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  • 生協の皆さんとステークホルダー会議開催

    2019年11月25日、コープこうべの皆様と、12月5日京都生協の皆様と、ステークホルダー会議を開きました。
    ステークホルダー会議は、あるテーマに対していろいろな立場にたってみて(ロールプレイ)、グループディスカッションを行い、一定時間内にYES-NOを決め、その結果を発表しあうワークショップです。ゲノム編集技術を用いて開発中の「ソラニンができないジャガイモ」、「肉厚のタイ」に関するサイエンスカフェを開いてまいりました。しかし、未知のものに対しては、期待より不安が先行し、発言が消極的になりがちであることを私達は経験してきました。そこで、2018年、ステークホルダー会議というワークショップ手法を開発し、いろいろなグループを実施しながら、用いるツールやプログラム構成を改善してきました。

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    村中俊哉先生(於 コープこうべ健保会館)

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    木下政人先生(於 京都テルサ)

    11月25日 ステークホルダー会議「毒の少ないジャガイモをつくる」

    場所 コープこうべ健保会館
    参加者 理事、職員など50名
    話題提供 大阪大学大学院工学研究科 村中俊哉先生

    ジャガイモは南米産のナス科植物で、ナス科植物は一般にソラニン、チャコニン、トマチンなどの有毒物質を有している。これらの作物では、品種改良でおいしく、大きくするだけでなく無毒化する改良がなされている。ただ、ジャガイモの芽の部分にできるソラニンという毒は、ジャガイモは世界有数の主要作物にも拘わらず、無毒化ができていない稀有な例である。
    品種改良には、突然変異を誘導する方法、遺伝子組換え技術、ゲノム編集技術などによって行われる。ゲノム編集は、2010年頃に誕生した新しい技術で、ゲノム編集で使われる道具(位置を指定して切る酵素)はZFN→TALEN→クリスパーキャス9と変遷してきた。今、多く使われているクリスパーキャス9は誰でも安く、簡単にゲノム編集ができる。
    ソラニンを作らないジャガイモをゲノム編集で作るとき、ハサミの働きをする酵素をつくる遺伝子が残っていると、悪影響が出るかもしれないので、狙った形質になった個体群を元の作物を交配する中で、ハサミがなくなったものを選別し、新しい品種とする。ところが、ジャガイモはそもそも不稔(花粉ができにくい)であるため、種子でなく種芋で増やす作物。つまりジャガイモは、交配によってハサミの遺伝子を除去できない。これが難問!
    ハサミの働きをする酵素をつくる遺伝子を組み込んだアグロバクテリウム(細菌)にジャガイモを感染させ、ジャガイモのゲノムDNAには組み込まずに一過的にゲノム編集を行うことに成功した。
    サッシーというジャガイモの品種や、さやか(ポテトサダラ用)、メークイン(生食用)でも成功している。ジャガイモの保管は通常1年だが、この新しい品種では、1年を越える長い期間保管しても発芽がせず、土に植えると発芽する。エチレン処理したうえで、温度管理された部屋で3年保管した後、土に植えたら発芽することを確認している。
    ジャガイモは植物検疫の関係で生食用は輸入できないが、この技術を使えば、異常気象(例えば水害)などで、大規模にジャガイモが収穫できなくなった場合に有効。
    ソラニン中毒は重篤なものではないが、芋ほりしたジャガイモを日にあててほしたりするなどにして、毎年、100件くらいの食中毒の報告がある。
    実際には生産・輸送・保管段階では、ジャガイモが芽が出ないような管理を行い、加工段階では、芽を除去する作業を人手をかけて行っており、コストがかかっている。本研究により、これら負担軽減を願っている。

    質疑応答

    グループで話し合い、質問を選んで講師に質問をし、質問の重複をさけて進めていきました。

    • ハサミの遺伝子について説明してほしい。
    • ゲノム編集は突然変異を起こしやすくするのか。
    • 10月にはいって、厚生労働省、農林水産省の事前相談窓口が開いて、不自然に急いで進めようとしている印象を受けるが。
    • 報道をみているとゲノム編集の不安をあおるものが多いのはなぜか。
    • オフターゲットは心配だと思う。

    などの質問や意見があり村中先生が丁寧に回答されました。

    話し合いの結果

    消費者、生産者、ポテトサラダ製造販売者、学校給食料理人の4つの立場のグループに分かれて、ゲノム編集ジャガイモを利用するかどうかについて話し合い、グループの意見を決めました。Noというグループはふたつでした。

