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  • ifia2017「食品表示とリスクコミュニケーション」が開かれました

     2017年5月24日、ifia(国際食品素材/添加物展・会議)食の安全科学ゾーンで標記セッションを開きました。2015年に食品表示法ができ、昨年は加工食品の原料原産地表示の見直しが行われ、4月26日からは遺伝子組換え食品の表示の検討が始まりました。食品表示への関心が高まっていることから、海外の状況、表示の検討の経緯をふたりの講師からうかがい、会場参加者と話し合いました。100名余の方にご参加いただき、関心の高さがうかがわれました。


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    鬼武一夫さん
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    森田満樹さん

    「国際機関における食品表示と生協の考え方」
         日本生活協同組合連合会品質保証本部 総合品質保証担当 鬼武一夫さん

     今日は、2016年5月9日にオタワ(カナダ)で開かれたコーデックス食品表示部会(サイドイベント)の重要な情報を共有したい(事務局長から許可を得てある)。
     食品表示に対する考え方は個人、国で異なっているので、表示のコンセンサスを得るのは極めて難しく、時間と手間がかかる。コーデックスでは、戦略計画の中で表示の役割、任務を定めている。2014-19年の戦略計画では、食品の安全に関する国際ハーモナイズに重点が置かれている。
     コーデックスには4つの柱がある。(1)食品問題に取り組む国際的な食品基準の確立、(2)コーデックス基準におけるリスク分析の原則を適用することの保証、(3)コーデックス加盟国の効果的な参加を促進、(4)効果的・効率的な作業管理システムと運用の実施。
    コーデックステキスト(食品規格の基準及びガイドライン)は、消費者の健康保護と食品の公正な貿易の確保を目的とする加盟国政府への勧告である。
    コーデックス食品表示部会(CCFL)は1965年にホスト国であるカナダによる、オタワでの初会合から始まった。CCFLの役割は(1)表示の規定をつくること、(2)規定草案を検討・修正・承認すること、(3)特定の表示問題を検討すること、(4)クレーム(協調表示、暗示を含む標榜する広告)について検討すること。
     
    すでに定められているコーデックステキスト(基準)
    ・事前包装済み食品の一般規格(Codex Stan1-1985)
    ・食品添加物の一般規格(Codex Stan107-1981)
    ・包装済み特殊用途食品 表示と強調表示(クレーム)(Codex Stan146-1985)
    ・特別医療目的食品の表示とクレーム(Codex Stan180-1991)
    ・酪農用語の使用(Codex Stan206-1999)
     
    すでに認められているガイドライン(GL)
    ・強調表示に関するGL(CAC/GL 1-1979)
    ・栄養成分表示に関するGL(CAC/GL 2-1985)
    ・栄養と健康協調(ヘルスクレーム)(CAC/GL 23-1997)
    ・モダンバイオテクノロジーを用いた食品の表示(CAC/GL 76-2011)
    【日本がホスト国(議長)を務めたコーデックス委員会バイオテクノロジー応用食品特別部会(CTFBT)では、モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則」、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン」、「組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン」、その他アレルギー誘発性評価に関する添付資料などをとりまとめた。一方、遺伝子組換えに関する表示については、コーデックス食品表示部会で長年議論されてきたが、加盟国間のコンセンサスが得られず、関連資料の編纂に留まった。】
    用語ハラール表示のGL(CAC/GL 24-1997)
    オーガニック食品の生産・加工・表示・販売のGL(CAC/GL 32-1999)
     
    海外の食品表示を事例に
    海外でも、正確にしようとすると紛らわしい表示になったり、誤解を生じたりする表示が行われている。
    1.メープルシロップ
    「風味付けした」「味付けした」などが小さい字で書き添えられていて、正直に表示するからこそ、紛らわしい表示となる。当該原材料の使用量まで書かなければならない。
    2.森の果実とヨーグルト
    森の果物はどのくらい含まれているのか。実際には森の果実とはいいがたい、りんごが大部分。表示は真実だが誤認を招きそうに思える。  
     
