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  • オンラインバイオカフェ「新型コロナウイルス感染症って、どんな病気?」

    2020年8月27日、オンラインバイオカフェを開きました。お話は東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野 教授 四柳宏さんによる「新型コロナウイルスって、どんな病気?」でした。2月以来、久々のバイオカフェ。オンラインバイオカフェは初めてでしたが、全国から集まった参加者は、四柳先生のいいお声とわかりやすいお話に聞きいってしまいました。
    ※ 患者数、発生状況は8月27日時点の情報に基づいてお話しいただいています。

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    オンラインで話される四柳宏さん

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    参加者は世界中から参加しているように見える、楽しい話し合いタイム!

    主なお話の内容

    今日は、薬学博士の原寿史先生が小学生向けに作られた「ウイルスのことを正しく知り、落ち着いた生活を送りましょう」という資料を使って説明します。

    http://www.keystage21.co.jp/images/codv/200414covid.pdf

    今日の参加者には、他の方に説明する立ち場の方もいると思うので、活用してください。

    現状

    今年になって世界で新型コロナウイルス感染症が拡がった。米国、ブラジル、インドでは今も患者数がとても増えている。日本はじめアジアではそれほどは増えていない。
    日本では5月ごろ第1波といわれるピークがあり、今が第2波の峠を過ぎたあたり。不足しているといわれているが、PCRも120万件行われ、陽性は5%。空港検疫でも5%。重傷者の割合は2%と海外に比べるととても低い。

    ウイルスって何

    ウイルスは、生命の設計図といわれる遺伝子(ヌクレオカプシド)をタンパク質(エンベロープとマトリクス)が包んでいる構造。周囲にスパイクという突起があり、スパイクがアンテナの働きをして、好みの細胞を見つけてくっつき、細胞に入り込む。細胞の表面のくっつく場所をレセプターという。新型コロナウイルスのスパイクはACE2というヒトの細胞のレセプターにくっつく。
    ※ウイルスの大きさは100nm(ナノメートル)。1nmは、 1mmの1万分の1
    ウイルスの飛沫は机の上では増えられない。細菌なら培地(栄養がある)上で増えられる。例えば、サルモネラ菌が卵などの栄養のある場所で増えるということは、自分を増やす工場を持っていること。ウイルスは設計図だけで工場を持っていない。新型コロナウイルスは、呼吸器上皮(喉、鼻、肺)の細胞に、相棒になる入り口であるACE2を見つけると、スパイクが結合し、「開けゴマ!」という具合で細胞の中に入っていく。

    感染と増殖

    私たちの鼻の中にはたくさんの菌がいるが、感染せずに心地よく棲んでいる。これを「定着」という。「感染」とは細胞の中に入っていくこと。ウイルスが好みに細胞にくっついて、入るまでに10分。細胞に入ったウイルスは、設計図やエンベロープなどの部品をつくり、たくさんのウイルスをくみたてると工場として使った細胞を殺して、出ていき、次の細胞に入る。これが「増殖」。
    ウイルスに感染した人の細胞は、ウイルスを作らされて自分の生命活動ができず、ウイルスが増殖後、工場として使ったヒトの細胞は破壊するので、いろいろな病気になる。ウイルスは毒素を出したりはしない。
    ウイルスによって感染する細胞の場所が決まっていて、起こる症状も異なる。

    • インフルエンザウイルス・・・のどや鼻の粘膜…咳、鼻水、発熱、頭痛
    • ノロウイルス・・・腸管粘膜…下痢、嘔吐、発熱
    • エボラウイルス…血管の内皮・・・出血、下血、嘔吐、下痢
    • エイズウイルス…血液の中のリンパ球…免疫不全、日和見感染

