ifia2018リスコミセッション開催
2018年5月18日、国際食品素材/添加物展・会議(ifia)でリスクコミュニケーションセッションを行いました。2017年度、消費者庁で遺伝子組換え食品の表示の検討が行われ、これから検出法の検討などが始まることから、表示の一元化検討から関わってこられた消費生活コンサルタント 森田満樹さんと、遺伝子組換え食品表示検討会委員を務められた名古屋大学教授 立川雅司さんをお招きしました。
(本レポートには、ifia2018終了後の最新情報を加えてあります)
立川雅司さん
森田満樹さん
「気になる食品表示制度改正のポイント~遺伝子組換え表示と添加物表示の今後」
消費生活コンサルタント 森田満樹さん
はじめに
2015年、食品表示法ができた。2017年9月には新しい原料原産地表示が施行され、2018年3月遺伝子組換え表示の検討がそれぞれ終わった。今後は食品添加物の表示の見直しが行われることが決まっている。
2015年の新食品表示法施行に伴う栄養表示の義務化は、2020年まで経過措置となっている。この後、2022年3月までが新原料原産表示が移行措置期間となっている。。遺伝子組換え表示の今後のスケジュールはまだ示されていない。事業者にとって表示の改版は大変だが、消費者にはあまり伝わっておらず、せっかくの新表示が活用されない懸念もある。
消費者庁等のアンケートによると、遺伝子組換え食品への若い人が抱くイメージは悪くないが、年代を経るほどネガティブな人が多い。またネガティブな印象を抱く一番の理由は、「遺伝子組換えでない」という表示あるから遺伝子組換えは悪いものだろうと思うというもの。表示は消費者の食品選択に影響を与えている。添加物など、義務対象外のものにまで組換えの表示をしているメーカーもある。
現行の表示制度
2001年に今の遺伝子組換え食品の表示制度がスタートした。遺伝子組換え食品の輸入が開始されたのは1996年なのでつまり、表示義務化の前に日本には遺伝子組換え輸入物がきてしまった。今回の見直しは20年ぶり。現行の制度は、
- (1)
- 義務表示:豆腐、納豆など、分析すると遺伝子組換えに関わるタンパク質やDNAが残っている33食品群。味噌、納豆、スナック菓子に「遺伝子組換えでない」表示を見ることが多いのは分別流通管理(IPハンドリング)された原料が使われているから。
- (2)
- 任意表示:食用油、醤油、食品添加物など
実際には「遺伝子組換えでない」表示ばかりで遺伝子組換えでないものだけを食べていると誤解している人も多い。
1999年の懇談会の議事録をみると、消費者団体は「閾値5%は緩い。全食品に表示してほしい」と主張している。結論として、リスクコミュニケーションが大事で、見直しが必要とされているが、実際は10数年間、リスクコミュニケーションがほとんど行われなかった。なお当時、議長がこの決め方は消費者も事業者も不満な結論だと述べている。
2017年度の表示見直し
消費者庁で遺伝子組換え食品表示制度に関する検討会が開催された。すべての加工食品に表示を求める消費者団体の声も聞かれた。現状では「遺伝子組換えでない」表示ばかりで消費者にとって、表示は選択のための表示になっていない。一方、科学者は科学的根拠に基づく表示が重要だといっており、それぞれの意見は異なっていた。実際に義務表示対象品目における表示はほとんど見たことがない。組換えでないと書かなくてもいいと思っても、同業者が書くので後から書く事業者が増えたからだ。
生協、イオンは自主ルールを決めて不分別と書いている。
意図しない混入に対して日本では、閾値は5%以下とされ現行制度では「使ってない」と書くときは5%以下でなければならない。
海外の状況
プロセスかプロダクトかについては、日本、韓国、ニュージーランドとオーストラリアは最終製品で確認できるプロダクトベース、EUは技術を使ったどうかのプロセスベース。
意図せざる混入の閾値は日本5%、EU0.9%、韓国3%、ニュージーランドとオーストラリアは1%。
対象は、日本8農産物33加工品、EU遺伝子組換え原料を含むものと使ったものすべて、韓国6農産物27食品、ニュージーランドとオーストラリア導入されたDNAが残る農産物と加工品すべてとしている。
ノンGM表示の基準は日本5%、フランスとドイツ0.1%未満、韓国0%、オーストラリアとニュージーランド実質0%。
など、異なっている。日本の閾値の5%以下は他国と比較してもは大きい。
アメリカの状況
