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  • コンシューマーズカフェ「意外と知らない「学校給食」の真相」

    2018年1月23日、くすりの適正使用協議会の会議室にて、第23回コンシューマーズカフェを開催しました。今回は学校給食をテーマに、給食や食育に関連する情報を集めた、栄養士のコミュニティサイト「給食ひろば(http://www.kyushoku.jp/)」の運営をされている、株式会社菜友の吉田達也さんに「意外と知らない「学校給食」の真相」と題してお話いただきました。


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    スピーカーの吉田達也さん
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    会場風景

    主な内容

    学校給食のはじまり
    日本で学校給食が始まったのは明治22年、今の山形県鶴岡市の忠愛尋常小学校。大督寺という寺に、近所の貧しい子達が50名ほど集まった、屋のようなところだった。大督寺が火事にあった際に燃えてしまい、当時の資料は残っていない。鶴岡市が大督寺近隣の住民にヒアリングを行い、当時の状況を調査している。それによると、給食が始まった当時はおにぎり2個、焼き魚、青菜のつけもの、という献立であった。明日1月24日から始まる全国学校給食週間のメニューとして、これを模した献立が登場する学校もある。ただし、会津の日新館が日本の学校給食の始まりという記録もあるようだ。

    ララ物資
    戦後、日本の学校給食は米国からのララ(LARA ; Licensed Agencies for Relief in Asia:アジア救援公認団体)物資の支援によって始まった。第二次世界大戦直後、日本への救助物資がアメリカ国内の団体を中心に集められた。しかし、当時はまだ、日本は敵国の立場であり、米国内での慈善事業の対象国とはなっていなかったため、日本に救援物資を送ることに対して否定的な意見も少なくなかった。そこで、新しい団体を米国内で立ち上げ、そこに一度集めた後に日本政府に送られた救助物資がララ物資だった。物資として生きたヤギ、脱脂粉乳なども送られており、これらの物資は学校給食にも利用されることになっていた。1946年11月30日横浜に到着、12月には戦後の学校給食の方針が定まり、12月24日に東京、神奈川、千葉の学校で試験的に始まった。そして翌年からは全国都市の児童に対して学校給食が始まった。日本政府はララに感謝の意を表し、現在も横浜新埠頭には記念碑がある。
    実はこの12月24日を学校給食の記念日にしようという話もあったが、学校は冬休み期間中であるため、1ヶ月ずらして1月24日から1週間が学校給食週間となっている。
    戦後、日本政府はGHQから学校給食の開始を提案されたことがあったが、予算や食料、人手が不十分であったために一度断った経緯がある。戦後初めての学校給食はシチューが提供された記録が、当時の新聞だけでなく、GHQの文書としても残され、現在も閲覧することができる。学校給食は有償、各家庭が費用負担していたが、貧しくて給食費を払えない家庭に対しては政府が補助する方針をとった。日本政府は最初、無償化するつもりだったが、GHQからの指摘で日本人の自立性を保つために有償化すべきとの意見があってのことだった。ちなみに、学校給食の歴史館が北本市の埼玉県学校給食会の敷地内にある。おそらく世界で唯一の学校給食に関する歴史館であり、多くの人に訪れてもらいたい。

    学校給食の目標
    日本において、学校給食は学校教育の一環として位置づけられている。そのため、食に関わることではあるが、文部科学省の範疇になっている。
    学校給食法には、学校給食の目標が7つ挙げられている。その内容は健康の保持増進、望ましい食習慣を養う、社交性および協同の精神を養う、生命及び自然を尊重する精神と環境保全への寄与、勤労を重んずる態度を養う、伝統的食文化の理解を深める、食料の生産・流通・消費を正しく理解すること。
    小・中学校の学校給食は義務教育なのになぜ有償なのか?という疑問を持つ人がいる。学校給食法上は、学校給食は義務ではなく努力義務となっている。そのため、経費負担は設置者である地方自治体の負担であり、自治体で負担しない場合は児童生徒の保護者の負担であるとされている。ただし、憲法上、義務教育は無償とされているので、どちらが正しいのか、という話になる。
    同様に、教科書は無償か否かの議論があり、それについては判例がある。教科書の費用負担については立法政策の問題であり、憲法の問題ではないとされたため、法律で教科書は無償化された。
    では学校給食についてはどうか。実は学校給食についても判例があり、保護者負担は憲法に違反せず、立法政策の問題であるとの判断だった。結果、給食費は保護者の負担とすると学校給食法で決められた。
    ただし、実際には現時点で全国88か所の自治体で学校給食を無償化しており、その数は少しずつ増えている。特に少子化、過疎化が進んでいる地域が施策として無償化していることが多い。

