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  • バイオカフェ「ヘアケアってなに?」

     2017年9月15日、バイオカフェを開きました(於 日本橋洋菓子店 門)。お話は花王株式会社ヘアケア研究所主席研究員 小池謙造さんによる「ヘアケアってなに?~美しい髪へのアプローチ、ケアの基本から最新技術まで」でした。初めに弘田久美子さんによるヴァイオリンで、秋にちなんだ童謡のメドレーなどが演奏され、すっかり秋の気持ちになりました。

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    弘田久美子さんによるヴァイオリン
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    小池謙造さんのお話

    主なお話の内容

    はじめに
     花王は130年前、石鹸の会社としてスタートしました。顔を洗える高級化粧石鹸という意味から、発音の「カオ」に重ねて花王と名付けられました。売り上げの約3%を研究に投じ、研究に注力しています。洗濯洗剤開発ではアルカリセルラーゼ、紙おむつでは吸水ポリマーというように、製品開発以外にも基盤となる技術開発に注力している。
     ヘアケアについては、技術開発や製品開発だけでなく対象研究として日本人や欧米人の毛髪研究を長くしてきたので、テレビなどで毛髪のうねり、薄毛など髪に関わる話題がとりあげられるとき、花王の研究者が顔を出すことも多い。明治の石鹸の発売以降、1932年シャンプー、1951年洗濯洗剤と事業拡大し、さらに化粧品、衛生製品と多方面化、多角化をしてきた。その三本柱は、ビューティ、ヘルスケア、日用品です。
     
    商品開発の流れ
     洗濯洗剤のアタックを例に説明すると、初代アタックは1.5Kg(830円位)だった。助剤として繊維成分セルロースを分解する酵素アルカリセルラーゼを自社で開発して配合した。セルロースを分解するといっても、衣服をボロボロにしてしまうのではなく、水溶性セルロースのみを分解するので、衣服にやさしく汚れが落ちる。この酵素をつくる菌は土壌細菌から探し出し、工業的に生産できるレベルまで生産性を高めた。発売して研究は終わりではなく、その後、改良研究を続けている。さまざまな技術開発が蓄積され、今は1Kg(300円位)で、より小さく扱いやすく、効果は大きく、価格も安くできた。これは長年にわたる社員の頑張りだと思っていただけると嬉しい。
     
    毛髪
     毛髪構造は、外側はキューティクルという硬い殻でおおわれており、その内側はコルテックスという柔らかい組織。キューティクルが壊れるとコルテックスも壊れて枝毛になったりする。メデュラという中央部分が壊れると空洞化してしまう。
     キューティクルは爪に似た成分(ケラチン)で、爪切りは風呂上がりにいいように、髪も水に濡れと弱くなる。だから、濡れているとき、髪は優しく扱うのが大切です。
     日本人の髪はぬばたま(ヒオウギの黒い実)の黒髪といわれるとおり、真っ黒で艶がある。東洋人の髪のメラニン含有量は3-5%。太くて直毛で断面は丸い。欧米人(コーカシアン)では、若干ウエーブがあり細く、断面は楕円である。メラニンも黒ではなく、フェオメラニンという赤色のメラニンの人が多い。それが多いと赤毛になり、メラニンの少ない人はブロンドになる。アフリカの人は、縮毛で、色は東洋人と同様に黒い。
     
    洗髪
     1990年代以降、毎日洗髪するという習慣が普及した。理由は髪にやさしいシャンプーで洗うようになったから。それまでは、2日に1回、さらにさかのぼると1960年代では1週間に1回程度であった。戦前を含めて洗髪頻度の少ない時代では、洗髪よりも髪をとかし頭皮の脂を髪になじませることが1つのへアケア習慣だった。
     平安時代の洗髪頻度は、年に1回程度と言われている。においなどの予防のために香をたくなどの工夫がされていたと思う。江戸時代になっても、月に1-2回洗う程度であった。日本髪をゆっていたから、手間を考えるとそんなに頻繁には洗えなかったのだろう。 昭和30年代に風呂屋が増えて週1回は洗髪しよう!となる。花王には、シャンプーの広告(1950年)で、「5日1度は洗いましょう」というポスターが残っている。現在、世界的に見て、日本人は最もよく髪を洗う(年代によっては、毎日洗う人が9割以上というデータもある)。アジアや欧米では、洗髪頻度は、地域にもよるが2、3日に1回程度である。
     洗髪頻度が少ないと頭皮の脂はたまっていくと思うかもしれないが、実際は頭皮の脂は髪に移っていくので、髪をすくと確かに頭皮の皮脂は減少することが確認されている。
     古代にさかのぼると、魏志倭人伝(3世紀末)が毛髪関連の最古の文献である。邪馬台国のあった場所が記されていると話題になることが多いが、当時の生活様式が記述されている貴重な文献である。当時の日本人は字が書けなかったので、ここに書かれているのは、中国人が記録した日本人の生活である。髪型については、当時の女性は皆、髪を束ねて曲げているとある。みずらのような髪型が想像される。皆とあるので、そこからはヘアケアやファッションへの流行や身だしなみの意識があったことがうかがわれる。また髪を束ねる髪型が後の結の文化(日本髪など)になった可能性も考えられる。
     
