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  • バイオカフェin愛知県図書館「ゲノム編集で新しいタイ・フグを作る」

    2018年10月21日、愛知県図書館で同館と共催でバイオカフェを開きました。
    お話は、京都大学 農学研究科 助教 木下政人(きのした まさと)さんによる、「ゲノム編集で新しいタイ・フグを作る」でした。
    定員外の当日希望者も含め、参加者は32名。木下さんのわかりやすいお話により、ゲノムとは何か、そして新しい育種技術「ゲノム編集」について理解を深めることができました。

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    木下先生のお話
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    ファシリテーターは佐藤さん
    (コーディネーター養成研修会受講生)

    お話の主な内容

    1. 生きものとは何か

    ヒト・タイ・大腸菌は、いきもの(生物)である。増殖する・動く(動物)などの特徴を併せ持つ存在だ。30億年前に誕生した単細胞生物が起源になる。時間の経過に伴い、多くの生物が進化してきた。

    2-1. 遺伝子とゲノム

    生物の設計図が遺伝子である。DNAという物質でできており、A・T・G・Cの4種類の塩基からなる。音符により音楽が記載されるように、塩基のつながり方が遺伝子になる。生物が持つ遺伝子一式をゲノムという。野球ボール・グラブ・シューズ・バットなどを遺伝子とすると、野球道具一式を入れたバッグがゲノムに当たる。生物はそれぞれバッグに入った遺伝子のセットを持っていることになり、現在、約175万種の生物が存在する。生物進化の原動力が突然変異と自然選択である。

    2-2. 育種とは

    トウモロコシの原種とされるテオシントは粒数がごく少なく外観に大差がある。2000~4000年かけて人為的に改良されてきた。キャベツの仲間は芽キャベツ・カリフラワー・ブロッコリーなど多様な品種が存在する。総て同一の原種から派生したものである。これらを含め、スーパー店頭には見慣れた作物が並ぶ。ただし、ほとんど外国起源になる。日本原産の野菜はミツバくらいだろう。
    犬も同様で、サイズや外観・性格など多様である。これらは、自然突然変異と人為選択により 作製された。これを育種という。

    2-3. ゲノムはいつ変わる

    放射線・紫外線・一部の化学物質などにより、ゲノムDNAに傷がつくことがある。多くは正常に修復されるが、まれにミスが生じる。これが自然突然変異である。自然突然変異を育種に活用する場合、前述のトウモロコシのように長い時間を要することが欠点だ。突然変異は放射線などを活用して、人為的に起こすことができる。ただし、変異の方向は定まっていない。望ましい設計が困難ということも大きな欠点である。

    2-4. 品種を作る新しい技術

    上記を踏まえ、品種作成の新技術「ゲノム編集」が登場する。狙った遺伝子をピンポイントで破壊(ノックアウト)できる。いくつかのツールがあるが、よく使われるのが「CRISPR/Cas9」である。細菌類に備わる免疫システムに由来する。Cas9はDNAを切断するハサミであり、18個のDNAが付属する。付属DNAは目的遺伝子のDNAと相補結合する塩基配列になっている。これを細胞内に入れると、目的遺伝子と結合し、Cas9が結合部DNAを切断する。切断されたDNAは修復されるが、一部でミスが発生し、複数の塩基が脱落することもある。するとフレームシフト変異(3つずつ塩基を読んでいく読み枠がずれる)が起こり、遺伝子は働かなくなる、つまり破壊される。なお、ゲノム編集で遺伝子を導入することもできるが、木下さんの研究は外来遺伝子を挿入しない、遺伝子破壊に限定している。
    本技術の活用例として、マダイのミオスタチン遺伝子破壊を説明する。ベルギアン・ブルーなどの肉用牛は、筋肉モリモリのマッチョな牛で、ミオスタチン遺伝子が機能しないことにより自然突然変異で生じた品種だ。ミオスタチンは筋肉細胞の増殖を制御する遺伝子である。
    この知見を基にして、マダイのミオスタチン破壊を試みた。受精卵を一列に並べ、ガラスの針でCRISPR/Cas9を注射する。10%程度の確率で魚肉量が増えたマダイを得ることができた。これらを従来のマダイと比較した。RNA発現(トランスクリプトーム)では、差異があったが想定内であり、タンパク質発現(メタボノーム)では区別がつかなかった。

