オンライン大人のバイオカフェ「スポーツをもっと楽しむためのアミノ酸の科学」
2020年10月11日、多摩六都科学館とオンラインで大人のバイオカフェを開きました。お話は味の素(株)アミノサイエンス事業部スポーツニュートリション部 片山美和さんによる「スポーツをもっと楽しむためのアミノ酸の科学」でした。このカフェは、2020年の年明けから6月に対面で行う方向で準備をしてきましたが、延期、計画変更を重ね、当日は全国から会場の定員を超える、広い年代のみなさまにご参加いただくことができました。
主なお話の内容
自己紹介
趣味は料理とスポーツを観ること。自分では水泳をしている。
味の素(株)は「うま味」の素であるグルタミン酸を軸に世界中でアミノ酸食品事業を展開している会社。スポーツでは、「アミノバイタル」などの製品で選手のみなさんを支えている。
今日は、長年にわたってトップアスリートを支援して得てきた知見やノウハウをもとにお話しするが、これは生活する上で健康のためにスポーツをする人も含めて、みんなに役立つ情報として聞いてい下さい。食べることは楽しいことですが、何のために食べるのかを考えて食べることも大事。
体は食べ物からできている。
疲れやすい、風邪をひきやすい、便秘などの不調は食べるものが原因かもしれない。食べたものは体をつくり、体を動かすエネルギーになり、体を整えるので、どの栄養素も欠かせない。
「勝ち飯」
「勝ち飯」はアスリートを支援するために20年以上、行ってきている味の素(株)が開発した栄養プログラム。
「勝ち飯」の基本は三食(朝食・昼食・夕食)と補食(三食では摂り切れない・不足しがちな栄養素を必要な量・タイミングよく摂るもの)。三食は定食型が理想。
- 食事の基本形である定食は、主食、主菜、副菜、汁もの、(果物、乳製品)を組み合わせることで、自然にバランスがとれるようになる。
- 主食はエネルギー源、糖質や脂質は摂りすぎに注意。同じくエネルギー源になる脂質の中には不可欠なものもあり、体内の炎症を抑える機能もある。
- 主菜は、肉、魚、卵、大豆などで体をつくる上でも不可欠。毎日食べ、体を動かす人は2品以上をおすすめ。
- 副菜は体調管理するビタミン、ミネラルなどが豊富に含まれる。色の濃い野菜、淡い色の野菜の両方で1日に350-400グラムの摂取が推奨されている。毎日摂るのは結構、量が多い。
- 汁ものを、味の素(株)は重要視している。具だくさんの汁もので、副菜でとるべき野菜やタンパク質などもとりやすい上、水分も摂れる。また、汁ものには消化を促し、胃腸を守るなど、食事する上で大切な機能も持つ「うま味」が豊富に含まれているがある。運動後に飲みやすいジュースなどは、口当たりはよいが「うま味」はほとんどない。
- 乳製品はタンパク質も含まれ、骨づくりに欠かせないカルシウムも豊富で、未成年では特に大事。
- 果物はビタミンCが豊富で風邪予防や疲労回復によい。
- 推定必要エネルギー量は年齢、性別と身体活動レベルで異なる(食事摂取基準)。体を動かす人とそうでない人のおおよその差(最大600キロカロリー)はおにぎりだと2-3個分になる。運動しないと過剰になり、運動したときには足りなくなる可能性があるので注意!
- 血糖値の変化が食べ方で変わることは知られているが、「三角食べ」を知らない人が増えてきている。サラダ、おかず、ご飯を順繰りに食べると、血糖値の上昇を抑えられる。ご飯を初めに一気に食べると血糖値が急に上がってしまうことに注意。
- 塩分と脂肪の摂りすぎはよくないので、しょうゆ・ソース・塩やマヨネーズなどをプラスオンするのは注意。また濃い味、揚げ物は控えめに。
- 就寝前の間食(脂質多めのスナックやスイーツなど)は消化に時間がかかり睡眠に影響する可能性もあるので注意。睡眠不足は体重増加、高血糖、高血圧、精神不安定にもつながる。カフェインの摂取、就寝前のTV・PCやスマホも避けておいたほうがよい。
朝は体を起こすため、光を浴びて、朝食をとりましょう。
食べ方の工夫・捕食の役割
簡単に食事として、脂肪や砂糖の多い組み合わせをしやすいが、タンパク質だけでなく、ビタミンやミネラルもあまり取れなくなってしまうことに注意!
