コンシューマーズカフェ「食品表示を考える」
2017年2月2日、一般社団法人「Food Communication Compass」代表 森田満樹さんをお招きしてコンシューマーズカフェを開きました(於 くすりの適正使用協議会)。2016年度検討されている原料原産地表示を中心とした食品表示と来年度検討されるといわれている遺伝子組換え食品の表示についてお話しいただき、参加者みんなで話し合いました。
森田満樹さん
会場風景
主なお話の内容
1.食品表示について
はじめに
表示で大切なのは箱の裏にある法律で義務付けられているもの。そこに一括表示や栄養表示が書かれている。多くの人は、価格、期限、商品名しか見ないが、一括表示には名称、原材料名、消費期限または賞味期限、保存方法、内容量、製造者など重要な情報が書かれており、栄養表示も義務化されるので、まずはそこを確認してほしいと思う。あわせて「食品中の黒点は異物混入でない」「電子レンジ加熱時に注意する」などの大切なメッセージも裏面に書かれている。
表示の目的
表示は以下の2種類がある
義務表示:安全(アレルギー 消費期限 保存方法のみ)と商品選択(原料 原産地など)
任意表示:使い方など商品選択のためと、差別化のため。
食品安全に関わる表示に問題があると、自主回収になることもある。回収の半分は安全に関わる表示関連となっている。
表示関連法令
2015年4月、食品表示法が施行され、今は5年間の移行期間中で新表示と旧表示が混在している。現場では8割程度がまだ旧表示で、新表示への移行は進んでいない。
食品表示法はJAS法、食品衛生法、健康増進法の3つの法律の表示の部分を一元化したものである。栄養表示が加わったこともあり、表示しなくてはならない情報量は増え、食品表示基準は全部で750ページちかくなっている。他にも「不当景品類及び不当表示防止法(景表法)」(消費者を著しく誤認させるような表示はだめ)、薬機法(医薬品のような効能をいってはいけない)、計量法(内容量に関する)など、いくつもの法律が関係している。
その中で食品表示法は消費者視点が強く、消費者により多くの情報を伝えようとして新たに制定され、罰則も強化されている。せっかく栄養成分表示などの情報が充実したのだから、それを読み解くための消費者への普及も大切な課題である。
2.加工食品の原料原産地表示ついて
原料原産地表示の見直し
そこにきて2016年、全ての加工食品に原料原産地表示を義務付ける方針が決まり、2017年夏に食品表示法の基準が改正される予定である。
現行では生鮮食品は原産地、加工食品は原料原産地、輸入品は原産国を表示することになっているが、2016年1月から11月に検討会が開かれ、すべての加工食品の原料の重量第一位に原産地表示が義務化するという報告書が出された。
ちなみに食品表示法ができたとき、原料原産地、遺伝子組換え、中食・外食におけるアレルギー表示、添加物、インターネット販売の5項目が先送りの検討事項とされた。今、そのひとつずつの見直しが行われている。外食のアレルゲン表示とインターネット販売の議論は終わっている。食品メーカーなどから、正確な表示をするためには、全項目の見直しが終わってから5年の猶予期間がほしいという意見も出ている。表示が五月雨式で変わっては、中小企業でなくてもきちんと対応することは難しいだろう。
食品表示全体から原料原産地表示を考える
食品表示法に至る具体的な検討は2011年から始まり、食品表示一元化検討会でわかりやすい表示を求めて議論された。しかし、食品表示基準はわかりやすくなっただろうか。記載内容が増えると文字が小さくなる。一元化検討委員会では、表示項目をむやみに増やさず、大事なのは安全性の表示であるというところも言及してきた。
原料原産地表示は安全性のための表示ではない。それでもきちんと表示するためにはトレーサビリティを整備するなどコストが必要になる。これまで表示対象品目が拡大されなかったのは、日本は自給率が低く、安定供給のために、世界各地から安全な原料を集めているから。原産地が変わるたびに表示を改版するのは実行可能性が低い。加工食品の原料原産地表示の検討では、このような理由で拡大されてこなかった理由を明確にされないまま、全ての加工食品への義務化が進んでしまった印象がある。
