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  • バイオカフェ「イモムシがチョコレートと出会ったら」

     2017年4月14日 日本橋門洋菓子店でバイオカフェを開きました。お話は農研機構食品研究部門 宮ノ下明大さんによる「イモムシがチョコレートと出会ったら」でした。石川寛子さんにより、バイオカフェでは初めてのコンティネンタルタンゴが2曲、ヴァイオリン演奏されました。


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    宮ノ下明大さん
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    石川寛子さん

    主な内容

    食品の異物混入
     食品につく害虫の研究を始めたきっかけは、食品害虫研究室で「チョコレートにイモムシがつくのでどうしたらいいのか」と問題を持ち込まれたことで、当時はチョコレートを食べるイモムシがいることを知り驚いた。この研究の中でわかってきた様々なことについてお話ししたい。今日、とりあげるノシメマダラメイガのイモムシ(幼虫)はチョコレートを食べるので害虫だが、成虫は食べないので害虫ではない。
     異物混入の報告の3分の1は昆虫。昆虫を誤って食べてもガラス片、プラスチック片のように口内に怪我をするわけではないが、食品メーカーにとって虫の混入による製品の自主回収、企業イメージダウンなど、小さな虫が食品メーカーに与える影響は大きい。
     
    ノシメマダラメイガ
     ノシメマダラメイガの成虫は1㎝くらいの蛾で、着物の熨斗目(のしめ)模様と羽の柄が似ていることから、この名がついた。
     今日は成虫を入れたシャーレを持ってきたので、見てください。大きいのがメス。玄米の中にいる幼虫も持ってきました。数ミリの幼虫が3匹いるはずですが、見えるでしょうか。
     卵の大きさは0.5㎜で約5日で孵化し、幼虫時代は23日、蛹で7日、成虫の寿命は10日、成虫は何も食べない。
    食べるものはお米、唐辛子、ナッツ、ドライフルーツなど何でも食べる。幼虫は糸をはくので、私たちはクモの巣をはったようになっていたり、お米がつながっていたりするのを見つけることになる。
     成虫は1週間で死ぬ。1匹のメスを捕まえたことがあり、卵を持っていることを期待して観察していたら、213頭の幼虫が生まれて約200頭が成虫になった。繁殖率は高い。
     
    折込式オーバーラップシール包装
     原料の保管、製造、流通、店舗、台所と、食品製造から消費の全ての段階で昆虫は食品に混入しえる。製造過程で混入すると消費者は考えやすいが、製品になってからも十分に入り込む。製造工程で飛び込む場合と、製品になってからは包装材に穴をあけて入る場合、製品の包装の隙間や穴から入り込む場合がある。
     以前、チョコレートは折込式オーバーラップシール包装という包み方で売られていた。その包装からノシメマダラメイガが見つかったという相談を持ち込まれたことから、幼虫はどうやって入るのか調べた。チョコレートの製品と幼虫、成虫5ペア、卵をそれぞれ容器に入れたところ、成虫ペアが生んだ卵からでてきた幼虫と、卵からでてきた幼虫は箱に入ることがわかった。折込式オーバーラップシール包装とは、箱に両端のフィルムを折ったところに熱をかけてフィルムを溶かして閉じるやり方で、温度ムラがあると隙間ができ、そこから孵化したばかりの幼虫が入るようだ。次に、エアリークテスト(包装からの空気漏れを調べる)をしたら、熱でフィルムをシールしても隙間があることがわかった。
     空気の漏れる量の異なる包装をした箱を何種類か用意し侵入する幼虫の数を調べた。1分に300cc以上の空気が漏れる包装だと、漏れる空気の容量とともに幼虫の侵入数が上昇し、100-200ccの空気漏れだと幼虫はあまり入らなかった。
     空気漏れ500ccの箱、150ccの箱を作ると、空気漏れ150ccの箱では、混入は95.7%から14%になった。包装の密封度は幼虫の侵入に影響があることが明らかになった。今は折込式オーバーラップシール包装はなくなり、密封性の高い「フィンシール包装」が主流になっている。
     
    シュリンク包装 
     カップ麺などで行われるシュリンク包装では、熱をかけてフィルムを縮めるときに容器との間の空気を抜くために0.5㎜の穴があいている。この空気穴をかじって広げ、試験をした製品の7割に害虫が入ってしまった。
     穴の位置を変えた容器を作り実験をした。容器の縁をかじりにくくしたり、穴の位置を変えたり、穴のある場所に容器との隙間ができないようにしたりすると、虫の侵入を減らすことができた。今はシュリンク包装の穴の位置が工夫されて、害虫の侵入が減っている。
     
