ワークショップ「ゲノム編集がもたらす食の変化の多様性を考える」
2019年10月9日 くろまろ塾で特別講座「ゲノム編集がもたらす食の変化の多様性を考える2-毒のないジャガイモ」が開かれました。ファシリテーターとしてお手伝いしましたので、報告します。
第1部 講演「毒のないジャガイモ」
大阪府立大学大学院生命環境科学研究科 教授 小泉望さん
はじめに
ゲノム編集は画期的な遺伝子改変技術であるので不安や疑問は当然だが、厚生労働省、消費者庁などが食品としての安全性確認や表示の方向性を決めた。私たちは「ゲノム編集の未来を考える会」をつくり、市民の意見に基づく社会実装のための活動をしている。まず知ってもらうのが大事で、次に市民の意見を引き出し政策に反映させられるようにしたいと思っている。
前回の講座のアンケートに「他人の意見が聞けた」「科学と社会の関わりを考えられた」という意見があったことから、今日はワークショップをしたいと思う。
「知らない⇔知っている」という横軸と、「食べてもいい⇔食べたくない」という縦軸をシートに書いたので、自分の気持ちにあっていると思う場所にシールをはってください。
4つの育種技術の整理
ここで4本の動画をみた。動画の概要は次のとおり
- 「交配育種」メソポタミヤの時代から人々は作物を栽培してきた。その中でよい品種ができると掛け合わせてよりよい品種をつくってきた。
- 「突然変異」突然変異で人にとってよい品種ができると、それを繰り返し掛け合わせて、よりよい品種をつくりだしてきた。
- 「遺伝子組換え」自分がもっていない性質をもった遺伝子をいれると、青いキクをつくれるなど、本来はつくれない色変わりの花をつくったりできる。
- 「ゲノム編集」すべてのDNA(ゲノム)も狙った場所を、小さなハサミの酵素で切る。その配列をみつけては何度も切るので、細胞は修復を繰り返す。そのうちに欠失などが起こり、そこの遺伝子が働かないために目的の品種ができる。
毒のないジャガイモ
野生種から作物が作り出されると、種が散る、毒がある、実が小さいなどの欠点が改良される。それでもジャガイモの芽や緑になった皮には毒があり、注意しているが、食中毒はなくならない。
大阪大学 村中俊哉先生はソラニンなど(SGA:ソラニン、チャコニン)ができないジャガイモをゲノム編集技術で作り出した。これまでは、放射線、化学物質で突然変異を起こして、品種改良してきた。ひとつの遺伝子が壊れる割合は数万分の1。ねらった遺伝子だけ変異を起こすのは難しいが、ゲノム編集でねらってソラニン、チャコニンをつくる遺伝子をつぶしたので、この2成分は激減した。ゼロにならないのは他の遺伝子が働いているらしい。
ジャガイモは4倍体といって、4組の遺伝子セットがあるので、自然の突然変異で4つの遺伝子全部をつぶすことはまずできない。
遺伝子組換えとゲノム編集の違い
ゲノム編集によっておこる遺伝子の変化と、放射線、紫外線、化学物質などによって引き起こされた遺伝子の変化かの区別はつけられない。
1996年に遺伝子組換え作物が栽培されるようになって、約20年間で栽培面積は100倍以上(日本全土の5倍くらい)になった。日本は自給率が低く、小麦、大豆、大麦、などは多くの割合で輸入にたよっている。合計およそ3200万トン。トウモロコシ、大豆、ナタネなどの半分以上は遺伝子組換えだが、日本では表示対象外の食品になっていたり、飼料として用いられたりしているので、こんなに利用されていることを知らない消費者は多い。
例えば、国産大豆でつくった油揚げ。ダイズは組換えでなくても、揚げ油は組換えの可能性が高い。日本の輸入作物の半分以上は組換えで、ほとんどは除草剤耐性と害虫抵抗性。すべて安全性審査もされている。
1973年に大腸菌の遺伝子組換え実験が始まったが、1975年のアシロマ会議から安全性は科学者たちの自主的なモラトリアムのもと、開発されてきた。
ゲノム編集では安全性審査は不要だが、届出制度にした。ということは、規制は安全性だけでは決められないことをあらわしている。規制なしの従来育種。遺伝子組換えは安全性審査が必要。ゲノム編集は届け出制になった。安心の確保のしかたは人によって異なる。
質疑応答
- は参加者の質問、 → はスピーカーの発言
- ゲノム編集応用食品の届出を任意にしないでほしい。
→届け出をしない事業者の名前の公表など、守らなければ社会的制裁になるだろう。 - バイテク種子が広まると、地元の品種を栽培している生産者、生産者のいる地方は疲弊していくのではないか
→大型ショッピングモールができると小売店が疲弊するのと似ていると思う。これは、ひとつの技術に特化するのでなく社会全体で考えるべき課題だと思う。 - 医療は特別な状態だから仕方ないが、食料にわからないものが使われるのはどうか。ソラニンがゼロにならないのではないか。みんなが食べる食物にはバイテク技術は使わないほうがいい。
第二部 ワークショップ
表示について、3つのグループにわかれて自由に討論し、ファシリテーターが報告した。
(第1グループ) ファシリテーター 大阪府立大学 小泉望氏
原材料表示はあるけれど原産地表示はわからない。メーカーのHPで調べられればよい。
添加物表示は、詳細で意味がわからない。
靴下の繊維の内訳、ティッシュペーパーの原産地など知りたいが表示されていないことも多い。
一方、知りたいものはあるが、表示にコストがかかることも考えなくてはならない。
(第2グループ) ファシリテーター くらしとバイオプラザ21 佐々義子
毒のないジャガイモについて話し合った。値段が余り変わらず、見て区別がつかないなら、表示はいらないという人が1名。従来のジャガイモをゲノム編集だと思って、芽を取り除かない危険があるので、シールを貼る必要がある。むしろ従来のジャガイモにしるしが必要ではないか。
(第3グループ)ファシリテーター 大阪府立大学 山口夕氏
ゲノム編集食品には表示をしてほしい。理由は安全性が気になるから。ゲノム編集技術を使うということは、作物の本来の姿でないわけだから表示してほしい。
加工食品になったときに気になるので、ゲノム編集については詳細に書いてほしい。ただ、副材料なら手間やコストを考えると、書かなくてもいいのではないか。
消費者に信頼される生産者ならば、表示を見る必要がなくなるだろう。信頼が大事なのではないか。研究者も信頼されることが大事。