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  • TTCバイオカフェ「人工光型植物工場と私」

    2021年5月28日、TTCバイオカフェをオンラインで開きました。全国から30名以上の方が参加されました。お話は大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 准教授 山口夕さんによる「人工光型植物工場と私」でした。
    くらしとバイオプラザ21は、5月のTTCバイオカフェを、これまで「国際植物の日」のイベントとして東京テクニカルカレッジと共催で行ってきました。。山口さんは日本での国際植物の日のイベントの取りまとめ役をされており、これまでもお世話になってきました。世界50数か国で約1000のイベントが行われており、山口さんを国際植物の日に行われるTTCバイオカフェにお招きできたことは嬉しいことでした。
    山口さんは、「植物は私たちに石油、プラスチックなどの石油製品、食物、医薬品成分、紙、繊維、豊かな自然環境を与えてくれています。私たちの暮らしは植物なしに成立しないことを多くの人に知ってもらいたい」と言ってお話を始められました。

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    山口夕さんのお話

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    参加者のみなさん

    主なお話の内容

    1.植物工場

    植物工場には太陽光利用型、完全人工光型、これらの複合型がある。災害でも安定して生産でき、一定のマニュアルで誰でも栽培できる利点がある。
    大阪府立大学では2011年から経済産業省や農林水産省のプロジェクトなどで、大学構内で植物工場による野菜づくりを行い、現在は企業により運営され「府大マルシェ」としてスーパーマーケットや生協に出荷している。
    学外にも企業と連携して南花田ラボ(日産4000株規模)をつくり、1階にスーパーマーケット(予定)、2階にバックヤード、3階に植物工場をつくって、実証実験を行っている。
    完全人工光型植物工場のメリットは、①水耕栽培で管理しやすい、②多段にすることで土地の有効活用、③都市に設置すれば運搬費節約があげられる。デメリットは①初期投資が大きい、②光熱費がかかることである。

    2.多品目栽培のシミュレーション

    私はこれまでシロイヌナズナを使って病気や害虫のストレスに対する植物の応答を遺伝子レベルで研究するなど、植物そのものを扱っていた。ところが、植物工場では育て方が大事。植物の専門家として、最適な配風システムなどを検討する工学系の人たちに仲間入りをすることになった。
    私たちは「儲かる植物工場」を合言葉に、植物工場には気候による環境の変動がないことから、端境期を狙って高く売れる時期に高く売るための栽培カレンダーを作ってシミュレーションを行った。するとレタスを1種類栽培するより、多品目にすることで40-110%収益がアップするという試算結果が得らえた。
    また実際に植物工場で栽培してみると、同じ品種でも野外栽培とは形が変わることがあり、光と風の影響の大きさに驚かされた。

    3.アオジソの有用成分増加に向けて

    日本で作られているハーブのうち7割がアオジソ。アオジソは防除が難しく、単価が高いので植物工場にあっているのではないかと考えた。人工光で同じ風味が得られるか、人工光で棚の高さより草丈が大きくならないかなどの不安があったが、香りが豊かで有用成分が多いアオジソ栽培に挑戦することになった。
    一般に植物工場で育てると、風味が弱くなる傾向がある。レタスの苦手な子どもが植物工場でできたレタスだと食べられるという話もある。

    4.アオジソの主要成分

    アオジソの主な二つの成分に着目することにした。それは次のふたつ。

    • ぺリルアルデヒド 香り成分。抗うつ性、抗アレルギー性がある。
    • ロスマリン酸 アルツハイマー症候群への効果が期待されている。

    土耕、水耕で成分を比較したら、光よりも土か水で成分に違いが現れることがわかった。これは土耕の方が、ストレスがあるからだろう。ストレスは有用成分を増やす働きがあるようで、紫外線ストレスで成分を増やした研究成果もある。
    そこで、植物のストレスと関係のあるジャスモン酸(JM)を与えたら、ぺリルアルデヒドが増加した。ペリルアルデヒドは葉のトライコームという器官にたまることがわかっている。顕微鏡で観察すると、JMを与えるとトライコームが増え、トライコームの直径も大きくなっていた。
    JMでペリルアルデヒドが増えることがわかったが、植物工場は無農薬をセールスポイントにしている。JMを使わずにペリルアルデヒトを増やす、よい方法はないかと考えている。

    5.植物工場用アオジソ品種の育成

    溶液の種類、光源の種類、光の強度の最適化で有用成分を増やすことは期待できるが、よい品種をつくるという方法もあると考えた。
    シソは地域ごとに大事に守られていて、愛知県のシソが最も多く出回っている。
    ジーンバンクから17系統、市販の4種類の品種を土耕、水耕で栽培し、比較した。収穫量の多い品種、草丈が高くならない品種、ペリルアルデヒドを多く含む品種、ロスリン酸の含有量が多い品種があり、重複している品種もあった。現在は、単独栽培に向いている品種を選び、良いところ持っている品種同士の掛け合わせをしている。

    まとめ

    植物工場の研究に関わって、モデル植物と異なり性質の多様さや光、風、湿度の影響の大きさに気づいたり、数式にあてはめて考える工学系の人たちとの共同研究が新鮮であったり、様々な経験をした。製品にするにはどの程度の品質が求められるのか、作物に併せた施設をつくるのか、施設にあわせた品種を開発するのか、検討・研究しなくてはならないことは沢山ある。

    質疑応答

    根菜類の水耕栽培の研究は行われているのか、機能性表示食品として売ってはどうだろうかという消費者からの植物工場への期待に関わる質問がありました。停電対策はどのように行っているかという質問に対しては、府大では点検のために毎年半日停電させるが、水がなくなってしまうわけではないので、植物は大丈夫だったそうだ。
    トライコームのような植物の微小機関の観察に分解能の高い機器を使ってはどうかという、専門家からの意見もありました。

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