    イモムシがチョコレートに出会ったら
     25㎝のトレイに幼虫とチョコレートを置くと、18時間で25cmを移動しチョコレートに寄って行った。幼虫の触覚にたくさん穴があいていて、そこにチョコレートの臭いの分子がついて反応することがわかっている。
     ミルクチョコレート、アーモンドチョコ(粉砕したアーモンドが含まれたもの)、アーモンド単品で幼虫の発育を比較した。さらにチョコブロックとスライスで、チョコレートの形状による発育の違いも調べた。
     ミルクチョコレートは発育に時間がかかり、発育も悪い。アーモンドチョコのほうが発育がいい。アーモンド単品は一番よく食べる。
    アーモンドチョコレートの方がミルクチョコレートより栄養的に優れていて、よく育つ。ミルクチョコレートだと幼虫の共食いも起こり発育も悪い。アーモンド単品で成虫になるには25-40日だが、ミルクチョコは145日かかった。さらに、ブロックよりスライスの方が被害を受けやすいし、温度も高いほうが発育はよかった。
     次に発育状況とチョコレートの箱に入る時期の関係を調べる必要がある。チョコレートコーティングした菓子を使って実験した。
    ホワイトチョコレート、ミルクチョコレート、砕いた柿の種が入ったチョコレートでそれぞれでアーモンドをコーディングしたものを使った。砕いた柿の種入りチョコレートでコーディングしたアーモンドを食べた幼虫が一番よく育った。柿の種入りはアーモンドに比べてチョコレートの表面が凸凹していて幼虫の食いつきがよかった。中にアーモンドがはいっていても幼虫は3mmのチョココーティングを食べ進められず、アーモンドにたどり着けなかった。この3種類の餌の中では80日で成虫になったのが最短だった。玄米、米ぬかだと25-28日で育つのに、チョコレートは68-145日。餌によって発育期間が異なる。
     栄養的には必ずしも最適でないチョコレートの害虫になった理由は、チョコレート臭に誘引される、幼虫が成虫になるのに時間がかかるので長期保存されることが多いチョコレートの中で発見される頻度が高い、シノメマダラメイガはどこにでもいるので混入しやすいなどの理由が考えられる。
     みなさんもフェロモントラップ(雌の性フェロモンタブレットから1か月間徐々に臭いがでて、雄のノシメマダラメイガを高感度で寄せ付ける)を、家のベランダに置いてみると一杯虫がくっついて、ノシメマダラメイガがどんなに身近にいる昆虫であるかわかると思う。ただし、光に集まらないので、私たちが目にする機会は少ない。
     
    まとめ
     チョコレートは冷蔵庫か密閉容器に保管してください(冷蔵庫が有効なのは野外で成虫が活動している5〜10月は被害を受けやすいので、冷蔵庫が有効である。11〜4月は幼虫が休眠をしているので、冷蔵庫に入れなくても被害を受けにくい)。
     ノシメマダラメイガは、りんご、なし、ドライフルーツ(特にドライイチゴ)、オレンジの皮など何でも食べる。チョコレートのように発育に時間がかかっても、なんとか育っていこう!とする。他の種類の幼虫には決まったものしか食べない(モンシロチョウはキャベツなどのアブラナ科、アゲハチョウはかんきつ類の葉などミカン科)ものが多い。そういう幼虫と比べると、ノシメマダラメイガには生きる戦略を感じている。



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    会場風景
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    店内の看板

    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 個体による性格の違いはあるのか → 性格まではわからないが、個体差は大きい。餌によって差がでる。チョコだと長く食べてゆっくり成長する。同じ発育段階の幼虫でみると、幼虫自身の食べる能力の他にも、食べやすいチョコの角を見つけるなどのちょっとした条件の違いが成長に影響してくる。成長のばらつきは餌によると思う。
    • イワシやオキアミがとれなくなってきており、ノシメマダラメイガは魚の餌として使えないか。長野県では餌としてカメムシの利用を研究している。昆虫食の視点から考えてノシメマダラメイガの栄養価は → 豚肉と同じ位バランスはいい。宇宙での昆虫食として研究している人もいる。廃棄物で飼育したノシメマダラメイガを鶏や魚の餌にするのは有望だが、ペイするか、規模とのバランスが問題。害虫を養殖魚の餌にしようとする研究はある。
    • 群馬にはハチの幼虫をたべる習慣がある。人はノシメマダラメイガ食べられないだろうか → 偏見がなければ食べられる。カイコは成虫も蛹も食べる。ノシメマダラメイガの場合、餌によって、チョコレートやオレンジの香りがするかもしれない。
    • 光に集まらないという性質や雑食性は進化過程で獲得した戦略か → 発育速度は他の種類のガと変わらない。ノシメマダラメイガは自然界にいたときには落ちて乾燥した果実を食べていたから、人間の乾物の保管庫などに入ってくる。モンシロチョウなどは水分含有率が高いものしか食べられない。乾燥したもので生きられる昆虫が食品害虫になったのだと思う。
    • ノシメマダラメイガは自然界では何を食べ、どのくらい移動し、卵はどこに産むのか → 餌と産卵場所は5年間探しているが見つからない。誘引される距離については性フェロモンの有効範囲は半径15m位といわれている。
    • 小さい穴から入って嗅覚が鋭いなら、容器に昆虫の嫌うにおいをつけたらどうか → 食品包装の密封性を上げるのと、忌避剤(虫の嫌う物質)を食品包装に付加する試みは始まっている。防虫の開発途上の技術で、アマゾン川流域に分布するコパイバという植物のオイルにはノシメマダラメイガの幼虫に忌避効果があることがわかり、シチュウルウの箱に塗る光沢剤にこの臭いが入れられているという。昆虫が嫌がる臭いがして、かつ食品の味や風味に影響を与えないものであることが利用の条件になる。
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