バイオカフェ in 愛知県図書館 第二部「新しい花のつくり方 ―花の種苗会社のお仕事―」
2018年3月17日(土)愛知県図書館でバイオカフェを開催しました。
会場となった愛知県図書館のエントランスのスペースはリニューアルしたばかりで、最初のイベントがこのバイオカフェでした。二部構成で行い、第一部は筑波大学の江面浩さんにトマトの育種のお話を、第二部は福花園種苗株式会社 主任の北川雄貴さんに「新しい花のつくり方 ―花の種苗会社のお仕事―」と題してお話いただきました。北川さんはきれいな花々の写真が掲載された花のカタログを参加者のみなさんに配布してくださり、それを見ながらのお花の育種の話を聞きました。
北川雄貴さん
会場風景
主なお話の内容
福花園の歴史と日本の花き市場
福花園は名古屋市内にある花中心の種苗会社で、昨年で創業100年を迎えた。私自身は、普段はホームセンターやガーデンセンター等に種子や苗を卸す営業の仕事をしている。
大正6年に創業した福花園は今の社長で3代目だが、先々代は生け花師匠をしていた。戦時中の食料難の時代、この時代を乗り切れば、これからは花が売れると思い、事業を始めた。戦時中は花を栽培するだけで罰せられた時期もあり、そういった時には隠れて種子を生産していたと聞いている。
海外への輸出も早い時期から始めており、1930年ごろには牡丹、テッポウユリなど、ヨーロッパを中心にできるだけの量を出荷していた。1950年代に入ってからは、日本から輸出した品種が親となって海外で新品種が作られ、カサブランカやコンカドールなど有名なユリの品種も作られている。現在、日本で輸出量よりも輸入量のほうがはるかに上回っている。
輸入されてくる種苗
花のタネや苗も海外から輸入され、国内生産者が栽培、切花として流通しているものがある。花の種類ごとに、いくつか事例を紹介する。
・アルストロメリア
1982年ごろから本格的に苗が輸入されてきた花。花きの育種や生産が盛んなオランダの大手種苗会社から苗を輸入し、全国の生産者に販売している。品種改良も福花園とオランダの企業と共同で行っている。
アルストロメリアは涼しい気候を好む花。低温を感応することで花芽を形成するので、冬に低温に感応し、春しか出荷できなかった。そこで、栽培時にビニールハウスの畝の下にパイプを通して冷水を通して地中の温度を冷やすなど、春以外の季節にも出荷できるような工夫をしている。
最近の品種ではブライズメイドと言って、花が開くにつれて色が濃い目のピンク色から淡いピンク色に変化するものを作った。花持ちがよく、一般家庭でも1ヵ月半ほど保つ。また、花粉が無いので花びらが汚れずに、きれいに保つことができる品種。この品種はオランダの企業と共同開発したもの。ちなみに、オランダを始め海外でははっきりとした花色を好み、日本人は比較的淡い色を好む傾向にあるのだが、こういった嗜好傾向の違いに対する理解がなかなか得られないことがあり、早い段階からしっかりとコミュニケーションを取って、こちらの要望を伝えないと開発がうまく行かないことがある。
今後、アルストロメリアの品種改良は八重咲の開発が進んでいく傾向にある。その他、純白の花色や暑さに強い品種などの開発が進められている。
・ユリ
ユリも八重咲の品種改良が進んでいる。見た目が豪華になり、今後は今以上にブライダルでも利用される花になると思う。ユリも日本人の嗜好にあったものをオランダの企業の育種圃場で選び、それを増やして日本に輸出、さらに日本の気候などに合ったものを選んで生産者に販売している。
国内で品種改良している花々
・トルコギキョウ
20年前から品種改良を始め、福紫盃という紫色の品種を世界で初めて販売した。この品種を親にして品種改良をはじめた。当初は固定種といって種を播いて苗を育てて良い形質をもつ株を選んで種を採る、このサイクルを繰り返して形質を固定させてから販売していた。
最近では発売するトルコギキョウはほとんどF1品種になっている。F1品種のメリットとしては雑種強勢のため生育が固定種に比べて旺盛な点や生育や形質のそろいも向上する点などがある。
現在は八重咲品種が中心で、最近は大輪でフリルの入る豪華な雰囲気の品種が花屋でとても高く評価されている。
・アスター
アスターは花の形で大きく「くれない」「ぽんぽん咲」「小輪系」の3つに分けることができる。これらの特徴をあわせもつ品種を作ることができないかと考え、できたのが「ココット系」。アスターは仏花のイメージが強かったのだが、ぽんぽん咲きと小輪系を掛け合わせ、華やかな花になったことで、“アスター=仏花”のイメージを変えることができた。
ココット系の特徴としては花の外側が舌状花で中心部分も筒状花(花びらが筒状になっている)となっており、中心の筒状花も開いていくため、鑑賞期間が長い。
・千鳥草 ラークスパーシリーズ
一重咲と八重咲を掛け合わせた品種をバースデーという品種名で販売している。これは私たちが初めて作った花の形で、周囲の花弁は一重に、中心部分は八重咲のように見える。白、ピンク、赤、紫の他、今後は青系の品種が発売される予定になっている。
・ビオラ ラビットシリーズ
