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  • TTCバイオカフェ「遺伝子組換え技術の進歩とGM食品」

     2016年11月25日、東京テクニカルカレッジ(TTC)にて、21回目となるTTCバイオカフェを開催しました。スピーカーは東京農工大学 遺伝子実験施設の丹生谷博さんで、「遺伝子組換え技術の進歩とGM食品」というタイトルでお話いただきました。丹生谷先生には、「私たちのDNA」という大人向け実験教室では会場をお貸しいただき、ヒトゲノムを扱うための大学内の手続きなども対応してくださり、長い間、くらしとバイオプラザ21の活動をご支援してくださっている研究者のおひとりです。
     当日の音楽演奏はアイリッシュハープ奏者の北政扶美子さん。開会前から素敵な音色を聴かせてくださり、本番でも、普段聴く機会のないハープの演奏に、会場全員が聴き入ってしまうようでした。
     会の最後には、TTCの髙瀨恵悟校長からご挨拶をいただきました。「TTCもいろいろな技術を学ぶ学校です。バイオカフェのようなイベントを通して、科学技術の利用については個人個人が決められるよう、その土台を作るための議論ができるやわらかな場が大事と思う。このような場が日本でも文化として根付かせていくことができればよいと思っている。」とお話されました。
     そして、今回は遺伝子組換え(GM)食品の話題ということで、TTCの大藤道衛先生がレインボーという品種のGMパパイヤを取り寄せてくださり、スーパーで購入された非GMパパイヤと並べて試食をご用意してくださいました。


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    北政さんのハープ演奏
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    大藤先生のウェルカムスピーチ
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    髙瀨校長のあいさつ
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    丹生谷先生のお話

    丹生谷先生のお話

    遺伝子、DNA、染色体、そしてゲノム 
    生き物の細胞の中にある核、さらにその中のDNAが収納されている。A、T、G、Cの文字で書かれる4種類の塩基がたくさん並んでいて、その中に遺伝子としての情報が書き込まれている。遺伝子はRNAにコピーされて、これが設計図となってタンパク質が作られる。この流れをセントラルドグマという。
    生物の全遺伝情報をゲノムと呼ぶが、そのサイズは生物によって違う。人間は1セット当たり(片親由来)の染色体がn=23本、塩基対の数は3ギガ。1990年から2003年にヒトの塩基対をすべて読む国際プロジェクトが行われた。2000年にドラフト版ができた時は、当時の米国・クリントン大統領と英国・ブレア首相に報告された。最初は数年かかっても継ぎ接ぎ状態でしかわからなかった配列情報も、技術が進み、今はヒト一人分が数日で解読できるようになった。この写真にクリントン大統領と一緒に写っているクレイグ・ベンターは、国際プロジェクトが終了後に、自分の会社でヒトの塩基対を読む作業を進めた。彼のゲノム配列を実際に紙に印刷した厚い本は172冊、262,000ページにもなった。
    「ゲノム」という言葉は、ジーン(遺伝子)とオーム(総体)の合わさった言葉。ハンブルグ大学の植物学者が作った。日本ではコムギの研究をしていた木原均さんが使い始めた。コムギは、野生種では実が一列ずつしか穂にはついていない、染色体が2セット14本の1粒系コムギが、別の種と偶然に交雑して2列のもの、染色体が2セット28本の2粒系コムギができた。さらにそれが栽培化で現在のような3〜5列ができて、それに合わせて染色体も2セットだったものが3セット42本に増えた。
     
