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  • オンライン会議「飲食業にとっての新型コロナ時代のリスク低減策」

    2020年7月26日、オンライン会議「飲食業にとっての新型コロナ時代のリスク低減策 ~食品衛生ならびに法規制上のリスクにどう対処する~」が、NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)主催で開かれました。オンライン会議では、次の4人の講師のお話の後、パネルディスカッションが行われました。

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    会場風景

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    登壇者のみなさま(左上 関崎氏、右上 三宅氏、
    左下 三木氏、右下 田代氏)

    プログラム

    『総括:新型コロナ時代に飲食業は食のリスクにどう向き合うべき?』
    関崎 勉(東京大学大学院農学生命科学研究科 教授)

    『"With Corona"における感染性食中毒対策 ~ウェルシュ菌を中心に~』
    三宅 眞実(大阪府立大学大学院生命環境科学研究科 教授)

    『飲食業のテイクアウト/デリバリー等における食品衛生法上の留意点について』
    三木 朗(厚生労働省 医薬・生活衛生局 食品監視安全課 課長)

    『店内飲食を主とした多店舗展開外食企業におけるテイクアウト・デリバリー施策実施上の課題(トリドールの事例)』
    田代 翼(株式会社トリドールホールディングス食品安全管理部食品安全企画課)

    <パネルディスカッション>

    『飲食業のテイクアウト/デリバリーにおけるリスク低減策について』
    パネリスト:演者4名、コーディネータ:山崎毅(SFSS理事長)

    主なお話

    関崎氏は、日本の2012-2019年の食中毒の発生状況(件数と患者数)から、ノロウイルス、カンピロバクター、ウェルシュ菌が上位3つの原因であり、1996年にO157大腸菌、1998年に腸炎ビブリオ、2000年にブドウ球菌などの大きな発生があったが、ノロウイルス以外は大きな被害はなく収まっていると俯瞰した。これまでのデリバリー、テイクアウトなどの店外の事故をみるとノロウイルス、ウェルシュ菌が原因になっているようだ。少人数からの特定の注文(店内で提供していたメニュー)で調理し、顧客に手渡し、持ち帰り後にすぐに食べるのは、そばやの出前などと同じだから食中毒は起こらないはずだが、コロナ禍のもと、大量注文に対応するために作り置きしたり、持ち帰ってすぐに食べなかったりして食中毒が起こるのではないかということであった。

    三宅氏は、日本の食中毒は例年、月あたり80-100件くらい起こり、患者数は同2,000人位だが今年の4月、三密回避と手指消毒の効果で食中毒が激減したと報告した。変わらずに発生しているのはアニサキス、自然毒(スイセンなど)など。食中毒のリスクそのものは店内で食べてもテイクアウトでもある程度存在するが、生食する食品によるケースが依然発生していることには注意が必要。
    今年のウェルシュ菌の食中毒の発生状況をみると、老人ホームの給食の煮物、前々日に調理された弁当、社員向けビュッフェで提供されたチキン煮込みが原因だった事例が目に留まる。ウェルシュ菌はその芽胞が加熱調理では不活化されず、その後増殖、小腸に達して再び芽胞と毒素をつくる。「加熱食品は大丈夫」という思い込みが危ない。ウェルシュ菌の増殖至適温度は40-45度と高温で、嫌気性。献立では粘性のある、とろみのついている食品が危ないようだ。

    三木氏からは、日本の食中毒の発生状況と食品衛生行政の取り組みが紹介された。新型コロナウイルス感染症拡大の影響下で食中毒の事件数は減っている。今年の4月は昨年、一昨年の5-7分の1まで減少。5、6月は例年以下だが少し増え始めている。
    4月7日には緊急事態宣言も出され、飲食店のテイクアウト、宅配が増加。加えて、営業許可に関する問い合わせも増えた。テイクアウト、デリバリーを新しく始めた人も多い。これらの一番の課題は調理から喫食までの時間が長くなり、食中毒発生のリスクが高まること。
    5月8日と6月12日に、自治体の衛生管理部(局)宛に、「飲食店における持ち帰り・宅配食品の衛生管理等について」の通知を出した。事業者に対して、一般衛生管理の徹底に加え、①持ち帰りに適した献立(生ものは避ける)とする、②提供食数は保冷スペースなどを考えて検討する、③加熱時間は十分にとる、④保存は10℃以下若しくは65℃以上とする、⑤消費者に速やかに食べるよう情報提供するなどを指導するといった内容。また、営業者用のチェックリスト(リーフレット)についても、自治体に提供するとともに、(公社)日本食品衛生協会にも作成・周知を依頼している。
    食品衛生法の改正でHACCPが義務化され2021年6月からは全面施行となる。一般的な衛生管理に関する基準にHACCPに沿った衛生管理が加わる。テイクアウトやデリバリーにもHACCPの考え方が取り入れられることになるので、今から取組みを始めて欲しい。行政はまじめに取り組んでいる事業者の後押しがしたいと思っている。
    新型コロナウイルス感染症対策について(参考)。主要な感染経路は飛沫感染と接触感染であり、食品(生で喫食する野菜・果実や鮮魚介類を含む)を介した感染例はない。飲食業におかれては、「外食業の事業継続のためのガイドライン」も活用して取り組んでほしい。

    田代氏はトリドールホールディングスが、丸亀製麺を主力とする多様な業態の約1800の店舗を国内外で展開し、「手作りできたてを出す外食チェーン」というコンセプトを守っていることを紹介した後に、コロナ対応について話した。テイクアウトを行いたいという申請の社内稟議が、今年は半年で昨年の約1.5倍になった。4,5月は売上が半減したが、今はテイクアウトを開始し、6月は9割まで売り上げ回復した。
    自社のコンセプトを守りながら、すぐに食べるように口頭などで説明し、麺類やうどんを提供している。その中で、従業員の感染予防、店内の衛生管理が最重要で、それを支えるのは経験・能力に頼らない教育、マニュアル作成であることを痛感している。 テイクアウト実施は、手作り、できたて、おいしいのコンセプトを維持し、多様な業態を守り、店舗負担を最小限にする方針で進めてきた。たとえば、衛生管理工程を増やすのは簡単だが、そういうやり方は店舗負担が増えて、定着しないだろうと思う。調理後最大2時間で喫食すること、都度調理すること、さしみなどは使わないことを守って進めてきた。
    そんな中で、包材保管場所がないこと、代行業者における食品の管理を確認できないことなどの課題が見えてきた。自社配送も検討しつつ、業界全体で代行業者と向かい合うことが必要だと思う。検査データを蓄積し、管理マネジメントツールにテイクアウトを加え、一般衛生管理の徹底し、これからの店舗設計 商品開発を考えていきたい。

    山崎毅氏(SFSS理事長)の司会により、質疑応答、意見交換が行われました。コロナ禍の中で、デリバリー、テイクアウトを通じて事業者、消費者の衛生管理の意識が高まることはよい成果といえるのかもしれません。また、「コンビニ弁当は工場を出て60時間以内に食べることを前提に作られているなど、テイクアウトとは違う食品の作られ方であることを、私たち消費者も知っているべき」という参加者からの発言が印象的でした。
    まとめとして、全パネリストが述べた「外食に注意してほしいこと 消費者に注意してほしいこと」から、消費者もテイクアウト、①デリバリーでリスクの低い献立は何かを考えて選んだり、②安全な食品にはコストがかかることを知ったり、③店舗で食べるのと自宅で食べるのではリスクが変化することを理解したりすることが求められていると思いました。

    参考サイト

    食の安全と安心フォーラム第19回(7/26)開催速報

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