現在の原料原産地表示制度
消費者は生鮮食品の原産地(とれた国)を知りたいのか、加工された国が知りたいのか。これまではベトナムでとれた大根を中国でたくあんにしたら、ベトナムが原料原産地として表示されてきた。収穫地を表示しないと誤認を招くという考えがあったからだ。
2000年になり、生鮮食品の原産地表示が義務化され、加工食品も生鮮食品に近いものから原料原産地表示が拡大されていった。梅干しとラッキョウの議論から始まり、中国の梅を紀州で梅干しにしたら、原料原産地は中国と表示するルールになった。加工食品にはこれまでに22食品群と4品目に原料原産地表示が義務付けられてきた。たとえば、アジの干物、ウナギの蒲焼、緑茶、漬物など多岐にわたる。
一方、現状では国産の原産地については自主的表示が多い。例えば国産豚肉であることを強調したいハムなどはきちんと表示している。リンゴジュースの原料の多くは中国産だが、一年中店頭に並べるためには、様々な産地から原料を集める。こういうケースでは原料原産地は時期で異なり、正確な表示は難しく表示はされてこなかった。今回は事業者、消費者団体から原産地表示に反対する意見も出たが、最終的には例外表示を認めつつ、全ての加工食品に義務付けることが決まった。例外表示として、これまでは認められなかった製造地(どこで製造されたのか)の表示なども原料原産地表示として導入されることになった。
どんな表示になるのか
原料原産地表示は豚肉(国産)とか、豚肉(アメリカ、カナダ、その他)と書くのが国別重量順表示の原則となる。しかし、多くの加工食品は、原料の原産地が頻繁に変更されたり、原料が既に加工されていたりするため、この表示方法では困難な場合もある。そこで例外表示として次の4つの例外表示が導入された。また、義務表示対象は「重量順1位の原材料の原産地」となった。
可能性表示は、原料の原産地の可能性のある国を「又は」でつないで列挙する方法で、3か国目以降は「その他」でもよく、過去の使用実績などをもとに表示される。
大括り表示は、輸入原料の調達先が3か国以上の場合、「輸入」と大きく括って表示する。
可能性表示+大括り表示は、2つの表示方法の組み合わせで「国産又は輸入」「輸入又は国産」などと表示する。
製造地表示は、原料が加工品の場合、原産地表示の代わりに製造地を表示する。輸入した油糧穀物や小麦などを日本で最終加工をする場合「国内製造」になり、多くの食品がこの製造地表示になるだろう。
これらは国別重量順表示のように原産国を羅列する方法ではないが、表示ルールがわかれば原産地に関する情報を知ることができる
一方、スーパーマーケットの豚カツの対面販売のように製造・加工した場所で売るときや、容器に入れたり包装したりしないときは対象外となる。外食も対象外だ。
これまでに原料原産地表示の国内説明会(9か所15回)がすべて終了した。全国消費者団体連合会の支部は、あまりにも複雑な制度で消費者を混乱させるとして、全国の説明会それぞれで反論を唱えていると聞いている。
3.遺伝子組換え食品の表示
さて、次に遺伝子組換え食品の表示もこれから見直しが検討されると聞いている。
現在の日本の表示制度では、組み込まれた遺伝子や、その遺伝子によって作られるたんぱく質が残っている可能性がある食品だけを表示対象としている。たとえば油やしょうゆなどは、製造工程で酵素分解や加熱、精製などによって遺伝子やたんぱく質が分解されるため、“証拠”が残らない。遺伝子組換え作物を用いたかどうか、最終製品を分析しても判断できず、表示は不要とされている。しかし、原材料が同じ大豆でも、豆腐や納豆、みそなどは、遺伝子組換えにより導入された遺伝子やたんぱく質が製造工程で分解されずに残るので表示が必要だ。現在、輸入作物で表示義務の対象は、大豆、とうもろこし、じゃが芋、なたね、綿実、アルファルファ、甜菜、パパイヤの8種類の作物と、それを原材料とした33の加工食品に限られている。
