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  • サイエンスカフェみたか「害虫をコントロールして作物を守る〜害虫の性質を利用した害虫防除」

     2017年1月12日、サイエンスカフェみたかを三鷹ネットワーク大学で開きました。お話は農研機構 安居拓恵さんによる「害虫をコントロールして作物を守る〜害虫の性質を利用した害虫防除」でした。 農作物に対する害虫の被害の大きさ、そしていろいろな防除方法が工夫されていることがわかり、満席の会場からは活発な質問がされました。


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    安居拓恵さん
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    会場風景1

    主なお話の内容

    1.害虫防除技術の変遷
    江戸時代は水田に油をまいたり、たいまつをたいて畑の中を行進したりするなどおまじないとかわらないものが行われていた。その後除虫菊などが利用されたが、蚊やハエなどの衛生害虫向けであった。戦後の有機合成殺虫剤登場は、劇的な効果を表した。これが有機リン剤で人にも毒性があるものだった。
     
    農薬の働き
     農薬がないとどのくらい収穫できないのか。日米ともにりんごブドウは農薬なしにはほとんど収穫できないなど、害虫被害は国内外の収穫に大きな影響を与えている。環境汚染や作業者への事故が起こり、殺虫剤の悪影響を心配する声がでてきて1960年ごろから天敵なども利用する総合的害虫防除が始まった。
     
    2.これからの害虫防除
    IPM(Integrated Pest Management 総合的害虫防除) 害虫を皆殺しにしなくても経済的被害を小さくするように複数の技術を総合的に利用する。IPMでは生態学的視点、コストの問題も合わせて検討される。
    IPMには、物理的な防除、化学農薬を散布したり、天敵を放ったり、遺伝子組換え技術で耐虫性作物をつくったりするなどいろいろな方法がある。そこでは、いい農薬が出てそればかり使うと殺虫剤に強い個体が生き残って増えて殺虫剤が効かなくなる殺虫剤抵抗性も考慮しなくてはならない。
     
    防除の方法
    防除の方法にはいろいろな方法がある。
    ・即効的防除技術(化学合成農薬の利用)
    ・緩効的技術(すぐに効果が表れにくい。性フェロモンの利用など)。
    ・予防的防除技術(害虫に食べられにくい品種をつくる。植物に刺激を与えて天敵を呼び寄せる)
    ・物理的防除技術(かなり発達してきていて、効果はあるが理由が解明されていないものもある。害虫の行動を制御する色の光の利用。紫外線カットフィルムやシルバーマルチを畑に敷くとアブラムシが入ってこないなど)
    ・環境機能利用技術
     
    性フェロモンの利用
     性フェロモンとは、例えばガなどではメスの出す物質でオスが寄っていく。この性質を利用する。カイコの「ボンビコール」が初めて発見された性フェロモン。1959年、50万頭のメスのカイコガを使って同定された。
    今では600種類以上の性フェロモンが同定されており、似た構造を持つ誘引物質も見つかっている。性フェロモンは、微量で強力に働き、同種の相手だけを選択する(特定の害虫を見つけられる)などの特徴がある。
    一方、昼間飛ぶ虫は目で見るので性フェロモンを持っていないこともあるし、接触しないと認識できない性フェロモンもある。
    性フェロモンを使った防除法には次のふたつがある。
    ・大量誘殺法:メスの性フェロモンのトラップ(罠)にたくさんのオスを集めてしまう。
    ・交信かく乱法:合成フェロモン剤を圃場に充満させ、オスがメスを見つけられなくする(交信かく乱剤)。交尾できないので次世代が生まれない。20数種類の性フェロモンが見つかり18剤が開発されているが、それらはチョウ類対象。
    天敵の利用
    劇的な効果は見えにくい。天敵テントウムシはアブラムシを食べてくれる。通常成虫は羽があるので飛んでいってしまうが、他にいいものがあっても飛んでいかないテントウムシを作り、ハウスに住みつかせる。これはあまり飛ばないテントウムシを選んで飼育して選抜した系統がある。
    環境中のクモ、カブリダニ(植物を食べるダニを食べる肉食ダニ)、テントウムシ、ある種類のハチ(寄生性天敵といい、害虫の幼虫に卵を産みつけるので幼虫は成虫になれない)、病原性微生物(虫を病気にかからせる)をうまく取り込んで農業地に生息させるようにする研究も行われている。
    天敵誘引剤(餌で誘いハウスで飼っておく)を使ったりするが、安定的導入は難しい。非選択的農薬が日本では多く、昆虫は皆殺しになってしまう。天敵に影響の少ない農薬もでてきているが、まず、天敵に働いてもらうための環境整備が必要。
     