    日本人の毛髪
     花王で10-60代女性230人を調べた。外見から半分以上が直毛と判断された。毛髪を置いたときのカール半径4㎝以上を直毛と定義して1本ずつ調べるとやはり半分以上が直毛で、外見と測定値(カール半径)は、ほぼ一致していた。
     現在、日本で売られているシャンプーは多種多様で、他社品であるラックス、パンテーンも良く売れているブランドで、参加されている方にもお使いの方がいると思う。花王のシャンプーのブランドの歴史を紹介する。1932年花王で初めて発売したシャンプーは固形の石鹸主体のものだった。その後、粉末シャンプーとなり、風呂屋で、1回分ずつを小分けにしたを売っていた。この袋(フェザーシャンプー)のパッケージを覚えておられる方もいるかもしれない。その後1960年代に花王から日本初の液体シャンプ-を出した。1970年にフケの悩みに対応したメリットを発売。さらに、機能としてダメージケア(傷んだ髪)、ビューティケア(ハリコシ)、エイジングケア(ツヤ)などに注目してシャンプーブランドを展開してきた。このように対象・目的別にシャンプーをいくつかのブランドで製造している。
     
    毛髪研究のトピックス1「男性の毛髪」
     1987年、2万本の髪を集めて調査した。毛髪の太さを男女別、年齢別に測定した。男性では20代をピークに細くなることがわかった。若い男性がねぐせ、髪がはねるのは髪が太いからと思われる。これに比べて、女性の髪の太さは年代によらず一定している。しかし、加齢で生える髪の密度が低下することもわかっている。花王で見出した育毛成分(t-フラバノン)は髪を太くすることが分かっている。
     
    毛髪研究のトピックス2「髪の艶」
     髪に表面に特殊な油成分がついている。これは表面を疎水性(撥水性)にする。髪の毛の「揃い」や「艶」などにも重要。この油成分は、ダメージ、たとえばキューティクルのこすれなどで傷つき、傷む。すると、水がしみこみやすくなり髪がさらに内部まで傷む。すなわち髪表面の油の欠乏は髪のダメージにつながるので、油をコンディショナーなどで補う必要がある。コンディショナー成分が毛髪表面に着くことで髪の撥水性の回復、さらには艶も増すことができる。
     
    毛髪研究トピックス3「エイジング」
     花王で10-70代 の女性の髪を調べ、加齢で何が起るのか調べた。
    髪の艶の幅が加齢によって広がり、ぼやけてくることが分かった。その原因が毛髪の形状であり、加齢で髪にうねりが生じるためと思われた。その加齢によるうねりをふせぐ成分を配合しエイジングケアブランドとして誕生したのがセグレタです。
     
    毛髪研究トピックス4「ダメージ」
     健康な髪はキューティクルがきれいに並んでいる。傷むとささくれ立って、さらにダメージが進むとキューティクルがはがれててしまう。軽度のキューティクルダメージはトリートメントなどで落ち着かせることができるが、剥がれ落ちるような大きなダメージは補修できない。
     髪のダメージの主な原因として、ヘアカラーによって表面および内部を傷めることがある。ヘアカラーは毛髪内部のメラニンを分解する作用がある。表面の親水化と合わせて、内部からタンパク質などが流出し、ヘアカラーの使用頻度によってからまり、指どおりが悪くなる、ごわつきなどのダメージが進行する。
     詳しく説明できないが、花王では新しいダメージの少ないカラー剤(染毛料)を開発した。メラニンがないのが白髪なので、白髪にメラニンを戻すようなメラニンで髪を染めることを考えた。メラニン前駆体をコウジカビの酵素で作る研究を月桂冠と共同で行った。その結果メラニンで髪のキューティクルを染めることに成功し、メラニン前駆体を工業的つくる技術も開発し、STEPカラーとして発売した。1回では染まらないが、数回使用で徐々に染まっていき、髪へのダメージが少ないことなどいい特徴もある。
     