表示方法も複雑だ。対象品目で原材料に遺伝子組換え作物を用いている場合は「遺伝子組換え」、遺伝子組換え作物と非組換え作物を分けて管理していない場合は「遺伝子組換え不分別」とする表示が義務づけられている。アメリカのような大規模農業では、穀物を運ぶさいに同じ倉庫やコンベヤー、トラックなどを使うため、わざわざ分けずに流通させる「不分別」が主流である。現在、日本に輸入される組換え作物もほとんどが不分別だが、表示が免除される加工食品に用いられるので「不分別」表示を見かけることはほとんどない。現在、遺伝子組換え原料を分別流通管理していない「不分別」表示を行っている流通事業者で、表示義務のない植物油脂やマーガリンなどに自主的に表示をしているところもあるが、一部である。
一方、表示で見かけるのは任意表示である「遺伝子組換え不使用」や「遺伝子組換えでない」である。これら書いているメーカーに尋ねると、そのように一度書いてしまうと、やめたときに問い合わせがくることが想像されて、その表示をやめられないのだそうだ。ただし、新商品から「組換えでない」表示をやめる傾向は広がっている。
この複雑な表示制度は、1999年から2001年まで、長く検討して決まったものだが、それから一度も見直されていない。決まった当時、「不分別」が増えると思ったが、ほとんどの事業者は「不使用」表示になるように分別原料調達に大変な努力をしたのである。
来年度、見直しが行われて醤油や油も表示対象になったり、5%の閾値が変更されたりしたら、「不分別」は増えるだろうか。「不分別」表示だらけになると遺伝子組換え原料を使っている現状がしっかり理解されていいという意見もあるが、どうだろうか。狭い表示のスペースに、原料原産地表示に加えて遺伝子組換えのような安全に関わらない情報をこれ以上書くのか。実行可能性、科学的根拠を検討しながら、分かりやすさについても議論することが重要だと考えている。
この表示制度を検討した1999年ごろは、遺伝子組換え食品の反対運動が盛んだった。事業者は遺伝子組換え表示は、遺伝子組換え食品は安全でないと消費者をミスリードすると主張し、表示を求める消費者団体側と真っ向から対立した。この制度は両方の意見を取り入れたともいえるものだが、表示の実行可能性は科学的根拠によって定められた。検討会の最後に座長が「この表示制度は誰にとっても満足できるというものではない」という趣旨の発言が印象に残っている。
食品安全への理解が不十分で、消費者が安心できないとき、表示制度はゆがむ。本来の表示制度は、食品の安全に関する情報を適切に伝えるのが一番優先されるべきである。しかし、安全が理解されていないと、安心のために消費者の知る権利を満たすためにのために、表示項目をふやしてほしいという意見も出てくる。そのためのコストがかさむときにどの様に考えたらいいのか。食の安全情報を科学的根拠でとらえるにはどうしたらいいのかも含めて、皆で考えていきたい。
話し合い
- 今回の検討を傍聴していたが、座長と事務局が「表示ありき」で進めた印象が強い。事業者、消費者団体が発言しにくくなっていった。反対意見は議事録に載っていないようだ。
- 事業者は一生懸命に確認を重ねて表示をし、間違えると巨額の損失がでる。以前、プライベートブランドで400アイテムの改版をした経験があるが、本当に表示担当者は心身とも衰弱しきってしまった。安全性に関係ない表示のために、それだけの負荷と損失のリスクを食品メーカーに課していいのか。国内製造ロンダリングが多発するだろう。それは消費者のメリットといえるのか
- 自民党TPP対策委員会では、原料原産地表示の議論は後回しで、物流が焦点だった。ヒヤリングを行う人の人選にも問題があると思った。以前、漬物大手が福神漬けのゴマは産地があちこち変わるので対応できない旨を主張したが、結局認められず、ゴマの使用量を4%以下にすることで対応した例がある。
- 今回の原料原産地表示は政治判断となった。検討会は自民党の動きをみて、途中から暴走したと思う。稚拙な決定をしてしまい、消費者は表示を理解できるだろうか。
- 表示で売り上げは変わるのか。お茶飲料の表示が義務化されたときに、中国産原料の使用が減ったことがある。今回の表示が国産振興につながるのかはわからないが、原料を選ぶときに国産を選ぶ業者はでてくるかもしれない。一方、国産振興の成果は測定できない。