    3.環境にも人にも優しい技術開発
     沖縄県と信越化学との共同研究として、性フェロモンを使ってサトウキビの害虫防除を行った。
     サトウキビは砂糖原料の7割をしめ、沖縄の耕地面積の47%がサトウキビ畑。宮古島、伊良部島で収穫直前に立ち枯れて、収穫できなくなる被害が広がった。それらのサトウキビの根はほとんど食べられてしまっていた。収穫減だけでなく精神的にもつらい。これはケブカアカチャコガネ(1999年サトウキビ害虫として認定された)というコガネムシの幼虫が地下茎や根を食べてしまうもので、倒れたサトウキビの根には幼虫が8-9頭ついていたものもあった。
    これらの島では地下水を利用しているので、土壌農薬を大量にまけない。
     それまで知られていたのは、石垣島などの山地でしか発見されない、1匹3000円の貴重なコガネムシだった。1世代は2年でほぼ土中で過ごす。成虫になってから地上に現れるが活動時間は短い。オス・メスとも一斉にでてきて、性フェロモンによって誘引、交尾、地下にもぐってサトウキビの根に卵を産み付ける。地上に出たてきたときにコントロールするのが効率的。
     2月に多く発生する。2月、18時の気温が18度以上の日没前に土から地上にでてきてオスがメスの性フェロモンを頼りにメスを探索する。2年近くも土中にいて、限られた日の限られた時間に一斉に地上に出てくる。この時間をねらう。
     ケブカアカチャコガネの性フェロモン物質(R)-2-ブタノールを誘引源として罠トラップをかけたると、オスが大量に捕獲される。しかしメスは野放し状態。交尾を阻害したいので、フェロモンを畑に充満させてオス・メスをかく乱させる交信かく乱技術を試すことにした。この技術はガでは進んでいるが、甲虫ではこのような技術は普及していない。
     
    2-ブタノールで誘引活性があるのは分子構造が右手型の非常に高価な(R)-2-ブタノールだけだが高価すぎて実用向きではない。右手と左手の混合の薬剤は安いがこれではオスは誘引されなかった。しかし、室内実験では混合の薬剤でも充満させるとオスはメスにたどりつかないことを確認できたので、野外で試みた。具体的には、右手と左手混合の2-ブタノールを入れたチューブを畑にはりめぐらす。
    メスの交尾率は無処理区で100%だったが処理区ではほぼゼロだった。翌年のサトウキビの根の幼虫の数を調べたところ、交信かく乱効果があったことがわかった。無処理区のサトウキビの根は食べられてしまい、処理区は根があって収穫できた。
    この「性フェロモンチューブ(ケブカコン)」は市販化間近!
    甲虫類害虫に対する交信かく乱剤として、コガネムシ類では初の効果を明らかにできた。
     甲虫類でこの技術が確立できたのは、オキナワカンシャクシコメツキが1例目、ケブカアカチャコガネは2例目。
     
