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  • バイオカフェ「しょう油のおもしろ科学」

     2017年11月11日、千葉県立現代産業科学館でバイオカフェを開きました。お話はキッコーマン株式会社研究開発部 片山弘さんによる「しょう油のおもしろ科学」でした。初め、石川寛子さんによるバイオリン演奏がありました。しょう油づくりで菌にモーツアルトを聞かせるという話から、モーツアルトの曲が演奏されました。


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    石川寛子さんの演奏
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    片山弘さんのお話

    主なお話

    私は昆虫好きの少年で、理系に進み、キッコーマンに就職した。ポリフェノールに関連した研究開発、商品開発に関わり、今は味や香りの研究をしている。
     弊社は先月19日に株式会社になって百周年を迎えた。しょう油、ワイン、みりん、トマト製品、豆乳飲料などを扱っている。国内だけでなく、海外に7つの工場を持ち、海外でも活動している。
     
    1.しょう油の歴史
     しょう油のルーツは中国の醤(ひしお)。紀元前11世紀。初めは獣肉、魚を発酵させたものだったが、紀元前2世紀に植物を発酵させたものもでてきた。日本には、中国と交易が始まって伝来。鎌倉時代、禅僧覚心が味噌を持ち帰り、味噌樽の底に溜まっていたものが日本のしょう油の始まり。しょう油とは発酵させてトロリとした液体という意味で、室町時代終わりには、主に関西で作られていた。江戸時代になり、江戸の周囲(千葉、神奈川、日立)で濃い口しょう油ができた。明治に入ると、関東の方が優勢になる。
     野田のしょう油づくりは、1661年、高梨平左衛門が始め、19世紀中ごろには造しょう油仲間は19軒になった。1917年、しょう油を作っていた茂木家と高梨家が一緒になって野田しょう油株式会社ができた。マークは香取神宮の正式名称の下総国亀甲山香取神社の「亀甲」からつくられた。
     野田の利点は、しょう油原料が入手しやすかったこと。茨城はダイズの産地で、千葉には水と塩がある。利根川と江戸川に挟まれていて、原材料や製品の調達・出荷に便利だった。もうひとつのしょう油の産地である銚子は海の要所で東北、関西にしょう油を送りだせた。 
    現在の日本のしょう油の生産量1位は千葉(37%)、2位は兵庫県(薄口しょう油「ヒガシマル」がある)。
     
    2.しょう油のつくりかた
    発酵食品
    世界の発酵食品は、麹菌、乳酸菌、酵母で作られ、種類が多い。
    ・麹菌で作るもの:日本酒、しょう油、味噌
    ・乳酸菌でつくるもの:チーズ、ヨーグルト、しょう油
    ・酵母でつくるもの:日本酒、ビール、日本酒、ワイン、しょう油(アルコールが3%入っている)
    日本の発酵食品には、納豆(納豆菌)、鰹節(カビ)、漬物(乳酸菌)、日本酒(麹)などがある。3種類の微生物を使うのはしょう油くらい。
     
    原料と作り方
    しょう油の原料は、ダイズ、小麦、塩。3種類の微生物を使って発酵させる。
    ダイズのタンパク質を分解してアミノ酸ができ、うまみとこくがでる。小麦のデンプンが分解されてブドウ糖になり、甘味、香りがでる。食塩で塩味を決める。そして、乳酸菌と酵母が味と香りをつくる。
    ダイズはアメリカ、カナダから輸入。小麦はアメリカから輸入。塩は国産。
    蒸したダイズと、炒って砕いた小麦に麹菌をはやす。これを麹と呼ぶ。先に加熱しておくと分解されやすい。ここで使う麹は「キッコーマン菌」。麹菌はしょう油会社それぞれの宝。麹の作り出す酵素により分解率が変わり、収率や品質が違ってくる。
    麹菌を混ぜると、ダイズと小麦は菌糸に包まれて白っぽくなる。胞子が増えて酵素ができる。麹に食塩水を加えると諸味(もろみ)になり、分解が促進する。
    乳酸菌と酵母を投入する。アルコールができると味や香りが変化していく。色は黒っぽくなる。ダイズや小麦の青臭さが消失する。もろみをしぼると、生しょう油になり、搾りかすは飼料になる。生しょう油を加熱すると「火入れしょう油」になり、色が濃くなる。
     