    まとめ
     髪は優しく扱いましょう。特に濡れているときは注意して。洗髪は初めに、髪を全部濡らしてから、シャンプーはよく泡立てて指で頭皮をまんべんなく洗う。髪の汚れもそれで落ちる。乾かすときは乾きにくい頭皮・根元を重点的に。うねりや細毛は加齢とともに起こるので、最適なケアをしてください。


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    会場風景

    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

      • なぜ老化すると髪にうねりが出るのか → 髪の中にはまっすぐにする成分と曲がる成分がある。若いときはふたつの成分が均等に存在するが、年を取ると二つの成分に偏りができ、うねりが生じる。  
      • 水泳部の子どもの髪が茶色いのはなぜ → メラニンが酸化して分解するので茶色くなるのではないか。プールの塩素は酸化力で殺菌するので、メラニンを分解する可能性がある。水泳をやめれば髪色は戻ると思う。紫外線もメラニンを分解するので、もし、屋外プールで泳ぐなら水泳帽をかぶった方がいい。
      • 適度な洗髪頻度はどの位か → 頭皮の皮脂除去には毎日洗うのがいい(かさつきなどを感じなければ)。年をとると皮脂の分泌は減るので2日に1回位でいい。日本人ほど髪を洗う人は世界にいない。欧米人は2日に1回が普通だが特に障害は出ていない。毎日洗っても、洗い方がよく、かさつきなどのトラブルがなければ問題ない。
      • アルキル硫酸ナトリウム(ラリウル硫酸ナトリウムなど)はよくないと聞いた。 → アルキル硫酸ナトリウムはシャンプーに使われる界面活性剤で髪の汚れや頭皮の脂を落とす。アルキル硫酸はアルキル基が硫酸についた構造で、石鹸主体のシャンプーより水に溶けやすく、泡立ち易く、すすぎやすい。皮膚、毛髪にアルキル硫酸が悪いというデータはないと思う。
        また、シリコンをよくない物だと思って、ノンシリコンシャンプーを求める人がいるが、シリコンは優れたコンディショニング成分であり、指どおりをよくしたり、洗髪中の髪へのダメージを防ぐ効果もある。シリコンが体に合わないはノンシリコンを使うのがいいが、ダメージを感じている人は、さらに髪を傷めないためにシリコン入りを使うことはいいと思う。
        今の市販のシャンプーはどれもかなりマイルド。個人差であわないものには気をつける。かゆみが出たり違和感があったりしたら、そのシャンプーは避けて下さい。もし、合わない時は敏感肌用シャンプー「キュレル」もあるので試して下さい。
      • 髪を乾かすときの注意は → 毛先をタオルでごしごしする人がいるが、傷めることがある。毛先は乾きやすいので、過乾燥に注意する。そのためにはドライヤー(最強)で、1点にあてないように動かしながら地肌を中心に乾かす。また頭の後ろの部分が一番乾きにくいので、ここをきちんと確認することも必要。
      • 安いシャンプーと高いシャンプーの違いは → 一つにはコンディショニング成分(シリコンの種類)が違う。皆さんは、指どおりが悪い、泡立ちが悪いシャンプーの経験はおありだと思う。実は、シャンプーの泡は毛の間に入って潤滑油のように働き、洗髪中に髪を傷めることを防ぐ。だからよく泡立つ性質も大切です。またゆすいだ後は、コンディショニング成分が髪を守る。ゆすいでいるときに髪がキシキシするのは、コンディショニング成分が足りないと考えていい。一般に高いシャンプーの方が泡立ちがよいが、むちゃくちゃ高くなくても大丈夫。シャンプー時の指どおり、乾かした後の感触に注意しながら自分に合うシャンプーを選んでください。
      • 頭皮マッサージはよいのか → 頭皮マッサージには育毛効果があると報告されている。洗髪中や髪をとかすときに数分間マッサージをするのがいい。1分でもやってみると結構長いが、試してみて下さい。
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