    症状

    新型コロナウイルス感染症の8割は10日で治る。2割が肺炎になったりする。5%が重症化し、2-3%が致命的になる。これに対して、インフルエンザは全身感染症で突然の高熱、関節痛で短期間の経過をたどる。
    コロナウイルスのうち4種類は人の鼻や喉の粘膜に感染する。中でもMERS(中東呼吸器症候群)とSARS(重症急性呼吸器症候群。現在は発症の報告はない)は肺に入って重症化する。普通の鼻かぜの3分の1はコロナウイルスの仲間が原因だといわれている。
    新型コロナウイルスは鼻、喉の粘膜に感染するが、気道の奥の方(肺)に感染しやすい。子どもはかかりにくく、重くなりにくい。第1波より第2波で重症者は減ったが、70歳以上では、第1,2波ともに重症者が多い。
    症状は発熱、ひどい咳、非常にだるいという。消化器症状は少なく、10日前後で急激に悪化することがある。
    体温は個人差があるが、定義では37.5度以上を「発熱」といい、(発熱4日以上と言われたが)入院時に37.5度以上の人は半分弱。第1波を振り返ると、37.5度上が続いている人は全部ではなかった。だから、誰の検査をすればいいかの判断は難しい。
    中国の報告では、年代でかかりやすさに差はなかった。無症状の人の割合は19歳以下が20-30%と高かった。しかし、生体反応がでにくいのか、70歳以上でも熱の低い人はいた。
    8月末の日本の空港検疫の結果をみると、200人が帰国し、ほぼ全員が無症状。ホテル、自宅隔離を2週間してもらっているのが水際作戦ということになる。
    感染力が最も高いのは、症状がある人では、発症前日と発症日。インフルエンザは症状が出たときが最も高いのと異なっている。

    マスクと換気

    マスクで鼻とのどを覆うことが大事。うがいもよい。ウイルスは鼻腔にいちばん多くいることがわかっている。自分の顔や鼻を触るとウイルスが手につき、その手でノブやつり革を触ることになる。マスクの目はウイルスより大きいが、マスクの効用のひとつは鼻をさわらなくなることがある。
    咳、くしゃみでつばが飛び散るのもマスクは防ぐ。飛沫は1-2mで落ちる。おしゃべりの水蒸気は空気に乗って出ていき、小さい水滴は漂う。飛沫核(水分がなくなり、軽く空気に乗って広がる)で感染する疾患は伝染力が強く、結核、はしか(5mでうつるという)、水疱瘡がその代表。エアロゾルとマイクロ飛沫は同じもので、軽く、遠くまで漂う。
    欧米の人はマスクになじみがなかったが、鼻かぜのコロナウイルスの研究で、おしゃべりするときのエアロゾルをマスクで防げることがわかったとネイチャーに掲載され、欧米でのマスクへの反応が変わった。
    喚起が大事なのは長く漂うものを出すから。空気の流れをつくることが大事なので、必ず二か所、開けること。レインボウマークのついた店で、扇風機も回している店を選ぶとよい。

    重症化

    重症化するのは発症10日ごろ。重症化をおさえる時期を逃さないように!重症化しやすいのは、65歳以上、基礎疾患がある人、肥満の人。
    動脈硬化の人は血管に傷があり、ウイルスが入り込みやすい。心疾患を持つ高齢者が重症化するのは血管の傷のせいだろう。

    免疫

    免疫は身体を守る働きで、自然免疫と獲得免疫がある。

    • 自然免疫:異物を防御装置が働く。武器で言えば、刀や槍
    • 獲得免疫:2回目以降は敵だとすぐにわかるので、十分な免疫でやっつける。こちらはレーダーつきミサイル。

    私が学生だった30年前にはウイルス治療薬はなかった。今は、抗ウイルス薬ができたが、基本は自分の力(自然免疫、獲得免疫)で治す。治癒してもウイルスが減ったのか、薬が効いたのかはわからないことも多い。コロナの場合、軽い症状の人に早く薬を使うのが有効。
    くすりには病気の根と絶つ「根治薬」と、症状を改善する「対症薬」がある。かからないのが一番よいが、かかったときは免疫で戦うので、普段の食事・睡眠も大事。
    また、ウイルスには抗菌薬は聞かない。高熱の風邪には細菌感染者がまじっていることがあり、そういうときには抗菌薬は効く。