    品種改良と遺伝子組換え技術
    品種改良は同種の作物を交雑させてつくるが、種間交雑を利用する細胞融合法などのオールドバイオテクノロジーとも呼ばれる技術では、なかなか良い品種ができずにいた。そういった中で、分子生物学の実験手法が進み、分子育種という分野ができた。この代表例が遺伝子組換え技術である。
    遺伝子組換え技術では、例えば、ダイズならダイズ以外の生物の遺伝子をダイズに入れ、入れた遺伝子の効果を発揮させる。外来遺伝子を入れるのが遺伝子組換え技術の定義と言える。昔は遺伝子のクローニングといって遺伝子を探して取ってくるのは大変な作業だったけれど、今はとても容易になった。なぜなら、世界中の研究者がいろんな生物のいろんな遺伝子を取ってきて、ATGCの並びを読んで、データベースを作っているから。データベースの中にある情報を元にして、効率よく探し出すことができるようになった。日本にもデータベースがある。
    遺伝子組換え植物を作る際も、そういったデータベースから欲しい遺伝子の情報を探してくる。調べた遺伝子のDNA配列は、PCR法というDNA合成酵素を利用した方法を使い、その部分だけをたくさん増やして、実験に使う。植物にこの遺伝子を入れるときは、ベクタープラスミドという環状DNAを酵素で切断し、その中に遺伝子を入れてつなぎなおす。つなぎなおすのも酵素を使う。ベクタープラスミドは微生物の細胞の中でたくさん増えるので、大腸菌などに入れて増やすことが多い。そうすると、欲しい遺伝子もたくさん増やすことができる。
    遺伝子を細胞に入れるのはどのような方法があるか。大腸菌のような微生物の場合は、ヒートショック法と言って、大腸菌にプラスミドを混ぜて冷やしておき,42度ぐらいのお湯に1分ぐらい浸し、また氷水に戻す、という方法で入れることができる。植物にはパーティクルガンやアグロバクテリウムを使う。パーティクルガン法では、微細な金属粒子にDNAをまぶし、その粒子を圧力をかけて植物細胞に打ち込む。アグロバクテリウムは、元々は植物にできるこぶ病の原因菌で、植物に自分のもっているDNAを入れて、自分たちが増えるための栄養源を作らせることをする。この性質を利用して、植物に入れたい遺伝子をいれる。一つの植物細胞に遺伝子を入れたのち、寒天培地上で培養し、大きくなった細胞の塊をさらに異なる寒天培地に移して、植物に再生する。このような方法で、遺伝子組換え植物を作ることができる。
    大学や研究機関では、「隔離ほ場」という専用の畑で管理しながら、野外栽培を承認されたGM植物を栽培する。隔離ほ場は、フェンスで周囲を囲んだり、作業する際は靴などを履き替えるなどの対応をして、栽培している遺伝子組換え植物が管理区域外にむやみに出ないように管理しながら栽培している。設置した際には、栽培を始める前に文科省や農水省の担当者により,必要な設備などが整っているか事前チェックも受ける。
     
