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    「お米で花粉症の症状を改善? バイオの技術のなせるワザ!」

     2017年10月8日、千葉市科学フェスタにてサイエンスカフェ「お米で花粉症の症状を改善? バイオの技術のなせるワザ!」を開催、農研機構 生物機能利用研究部門の高木英典さんにお話をいただきました。
     千葉市科学フェスタは千葉市科学館主催で行われているもので、10月7・8日にメインイベントが千葉市科学館の入るビルQiball(きぼーる)で開催されます。そのメインイベントの一企画として、くらしとバイオでは昨年からバイオカフェを開催しており、今回で2度目の参加となりました。


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    講師の高木英典さん
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    全体の様子

    高木さんのお話

    食品やスギ花粉などのアレルギーの治療には、減感作療法という治療法がある。これはアレルギーのもとになる物質(アレルゲン)を少しずつ体内に取り込んで、身体を慣らさせようという方法。これは昔から経験的にも行われていた事例がある。例えば、漆塗り職人は漆を少しずつ舐めて、漆アレルギーを起こしにくくしていた。生の漆に含まれる揮発性物質がアレルゲンであることが分かっており、漆塗りの食器等にはアレルゲンはないが、塗る際に職人はこの揮発性物質に暴露されるため、アレルギーになることがある。食品アレルギーについては、1908年のLancetという医学雑誌に、卵アレルギーの人に卵を少しずつ食べさせて治そうという試みが報告されている。
    スギ花粉症の治療は、スギ花粉エキスの注射を3年以上続けることで、症状の緩和を含めて8割以上の人に効果がある。注射は一度止めると5年間は効果が継続する。しかし、この方法だとアナフィラキシーショックなどの副反応の心配があり、これを抑える必要がある。さらに長期間かけて少しずつアレルゲンを投与するので長期通院が必要とり、注射をするので痛みもある。そこで、安全性の高いアレルゲンが開発できないか、食べて治せるものが作れれば痛みを感じる必要もないのでは、と考えた。
     
    アレルゲンの作用
    スギ花粉のアレルゲンは特定のタンパク質であることが分かっている。しかし、このアレルゲンタンパク質が調節作用して症状がでるわけではない。動物には様々は種類の細胞があって、その中でも肥満細胞という細胞をアレルゲンは攻撃する。肥満細胞表面についているIgE抗体にアレルゲンが結合すると、それを合図に肥満細胞から炎症物質が放出され、くしゃみや涙などが出る。アナフィラキシーショックもアレルゲンがIgEに結合しなければ起こらない。そこで、IgEに結合しないアレルゲンを作れれば、より安全な減感作療法に利用できるのではないかと考えた。
    特定のタンパク質がアレルゲンとなる。タンパク質はアミノ酸が並んで複雑な立体構造をつくっている。IgEはタンパク質の立体構造の一部を認識し、ある決まった構造のタンパク質とだけ結合する。したがって、IgEが認識しないような立体構造のアレルゲンを開発すれば良いのではないかと考えた。そこで、Cry j 1とCry j 2と呼ばれる2つのスギ花粉アレルゲンタンパク質の、IgEと結合する部分だけを並べた改変アレルゲンタンパク質を作った。
     
    なぜお米なのか
    ここまでは医学分野の話だったので、今度はお米の話。
    お米は胚と胚乳からできている。成分としてはでんぷんが約7割、水分が約15%、タンパク質が約8%。発芽する時のエネルギー源として、自分自身でタンパク質を作っている。お米で作られたタンパク質は、お米の中にあるタンパク質粒(プロテインボディ)と呼ばれる小さな粒の中に溜め込む。先ほど紹介した改変アレルゲンタンパク質も、お米で作られてタンパク質粒に溜め込まれる。
    具体的には、改変アレルゲンタンパク質を米粒の中に作らせるようなスイッチ(プロモーター)と、作らせる改変アレルゲンタンパク質の設計図はここまで、という合図(ターミネーター)を入れて、タンパク質を作らせている。
    この改変アレルゲンタンパク質の遺伝子を植物に導入する際は、アグロバクテリウムというバクテリアを使う。このバクテリアは植物細胞に自分の遺伝子の一部を導入する性質があり、街路樹などのクラウンゴールの原因となるもの。
    具体的には、まずは植物のカルスという細胞の塊、動物でいうとiPS細胞のようなものを作る。そこに特別な処理をすると、胚と胚乳の間の杯盤という部位ができてくるのでそれを準備する。それと同時に、作らせたいタンパク質、ここでいうと改変アレルゲンタンパク質遺伝子を組み入れた食物に感染するバクテリアを準備しておく。そのバクテリアを懸濁した溶液をカルスにかけて、細胞にバクテリアを感染させ、遺伝子を植物細胞に導入させて、培養する。その中から、うまく遺伝子が入ったカルスを選び、培養条件を変えて植物の個体に生育させる。
    お米に改変アレルゲンタンパク質を作らせてみると、メリットがあることが分かってきた。それは、お米の中のタンパク質粒は消化酵素で分解されないので、胃で分解されずに腸にまで改変アレルゲンタンパク質が届くこと。通常、タンパク質は胃で分解されてしまい、効果がでるのに充分な量が腸まで届かないが、タンパク質粒を使えば、腸まで届けることができることが分かった。実際に消化酵素を使って実験してみると、2時間経ってもタンパク質粒は分解されずに残っていた。
    このスギ花粉のアレルゲンを含むお米の効果を調べるため、マウスを使った実験をした。スギ花粉アレルギーになってもらったマウスに、このお米を食べてもらったところ、IgEができておらず、ヒスタミンなどの炎症物質も少なく、くしゃみの回数も減った。
    このお米を将来医薬品として使用するための臨床研究として、動物での安全性評価試験をひと通り行い、ヒトでも臨床研究で効果を確認した。ヒトに対してはパック米を一日一膳、10月あたりから食べはじめると、5月ぐらいまでは効果が確認できた。この結果を踏まえて、去年からは本格的な臨床研究をはじめている。半年から1年間に渡ってこのお米を食べてもらい、どのくらいの量、期間食べれば、いつごろから効果がでるのか、確認をしている。 
     