    とりまとめに達していないテーマ
    上記のように正直だからこそ誤解されやすい表示は2001~2004年に議論されたが、そのまま保留になっている。他にも、ナチュラル、ベジタリアン、原産国表示(COOL)などもコンセンサスを得ていない。フロント・オブ・パッケージ(パッケージの表面)表示は強調もそのひとつ。一方、日本はフロント表示には寛容である。インターネット販売は今も議論が続いている。
    1)誤解されやすい表示:最後は良識に頼るということで、検討は中止された。ただし、検討の再開も可能。
    2)ナチュラル:「天然」「純粋」「新鮮」などは各国の慣行によるところもあり、1994年に議論を中止。2010年にクレームのガイドラインで対応できるとなった。
    3)菜食主義(ベジタリアン):国によって菜食主義の定義が異なるので、作業の継続中止。ビーガンフレンドリー食品(虫から抽出した光沢剤を使用していない生鮮リンゴ、遺伝子組換え技術を用いて製造した酵素(キモシン)を使ったチーズなど)という表示もある。
    4)原産国 COOL:何度か検討を試みるもコンセンサスに達しなかった。
    5)フロント・オブ・パッケージ(製品の正面)表示(栄養成分):協議は止まっているが、いつでも協議は始められる。WHOの勧告を受けて、表面の栄養表示をわかりやすくした表示を検討予定。
    6)広告:栄養や健康強調表示を使って販売・接種を促進するために行う表示以外の方法を指す。2008年、広告の定義が決められた。
    7)有機養殖漁業:各国の意見の違いが大きくて合意に至らなかった。魚を食べる習慣がある日本が主導して国際規格を定めていくという方向性もあるかもしれない。
    8)日付表示:安全性に関わる消費期限、賞味期限についての議論が進展した。
     
    今後のこと
     日付表示は決着しつつある。
     有機養殖漁業、卸売り食品の包装の表示(議長国 インド)、消費者の嗜好(イランとトルコが討議文書を作成する)、フロント・オブ・パッケージの栄養成分表示(議長国 コスタリカ)などの議論は継続することになっている。日本ではフロント・オブ・パッケージの栄養表示に対して寛容なので、議論の行方によってはどのように対応するか、日本での検討が必要になるだろう。インターネット販売やハラールの使用に関するガイドラインの改訂は作業中止になった。
     オーストラリアとニュージーランドでは食品表示の階層を定めている。食品の安全性に強く関係するものはリスクも高く、行政の介入や取り締まりも強くなる。逆に消費者価値問題に関係するものはリスクも低く、行政の介入や取り締まりも弱くなる。この状況がピラミッドで示されている。予防的公衆衛生(例えば、栄養成分表)や新しい技術によってつくられる食品はピラミッドの中間に位置することになる。このように広い視点から食品を階層として整理する考え方は学ぶべきではないか。
     日本では現在、加工食品の原料原産地の表示に関するパブリックコメント募集が終わったところで、4月から遺伝子組換え食品の検討が始まった。来年は食品添加物が対象になると聞いている。いずれも表示の改定が行われれば更なる事業者の負担になることなので、慎重な議論が必要だと思う。



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    会場風景
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        ブースの展示

    「食品表示法2年を経過して~論点整理と今後の課題」
                 消費生活コンサルタント 森田満樹さん

    1.食品表示法の概要と施行後の動向
    2015年に食品表示法が施行された。現在、スーパーなどで食品をみると、新法への移行は進んでおらず、半分以上が旧表示のままである。移行が進んでいないのは、食品表示基準ができた後、毎年基準の見直しや改正が審議されており、事業者の負担が大きいことも理由の1つだろう。
    昨年11月に取りまとめられた加工食品の原料原産地表示検討会では、制度を大きく見直す方針が決まった。2017年度は遺伝子組換え食品、2018年度は食品添加物の見直しが行われる予定である。新法ができた後も、次々と基準改正が検討されているような状況だ。
    消費者庁のもと制定された食品表示法は、3つの法律(JAS法、食品衛生法、健康増進法)を一本化することで、表示をわかりやすくするということが目的でもあった。しかし、実際には、表示する情報が増えてわかりにくくなっている一面もある。見直しが進むにつれて、わかりやすい表示から逆行していくのではないか。実際に原料原産地の食品表示基準改正案(2017年3月公表)を見ると、かなり複雑である。
     