    給食費
    給食費は、全国平均で小学校では約250円/食、中学校で約290円/食。規定によって、給食費は材料費が中心。関連する人件費や施設のメンテナンス等は自治体が負担している。ただし、給食費は自治体によって値段が異なる。県単位でみると、一番安いのは沖縄県、逆に一番高いのは新潟県となっている。地域によって通学日数が異なることから、給食の回数も地域によって異なっている。給食の回数は長野県が一番多く、岩手県が一番少ない。
    ある自治体の給食費の内訳をみると、ご飯やパンなどの主食が約52円、牛乳で約52円、残りの金額でおかずやデザートを準備する。ところが、ここ数年は主食や牛乳の価格が上昇しており、そのままではおかずにかける金額が少なくなってしまう。現場の担当者の努力によるコスト削減も限界があり、給食費の値上げが提案された。このような状況から、現在、多くの自治体で給食費値上げが行われている。

    献立
    学校給食の献立を作る際には、文部科学省が定めた学校給食摂取基準を目安にして、1ヶ月単位で作る。この学校給食摂取基準は、厚生労働省が定めている日本人の食事摂取基準を基に、文部科学省が算出している。年齢によって摂取量も違うため、例えばパンは学年によってサイズを変えるなどして調整している。標準食品構成として使用する素材にもガイドラインがあり、これも1ヶ月の献立の中でバランスを取るように工夫されている。
    献立を作る際にはこの他にも、“そのメニューで何を児童生徒に教えるのか”という狙いを明確にする、各教科における食に関する指導内容と意図的に関連させる、地場産の食材を使う、メニュー名は食品名を明確にする(例えば○○のきまぐれサラダ、というメニュー名は付けられない)など、ルールが決められている。これらの基準やルールを守りながら、栄養士は毎月の献立を作っている。
    学校給食衛生管理基準の食の選定の中に、過度に加工した食品、有害な食品などは避けることと明記されている。その中には、不必要な食品添加物が添加された食品は使用されていないこと、とも書かれている。食品添加物が悪いとは書いていないものの、学校や給食センター等によっては“手作り”や“丁寧に出汁からとっている”などをセールスポイントにしている事例もある。
    塩分については、学校給食の献立を立てる際の塩分摂取量が学校給食摂取基準で基準値が決められているが、厚生労働省の食事摂取基準と比べると多くなっている。新しい厚生労働省の基準に合わせて下げられる予定だが、子どもたちは濃い目の味付けのほうが食が進む傾向にあるため、塩分を下げて薄味にすると食べ残しが増えるのではないかという懸念がもたれている。また、現場の栄養士たちが塩分を下げ、子どもたちの食べ残しが増えないような給食の献立やレシピを考えなくてはいけなくなり、負担が増えるのではないかという懸念もある。
    ちなみに、児童生徒の1年間の食事の17%を給食が占めており、それを栄養士たちが担っている。

    食育と学校給食
    第3次食育推進基本計画が平成28年度から始まっている。重点課題が5つ挙げられており、多様なくらしへの対応、食の循環や環境への意識、食文化の継承などが追加されている。これに対して文部科学省は、学校給食に対して中学校での実施率を90%以上にすること、地場産物の使用率を30%以上に、国産食材の使用率を80%以上に、そして朝食の欠食をゼロに、の4点でコミットするとしている。
    中学校での学校給食実施率を90%以上にすることに関しては、全国での実施率は達成はしている。しかし、地域によって差があり、都道府県単位で見ると神奈川県の実施率が他の都道府県と比べて非常に低い。これは、学校数、生徒数が集中している横浜市が給食を実施していないことが影響している。
    地場産物、国産食材の使用率それぞれ25%、75%から増加していない。これらの使用率は農産物の生産量に左右され、天候不順になると下がることもある。また、調理場の規模で異なることがあり、給食センターのような共同調理場のほうがまとまった量の材料を発注するために調達上のメリットがでてくる。学校単位での単独調理場では、逆に小規模のほうが調達上は有利なこともある。
    朝食の欠食はについて、平成22年以降、欠食率は高くなっており、平成29年度は4.6%となっている。各家庭で取る朝食の欠食に、学校がどう介入していくのか、難しいのではないかと考えている。朝食欠食は教育というよりも社会の問題であり、本来は文部科学省が対応する問題ではないのではないか、学校の栄養教諭は児童生徒の家庭に踏み込むことはできず、どちらかといえば民生委員の活動範囲であろうという指摘もある。