- 加工食品が安くなったのは消費者が望んだから。そのためにメーカーは海外で安い原料を得た。国産がいいのなら高くしていいのだろうか。今の安くておいしい加工食品で満足している人が多い。
- 表示が変わると、問い合わせが多くなるだろう。わからないことは電話をしてくる人が多い。問合せ先はメーカーよりハードルが低く、店員に声をかけやすいスーパーマーケットに来るだろう。NBとPBを比べると、PBの問合せが断然多い。
- 原料原産地表示検討会の報告書に「高齢者はネットリテラシーが低いから」と書かれており、これはインターネットを使いこなす高齢者に対して失礼であるし、「コミュニケーションで説明する」と言い切っているが、本当にそこまで理解を深めるコミュニケーションができるのか。
- パン、めんは「国内製造」表示で食品メーカーは対応することになるだろうし、冷凍食品、果汁も同様になるだろう。
- 大手メーカーは表示に対応できるが、零細企業に新しい表示の包材をつくれるか。
- 表示制度がわかりにくくなると、メーカーのストレスは保健所にしわ寄せがくる。最終的に全部決まってから5年間の猶予することと、健康影響がない不適切な表示の食品は回収しないことをまず第一に決めるべき。自主回収、店頭回収、出荷停止など3段階くらいの対応も考えられる。回収せずに罰金もあり得ると思う。
- 包材メーカーも責任の所在はどうなるのかと不安だといっている。
- 食品添加物では、猶予期間を延ばして事業者が対応できるようにするのが大事だと思う。
- 食品メーカーの負荷、管理コストは一斉値上げになるだろうと業界は発言すべき。修正の告示の中で、情報量が増えて、大事なアレルゲンの表示間違いが埋もれてしまったりするのが、本当は最も危険。安全性に必要なものだけにしぼりこむべき
- 安全はただで買えると思っている消費者が多い。安定供給がいかにして守られているかが理解されていない。原材料の買い負けが起こり、全体の市場価格はあがってきている。
- 5年延長でしか事業者はいえない。企業としてお客さんに正確な情報を届けたいと思っている。消費者委員会はまじめにやっている中小企業はどうするのかといっている。政治決定されたことに食品企業はひいている。政治的にできることはないのか。
- 原料原産地表示を食品メーカーは実施できるといっているのか→事業者はイエスといっていないと思う。でもノーともいいにくいのだと察する。食品メーカーはまじめに正確な情報を消費者に伝えたいと考えていると思う。
- アメリカでは州単位で表示をするといっているというが→パッケージに書くよりもスマホで見るような方法に進むように見受けられる。
- 遺伝子組換え表示見直し要求はずっとあったが、一元化で積み残しになっていた。
- 組み換えたかどうかを検知できるかどうかより、プロセスで表示するようになるだろうか。
- 不分別という表示がわかりにくいのは事実だと思う。トレースアビリティベースで表示したら表示できる項目も変わるのではないか。
- NBTは表示対象になるのか。
- 遺伝子組換えの形質は害虫抵抗性、除草剤耐性などでリスク感があった。BSEのときに病気の牛の映像にインパクトがあった。NBTでも誤解を生みやすい映像がでなければいいと思う。
- 遺伝子組換え表示を考えるときにこの技術はどう大事なのかという俯瞰した話ができるといい。表示は必要かが議論されない。
- 自治体からの要望のとりまとめには、安全安心のために原料原産地表示を要望するというものがあった。原料原産地表示は商品選択のための情報であることが理解されていない。
- 遺伝子組換えでは、健康被害が20年でていないこと、食品安全委員会が審査していること、消費者の知る権利で表示することが周知されていない。そして不安が払しょくできない。
- 生産者取材をすることが多いが、生産者は原料原産地表示には賛成で国産がより買われると思っている。全農としては、原料原産地表示で生産者を守ろうとしているのではないか。実際に表示をきっかけに漬物の原料を国産に変えた企業はある。制度変更で国産に変えた企業はあると思うが、全体ではどうだろう。
今回は国産の購入が増えることよりも、国産品をつくりだす生産者が増えなくてはだめだと思う。