ビオラは他社含めて品種がとても多く、特徴を出すため差別化をする必要がある。ラビットシリーズは、上部2枚の花びらが細長くてウサギの耳のような形に見えるのでその名前がついた。広い圃場で花色や大きさだけでなく株の生育スピード、秋や冬の開花性、春の株疲れ、降雨後の花の状態など複数の評価項目を他のビオラの品種と比較し、良ければ新品種として販売できる。
・コツラ バルバータ(花ほたる)
黄色いぽんぽんした花がかわいらしく、花ほたる呼ばれており、花壇にもよく植えられている。成長してくると株全体が広がってしまい、見た目がすっきりしなくなる傾向にあるので、系統選抜を行い、成長しても株が広がらずにコンパクトに株がまとまるものを育成した。
栄養繁殖で種苗を増やす花
・スターチス
スターチスは栄養繁殖で増殖することができる。栄養繁殖とは良い形質を持った個体の一部を取り出し、その部分を増殖することで同一の形質を持った個体を増やす方法である。
種子系の品種改良は良い形質を持つ個体を選び、その個体から種を採り播く。またその中から良い形質を選ぶという作業をすべてが同一の形質を持つようになるまで繰り返すので、膨大な手間と時間がかかる。
それに対して栄養繁殖は種子を播いてよい形質を持った個体が1つできればそこから同一の形質をもった個体を多量に増やすことができる為短期間で品種を作ることができる。その反面、増殖段階で奇形が発生したり増えにくい個体があったりなど種子系にない問題もあり、これらの点も品種を選ぶ際には考慮にいれる必要がある。
昔は品種数も少なく同一品種を全国で栽培していたが、近年は栽培地の気候に合わせて、暖地や高冷地向け品種をそれぞれ販売している。それぞれの産地のニーズや問題点を品種開発に反映させることにより、満足度の高い品種を提案できるようにしている。
・宿根アサガオ
バラやアサガオなどは枝変わりや突然変異などで新しい性質の花が得られることがある。しかし、宿根朝顔は性質が安定していて、枝変わりなどで新しい性質の個体が得られ難い。宿根アサガオにケープタウンブルーという品種があるがほとんど枝変わりもないし、種も取れないのでこれまでは品種改良できなかった。そこで国の機関と共同研究しアサガオに放射線を当てることにより人為的に枝変わりを起こさせることに成功し通常の花色より薄いケープタウンスカイブルーという品種が出来た。花色以外は形質が変わらないためケープタウンブルーとケープタウンスカイブルーを植えると生育スピードや花時期は同じで青と水色のコントラストが楽しめると評価が高い。
育種された品種の普及や販売
できた新品種はカタログに掲載される前に、提携生産者のもとでテスト栽培し、これまでの品種との差を確認する。その後、カタログに掲載するほか、地域の農協や生産者を訪問して品種を説明して販売する。また花きの市場や小売り店向けにパンフレットを作ったり展示会などで展示したりして新品種の普及を図っている。
花の苗や種は一般生産者、提携生産者、自社農場などを経て店頭に並ぶ。
一般生産者へ販売する場合、苗の価格は種苗会社で決めるわけではなく、オークション形式で販売している。これは野菜などと異なる点で、花の苗は価格が比較的高くなることはなく、変動も大きい。また、競合も多いので他社と差別化するために品種改良の役割は大きい。
提携生産者へ販売する場合は、市場を通さずに直接小売りで販売するので、苗の価格も安定する。珍しい品種などは自社農場で栽培する場合もある。
市場外、一般消費者への流通にも様々な工夫をしている。各花や品種シリーズのブランディング、ラベルやポップなどの販促物、栽培地域特有のブランドとして販売する、など。今までない品種は市場を通さずに販売することもある。
種子の製造については、自社農場には種子採種専用の圃場がある。そこで採種した種子は20畳ぐらいの広さで温度(15~20℃)や湿度を一定に保てる大きな冷蔵庫に保管する。販売する前には発芽率の確認をし、問題がなければ袋に詰めて商品とする。
スピーカーの推薦図書
花のカタログ
質疑応答
- は参加者の質問、 → は回答
- 切花や鉢植えなどの消費は伸び悩んでいるとの話を聞いたことがあるが?
→花に興味のない人は、身の回りにあってもその存在に気付かない。海外には何かの際には花を贈る習慣があるが、日本にはない。バレンタインデー等々でも花を贈ろうというプロモーションをするが、なかなか消費増にインパクトが現れない。ぜひ、みなさんにも花を贈ったり、飾ったりして欲しい。 - 切花で花持ちが良すぎると消費自体は減ってしまうのでは?
→その点はバランスをとっている。ただし、近年は花の市場も小さくなってきている。一時期ガーデニングがブームになったが、それでも回復はしていない。切花でも鉢植え・地植えでも多くの人に花を楽しんで欲しい。 - スターチスなど交配する際に花が小さいので大変なのでは?
→スターチスの育種の専門家がいて、彼らががんばって交配などしている。それぞれの花に対する育種の専門家がいる。 - そのような育種の専門家の人材育成はどうしているの?どういった人が育種の専門家になるの?
→大学の農学部卒の人が多い。ただし、入社してからどの花の担当になるか決まるので、担当が決まったらその後は経験をつみながら勉強していく。