    4 昆虫の行動の特徴を利用する
     ゴマダラカミキリは体長3センチ。大型カミキリのひとつで触角の長さを入れると7㎝もある。幼虫は木の中を食べ、幹の中を食い荒らして木を枯らす。いろんな種類の木(ミカン、ブルーベリー、クリ、ナシ、ヤナギ、ポプラ、シラカバなど)を広範囲に食べる。ゴマダラカミキリは世界的な大害虫で防除法は食べられた木を切り倒すしかない。
     植物の株もとに産卵し、幼虫は幹の中を食い荒らして成長し、1-2年で幹からでてくる。外からの殺虫剤散布は幼虫に届かない。そして広範囲を飛翔するので、被害が広がる。
     
    餌の与える影響
     ブルーベリー枝、ミカン枝、ヤナギ枝を食べるオスとメスの交尾を観察して分析した。
    どの枝を食べたメスとオスは交尾するのかを調べたら、自分と同じ餌を食べたメスとオスはすぐに交尾することがわかった。例えば、ヤナギ枝を食べたオスとメスはほとんどが交尾する。
     ミカン枝を食べたメスの抽出物を塗った黒いガラス玉に対して、ブルーベリー枝を食べたオスとヤナギ枝を食べたオスは忌避した。これの関係を調べた結果、ミカン枝を食べたメスの抽出物にあって、ヤナギを食べたメスの抽出物にない物質はβ-エレメンだった。ミカンの枝を傷つけると出てくる物質で、オスが触角で触れると認識できる。
     この現象を防除に生かす方法を考えた。メスはミカン枝が好きなので、例えばブルーベリー畑の中にミカン樹を植えるとメスはミカンに集まる。オスはミカン枝を食べたメスを拒否する。結果として、ミカンを植えるだけで、ゴマダラ防除ができるというものである。まだアイディアの段階で、実際の防除はこれから試す。



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    おみやげの葉の形のクッキー
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    会場風景2

    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 三つの木を食べていたゴマダラは亜種になったりしないのか → しない。餌の問題はDNAとは関係がない。
    • ブルーベリー農園にミカンを防除のために植えた農家はあるか → 2016年夏に発表したばかり。2017年は、狭い空間でヤナギのそばにミカンをおいて成虫を観察したい。ミカン園に利益がある方法も考えてくれといわれている。
    • トウモロコシ、ダイズなど世界的な穀物における、こういう防除法は研究されているのか → モンシロチョウとアブラナ科の作物のように特定の植物しか食べないような昆虫に対する研究は進んでいる。いろいろな作物を食べる、雑食性害虫の研究は進んでいない 
    • バッタ類の害は → バッタは密度が少ないとイネ科しか食べないが、密度が増えると雑食になる。バッタ被害も世界の大きな問題。
    • ある害虫を根絶やしにすると他の害虫がふえることはないのか → コナガが交信かく乱でいなくなったら、ヒロバコナガがきた。音などを組みあわせる方法などを考えていきたい。 
    • フェロモン剤と農薬の違いは → 日本では性フェロモン製剤は登録上農薬というカテゴリーになるが、作物に触れないのでオーガニックでは性フェロモンはつかってもいいことになっている。
    • 性フェロモンを使うと作物に影響はないのか → 枝にかけたり作物から離れた地上に張り巡らすなど、農作物に触れないので、作物に影響しない。
    • ガが発生したときにチョウ目害虫一般に効く性フェロモンは使えるか → 種が異なると利用している性フェロモン成分は異なるのでガ全体に効くような性フェロモン剤は無い。大きい被害がないと性フェロモン剤は開発されない。
    • オルトランをまくと植物に吸収されて虫が食べたくなくなる。これも農薬か → 化学農薬の一種。
    • ゴマダラカミキリはどうやって防除しているか → マシン油を散布して成虫を窒息させる。幼虫がふ化して幹に入るときにあける小さい穴があり、穴の周りに糞がある。その穴にスミチオンや針金をさし入れる
    • 性フェロモンは右手型か → 右左両方ある
    • マルチシートはなぜ有効か → アブラムシが光を嫌うからだが、嫌う理由は不明。色によって好んだり嫌ったりする。
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