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  • 「食品のリスクコミュニケーションにおけるメッセージはどうあるべきか」

    2019年12月9日、未来バイオ勉強会「食品のリスクコミュニケーションにおけるメッセージはどうあるべきか」が開かれました(於 バイオインダストリー協会)。3名の講師からの話題提供の後、ディスカッションを行いました。

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    富田房男氏

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    パウロ・テン博士

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    小島正美氏

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    会場風景

    (写真提供 バイオインダストリー協会)

    「北海道におけるバイオテクノロジーに関する規制状況」

    国際アグリバイオ事業団 日本代表 冨田房男氏

    北海道には「組換えは悪」というような考えが根強くある。その典型が条例にある。条例の第1条目的に「遺伝子組換え作物の開放系での栽培等を規制することで(中略)現在および将来の道民の健康を保護するとともに、本道における産業の振興に寄与することを目的とする。」とある。遺伝子組換え作物は、「健康に害があり、産業振興に寄与しない」との考えで制定されており、これは、実態に全く反するものであり、国の方針にもかなわない。また、食品安全委員会の食品安全モニターアンケートでは不安はかなり減ったのに、道民調査(2014年)では「遺伝子組換えに不安はあるが研究は進めてよい」というのが道民の考え方のようだ。しかし道庁はこの考え方を認めていない。
    講演会やセミナー、放送大学などを通じて遺伝子組換え技術について情報を発信してきた。遺伝子組換え大豆を使った納豆を作って販売したり、バイオカレンダーを作ったりしてきた。今は主婦向けの料理参加者への講演など草の根的な一般の方々を対象に広報をやっている。
    この他に生産者の動きを支援して、北海道農業者の会やテンサイ栽培研究会を設立し、これらの会から道総合研究機構や道庁に道庁あての意見書を送ったり、遺伝子組換えテンサイ栽培の申し入れを知事に行ったり、いろいろな形で意見書を出したりしているが、遺伝子組換え作物の試験すらまだ実現できない。北海道では、農業及び食産業が最重要な産業です。どうか今最先端の農業に関する科学と技術を必要とする北海道で科学技術を正しく理解し、農業技術の最先端化を図る私たちの活動を支援してほしい。

    「バイオテクノロジー作物の受容向上に貢献するリスクコミュニケーション~方法と人材」

    パウロ・テン博士(国際アグリ事業団)

    遺伝子組換え食品などは科学の説明だけでは十分でなく、政治、社会、消費者の利益、価値などが含まれる。リスコミュニケーションは、信用できるか、理解できるか、説得力があるか、明解で簡潔か、ポジティブであるかが重要な要素になる。 

    リスクコミュニケーション

    リスクコミュニケーションは、信頼、リスク認知、メンタルノイズ、ネガティブの4つの要素で成立する。信頼性には「相手は自分に関心を持っているか」「相手は献身的か」「相手は有能か」「相手は誠実か」が重要。言葉にならないコミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)も有効。男性か女性かでも信頼の成り立ち方は異なってくる。そして、誰が説明するか(信頼される人材)が重要になってくる。
    説明の方法:イントロで信頼性を強調し、ポジティブ情報(事実と統計データ)を3~10件含める。原稿を棒読みするのではなく、きちんとした服装で、断定的に話すことが大事。ただし攻撃的にならないこと。
    信頼を得る方法:信頼できる組織に所属し、第三者のサポートを受けていて(信頼されている組織の信頼をひきつぐことができる)パートナーとみなされる人がよい。そして中立であること。

    リスコミ理論

    リスク認知には、その人の持っている心配、執念、怖れ、不安が影響を与える。リスク受容には、信頼、有益性、コントロール可能か、公正性、次世代への影響が重要になってくる。

    メンタルノイズ

    精神的に不安定な人は情報の聞き取りが難しい。怖れを感じているとき、人の情報処理能力は低下する→メンタルノイズ対策として、メッセージは3回まで。2回ずつ繰り返す。明確で単純なメッセージ。メッセージをつくるときは、単語、文節数、文章の長さ、受容態と能動態の使い分けに気を付け、15分以内で説明すること。

