サイエンスピクニック2017 カフェ
「日本のカンキツ産業を支える!品種改良の新旧あれこれ」
2017年2月4日、5日に、静岡科学館る・く・るで開催されたサイエンスピクニック2017に、株式会社三菱化学テクノリサーチ様と共同で出展しました。ブースでは「世界の食を支える!品種改良の新旧あれこれ」と題し、来場者のみなさんとクイズをしながら品種改良について勉強したり、DNA抽出実験を楽しんだりしました。
5日にはワークショップを開催、みかんジュースからDNAを取り出して目で見た後に、静岡市内に研究所のある、農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門の後藤新悟さんから「日本のカンキツ産業を支える!品種改良の新旧あれこれ」と題してみかんなどのカンキツの品種改良に関するお話を聴きました。
展示ブースの様子
ワークショップの様子
後藤さんのお話
今日の話のテーマは大きく分けて、温州ミカンの品種改良 DNAマーカー 早期開花遺伝子の3つ。
温州ミカンの品種改良
たくさん種類のあるカンキツ類の中でも、温州ミカンは在来品種。昔にそこにあるカンキツ同士が偶然に交配し、偶然に人間が見出したもの。いよかん、はっさく、文旦、紀州ミカンなども在来品種。温州ミカンを親として、人の手で交配して作られたものにも清見、不知火、せとか、はるみなど、たくさんの品種がある。温州ミカンは美味しくて、食べやすく、日本の気候で栽培しやすく、国内のカンキツ品種栽培面積の7割が温州ミカンである。これらの性質を取り入れた新品種を作りたいのだが、実はこれが簡単ではない。
違う品種同士を交配するといろいろな性質のカンキツが出来てくる。この中から優れた性質をもった個体を選抜し、新品種にするのだが、実は温州ミカンは花粉が非常に少ない。温州ミカンを食べているとタネがほとんどないことに気づくと思うが、これは花粉が少ないことが要因の一つである。品種改良の際、花粉は父親に当たるので、花粉が少ないのであれば母親として使えばよいのでは?と思うかもしれない。しかし、そうすると今度は、大抵の場合、母親とまったく同じ性質の子どもしか作られなくなる。この原因は温州ミカンが「多胚性」という性質を持つからである。カンキツの種子をばらしていくと、胚がいくつかに分かれていて、交配をしても雑種になる胚はそのうち1つだけで、しかもどれが雑種胚なのか見分けがつかない。ほとんどの場合、交雑胚は発芽してこない。でも、稀に突然変異で母親とは性質が違う個体がでてくるので、それを品種改良に利用している。
カンキツの品種改良には、枝変わりも利用する。稀にひと枝だけ性質の異なる枝が出てくることがあり、その性質が都合の良いものであれば、それを挿し木で増やして、新品種とする。極早生、早生、中生、晩生など果実の収穫時期の異なるものが主だが、これらの性質が偶然出てくるのを待たないといけない。
スイートオレンジと温州ミカンを交配してできた数千個体から3つだけ、両方の親の性質を合わせ持つ(交雑した)個体が見つかった。このうちの1つが清見である。清見は花が咲いた時、花粉をかければ種が入る。ということは、清見は単胚性で、交配すれば両親の性質を合わせ持つ(交雑した)子供ができることが分かっている。そのため、交配で品種改良する際の親になることが多い。交配で作られた品種ははるみ、せとか、たまみ、西南のひかりなどの品種がある。西南のひかりという品種は特にβ-クリプトキサンチンの含有量が高い。ちなみに、温州ミカンにはβ-クリプトキサンチンの含有量が高く、温州ミカン食べることで骨粗しょう症リスクが低減されるという研究報告があるので、みなさんにはもっとミカンを食べて欲しい。
カンキツの品種改良
私のいる研究所では、交配して得られた個体を毎年約1000系統ほど育てて、良いものを選ぶ作業を進めている。スピードを上げるため、交配してできた個体をカラタチの台木に接ぎ木して、開花までの時間を短くしている。接ぎ木しないと花が咲くまで5~8年かかるが、接ぎ木すると2-3年で開花するようになる。
品種改良の途中、試食をして美味しい個体を選ぶが、大抵の個体は美味しくないので、これも大変な作業。品種改良していくなかで、合計2000個体から1つ良い個体が見つかれば良いほうで、時間に換算すると20年はかかる。
今後はかいよう病という病気に強い品種を作るなど、農家のニーズにも応えたいと考えている。のんびりと時間をかけていることはできないので、さらに効率よく育種をすすめる必要がある。
DNAマーカー選抜育種
ミカンは染色体を9本持っており、この中には様々な性質をつかさどる遺伝子がある。注目する性質に関係する遺伝子やその周辺にあるATGCの文字の繰り返しの回数を目印(マーカー)にしてDNA鑑定を行うことで、その個体がその性質を持つかどうか、調べることができる。これは成長して花が咲き、実がならなくても鑑定できるので、望む性質の個体を早い時期に選ぶことができる。結果的に品種改良の効率化となるが、この技術をDNAマーカー選抜育種という。具体的には、カンキツでは種なしか否か、ウイルス病耐性があるかどうか、などの性質について“DNA鑑定”が使われている。
早期開花遺伝子の利用
品種改良では、優れた品種に他品種のある性質だけを付け加えたい場合、この2品種を両親として交配をして選んできた個体に、再度優れた品種を交配することを繰り返すことがある。これを戻し交配と言う。イネなどではよく行われるが、カンキツで戻し交配を行うと、数十年の時間がかかってしまう。そこで、遺伝子組換え技術で早く花が咲く(早期開花)の遺伝子を導入して、花が咲くまでの時間を短縮し、交配をくりかえしても時間がかからないようにする方法が研究されている。この方法では、最後に早期開花遺伝子を持たない品種と交配し、目的の性質は持つけれど導入遺伝子は持たない個体を選ぶことをする。カンキツの台木に使われるカラタチはカンキツトリステザウイルス抵抗性を持っている。このウイルス抵抗性の性質だけを新品種に入れる、という試みを進めている。実際に、開花までに数年かかるところが、早期開花遺伝子をいれた個体は7か月で開花し、1.5年で実がなることがわかった。
現在は、このような方法を利用して、キンカン由来のかいよう病に強い性質を持った新品種が作れないかという研究も検討されている。
話し合い
- 遺伝子組換えの話がでたが、日本の油は遺伝子組換えですか → 食用油の原材料であるトウモロコシ、ダイズ、ナタネ、ワタは組換えの品種をたくさん輸入し、利用している。ダイズは飼料としても使われている。飼料と食用油用として組換えダイズの需要は増加している。
- 紅マドンナは非常においしいが、ひとつ500円は高い。どうしてこんなに高くなるのか。これからは安くなるのか → 新しい品種は高いが普及が進むと安くなるだろう。
- ゲノム編集は植物では使えるのか → 海外では農業分野でのゲノム編集が進んでいる。柑橘類ではまだだが、リンゴでのゲノム編集は成功している。ジャガイモのソラニンをできにくくしたり、マグロを養殖しやすくしたりする研究もある。