外食でも組み合わせの工夫次第でバランスがよくなる。野菜やタンパク質など具の多いサンドイッチや、肉だけでなく野菜入りのカレーライスを選ぶなど。定食はバランスのよいものが多いが、乳製品や果物はなかなか摂れないので、例えば朝食や捕食などで補うのもよい。
捕食は食事を補うもので、三食(朝食・昼食・夕食)ではない。目的や用途に合った必要な栄養素を必要なタイミングで目的に応じてとるように心がけましょう。
スポーツとアミノ酸
アミノ酸は、実はスポーツする人の様々な課題・問題(体型・体脂肪、筋肉疲労、スタミナ、持久力、体力)の解決に役立つことが期待できる。
人の体を構成する6割は水分で、2割がタンパク質。このタンパク質は20種類のアミノ酸からできている。髪や爪のケラチン、骨や皮膚のコラーゲン、私たちの目に見えないが存在している酵素、血液、ホルモンもタンパク質。実はあまり関係ないと思われているかもしれない骨も3割がタンパク質。関節は主にコラーゲン、つまりタンパク質でできている。
そして、体を構成しているタンパク質とアミノ酸は毎日入れ替わっている。体重70kgの男性が80gのアミノ酸を摂ると、180gのタンパク質が体内で合成され、180g分解する。そして、分解されたタンパク質のうち、80gのアミノ酸が排泄されてしまう。つまり毎日コンスタントにタンパク質・アミノ酸を摂らなくてはならないことになる。
タンパク質はアミノ酸が数多く繋がった構造をしている。体内に入ると消化分解されて、ペプチドになり、結果、アミノ酸になって吸収されるのは約3-4時間後。しかしアミノ酸で摂取すると30分くらいで吸収されるので、仮にマラソンで走りながら摂ることができ、摂った後に吸収されることになる。食事からタンパク質を摂るのが基本だが、身体に負荷がかかるような運動をしたときや病気をしたときは特定のアミノ酸が必要となり、そのような場合は必要なアミノ酸を適量、適切なタイミングで摂取すると効果的。
カラダのタンパク質を作るアミノ酸は、必須アミノ酸(9種類)と非必須アミノ酸(11種類)に分けられる。アミノ酸は種類が異なれば、名称も違い、持っている機能や効果も異なることがわかっている。例えば必須アミノ酸の中のバリン、ロイシン、イソロイシンの分岐鎖アミノ酸(BCAA)はスポーツする人に幅広く使われている。BCAAは筋肉のタンパク質に多く含まれており、運動するときにはより減りやすくなってしまうことより、幅広く使われているようだ。次に、アミノ酸は種類だけでなく、その組み合わせを変えると、その働きや効果も異なることを紹介していく。
(1)ロイシン高配合必須アミノ酸ミックス+シスチン・グルタミンミックス
この組み合わせで、三つの機能を発揮できるユニークな素材。
- 筋肉のコンディションを整える
運動すると筋肉は壊れてしまい、その結果、炎症が起こり、筋肉は疲労してしまう。ロイシンが多く入った必須アミノ酸を摂ると、筋タンパク質合成速度がより速くなる。事前に摂ると筋肉のダメージを抑えられたという報告もある - カラダ全体のダメージを抑える。
運動をすると筋肉だけでなく体中にも炎症がおこり、悪化するとコンディションが低下し、パフォーマンス低下につながりやすくなる。あまり知られていないが、消化管の働きも落ちてしまいがち。激しく運動すると、小腸の粘膜を被っている細胞の間に隙間ができて細菌や毒素などが入りやすくなり、血管に侵入してしまいやすくなってしまう。このようなトラブルおさえるのに、シスチンとグルタミンが働き、細胞間の結合を緩みにくくするのに役立つ。実際、これらのアミノ酸を摂って運動した時、この消化管の機能が落ちてしまうことを抑えられたことを報告している。 - 体内のエネルギー生産を高める