    ネガティブ顕性

    人はネガティブになりやすい。3つのポジティブメッセージでやっと1つのネガティブメッセ―ジをキャンセルできるくらいネガティブメッセージはインパクトが強い。ネガティブワードも避ける。

    メッセージマップ

    メッセージマップはリスコミの注意点に留意し作り、グルーバルメッセージをだす。そこでは答えと考え方が一目で見られるようになっている。
    メッセージマップは簡潔、ポジティブ、明解でなければならない。メッセージマップに載せるメッセージはそれぞれ3つのエビデンスで支える。フィリピンでは、メッセージマップを使って、ゴールデンライスが受け入れられた。

    バイオテクノロジーの受容の戦略

    現状把握、目標設定、ステーホルダーの関係整理、懸念とニーズの明示、信頼できる情報の収集と提示を行っていく。これからは、知識不足をこえて、信頼できる情報を明確なエッセージとして、あらゆるチャンネルで出していくことが有効。

    「遺伝子組換え作物-歴史からの教訓」

    食生活ジャーナリスト協会 代表 小島正美氏

    遺伝子組換え反対派の動き

    遺伝子組換えをめぐるこれまでを振り返ると、反対派は20年前、メッセージマップをわかりやすく作り、情報を共有していた。反対派は数名の議員に声をかけては生協を巻き込み、条例などの策定を進めてしまう。
    科学者は不特定多数にわかってもらおうとするが、それは無理だと思う。反対派とのやりとり、訴訟のプロセスで研究者は疲弊させられてしまう。
    民主政権下での研究費削減と啓発冊子の廃棄の残す影響は今も残っている。「組換えでない」という食品表示の影響力も大きい。さらに国産の遺伝子組換え作物がないので、生産者は戦おうとしても武器がない状態。さらに、メディアによるネガティブ報道もあった。
    例えば、2003年、谷和原村で反対派に遺伝子組換え大豆の試験栽培をしていた畑がつぶされたが、だれにも責任を問えなかった。精力的に活動していた方が亡くなり、遺伝子組換え作物に賛同している生産者の組織はなくなってしまった。

    遺伝子組換え作物の理解を深める方法はないのか

    遺伝子組換え作物に関する情報発信や理解促進の可能性はないのか。

    • 北海道で栽培できないか。
    • 遺伝子組換え飼料米を国の政策として栽培できないか。
    • 新聞の間違った記事には訂正記事を求めれば、訂正記事はでなくても記者の意識は変わるのではないか。
    • ハワイのパパイヤを店に出したり、スギ花粉症米をめぐる議論を起こしたりできないだろうか。
    • 北海道の生産者で組織をつくれないか。
    • オーがニックと共存可能であることを見せる。
    • メディアセミナーを増やす。
    • 「遺伝子組換えでない」表示で論争を起こす。
    • メディアにアメリカ現地を視察してもらい、生産者の声を聞き、記事に書いてもらう。
    • 女性農業者が遺伝子組換え栽培に挑戦する。

    ディスカッション

    3人の登壇者、会場参加者全員で話し合いを行いました。ファシリテーターはくらしとバイオプラザ21 佐々義子が担当しました。いろいろな意見がでてきました。

    • メディアに関心に持ってもらうには、現地視察など絵になりやすい、記事になりやすい取材の機会を提供したり、そこに安全性などの基礎的な情報を組み合わせてたりして持ち帰ってもらったらどうか。メディアにとって生産者の主張にはインパクトがあるようだ。
    • 北海道で遺伝子組換えテンサイを栽培できないことによる、経済的損失などのデメリットを見える形にして訴えてはどうか。
    • 北海道は条例があるので、都市周辺の農家で付加価値のある野菜をつくるなど、条例のない地域でgood caseを提示できるといいのではないか。
    • メッセージマップに農業経済の視点をとり入れ、対象もいれたmatrixをつくるといいのではないか。
    • 遺伝子組換えやゲノム編集で高付加価値になった作物栽培へのニーズを掘り起こし、そこに光をあてる。
    • 学術会議などアカデミアにも頑張ってもらいたい。
    • 農林水産省だけでなく、経済産業省にも働きかけてはどうか。
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