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    2020年12月3日、コープ東海事業部のみなさまと、ステークホルダー会議を行いました。コープ東海、コープみえ、コープぎふから約80名の方が会場とオンラインで参加されました。冒頭、東海コープ事業連合 執行役員 須々木啓氏より開会のことばありました。
    ワークショップの前半は、京都大学 木下政人先生による「ゲノム編集技術を用いて開発されたマダイ」について話題提供があり、後半はグループに分かれて討議しました。

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    木下政人先生

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    会場風景

    話題提供

    1.生き物とは何か

    ヒト・タイ・大腸菌は、いきもの(生物)には、増殖する・動く(動物)などの特徴がある。その起源は30億年前に誕生した単細胞生物。時間の経過に伴い、多くの生物が進化してきた。

    遺伝子とゲノム
    生物が生きていくための設計図は、DNAという物質でできている。A・T・G・Cの4種類の塩基からなる。音符により音楽が記載されるように、塩基のつながり方が生きていくうえで必要なタンパク質の作り方をコードする遺伝子。生物が持つ遺伝子一式をゲノムという。現在、約175万種の生物が存在する。生物進化の原動力が突然変異 である。

    育種とは
    トウモロコシの原種とされるテオシントは、粒数が少なく見た目も違う。これが2000~4000年かけて人為的に改良された。これを育種という。

    ゲノムはいつ変わるのか
    放射線・紫外線・一部の化学物質などにより、ゲノムDNAに傷がつくことがある。多くは修復されて元通りになるが、まれにミスが生じる。これが自然突然変異である。自然突然変異を育種に活用する場合、前述のトウモロコシのように長い時間を要する。突然変異は放射線などを活用して、人為的に起こすことができる。ただし、変異の方向は定まっていない。時間がかかること、望ましい設計が困難ということは大きな欠点である。

    ゲノム編集技術とは
    新しい品種作成の新技術のひとつが「ゲノム編集」である。この技術の特徴は、DNAのねらった場所に傷をつけることで、生物は自力で修復するが、まれに修復に失敗して変異が起こる。この変異を利用する。ゲノム編集には3つの種類があるが、その中のひとつの「DNAを切り取って遺伝子を破壊する方法」を今回は使っている。現在、よく使われるのが「CRISPR/Cas9」である。細菌類に備わる免疫システムに由来する。Cas9はDNAを切断するハサミであり、18個のDNAが付属する。付属DNAは目的遺伝子のDNAと相補結合する塩基配列になっている。これを細胞内に入れると、目的遺伝子と結合し、Cas9が結合部DNAを切断する。切断されたDNAは修復されるが、一部でミスが発生し、複数の塩基が脱落することもある。するとフレームシフト変異(3つずつ塩基を読んでいく読み枠がずれる)が起こり、遺伝子は働かなくなる、つまり壊される。なお、ゲノム編集で遺伝子を導入することもできるが、私の研究では外来遺伝子を挿入しない。今回、使っているのは 本技術を使った、マダイのミオスタチン遺伝子を働かなくした研究の紹介をする。ベルギアン・ブルーなどの肉用牛は、筋肉モリモリの 牛で、ミオスタチン遺伝子が機能しない、自然突然変異でできた品種だ。ミオスタチンは筋肉細胞の増殖を制御する遺伝子である。
    この知見を基にして、マダイのミオスタチン遺伝子のノックアウトを試みた。受精卵を一列に並べ、ガラスの針でCRISPR/Cas9を注射する。10%程度の確率で魚肉量が増えたマダイができた。これらを従来のマダイと比較した 。代謝物質の組成を比較した結果からは、区別がつかなかった。