登山、マラソンなどのように長時間にわたって体を動かすことから持久力が必要なスポーツ・運動をするとき、体内にある脂質をより使えるようにすることがコツとなる。軽い運動では体内の脂肪が主に使われるが、きつい運動では体のグリコーゲン(糖質)が使われる。グリコーゲンは限られた量しか体に蓄えることができない。シスチンを摂って1時間の運動を行うと、体内でエネルギー源として使える、血液中の脂肪酸濃度が明らかに下がっていた。つまり、脂肪酸が優先的にエネルギー源として使われたことを示している。このようなアミノ酸の組み合わせは、運動中に体の調子を整える、つまりコンディショニングに役立つことから、摂取のタイミング、運動開始30分前がおすすめ。運動直後、就寝前もよい。
(2)アラニン・プロリン配合糖質ミックス
運動するときはエネルギー源となる糖質が必須。運動中糖質を摂ると1時間長くがんばれたという報告もある。一般に、ブドウ糖や砂糖のような糖を多く摂って運動を始めると、血糖値が急激に上がるが、その後インスリンが分泌され血糖値が一気に下がってしまう。アラニンやプロリンといったアミノ酸を多く配合した糖質を摂ると、血糖値が上がりにくく、より落ちにくくなることを味の素で確認している。実際に「より長く走れた」結果も出ており、プロサッカーや陸上選手などにも評価されている。
このような素材は運動中、より持続しやすいエネルギー源として役立つことから、運動前30分や長く続けるときは運動中が効果的。せっかくお金を出して購入するものだから、より効果を得られるタイミングで利用することをおすすめする。
(3)必須アミノ酸高配合ホエイプロテイン
トレーニングしてたんんぱく質を摂ると、より筋肉が太く強くなることが期待できるようになる。
アスリートになると、体重60kgなら1日に120gのタンパク質を毎日摂ることが推奨されている。ただ、食物の重量イコールタンパク質ではないことを知ることが重要。ささみ1枚40gに含まれるタンパク質は9.2gしかない。プロテインとして摂る場合に気を付けたいのが、摂り過ぎ。プロティンはおよそ20gを牛乳などに300g混ぜて摂る場合が多いが、1回に20g以上のタンパク質を摂っても筋肉をそれ以上増やす効果は期待できなかったという報告もある。また、必須アミノ酸9種類と必須アミノ酸と非必須アミノ酸11種類の全て(つまりタンパク質)を同じ量摂った時の筋肉のタンパク質を作り出すスピードには差はなかったというデータがあることより、より効率的な効果を得るには必須アミノ酸が役立つことも示されている。
このような必須アミノ酸とホエイプロテインの組み合わせにすると摂る量も1/4程度に抑えられるようになり、摂っても、その後の食事に影響しにくいこともわかっている。摂取のタイミングは筋肉のタンパク質をより効率的に増やすためにも、運動直後や就寝前がおすすめ。
(4)ロイシン高配合必須アミノ酸ミックス
毎日相当トレーニング・運動する人には、十分に栄養と休息をとっても、壊れてしまった筋肉が翌日に十分に回復するのには間に合わず、疲労や筋肉痛が引き続いてしまう可能性が高い。このようなことをできるだけ避けることを目的とする場合、筋肉のタンパク質をより作り出すのに役立つロイシン高配合必須アミノ酸ミックスが役立つと考えられる。
つまり、アミノ酸の上手な使い方は、目的や用途に合わせた種類や組み合わせを選び、適切な量を効果的なタイミングで摂ることが大切!