    完食指導と食品ロス
    環境省が学校給食から発生する食品ロスについて調査しており、それによると平成25年度、児童生徒1人当たり年間約17.2kgのロスがあると報告されている。内訳は調理残渣が約5.6kg、食べ残しが約7.1kg、その他(主に揚げ油の廃油)が約4.5kgとなっている。これを受けて、先ほど紹介した第3次食育推進基本法の重点課題に「食の循環や環境を意識した食育」が挙げられ、食品ロス削減が推進されている。
    学校給食において、食品ロスを削減するために「食べ残しをなくしましょう」という活動をする際、環境や食育の観点からの教育として行うのであれば良い。単純に学校給食においては「残してはいけない」ということではないのだが、これを勘違いしてしまう教員がいる。例えば、誰かの食べ残しを他の誰かが食べることで“残渣ゼロ”としても、個々の児童生徒の栄養摂取の過不足が発生するため、本質的な解決ではない。また、ニュースに取り上げられることもあるように、児童生徒に完食を無理強いするようなケースもある。これらは、栄養教諭との連携が取れていれな防ぐことができると思う。

    栄養教諭制度
    栄養教諭とは、分かりやすく言えば“給食のおばさん”。学校における食育の推進の中心的な役割を担うものとして栄養教諭制度が平成17年から施行された。食の自己管理能力、望ましい食習慣を子どもたちに身につけさせるために栄養教諭制度ができた。栄養教諭の仕事には、食に関する指導と、学校給食の管理とがある。しかし、栄養教諭の人数が少なすぎて、充分に対応できていないことが多い。
    平成27年、総務省から食育推進に関する政策評価が出ている。この中で、朝食欠食率に関して、栄養教諭の配置率と朝食欠食率に相関性がなく、栄養教諭配置の効果を把握する必要があると指摘されている。また、食に関する指導計画があっても、それを実行した後でどうなったのかというフィードバックがないと指摘された。
    そもそも、食育の評価はどのようにすればよいのか。学校ごとに様々な工夫がなされているが、短期間で生徒への効果が出るものばかりではない。指導する側も、食に対する興味が低い教員も少なくないことや、業務内容が多く忙しい教員も多いことなどから、本来は指導時間である給食の時間での指導が不十分なこともある。そのため、学校給食における食育は栄養教諭だけではなく、学校全体で取り組まないといけない。このような学校の現状や総務省からの指摘を踏まえて、文部科学省はこれまで示してきた「食に関する指導の手引き」では不足していた評価方法、特に数値化できる評価指標を追加、PDCAサイクルを回して食育推進に取り組むことを明示した「栄養教諭を中核としたこれからの学校の食育」を平成29年に作成している。

    アレルギー対応
    平成20年の文部科学省の調査では、小学校から高校生のうち、3.2%の子どもがなんらかの食物アレルギーを持っている。平成25年度は4.5%、平成28年は5.2%と、近年は割合が増える傾向にある。文部科学省は、平成20年に「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」を発行している。しかし、平成24年に女児が学校給食を食べて、食物アレルギーが原因で死亡する事故が起きてしまい、食物アレルギーを持つ子どもへのサポートが充分でなかったことがわかった。
    学校給食における食物アレルギー対応への大原則として、アレルギーを持つ児童生徒に給食を提供するが安全性を最優先とすること、組織的に対応すること、医師の診断による「学校生活管理指導表」を出すことなどが挙げられている。教育委員会もアレルギー対応について勉強する機会を作ってはいるものの、勉強会の講師となるアレルギーに詳しい医師が充分数いないなど、まだ充分な機会が作れていない。

    食中毒
    平成28年度は6件の学校給食での食中毒が発生している。刻み海苔が原因の食中毒事故は、メディアでも取り上げられたので記憶に新しいのではないか。統計的にはノロウイルスによる食中毒の発生が一番多く、次いでヒスタミン、サルモネラの順で多い。提供前に加熱するものは良いが、和え物など加熱後に調理をするメニューはリスクが高くなる。