    今後の遺伝子組換えイネの研究開発の展開
    同じしくみを利用して、他のアレルギーの治療薬や高血圧、血糖値を抑える薬、アルツハイマー治療薬などになるコメが研究されている。
     
    遺伝子組換え作物の野外栽培
    環境(正確には生物多様性)への影響を考慮し、遺伝子組換え植物を野外で栽培する際は国で決められたルールに従う必要があり、そこでは様々な手順が決まっている。例えば、遺伝子組換え植物を作る実験は、実験計画書を作成し、研究機関内で認められれば計画書に沿って進めることができる。作った遺伝子組換え植物を温室で栽培しようとする場合は、最初に閉鎖系温室という完全に外部と隔離された特殊な温室で栽培し、さらに環境への安全性データと実験計画書を合わせて機関内に申請し、通れば特定網室という空気は外部とやり取りできるが花粉などは外に出ないような温室で栽培することができる。野外栽培試験は、特定網室で取った環境への影響に関するデータと計画書を国に申請する。その申請が通れば、その遺伝子組換え植物を野外で栽培できるようになっている 
    遺伝子組換え作物が流通する際は、事前に環境への影響の他、食品としての安全性、飼料としての安全性の確認をしている。
    害虫抵抗性トウモロコシや除草剤耐性ダイズのほか、ハワイではウイルス病耐性の遺伝子組換えパパイヤが栽培されている。このウイルス病耐性のパパイヤは、交配では病気に強いものが作れず、最終的に遺伝子組換え技術で作った品種。この品種の開発により、一時期壊滅的だったハワイのパパイヤ産業は盛り返し、病気の原因となったウイルスもなくなったことから、他の品種の栽培も再度広がりつつある。このように、なんでも遺伝子組換え技術で開発すれば良いというものではなく、交配など従来の品種改良の技術では作れない性質の品種を作る際に使われている。


    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • スギ花粉米は医薬品になるのか、それとも食品として売るのか? → どのような形で販売するのかは、実用化する製薬企業が具体的に決めることになると思う。
    • 改変アレルゲンは、元のアレルゲンとどのくらい差があればアナフィラキシーショックなどを起こさないようになるのか? → アレルゲンがIgEと結合する部分を寄せ集めるのがベストと考えている。元のアレルゲンとの違いについては、どのくらい変われアレルギーを起さずに済むのかは、まだわからない。少なくとも、IgEと結合するための立体構造があるかないかによって、差が出ると考えている。
    • 消費者としてスギ花粉米を購入をして食べるとしたら、無洗米でも効果はある? → 効果はなくならないと思う。粉にして服用しても、ご飯として炊いて食べても効果はあることが、これまでの研究で確認されている。
    • 腸に届く技術について、お米を炊いて食べる際に加熱するので、生に比べると貯めたタンパク質は変性しないの?生で食べられる作物にしたほうが良いのでは? → ケースバイケースで、加熱して効果がなくなってしまうものであれば、炊かずにそのまま食べればいいし、このスギ花粉米については炊いても効果があることが、これまでの研究で確認されている。
    • 遺伝子組換えのトウモロコシやダイズについて、組み込んだ遺伝子は交配してできた次世代の作物にも効果はあるの? → その次世代にもきちんと遺伝することは確認できている。イネの品種改良で交配もしているが、とても準備と手間がかかる作業。特にイネは自殖性がつよく、実は交配作業も難しい作物の一つ。
    • タンパク質の蓄積量は栽培条件で変わらない? → 異なる地域で栽培しても、土壌の窒素含量がお米全体のタンパク質の蓄積量に影響することがわかっているので、施肥でコントロールできる。
    • スギ花粉米は食べて美味しいの? → 元の品種はコシヒカリなどいくつかの品種で作っており、味は変わらない。
    • 今現在、私たちが食べている野菜や穀物など、遺伝子組換えでない食物はないということ? → 現在、流通している遺伝子組換え作物はトウモロコシやダイズ、綿実、ナタネなど主で、それ以外は従来の品種改良技術で作られたもの。ただし、その作物の祖先と比較すると、遺伝情報は変わっている。品種改良は作物の遺伝情報を変化させること。
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