    3. 似ているが違う

    遺伝子組換え作物について、改めて確認しよう。現在、ダイズなどで遺伝子組換え作物が海外の広範囲で栽培されている。除草剤は植物のある酵素を阻害して枯死させる。耐性ダイズは細菌由来の同等酵素を導入してある。同じ働きだが、除草剤による阻害を受けない。従って、雑草だけが排除される。遺伝子組換えは新規機能(遺伝子)が導入されており、ゲノム内の位置も不明なことが多い。そのことも原因のひとつであるかもしれないが、社会的受容に難儀している。
    これを参考にして、ゲノム編集の受容に努力したい。ゲノム編集は目的遺伝子が明確である。比較すべきは従来の突然変異と人為選抜による育種である。通常、30年程度必要である。ゲノム編集ははるかに短時間で対応できる。魚肉増のマダイは4年で実現できた。育種した生物だけを観ると、両者は区別できない。
    育種したマダイの養殖管理は自然界に影響のないように配慮している。トラフグも同様の手法で、魚体の大型化に成功した。今後、陸上の隔離条件により、これらの養殖を推進したい。加工までを行う6次産業化により、地域創生や雇用確保につなげられる。安全性確認は個々の条件による。
    ゲノム編集の情報伝達のありかたについて、努力してきた。情報を的確に伝達することで社会の許容比率が高まる。この催しもその一環といえ、今後も継続したい。

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    会場風景1
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    会場風景2

    話し合い

    • は参加者の質問、 → はスピーカーの応答
    • ゲノムがどの程度変わると、別種となるのか。
      →ヒトとチンパンジーのゲノム差異は2%程度という。一概に何%ということはできない。
    • 細菌の遺伝子を入れる意味が分からない。
      →除草剤はダイズを含む植物中のある酵素を阻害する。細菌の酵素は同じ働きをするが、構造は異なるので、除草剤によって阻害されず、植物体は枯れない。
    • 魚体が大きくなるのは、筋肉量(細胞数)または細胞サイズのどちらによるのか。
      →筋肉量が増え、また、個々の細胞サイズも大きくなる。
    • ゲノムのDNA量に制限はあるのか。
      →上限を具体的に示すことはできない。脊椎動物のドジョウでは4倍体もあり、DNA量が非常に増えている知見がある。
    • 遺伝子は必要な働きのため存在する。同じ働きの遺伝子がいくつも存在すると具合が悪くなることはないか。
      →新規遺伝子を導入すると、バランスが崩れ弱くなることがある。
    • 作成したマダイを魚体が大きくなる3倍体魚と比較すると、利点があるか。
      →3倍体魚の作成は毎回行う必要があり、量産に手間がかかる。ゲノム編集は1度作成すれば、通常の繁殖方法で次世代を作成できる利点がある。
    • 雑種強勢という手法と比較して、利点はあるか。
      →植物では雑種強勢を利用したF1種子が多く利用されている。利用者に利点があるが、種子メーカーの利点はそれ以上である。F1個体から種子を採っても特徴は伝わらない。
    • 飼料の栄養や養殖方法の工夫が必要ではないか。
      →同感である。明石タイや関サバは潮の流れが速い環境がおいしい魚体作成の源になっている。
    • フグの場合、養殖方法により無毒化できると聞いたことがある。
      →フグ毒のテトロドトキシンはプランクトンが生産する。これを食した小魚などを経由してフグは有毒化する。フグは本毒素を含む食材を好んで摂取する。養殖方法により、フグ毒を持たないトラフグを作ることは可能。
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