    3.しょう油の種類と特長
     
    しょう油の魅力は色、味、香
    色:できたては明るい橙色
    味:五味(甘味、酸味、塩味、苦味、旨味)が組み合わさって複雑な味になる。
    香:果物の香り、キノコの香り、花の香など300種類くらいの成分がある。銘柄によって香りも違う。
    キッコーマンではしょう油の「フレーバーホイール」を作成した。これまでにワイン、ビール、ウイスキー、チーズなどのフレーバーホイールはあったが、しょう油のフレーバーホイールを作ったのは、今回のキッコーマンが初めて。ホイールを作ってみると、しょう油を表す言葉が91種類も見つかった。しょう油の味は塩味と旨味のバランス。フレーバーホイールを使って、しょう油の香りのことをお客さんに知らせ、選ぶときにヒントにしてもらいたい。
    タンパク質を分解したアミノ酸とデンプンを切った単糖がくっついて、酸化アミノ酸になりメイラード反応が起こり、色が黒っぽくなる。メラノイジンができる。 
    しょう油には調味料としての機能の他に、臭みを消し、殺菌し、旨味を増す働きがある。 
    日本のしょう油の生産額は、825,000リットル出荷。濃い口が多い。
     
    しょう油の種類は5種類
    ・濃口しょう油:ダイズと小麦が等量。塩分15%
    ・再仕込みしょう油:塩水の代わりに生揚げしょう油の麹を使って仕込む。
    ・たまりしょう油:ほぼダイズだけで作る。濃厚でとろりとしている。真っ黒い。
    ・淡口(うすくち)しょう油:中部地方で使われる。塩分18% いろはうすい
    ・白しょう油:小麦だけで作る。
    しょう油の品質基準は特急、上級、標準となっていて、これは旨味に関係がある、全窒素分で決まる。
    従ってしょう油には地域性がある。
    中部地方:たまりしょう油、白しょう油
    近畿地方:淡口しょう油が多い
    北海道:昆布しょう油
    九州:濃い口しょう油と書かれているが、関東のものより甘い。
     
    生しょう油
    しぼったしょう油に、火入れをすると香りが強くなり、色が濃くなる。生しょう油は色が綺麗。
    生しょう油を販売できるようになったのはスクイズボトルができたから。スクイズボトルは二重構造で空気が入らなくなっていて、酸化しにくい構造になっている。しょう油の化学反応を抑制し、色が濃くならないようになっている。
    生しょう油と火入れしょう油を比べると、加熱で香り成分が変化する。生しょう油は、加熱しても甘い香りが保たれ、におい成分も増える。調理実験(生姜焼き)では生しょう油を好む人の方が多かった。

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    会場風景
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    千葉県立現代産業科学館 長谷川浩士さんによる開会
     
    4.しょう油のこれから
    国内では、しょう油の国内出荷量が落ちている。人口が減少し、洋食化しているためと考えられる。
    海外での製造量は増加中。アメリカと中国に2か所、台湾、シンガポール、オランダに1か所ずつ、7つの工場がある。シンガポール工場ではハラールしょう油もつくっている。ハラールしょう油ではアルコールがぬいてある。
    このような食品以外で、ルシフェラーゼという酵素で菌数を調べる、衛生の検査キットも販売している。
     
    トクホのしょう油
    しょう油というと、塩分が多くて高血圧の人や、高血圧の予備軍の人には敬遠されることが多い。トクホとは、特定保健用食品のことで、健康にいいことが科学的に証明されていて、それを国が認めている。病気になった人は対象外で予備軍の人が使う食品。
    トクホの表示には「おなかの調子を整える」「コレステロールが高めの人に」「血圧高めの人に」などがある。高血圧や高血圧予備軍の人は多い。おいしく、減塩出来て、血圧コントロールに有効なしょう油を10年以上かけて開発した。
    アンジオテンシンという血圧上昇に関係する物質を抑制する成分が含まれたしょう油で、タンパク質を分解してアミノ酸になる前のペプチドを使っている。 
    臨床試験では、減塩しょう油とダイズペプチドしょう油を使って比較試験を実施した。2013年からダイズペプチドしょう油を発売している。官能試験で味に遜色がないことが分かっている。


    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 小名浜の塩を使わないのはなぜ。 → 震災後、国の指導で塩を作れなくなった。
    • 生しょう油は火入れしないというが、殺菌されていないということか → 加熱せずに膜処理で菌体を除去している。加熱によって味を損なわれないしょう油をつくれる。
    • しょう油の持つ殺菌作用は塩のよるのか → 塩分のほかにも抗酸化力のある成分がある。
    • しろしょう油は麦だけでつくるのか → はい
    • 麹菌は会社の宝というが、キッコーマン菌を他社に分けることはないのか → ない。国や県の機関が小さいしょう油蔵に分譲することはある。小規模だと麹菌の開発まではできないため。酒蔵にも分譲されている。
    • 火入れと加熱の違いは → 原理は一緒だが、調理で加熱するときの温度(フライパンでこがすときは200度)より、火入れの温度は低く、時間をかける(100度以下でゆっくり加温する)。
    • 原料の麦とダイズは輸入で塩が国産なのはなぜか。国産は高いと思う → 国産はやや高いが、味を検討したうえで、国産を使っている。
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