話し合い(〇は参加者、矢印はスピーカー)
- 週に1回、運動する程度だが栄養の取り方は?
→消費カロリーがわかるアプリがある。私が1時間運動すると400キロカロリーを消費する。400キロカロリーならタンパク質をこれくらい補うといいのかと考えつつ(10~15%の摂取が推奨されている)、体の変化を観察すると、食事の内容を1か月で把握できると思う。カロリーというととかく糖質に目を向けやすいが、タンパク質や脂質(肉やバターなどはほどほどに)を工夫することがおすすめ。 - プロテインパウダーとっているが、アミノ酸のかわりになるのか
→プロティンは20種類のアミノ酸からなる。より効率的に筋肉を増やすにはアミノ酸がいい。各社とも、より吸収しやすいプロティンの形に工夫している。 - 日本人はタンパク質の摂取が足りないといわれるが
→よほど偏食でなければ不足することはあまりないだろう。ただ運動したときは積極的に補った方がいい。また、60-70歳以上の方は体のタンパク質を作り出す機能が落ちていくので、より積極的に摂ってほしい。高齢者医療の研究者も、高齢者は肉を食べることをすすめている。 - ベジタリアンにとって必須アミノ酸をどう考えたらいいのか
→ビーガンの主なたんぱく源は大豆。このタンパク質に含まれるアミノ酸のバランス(「アミノ酸スコア」という)は魚、肉、卵などと異なり、不足しやすいアミノ酸が生じることもあるので、そのような場合、サプリなどを補食として活用するのも一手。高齢者の体のタンパク質合成機能についても同じで、あっさりしたものを好んで食べがちだと、タンパク質を摂取する総量自体が不足する可能性もあり、サルコペニア(加齢や病気によって筋肉量が減少することで、握力や下肢筋・体幹筋など全身の「筋力低下が起こること」)につながりやすい。 - 高校1年生女子。水泳部で1時間半から2時間の水泳を週3回行っているが、高校生のプロテイン摂取はどうか
→「日本人の栄養摂取基準」から考えると、2500―3000キロカロリーが必要かもしれない。オフシーズン(通学日を想定)は2000~2500キロカロリーで、運動の有無で500~1000キロカロリーもの差が生じる。自分でそれを理解して、評価する習慣をつけてください。プロテインを高校生で摂っている人も多くいる。中学、高校は体作りでとても大事な時期なので、気に入ったもの・体に合ったものを探してください。ただしプロテインは補食なので、まず3食の食事をバランスよく十分に食べることが最も重要なことを忘れずに。、補食を摂る時は、運動後できるだけ早めに摂るのがおすすめ。 - 破戒僧が若いころに動物性たんぱくをとって晩年は懐石料理というのはアミノ酸の考え方にあっているのではないかと思った
→以前は動物性タンパク質を摂るのは若い人と考えられていたが、今は高齢者こそ肉を食べることが重要性と言われている。脂っこいのが嫌なら赤身肉、牛乳(低脂肪牛乳もおすすめ)、チーズでもいい。懐石料理だけだと大豆たんぱくが主で、これだけにしてしまうとタンパク質摂取量が不十分になってしまうことや、アミノ酸バランス(「アミノ酸スコア」)が崩れてしまうケースもあるかもしれない。 - 高齢になると中性脂肪が増えるのが嫌で大豆をとりがち
→大豆、魚だけでなく卵、牛乳(低脂肪牛乳がおすすめ)、赤身肉などからもタンパク質をとってください。三食ともお肉を、と言っているわけではない。ウォーキングも立派な運動なのでタンパク質を積極的に摂って下さい。体のタンパク質合成機能は高齢化すると下がってしまうので、お子さんとと同じ位摂ってもいいと言われているほど。また、運動という刺激が入ると、筋肉をより作れるようになる。
参考サイト