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    12月5日「ゲノム編集で肉厚のタイをつくる」

    場所 京都テルサ視聴覚室
    参加者 理事、職員など20名
    話題提供 京都大学 農学研究科 木下政人先生

    ヒト・タイ・大腸菌などは、いきもの(生物)で、増殖し、動くなどの特徴がある。その起源は30億年前に誕生した単細胞生物。時間の経過に伴い、多くの生物が進化してきた。
    生物が生きていくための設計図は、DNAという物質でできている。A・T・G・Cの4種類の塩基からなる。塩基のつながり方が生きていくうえで必要なタンパク質の作り方をコードする遺伝子。生物が持つ遺伝子一式をゲノムという。現在、約175万種の生物が存在する。生物進化の原動力が突然変異と自然選択である。 いろいろな作物の種類は、自然突然変異と人為選択により作られた。これを育種という。
    放射線・紫外線・一部の化学物質などにより、ゲノムDNAに傷がつくことがある。多くは修復されて元通りになるが、まれにミスが生じる。放射線などを活用して、人為的にミスを起こせるが、変異の方向は定まっていず、時間がかかり、望ましい設計が困難という大きな欠点がある。新しい品種作成の新技術のひとつが「ゲノム編集」である。狙った遺伝子をピンポイントで破壊(ノックアウト)できる。よく使われるのが「CRISPR/Cas9」である。細菌類に備わる免疫システムに由来する。Cas9はDNAを切断するハサミであり、18個のDNAが付属する。付属DNAは目的遺伝子のDNAと相補結合する塩基配列になっている。これを細胞内に入れると、目的遺伝子と結合し、Cas9が結合部DNAを切断する。切断されたDNAは修復されるが、一部でミスが発生し、複数の塩基が脱落することもある。するとフレームシフト変異(3つずつ塩基を読んでいく読み枠がずれる)が起こり、遺伝子は働かなくなる、つまり壊される。なお、ゲノム編集で遺伝子を導入することもできるが、私の研究では外来遺伝子を挿入しない。
    ゲノム編集を使ってマダイのミオスタチン遺伝子(筋肉細胞の増殖を制御する)を働かなくした研究の紹介をする。ベルギアン・ブルーなどの肉用牛は筋肉質の牛で、ミオスタチン遺伝子が機能しない、自然突然変異でできた品種。この知見を基にして、マダイのミオスタチン遺伝子のノックアウトを試みた。受精卵を一列に並べ、ガラスの針でCRISPR/Cas9を注射する。10%程度の確率で魚肉量が増えたマダイができた。これらを従来のマダイと比較した。RNA発現(トランスクリプトーム)で違いがあったが(これは想定内)、タンパク質発現(メタボノーム)では区別がつかなかった。
    遺伝子組換え技術の社会的受容の状況を参考に、ゲノム編集について知ってもらう努力したい。ゲノム編集は目的遺伝子が明確である。比較すべきは従来の突然変異と人為選抜による育種である。通常、30年程度必要である。ゲノム編集ははるかに短時間でできる。魚肉増のマダイは4年で生まれた。育種した生物だけを観ると、両者は区別できない。
    育種したマダイの養殖管理では、自然界に影響のないような配慮も十分にしている。トラフグも同様の手法で、魚体の大型化に成功した。今後、陸上の隔離条件により、これらの養殖を推進したい。加工までを行う6次産業化により、地域創生や雇用確保につなげられる。安全性確認は個々の条件による。
    ゲノム編集の情報伝達の方法で、いろいろな工夫をしてきた。情報を的確に伝達することで社会の許容比率が高まることがわかった。こういう情報提供と意見交換を今後も続けていきたい。

    質疑応答

    グループで話し合って、質問を決めて順々に講師に尋ねました。グループで重複する質問はありませんでした。

    • 人為的にDNAに傷をつけるのと、ゲノム編集でDNAを傷つけるのは同じか。
    • 実用化の時期、価格はどうなるのか。
    • SDN2、SDN3について説明してほしい。
    • 世界でのゲノム編集技術に対する評価はどのようなものか。

    これらの質問に対して、木下先生が丁寧に回答されました。

    話し合いの結果

    養殖業者、消費者、鮮魚店の立場のグループに分かれて議論し、ゲノム編集タイを利用するかの意見を決めて、発表しました。Noというグループはひとつでした。

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    まとめ

    今回のステークホルダー会議にはそれぞれの生協の指導的な立場にある方が多く参加してくださいました。個人的な感じ方よりも、食料問題や環境問題も見据えた議論が行われたと感じました。ある方が「個人的には不安を感じるが、事業者のグループにいたので、生き残り戦略のための戦略として議論した」と言われていましたが、ステークホルダー会議という手法が幅広い意見を引き出すのに有効であるというご意見も多くいただきました。

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    会場風景(於 コープこうべ健保会館)

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    会場風景(於 京都テルサ)

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