2016年、遺伝子組換え食品の情報開示の法律が成立した。2018年中にパブコメを受けて基準が示され、2020年から施行の予定。油を対象とするかどうかは未定。
USDAがbioengineeredのラベル案を提案し、投票する方向。情報開示だからラベルでなくても、シンボルマークでも、QRコードでもよい。遺伝子組換え(GM)という表現をやめる。
消費者庁の検討会の論点
- 義務表示対象範囲について、科学的検証が不可能な食用油、しょう油は表示対象か→表示の対象外となった
- 意図しない混入による表示の閾値5%→変えない
- 「不分別」表示はわかりにくい→不分別表示は変わらない。
論点を分けて議論されたが、結局のところ「遺伝子組換えでない」という任意表示について、今後は厳格化されて不検出とすることにした。。大事なことは消費者に誤認させないことだが、そうなると、カナダやアメリカなどのGM栽培国からくる分別管理をしたダイズでは、どうしても混入してしまうため「遺伝子組換えでない」とは書けなくなるだろう。なお、不使用の場合の表示は任意だから「遺伝子組換えでない」表示をやめるという選択肢もある。一方で分別管理をしていてこれまで「遺伝子組換えでない」と表示してきた場合に、代わりの表示をどうするのか、一括表示の枠外に書くのか。消費者庁では不検出の場合の表示の仕方はきまっていない。「95%以上は組換えでない」などは書けるかもしれないがそこも明らかになっていない。
まとめ
今後、検討することは遺伝子組換え原料の含有率が不検出‐5%のときの具体的な表示方法について。これは企業の判断になるだろう。一方、最終製品の検査で違反かどうかが決まるので、サンプリング方法、検査方法もこれから十分に検討されなければならない。
現在食品表示制度は、初めに述べたように移行期にある。表示の目的は、安全のためと選択のための主にふたつ。重要なことは、表示は消費者を誤認させるものであってはならないということ。
消費者団体の主張は、知る権利のために表示することで、わかりやすい表示であることも重ねて求めている。義務表示の対象拡大を求めるのは、企業の情報開示につながることが期待されるから求めるものである。一方、表示してほしい内容は増えていっており、複雑になっていく。
一元化検討会でよく議論した結果、ポイントは消費者ニーズ、実現可能性、コストという結論に到達した。今後、この三点に基づいた議論が必要だと思う。
立ち見でいっぱいセッション会場1
熱心にメモをとる参加者
「知っておきたい海外の遺伝子組換え食品関連の規制」
名古屋大学大学院環境学研究科 教授 立川雅司さん
はじめに
遺伝子組換え食品に関する規制は日本と海外で、別々の法制度のうえにあり、考え方が違っている。日本では食品、環境、飼料の安全性の視点で評価してきた。今、話題になっているゲノム編集技術もこの枠組をふまえて検討されることになる。
日本では、遺伝子組換え作物・食品における「食品の安全性」は、食品安全委員会と厚労省が行っている。全くチェックされていないと思っている人もいるが、必要に応じて動物実験も行い、厳しくチェックしている。環境安全性はカルタヘナ法に基づき、環境省と農林水産省が、競合の優位性、有害物質産生、交雑による置換の三つのチェックポイントで調べている。消費者の組換え食品への懸念はそんなに大きくなく、食品安全委員会の食品の不安要因のアンケートで遺伝子組換え食品の順位は下の方になっている。
海外の規制
(1) アメリカ
農務省(USDA)は植物病害虫を担当しており、遺伝子組換え作物が植物に害を与えないかをみている。日本と全く違う考え方で、世界的にもユニーク。
環境省(EPA)は農薬を担当しているので、遺伝子組換え植物体内に農薬成分がないかをみている。
医薬品食品局(FDA)は遺伝子組換え食品に対して規制の権限はない。企業からの自主的な相談をうける役割を果たしている。企業は裁判対策のためにFDAでコンサルを受ける。
環境影響評価は、すべての省庁が行う。
アメリカは遺伝子組換え食品向けの新法をひとつも策定していない。政治家が介入して厳しい規制にならないように、現行法をもとに法改正をして対応してきた。いわば、つぎはぎの法律になっており、全体的な見直しが必要という声もあがっている。
すべての省庁で環境影響評価をするといっても、例えば花ならUSDAだけが規制する。
遺伝子組換え作物と遺伝子組換え動物の規制を項目ごとに比較すると、対称性がない。遺伝子組換え作物は表示不要だが、動物医薬品の規制のもと遺伝子組換え太平洋サケが認可され、表示が必要になった。実際にはサケの水槽に表示するのだろうか。作物ではパブリックコメントを求めるが、動物は最終的な許可まで非公開で透明性が低い。