    最近の話題
    横浜市は学校給食をしておらず、代わりに“ハマ弁”と呼ばれる学校への弁当宅配システムを行っている。学校給食と位置づけないことで、通っている児童生徒の家庭が生活保護を受けている場合の給食費の補助が受けられない。また、学校給食がないために、児童生徒には食に関する指導を受ける機会がない。教員側からは学校給食が導入されると食育の指導や給食費未納への対応などの業務が上乗せされるため、教員はこれ以上忙しくなると対応しきれないと反対意見が出ている。今後、学校給食に関わる負担をどうするか、検討している。
    牛乳についてもよく話題に上る。米どころの新潟県三条市では、給食の主食は米食のみとしたため、和食に合わないなどの意見が出たため、給食時の牛乳の提供を取りやめた。ただし、充分なカルシウム量が摂取できるように、ドリンクタイムをつくり、そこで牛乳を子どもたちに飲んでもらう努力をしている。三条市では毎年「子ども議会」というイベントをしており、この数年、毎年のように子どもたちから給食でパンやうどんも出して欲しいという市長への要求が出ている。それを受けて、三条市では今後、パンやうどんが給食に出るようになるとのこと。給食のメニューは、地域によって食文化が違ってくるので、それに合わせて栄養士たちが作っている。

    話し合い

    • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 横浜市のハマ弁のしくみについて、学校給食でないので低所得の家庭は補助を受けられないとのことだが、この点についての抗議が市民から出ないのか?
      →市議会からもこの点についての意見は出ている。市の教育委員会は、子どもたちがネグレクトを受けていると教員たちが判断したら、その際には弁当代の補助などを考慮するとしている。先の市議会選挙で、「ハマ弁を安くする」という公約を上げた候補者が当選、その後しばらくは動きが無かったが、昨年末に来年度から値下げする旨を市長が発表している。
    • 農林水産省は自給率をカロリーベースと価格ベースで計算した数字を出しているが、学校給食における地場産物、国産食材の使用率はどのように計算しているのか。
      →学校給食の場合は品目数で計算している。重量ベースになると、割合は大きくなるのではないかと思う。カロリーベースで計算されることはない。学校給食は自治体が行っていることから、その地域の経済的影響という視点から金額ベースで計算されることはあるかもしれない。
    • 衛生管理について。日本国内では、加工食品については大量調理向けのHACCPがあるが、給食の調理場の現場ではどうなっているのか。
      →調理場の衛生管理はHACPPの考え方に基づいて作られた、給食用のガイドラインがあり、それに従うことになっている。ただし、給食センターのような共同調理場ではHACPP導入の動きがある。鳥取、仙台をはじめ認定された共同調理場がいくつかあり、数が増える傾向にあるが、単独調理場では規模が小さいために対応が難しいようだ。
    • 浜松市で発生した、パンが原因だったノロウイルスによる食中毒事故について、ニュースでは全品検査を教育委員会が指導したということだったが、食中毒であれば本来は保健所が指導するのではないか。
      →各都道府県の学校給食会という団体があり、ここで学校給食パンの加工工場を指定したり、衛生監督を行ったりしている。また、教育委員会が給食パンの工場の監督指導もすることになっている。そのために、教育委員会から指導が入ったのだと思われる。食品の衛生管理については厚生労働省の管轄であるものの、学校給食はあくまでも教育の一環という位置づけであり、文部科学省で独自のルールを作っている。先ほどの給食の調理場の衛生管理と同様に、ダブルスタンダードになってしまっている面もある。そのため、現場が混乱することもある。
    • これまで参加してきた学校給食の勉強会では、栄養についての話題がメインだったが、今回の吉田さんの話を聴いて、学校給食には様々な問題が絡んでいることが良くわかった。学校教育の一環ということではあるが、文部科学省だけで進めるにはもはや限界が来ているのではないか、他の省庁と一緒に進めるのが良いのではないかと感じた。
    • 日本の食習慣もかなり変わってきている。また、市民もグローバル化への対応を迫られていることを考えると、地域あるいは国内の食材や日本食だけではなく、海外の国々の食材やメニューも取り入れ、それらに対して理解をすすめるような食育も必要ではないかと思う。
    • 栄養士養成学校によっては、“食品添加物は体に悪いもの”という前提に立っているところもあり、きちんと学ぶ機会を奪われているのではないか。“手作り”や“無添加”を謳い文句として宣伝し、それがメディアに出ると、あたかもそれが優れていることとして受け取られてしまうこともある。正確な情報に基づき、正しく判断できるようにきちんと学ぶべきと思った。
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