バイオカフェ「風邪に負けない“最強の手洗い”伝授します」
2019年11月9日、千葉県立現代産業科学館でバイオカフェ「風邪に負けない“最強の手洗い”伝授します」を開きました。講師は丸石製薬株式会社 感染症対策コンシェルジュの和田祐爾さんと、同じく後藤潤子さん。
はじめに、クラリネット本郷海音さん、サックス大和久加奈さんによる、秋の景色にぴったりのフォスターの曲などが演奏されました。
お話の概要
手洗いの一番上手な人は手術室で働く医療従事者で10分くらいかけて、その人の固有の常在菌まで落とすくらい洗う。二番目に上手なのは小学生。幼稚園、保育園で手洗い歌や踊りで教育されているから、身についている。流水と石鹸で手を洗うだけなのだが、男性トイレを見るかぎり、しっかり手を洗う人は少ない。
風邪やインフルエンザ
風邪やインフルエンザの原因はウイルス。ウイルスには抗生物質(細菌、バクテリアをやっつける)は効かない。
気道粘膜にウイルスが付着すると感染する。患者さんの咳やくしゃみの飛沫に含まれるウイルスが粘膜に付着すると最短20分で細胞の中に入ってしまう。飛沫の大きさは5マイクロメートル以上(結核菌は1マイクロメートル)で、1-2m以内に落下し、落下速度は毎秒50-80㎝程度。
飛沫はマスクで物理的遮断はできるが、自分の手を介して、口と鼻の粘膜に運んでしまうことがある。風邪薬は炎症など症状を緩和させるだけで、ウイルスをやっつけることはできない。罹らないのが一番!
感染が拡がるわけ
閉鎖された場所に多人数がいると感染は拡大しやすい。学校、職場、家庭で、2m以内に人が長時間いるような場所だと飛沫を受け取りやすい。これを飛沫感染という。
接触感染は、食中毒の人の吐いたものに触る、環境に付着した飛沫に触ってうつること。
はしか、結核は空気感染といって、飛沫より小さいものが空気中に長く浮遊し、これを吸って感染する。加湿器を使うのは湿った空気の中だと、飛沫が乾燥して小さくならずにすぐに落下するから。
感染経路は、空気感染、飛沫感染、接触感染で、それぞれの予防策がある。しかし、コミュニティ内感染経路は学校、職場、介護施設、家庭など、複雑な経路が網の目のようにあるので、予防には注意が必要。
たとえば、エボラウイルスは接触感染だが、重症で患者が出歩けないので、感染はそんなに広がらない。インフルエンザのように、頑張ると通常の生活ができそうなとき、患者はウイルスを広げやすい。インフルエンザとわかったら、まずは休んで多くの人と接触する機会を少なくしましょう。
毎年、数百万から1千万人がインフルエンザにかかるから、100%の予防は不可能。治療薬があるから罹っても平気だという人がいるが、重症化する人も少なくなく、それもが完ぺきではないので、うつらない、うつさないことが大事!
飛沫予防策
アデノウイルス(プール熱)、ノロウイルスに罹ったらその人との接触する人をできるだけ少なくする。家族内でも手洗い、マスクを励行すると、家庭内でもある程度防げる。
ウイルスによるものには、インフルエンザ、アデノウイルス、ライノウイルス、おたふく風邪、百日咳、髄膜炎、マイコプラズマなどがある。
普通のマスク(不織布の使い捨て)でOK。咳やくしゃみをする人がマスクをかけることが、人にうつさないためには有効。患者さんとは1m以上距離を取った方が良い。
うがい、手洗い、マスクの効果
うがいのインフル予防効果を示す科学的な根拠は十分ではない。気道粘膜を湿らせることで抵抗力を増すなどは考えられる。並んでうがいするのは飛沫の飛ばしあいになる可能性がある。学校などで並んでうがいをするときは、他の人と1m以上離れてするのがよい。
咳、鼻水、くしゃみをしている人がマスクをするのは、ウイルスを広めないために明らかに有効。不織布のマスクで鼻と口が覆えればよい。マスクは患者さんや体力のない人のために大切。どんなマスクを使えばいいのか。
- ガーゼマスクはのど保湿の効果はあるが、目が粗く飛沫防御はできない。
- サージカルマスク 不織布の一般用でこれを使ってください。
- N95マスクはサージカルマスクの何倍も高価で、医療従事者用の空気感染対策に使うので、目が細かく息苦しい。一般の人が正しく使うことは難しいので利用しないでほしい。新型インフルエンザの流行った2011年にこれが一般の人に売れてしまい、医療従事者用が足りなくなった。