    くすりとワクチン

    ウイルスの細胞内での動きがわかり、侵入、複製、増殖、放出とそれぞれのステップで薬がどのように効くのかを考えられるようになった。培養した細胞に感染させて研究している。国内承認薬はレムデシビルのみ、アビガンは臨床試験中。くすりは重症化しないようにする役目を担っている。
    ワクチンへの過大な期待はだめだと思う。ワクチンは血液の中で抗体をつくる。最前線である鼻やのどでは抗体は作れない。発症を防ぎ、症状を緩和し、高齢者や若齢者の重症化を防ぐ働きをする。医科学研究所ではウイルスのDNAやRNAを使ったワクチンを研究している。
    ワクチンは安全でなくてはならない。その効果がわかるのは1シーズンが終わってから。ADE(交代依存性感染増強)といって、ワクチンがウイルスの増殖性を強める恐れもある。敵を迎え撃つはずの抗体がウイルスとの懸け橋になり、リンパ球が減少することもあり、研究は慎重に行われている。

    手洗い

    今日、配布した資料には医療従事者用の手洗いを載せた。これを衛生的手洗いといい、指先(関節より先)を間違いなく洗える方法になっている。アルコールでないとだめだと思っている人がいるが、冬場にアルコールを使うと手荒れがひどくなるだけで、ぼろぼろになった皮膚は感染しやすい。石鹸に普通に手を洗い、つりかわなどの不特定多数が触る所は触らない。

    コロナ時代

    スペイン風邪を抑え込むのに2年かかった。技術が今は進歩しているので、2年で勝てるのではないかと期待している。しかし、今、爆発的に増加しているインドも2年で大丈夫か。
    高齢者のフレイル(虚弱)について、専門の飯島勝矢先生は、身体の虚弱、心(認知)の虚弱、社会性の虚弱の3要素を挙げている。コロナとともに、3つのフレイルに負けないようにしなくてはならない。筋肉低下防止にはマスクをして、他の人と距離をあけて、日光を浴びながらどんどん歩いて下さい。コミュニケーションができなくなると認知が落ち、社会的に衰えるので、チャットをしたりしましょう。
    自粛警察は絶対にだめ。三密を避けてマスクをはずさないことが大事だが、食べたり話したりするときに、これがなかなか守れない。これから数年間はコロナとつきあうのだから、自分がかからないことを最優先に考えて行動しましょう。

    話し合い(〇は参加者、矢印はスピーカー)

    • 空気の流れが大事だということですが、エアコンはどうでしょうか
      →私のいる場所はドアと窓があいていて扇風機とエアコンを使っている。エアコンの風向きが変わるのがいいのではないか。しめきりはよくない。理容室などはお客さんが帰ったらドアをあけてください。
    • コロナウイスが細胞に入って出ていくまでにどのくらいかかりますか
      →わからないが、ウイルスがゼロから1000個になるのに3日かかる。感染力が最も高いのが発症前日と考えると、3日くらいで出ていくのではないかと思う。
    • 細胞に入るまでは10分間ということですが
      →濃厚接触15分以上で感染成立。10分で細胞に入るので、10以内でうがいをしたり、鼻をかんだりすれば有効なのではないか。
    • 第2波で重症化が減ったのは医療が有効なのか、ウイルスが進化したのでしょうか
      →ウイルスは半月で1塩基変異する。病原性は変わってきているので重症化する機能が落ちたかもしれない。発症1週間以内の人にすぐにアビガンが使えて、医療がスムーズになってきているのも事実。アジアの人はBCGを摂取しているからという説もある。
    • 透明で鼻がカバーされないプラスチックのフェイスガードは有効でしょうか
      →唾液の飛散は防げる。鼻からでるものは防げないので、鼻も覆うものがいい。
    • 料理教室を対面で行う時の注意は
      →調理する人はマスクをする。参加者も完全にマスクをし、体調を整え、距離をとる。手を介した接触防止のために手指の衛生が重要。
    • 発症一日前の感染力が最も高いそうですが、無症状の感染者を見つける方法はありますか
      →健康保険が効かない。自分で検査を受けると3-5万円。日本人全部が検査すべきなのか?濃厚接触者だけを検査すればいいのではないか。全員が、自分は感染しているかもしれないと思って行動することが大事だと思う。
    • 普通の人への調査や平均をとって傾向をみることも必要ではないでしょうか
      →東京都は7日平均を出している。診断がつくのは発症後5日くらいだから、発症日を聞き取りで記録している。集団の抗体検査をした場合、東京は0.1%となっている。東京の中でもリスクの高い集団の感染者率は、当然平均値より高くなる。
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