JASTJブックカフェ「科学技術で読む米中対立の深淵」
2020年7月18日、日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)は、ブックカフェ「科学技術で読む米中対立の深淵~中国の科学技術力は米国に追いつくか」を開きました(於 プレスセンター)。講師の倉澤治雄さんは日本テレビ、科学技術振興機構(JST)中国総合研究センターを経て、2017年よりフリーになり、その間、ずっと中国の科学技術を追ってこられました。今回は、次の5ポイントを意識しながら、中国の科学技術についてフラットな立場から語られました。
- 国際情勢は科学技術力で動く。
- 中国の科学技術力をフラットな立場に立って眺めてみる。
- 米中対立の中で日本の科学を真剣に考える。
- 安全保障と産業の視点から俯瞰する。
- 地球全体で考えて、科学技術はどう理解すべきか。科学技術はだれのものか。科学技術は世界の人々のためのもの!
主なお話の内容
中国の科学技術力を数字でみてみると、2000年からの20年間、急こう配で究開発費、研究者数、留学生数、論文数、論文引用度が増加した。アメリカは1位を保っているが、20年前、日本よりも低位にあった中国が2位まで上がってきている。
農業、工業、国防、科学技術が中国の現代化の鍵で、創新(=イノベーション)が第13次5か年計画に書かれている。さらに、地方政府に科学技術庁、科学技術協会があり、科学技術ネットワークが国内でもはりめぐらされている。
このような基盤整備の上で、科学技術と産業は急発展している。
中国のデジタル化は急速に進み、電子決済は当たり前。「天網」というシステムを使うと全人口14億人を1秒で認識できる。
主要なエネルギー源は石炭だが、原子力発電は世界第3位で47基が稼働中。安全性の高い「華龍1号」も注目されている。原子力の研究をしている学生が1万人いて層も厚いが、住民の反対運動もあり内陸にはなかなか建設できない問題も抱えている。
宇宙開発も盛んで、測定衛星「北斗」35基の打ち上げを終えている。宇宙開発に従事する人は30万人(日本のJAXAは1500人)。
電気自動車の社会実装が進んでいる。深圳では公共交通機関はタクシーを含めてすべて電気自動車になっており、自家用車も3-4割に達している。
その結果、世界のユニコーン企業(=10億ドルの企業)464社のうち、119社は中国(アメリカ 222社、日本は3社)。
フアーウエイ(HW)についてはいろいろ言われているが、企業では国際特許世界1位で2位(日本の三菱が2位で健闘している)との差は約2倍。研究開発投資は2019年、2兆1000億円と一企業で、日本の国立大学基盤的経費1兆1000億円の2倍の規模。世界の基地局のシェアの3割を占める。5G(高い周波数を使う)では高い技術力を持っている。また、日本から、1兆1000億円のスマホの部品を買っており、日本の対中輸出の6%を占めている。サイバーセキュリティについては、日本には英国やドイツのような評価検証機関がないので、HWを評価できずに悩ましいところだが、HWについて客観的にみることも有効だと思う。
2018年 ペンス氏(アメリカ副大統領)は「中国共産党はあらゆる技術の9割の支配をめざし、米国の技術を盗んでいる」という意味の演説をしている。このようなあからさまな米中対立の結果、研究者や科学技術の囲い込みなどのグローバルサプライチェーンの分断が起こっている。軍事技術の産業への転用は禁止されているが、民間技術が軍用で使われるケースも出てくるかもしれない。せっかく5Gのような世界で統一された通信技術ができたのに、知財、高度人財の囲い込み、留学の制限が始まり、グローバルテクノロジーの終焉だといっているシンクタンクもある。一方、日本の研究者が研究環境のよい中国に行くケースが、若手だけでなく中高年でも増えている(1500万円年俸、5年間の雇用保障、別に研究費が支給される)。
科学技術は誰のためのものなのか。科学技術は人類に進歩をもたらすはずなのに、分断と破壊をもたらすものになっていないか。
会場参加者とオンライン参加者で質疑応答が行われました。日本の科学の構造を一新するにはどうしたらいいか、米中対立の中で日本の果たすべき役割は何かなど、講演内容をもとに日本の在り方を問う意見が出されました。
最後に倉澤氏は「心から日本の科学技術がよい方向に進むことを願っています。日本が世界の人が集まれるような国になりますように」とブックカフェを結ばれました。