咳エチケット
咳エチケットを広める活動も広まっている。
- 咳をしている人はマスクをしましょう
- 咳をしている人から1m以上はなれましょう
- 鼻水、せきたんはハンカチでなくティッシュペーパーで受けてふたつきのゴミ箱にすてて、手を洗いましょう
手洗い
手に着いた微生物は目に見えないので、手を洗うタイミングがわからないという人が多いが、世界では「手洗いが命を救う(クリーンハンズ、セイブライブズ)」というキャンペーンをWHOが広めている。
タイミングは環境が変わる(移動の前後)ときに手洗いをしてください。病院、介護施設等に入るときと出る時(入るときは中にいる人たちのため、出るときは中から持ち出さないため)、つり革、タッチパネル、エレベーターのボタン、エスカレーターのベルトなど(高頻度接触面という)を触った後など。
手の洗い方のポイント
- 時計や指輪をはずす。ときには指輪も洗う。時計は感染対策上は皮バンドでない方がよく、変質しなければアルコールで拭くのでも良い。
- つめを短く切る
- 石鹸は必要な液量をとり、泡だてる。手洗いでは消毒するというより洗い流すことが大事。
- 手洗いで残しやすい場所は、親指、指先、指の間、効き手親指の背など、人によって洗い方の癖がある。両手を合わせる「拝み洗い」だけでなく、指は1本ずつ「包み洗い」するのがよい。せめて親指だけは包み洗いをしましょう。
- 先に水で濡らすと泡が立ちやすい。
- 自分用のハンカチか、使い捨てペーパーを使い、完全に乾かす。
- 蛇口は使ったペーパーで最後に閉める。
- 強くごしごし洗わず、まんべんなくなでるように泡をたてる。同じところだけ洗ってもだめ。
- ごしごし洗うと皮膚の表面を剥離し、手荒れすると黄色ブドウ球菌がつきやすくなる。
- 指先は手のひらにあてて丁寧に洗う。
質疑応答(◦は参加者、→はスピーカーの発言)
- ウイルスはどうやったらやっつけられるのか。
→ウイルスは遺伝子とそれを包む膜から成り立っていて、生物と無生物の中間のような存在。だからウイルス自身は呼吸せず、死なない。生体に入ってはじめて増殖できる。生体に入れないでいると感染力は下がる。咳をした飛沫の感染力は時間と共に落ちる。 - 石鹸の種類は
→使い切りの液体せっけんがいい。固形石鹸には汚れが残る。 - 自動手洗い機というのはあるのか。
→アメリカの厨房・病院用にはあるが、日本ではほとんど見ない。 - アルコール消毒と手洗いとどちらがいいのか。
→両方とも有効 - ハンドクリームで菌がつくことはあるのか。
→小さいチューブで使い切るようにする。洗った後の手の甲にクリームをとる。 - 手洗いがマスクよりも有効か。
→感染対策は確率で考える。マスクと手洗いには効果がある。うがいは直接、菌を除くより気道を水分で保護する働きがある。免疫力を養う。4つとも組み合わせると感染症予防の相乗効果があると考えられている。どれかが絶対ではない。インフルエンザ罹患者の隔離(状況による)、ワクチン接種も有効。 - 帯状疱疹もウイルスでおきるのか。
→帯状疱疹はウイルスで接触感染する。水疱瘡と同じウイルス。水疱瘡、帯状疱疹の看病する人、介助者は注意が必要。手洗いとアルコール消毒を励行してほしい。かさぶたがおちたら清掃も大事。 - ノロウイルスの患者が汚してしまった衣類の消毒は
→捨てていいものは捨てる。75度以上のお湯、アイロンやスチームアイロンで衣類の消毒ができる。色落ちを気にしない衣類は塩素系の消毒剤。逆性石鹸は雑菌には効くがノロウイルスには効かない。 - 手洗いが長いと手荒れが心配
→長くしなくても、まんべんなくせっけんがいきわたっていれば洗い流してよい。30秒で手早くきれいになるように上手に手洗いができるようになってほしい。 - 泡タイプと液体タイプの石鹸の違い
→効果に差はない。泡立つ成分と洗浄力は関係ない。 - インフルが冬にはやる理由
→乾燥で飛沫が飛びやすく、浮遊時間が長い。乾燥で飛沫核ができやすくなる。冬は低気温と乾燥で人の免疫力が落ちる。しかし、南の方は1年中、インフルエンザが流行っている。 - ノロウイルスはどうしてうつるのか。
→今は二枚貝より、人から人にうつるケースが増えた。 症状のない保菌(ウイルス)者もいるので、夏でも散発で流行する。