科学的根拠としては、科学アカデミーで2016年、遺伝子組換えに対して体系的レビューをおこなっている。そこでは、遺伝子組換え作物を食べた動物に悪影響はでていない。人へのアレルギーについて、マイナスのエビデンスなしと結論した。
(2) 欧州
輸入・加工の認可と栽培の認可に分かれている。輸入・加工認可はあるが、栽培認可は1~2件しかされていない。認可の期限10年。意図しない混入の閾値は0.9%。全重量の割合でなく、原材料ごとの0.9%だから、非常に厳しい。
科学的な安全性審査はEUの認可のプロセスに従っているが、栽培許可は加盟国それぞれでみている。
また、EUは一枚岩ではない。例えば、欧州食品安全機関(EFSA)がEUに提出したGM関連のレポートについて賛成かどうかを各国に聞いたところ、オーストリア、ルクセンブルグ、ギリシャ、キプロスは絶対反対。一方、スウェーデン、オランダ、イギリス、フィンランドはほとんど反対しないというように意見は分かれている。
(3)カナダ
カナダは新しい特性を持つ植物(Plant with Novel Trait: PNT)をすべて規制対象とする。PNTとはカナダでこれまでに栽培されたことがない植物か、環境に著しく悪影響を及ぼす可能性がある植物を意味する。完全なプロダクトベース。
ゲノム編集技術は規制されるのか
ゲノム編集技術は、植物、昆虫、動物、魚のあらゆるものが対象になる。特徴は狙ったとおりにDNAを改変できることで、育種期間が短くなる。遺伝子組換え作物と同様の規制を受けないと判断されたら、種苗会社は使いたいと思っている。
現在、国ごとで対応が違っている。遺伝子組換え技術と同じようにプロセス(用いた技術に着目して)ベースで考えようとしているのが、ニュージーランド、中国。検討の状況も国によって異なる。アルゼンチン、チリ、ブラジルは国として方針を決める方向で動いている。
EUの法的解釈文書の公表が遅れているが、ドイツ、スウェーデンはGM規制対象外と判断している。ドイツ、フランスはゲノム編集作物を栽培中。
IFOAM(有機農業の団体)は2016年、ゲノム編集技術を遺伝子組換え技術と定義する見解を公表した。
フランスが裁判の判断を欧州司法裁判所に預け、2018年前半に欧州司法裁判所で判決がでそう。1月、欧州司法裁判所の法務官が私見を述べている(報告者注:2018年7月25日に欧州司法裁判所が裁定を出し、ゲノム編集由来の生物をGMOとして規制対象であると判断しました)。
EUは規制しない方向だが、国ごとに判断を任されると、国ごとで厳しい規制に走る可能性がある。
アメリカは、バイテク規制の見直しをしている。CRISPR/Cas9を使ったマッシュルームをGMでないと判断している。全米科学アカデミー、USDAなどいろいろな場所で検討が進んでいる。
カナダは、従来の規制方針で対応できるとし、CRISPR/Cas9を使った植物がPNTにあたるとカナダ食品検査庁から見解が示された。
オーストラリアは、遺伝子規制官事務局がメリット、デメリットをあげて規制のオプションを提示した。規制見直しがあるとみられる。
ニュージーランドは、2016年、ゲノム編集を用いた生物は規制対象とすることが明確になった。
アルゼンチンは外来遺伝子が認められたら、遺伝子組換えとして扱う。外来遺伝子の存在がポイントになる(2015年)。チリは2017年よりGM規制から除外するとし、ブラジルも同様の方針を決めた。
課題
日本は未だ決まっていないが、ゲノム編集を用いた生物や食品に関する規制、その方向性だけでも早く決めた方がいい(報告者注:2018年10月現在、環境省と厚生労働省で検討が進められています)。
ゲノム編集は今後、いろいろな技術をつくりだしていく。ジーンドライブといって農薬を利用するよりも効果的に害虫を抑制できる方法もでてくるだろう。ゲノム情報を用いたいろいろな技術を早い段階で把握する(ホライゾンスキャニング)ことも重要。
ゲノム編集は大量破壊兵器への応用や、DIYのように自分で安価な作物などの創出も可能にするかもしれない。
質疑応答
- は参加者、 → はスピーカーの発言
- 中国の表示は?
→中国は閾値なし。対象品目リストがある。トレーサビリティなし。 - 中国の食品は非組換えといえるでしょうか
→中国産品の検査がどのくらい徹底されているか。省政府のモニタリングがどのようになっているかがわからない。 - ゲノム編集マッシュルームは出回るのか
→これまで得た情報では、マッシュルームは実用化されないようだ。