    2.遺伝子組換えとゲノム編集

    遺伝子組換えは新規機能(遺伝子)が導入されており、ゲノム内の位置も不明なことが多い。そのせいもあるかもしれないが、社会的受容に難儀している。
    これを参考にして、ゲノム編集の受容に努力したい。ゲノム編集は目的遺伝子が明確である。比較すべきは従来の突然変異と人為選抜による育種である。通常、 50年程度必要である。ゲノム編集ははるかに短時間でできる。ゲノム編集を使った肉厚のマダイは2 年で生まれた。育種した生物だけを観ると、両者は区別できない。
    育種したマダイの養殖管理では、排水などで自然界に影響のないような配慮を十分に行う。 加工までを行う6次産業化により、地域創生や雇用確保につなげられる。安全性確認は個々の条件による。
    いろいろな工夫をしながら、ゲノム編集の情報伝達を行ってきた。参加者アンケートから情報を的確に伝達することで社会の許容比率が高まることがわかった。こういう情報提供と意見交換を今後も続けていきたい。

    質問タイム

    10グループに分かれて、質問出しを行い、各グループの代表者が重複を避けながら、順番に質問を行い、木下先生が解答しました。質問と回答の概要は画面に書き出し、オンライン参加者も含めて、内容を共有しました。

    Q1 天然と養殖の価格は?

    陸上養殖の方が高い。だから、陸上養殖で天然と同じものを作ろうと考えていない。さらに栄養を高めるなどした魚を目指したい。価格では、技術の特許料がネックになる。日本発ゲノム編集技術が開発されることに期待している。陸上養殖のメリット(汚染物質フリーなど)を売りにできたらと思う。

    Q2 養殖が進むと漁村の暮らしはどうなるのか?

    天然はその特徴は活かしつつ、陸上養殖はその地域の特徴や個性をアピールする。サーモン、ブリなどは養殖の方が美味しくなっている。

    Q3 世界で、この魚のゲノム編集技術のレベルはどんな位置づけか?

    水産分野でゲノム編集は世界で行われている。中国ではコイ、ナマズなどの淡水魚。アメリカ、ブラジルもやっている。韓国で肉厚ヒラメ。
    アメリカでは農林分野のゲノム編集大豆が実用化している。

    Q4 食品としての安全性は?

    食品としての安全性を考える時、ゲノム編集と自然突然変異は区別がつかないので、技術ではくくれない。安全性確認は事前相談方式で進められる。個々のプロダクトで評価する。しかし、安全は科学ではわかっても安心につながらない。よく調べて安心してもらうようにしていく。

    Q5 遺伝子組換え技術との違いは?今後、遺伝子組換え技術はなくなっていくのか?

    ゲノム編集では外来遺伝子をいれない。遺伝子組換えでは、外来遺伝子を入れて自然では起こらないことを起こす。安全性審査は遺伝子組換えもゲノム編集もプロダクトで判断する。ゲノム編集は持っている遺伝子以上のことはできない限界もある。両技術の長所・短所をうまく利用していくことになるだろう。

    Q6 ゲノム編集マダイでは、次世代に形質は伝わるのか?

    次世代に伝わる。

    Q7 ゲノム編集マダイは、なぜ弱くて、外の環境で生きられないのか。

    肉厚のタイは動きも遅いだろうし、自然環境の競争の中では、生きにくいだろうと思う。
    現存する生物はベストの遺伝子の状態で生きているはず。ミオスタチン遺伝子を壊したら、免疫機能が落ちていたので、外の環境では生きられないだろう。生物は、多様な遺伝子のベストの調和の中で生きていることを感じる。

    Q8 悪意を持った科学者がこの技術を用いたら、危ないのではないか。

    そんなことをさせないようにする社会を皆で支えていかなくてはならないと思う。

    ステークホルダー会議

    会場の10のグループに消費者、養殖業者、鮮魚屋の立場に立ったつもりになって(ロールプレイ)、ゲノム編集マダイを使うか(食べるか)を話し合って発表していただきました。
    このやり方はくらしとバイオプラザ21が開発したワークショップ手法で、ステークホルダー会議という名前をつけていいます。
    10のグループで話し合った結果、YESが3グループ、NOが7グループでした。

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    木下先生のまとめのことば

    今日は、NOの意見を多くいただいて、とてもありがたく、有意義だった。これらのご意見に応えられるようにしたいと思う。また、試食してみたいというご意見があったが、試食していただき、試食した人を通して広まっていったらいいと思っている。

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    グループごとでの話し合い

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    商品検査センター長 松本博之さんに、見学コースをご案内いただきました。

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