    2.食品表示法の主な変更点について
    2015年4月施行時における旧法からの主な変更点は、1)加工食品と生鮮食品の区分の整理、2)製造所固有記号ルールの改善、3)アレルギー表示ルールの改善、4)栄養成分表示の義務化、5)表示レイアウトの改善などがあった。2015年4月1日から5年間が移行措置期間とされている。栄養表示の義務化が、新法変更点の大きな目玉といえる。消費者庁が今年行ったインターネット調査によると2割が新制度については知っているというが、ほとんどの市民は知らないという。栄養表示の義務化はさらに知られておらず、あまり活用されていない様子もわかる。今後の消費者啓発が課題となっている。
     
    3.加工食品の原料原産地表示について
    原料原産地表示は、2016年1月から11月までの検討のもと、日本再興戦略2016の閣議決定を踏まえて、全ての加工食品に義務付けることが決まった。パブリックコメントを経て、現在はWTO通告を行っているところだという。
    原料原産地表示制度に関する食品表示基準の一部改正案(2017年3月27日公表)では、国別重量順表示が原則だが、中間加工原材料の製造地表示、可能性表示、大括り表示という新しい表示方法が加わった。一括表示、枠外表示には表示しなくてはらない項目が多くなる。表示の意味がわからなければ、消費者の誤解を生んでしまうおそれがある。
     
    4.遺伝子組換え表示の検討について
    遺伝子組換え表示制度に関する検討会が、消費者庁のもとで2017年4月より開始されている。遺伝子組換え食品の表示は商品選択のための基準で、安全性のための表示ではない。しかし、6月20日の第2回検討会では「遺伝子組換え食品は不安だ」という声も聞かれ、遺伝子組換えの表示のさらなる充実を求める声がある。
    現在では「遺伝子組換えでない」と表示する場合、5%未満の遺伝子組換え原材料の混入があっても表示できる。こうした点が論点になっていくだろう。
    すべての食品に表示を求める声が強いが、表示を検討する際はコスト、わかりやすさ、知る権利のバランスが重要。問合せ対応、QRコードの利用などを検討していくことも大事だと思う。


    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 表示が細かくなり、ますます教育の役割が大事になると思う。 → 賞味消費まではいいが、栄養、原料原産地を家庭科の教育でどこまでやれるだろうか。
    • 私は家庭科の教員。家庭科の時間数は減ってきている。総合的学習時間をつくるため、家庭科は男女共習の中で週に2時間1年間だけになっている。家庭科では衣食住と家族問題などを学ぶので食は一部にすぎない。食育は時間数が決まっていない。学校教育ですべてカバーはできず、食品表示の勉強を行うのは現状では不可能。 → 消費者が読み解く力を身につけるのは、実際には無理だと思う。 → 生協では組会員対象の勉強会をしている。しかし、消費者庁が表示基準改正の時、「原則として」ということばがたびたび法律に登場している。しかし、現実は一割くらいしか該当しないような法の枠組みで表示が決まると、現場は混乱する。
    • 健康被害が起こった事例から考えると、はちみつは赤ちゃんに与えないという表示が十分でない、メンチカツは十分に揚げてから食べるという表示がなかったなどが、表示に関係する問題事例だったと思う。これらの表示は安全性に関わる問題があるのに、そういうところが正確に表示されていない。遺伝子組換えや食品添加物の表示どころではないと思う。
    • 遺伝子組換え食品の表示は消費者の知る権利を担保するためだから、非組換えであることを示すマークをつけるような方向で考えるのがいいと思う。 → 食べて安全であることは理解しているが環境問題として遺伝子組換え食品を避けたい人のために、非組換え食品表示は有効だと思う。どのような場合に非組換えと表示できるのか、検討が行われることになればよいと思う。 → 生協では、初めて遺伝子組換え食品がでてきたとき、薬事審議会資料を閲覧に行き、安全性に問題がないことを確認した。そして組換え材料を使わざるをえない状況でお店でポップ表示をして導入した。現在は生協とイオンが遺伝子組換え原料を利用している。それ以上に不分別表示が広まらないところをみると、そこまで知りたくない情報なのかもしれない。今回の検討会を冷静な見直しをする機会と考えたい。
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