。
    遺伝子組換え食品への不信は、1989年遺伝子組換え微生物のつくったトリプトファンに関連した健康被害、2000年「スターリンク」という家畜用の遺伝子組換えトウモロコシがヒトの食用に混入した事件をきっかけに生まれた。その後、海外の研究者が実施した不適切な動物実験をもとに発表された論文で、遺伝子組換えは危険だとみなされるようになった。第一世代の遺伝子組換え作物では、メリットが生産者にあって、消費者にみえにくかったことも影響しているだろう。現実的には、日本の食料安定供給は、大量の遺伝子組換え穀物の輸入によって支えられている。
    この見直しで、不検出のときのみ「遺伝子組み換えでない」と書くことができ、分別流通で5%以下の混入におさえているときにはその旨を書くことができるようになる。分別流通管理の本当の意味を、消費者は正確に理解するだろうか。

    4.食品添加物の表示(2019年)

    食品添加物の表示には歴史があり、初期にはリスキーなものもあり、食品添加物を避けたいと思うようになった人もいるが、今は食品添加物の安全性、機能性も高まっている。昨今の表示は、消費者の知りたいことは大いに表示しようという方向性で行われているので、食品添加物を含めて狭いスペースに書かれる文字数は増えている。
    今回の見直しで、人工着色料、合成保存料などの「人工」「合成」ということばは使えなくなった。
    添加物表示の関するアンケート調査から、「食品添加物の安全性を国が認めていること」を知らない人は半分以上。その中で、無添加を選ぶ人が4割。その理由は「食品添加物を使わない方が安全で健康に良い」で、不使用表示の意味への認識も様々であることがわかった。
    量と作用の関係を無視して添加物のリスクを訴える本は多く出版され、大きなビジネスになっている。「無添加ビジネス」はペットフード、化粧品まで拡大している。
    そこで、添加物不使用表示に関するガイドラインをつくる検討会が始まった。添加物を使わない事業者もいるので、全面禁止は難しいが、不使用=安全という認識は作用と量の考え方を妨げているのも事実。誤認を与えない表示を考えていく必要がある。

    5.誤解ビジネス

    消費者の誤解を利用したビジネスは国内外に拡がっている。誤解解消の運動こそ、推進すべきではないか。
    その時に注意しないといけないのは、「アンケートの罠」。実際の購買活動とは関係なく、アンケートの設問をみた回答者に想起されるリスクもある。たとえば、アンケートでは無農薬がいいという回答が多くても、オーガニックの売り上げは0.1-0.2%より伸びていない(オーガニック推進法での目標は25%)。これは、「無農薬野菜はよいので買いたいと思うか」というような設問をみて、思い浮かんだ回答だからだろう。
    誤解ビジネスの典型として「ラウンドアップ(※)裁判」がある。IARC(国際がん研究機関)が除草剤グリホサートをグループ2Aにしたとき、他の国際学会は反論した。しかし、この発表の直後、アメリカの法律事務所が「ランドアップを長期に使ってガンになっていないか」と患者によびかけ、裁判を起こし、これまでに患者側は4回、勝訴し、バイエルは1兆円で和解を提案した。
    その後、ロイター通信のケイト・ケランド記者が、IARCの2名の委員と法律事務所のつながりを暴露し、2Aという判定と裁判の関係が深いことがわかってきた。5回目の裁判では患者側は敗訴している。
    誤解ビジネスは人間の本能ともいえる「見えないリスクへの不安」を利用している。その背景には、環境保護団体、オーガニック産業の結びつきもみえてくる。また、科学者の説明不足や無関心も、誤解ビジネスを助長しているかもしれない。
    消費者の誤解は、誤解を引き起こす情報から発しており、このような情報はビジネスのために意図的に作り出されている。ファクトチェックがますます重要だと考えている。

    ※ラウンドアップ グリホサートを成分とする、すべての植物を枯らす除草剤の商品名。

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