第14回日本ジャーナリスト賞贈呈式行われる
2019年5月25日 日本プレスセンターホールで、第14回日本ジャーナリスト賞贈呈式(日本科学技術ジャーナリスト会議JASTJ主催)が行われました。最終選考に関わらせていただきましたので、報告いたします。ジャーナリストによる作品も受賞しましたが、はじめに柴田鉄治 JASTJ理事より開会の言葉があり、外部選考委員の講評をもって、賞がそれぞれ授与されました。最後に、白川英樹選考委員長による結びのことば総括がありました。今年の特徴は展示と映像が大賞を獲得したことで、ふたつの大賞のキーワードは「科学を文化に」であったと思います。
受賞作品と受賞者のことば
受賞作品は以下のとおりです。受賞者からは作品制作の背景や作者の思いが語られました。
大賞1 日本放送協会 津放送局
NHKスペシャル「見えないものが見える川―奇跡の清流 銚子川」
圧倒的に美しい映像で、透明度が高い銚子川(三重県)の汽水域に住む生物が四季を追って紹介され、生物の生態、川の構造などのサイエンスが柔らかなことばで語られた。
受賞者のことば
「すでに四万十川、仁淀川をNHKスペシャルで扱っている中で、銚子川の番組をつくるプレッシャーは大きかった。水中写真家 内山りゅう氏の『見えないものが見える川』ということばを頼りに、毎日、川に通い続け、懸命に生きる生物の姿に励まされた。町の宝『銚子川』とこの透明度を保つ循環が残っていることが奇跡であると伝えたかった」
大賞2 金沢工業大学 金沢工業大学建築学部 宮下智裕
「世界を変えた書物展」
金沢工業大学が所有している貴重で、科学の歴史に意味を残した初版本などが、子どもから大人まで楽しめるように展示された。
受賞者のことば
「150冊の科学の歴史上意味のある貴重な本を選んでもらい、空間デザイン(文系寄り)のメンバーで、科学者も一般市民、子どもふくむあらゆる人に満足してもらえるような展示を目指した。『叡智をめぐる旅』をコンセプトにして、智の蓄積も感じてもらいたい。巡回展は続けていく」
賞1 国立科学博物館副館長(兼)人類研究部長 篠田謙一
「江戸の骨は語るーよみがえった宣教師シドッチのDNA」
江戸屋敷で発掘された遺骨のDNAからミステリー小説を読むように、それが宣教師シドッチのものであることが、科学的に詳細に解明されていく。
受賞者のことば
「特別展をしたとき、DNAを使って歴史を紐解くことと、科学は文化であることを伝えたかった。ドイツからシドッチの肖像画が見つかったと連絡があり、見ると今回つくった複顔図似ていた。研究室スタッフに感謝」
賞2 駿台予備学校講師 山本義隆
「近代日本150年―科学技術総力戦体制の破綻」
明治維新からの150年を、科学技術を取り入れて富国強兵で立ち上がってきた75年と、福島第一原発事故に至る75年に分けて俯瞰し、科学を志す者が知っていなければいけない科学・技術の「影」が丁寧に語られた。
受賞者のことば
「科学は学者が研究する哲学、技術は市民の中から起こった職人技のようなもの。技術者は全体の目的を知らずに関わっていることが多い。社会の関連の中で技術の加速が止まらないとき、ジャーナリストは批判してください」
賞3 毎日新聞水戸支局件科学環境部記者 鳥井真平
「ハゲタカジャーナル」をめぐる報道
高い掲載料でレビューが曖昧なジャーナル(ハゲタカジャーナルと命名)が特定の出版社から出されている。しかし、そこに投稿して業績を上げる研究者もいる。このような実態を明らかにし、ハゲタカジャーナルに警鐘を鳴らす先駆けとなった。
受賞者のことば
「ハゲタカジャーナルの取材を早期から行った。問題があるジャーナルと業績を求められる研究者の関係が浮き彫りになってきた。研究者のリテラシーに一石を投じられたらうれしい。これからも追っていく」
一次選考通過作品から
授賞には至りませんでした、一次選考通過作品にも多くの力作が含まれていました。
なかでも印象に残っているのは、次の3つです。
「証言 BSE問題の真実」(唐木英明 著)
100名余のひとの証言を丁寧に紡いでBSEの発生や全頭検査にいたる経緯とその後が総括されています。
「軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い」(松本創 著)
BSEとは対照的にひとりの遺族を長い年月追うことで、事故の実態や原因・要因とその後の取り組みが淡々と語られています。両方とも、なかなか行われない総括を行うことで、次世代への学びを提示しています。
「フタバスズキリュウ もうひとつの物語」(佐藤たまき 著)
恐竜が大好きな少女が古生物学者なり、フタバスズキリュウの名付け親なる(学名記載)物語であり、研究者として成長していく姿が描かれています。