    遺伝子組換え作物
    世界で最初に製品化されたのはフレーバーセーバートマトという長持ちするトマトだった。しかし、今は売られていない。これを皮切りに1996年が出発点となって、今の主流となっている遺伝子組換え作物の商業栽培が始まった。例えば、トウモロコシ。トウモロコシでもデントコーンと言って、家畜のえさなどになる種類のもので、私たちが食べているスイートコーンとは別のもの。害虫が大発生して、大きな被害になり、大きく減収となる年がある。殺虫剤を散布するにしても、畑が広いので飛行機で撒く。しかも、トウモロコシ栽培で一番問題になる害虫は、トウモロコシの茎や穂などの中に入り込んで、中身を食い尽くしてしまうので、タイミングが遅いと殺虫剤を散布しても被害を防ぐことができない。トウモロコシの殺虫剤として長年利用されてきた殺虫剤には微生物農薬、BT剤というものがある。BT(Bacillus thuringiensis、バチルス チューリンジェンシス)菌は、自分の細胞内に多量に殺虫性タンパク質を作るので、そのタンパク質やBT菌を畑に散布する。化学合成品ではなく、天然成分だということで売られ始めた。そのタンパク質の遺伝子をトウモロコシに入れて、虫に食われにくくしたのが遺伝子組換えの害虫抵抗性トウモロコシ。
    もう一つ、主流なのが除草剤耐性ダイズ。ダイズは背が低いのですぐに雑草に負けてしまうので、除草作業は重要だが、大変な作業。そこで、遺伝子組換え技術で除草剤耐性を与えて、除草剤を散布すると雑草だけが枯れて、ダイズは枯れないようなものを作った。モンサント社は除草剤とセットで販売したところ、タイミングよく散布することでダイズ栽培時の除草作業だけでなく、畑の雑草管理も効率化されたため、生産者にはとても種子が売れた。
    その他、病害抵抗性作物が商業化している事例もある。それはハワイのパパイヤ。ハワイでは1990年代にウイルス病が蔓延し、パパイヤ生産が大きく落ちこんでしまった。ウイルス病にかかると、病気の広がりを防ぐために木を切ってしまうしかない。日本でも、ウイルス病が流行ったため、梅の木を大量に切っている。交配などの品種改良ではウイルス病に対抗できなかったため、遺伝子組換え技術を使ってウイルス病に抵抗性を示すパパイヤを作った。このパパイヤは、病気の元になるウイルスの殻タンパク質の遺伝子を入れて、ウイルス病にかかりにくくした。考え方は人間がワクチンを打つのと同じだが、メカニズムは植物なので動物とは全く別のもの。
    世界ではその他、油をとるためのナタネやワタも組換え品種がある。
    これらの性質のGM作物は、本当は安定供給というメリットがあるのだが、消費者には目に見えにくい。そこで消費者メリットがわかりやすい性質の作物も開発、実用化されている。例えば、ダイズでは高オレイン酸の割合が高い油を生産するダイズが開発されている。これはダイズが脂質を合成する過程で、高オレイン酸が作られたら、その先の反応が起こらないように酵素の働きを止めることで、オレイン酸の濃度を高めている。また、ステアリドン酸生産ダイズもある。これは、外来の遺伝子を導入して高オレイン酸からさらに先の反応までを進めて、身体に良いとされているEPAやDHAの出発材料を生産するようにしたもの。
    研究開発段階のものでは、フィリピンを中心に進められている、ビタミンAの前駆体を含むオレンジ色のお米、ゴールデンライスがある。 作物ではないが、食用のGM鮭も開発されている。キングサーモンの成長ホルモン遺伝子とゲンゲという冬でも成長する魚の遺伝子を結合したものをアトランティックサーモンに入れて、寒い時期でも短期間で身体が大きくなるようにした。しかし、環境への影響評価の審査に時間がかかり、最近、やっと許可が得られた。

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    全体の様子
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    パパイヤの試食

    遺伝子組換え作物の安全性評価のしくみ
    世界のGM作物栽培面積は1996年以降、右肩上がりで増えている。ということは、日本にも輸入されている。例えば、アメリカで栽培された遺伝子組換え作物が輸入されてくる場合、まず、アメリカ国内で環境への影響や食品への安全性などについて承認が取られたものが栽培される。それを収穫して日本に輸出するが、日本でも安全性評価を行い、承認されたものだけが輸入されてくるしくみになっている。現在は8種類の作物が食品として安全性評価を受けて、流通が認められている。トウモロコシ、ダイズは主に家畜のえさ、ナタネやワタは油を採るのに使われる。日本ではそういった作物を使って飼料を作っているので、ほとんどが組換え飼料と予想できる。  
    日本で唯一、栽培している組換え植物は食べ物ではなくて、観賞用の花、青いバラ。日本でも組換え作物を栽培したいという農家が少なからずはいるかも知れないが、実際には栽培されていない。
    日本にはGM作物の安全性に対する審査体制が整っている。食品については、食品安全委員会が科学的に評価し、結果を厚生労働省へ伝えている。飼料については農林水産省の法律があり、それに従って評価されている。世界的に見ても、日本はかなりしっかりした体制で審査している。
    検査体制も整っている。トウモロコシはアメリカから月間100万トン以上、一日あたりに換算するとおよそ5万トンがパナマックスという大きなタンカーに載せられて輸入される。アメリカの農家で収穫されてからタンカーに載せられるまで、穀物の流通は非組換えのものと区別して扱うなど、ルールが厳しくなっている。国内に入っていても、抜き取り検査を行い、組換え作物が非組換え作物か、どのような品種の遺伝子組換え作物が輸入されてきているかなどの検査をしている。2000年に、アメリカでは承認されたけれど日本で承認されていないトウモロコシが輸入されてしまったことがあったが、この時もきちんと検査していたから、混じっていたことに気付いた。ちなみに、非組換え作物を管理して輸入してくる場合、組換え作物が混じってしまうことがあり、この意図しない混入は,日本での承認済み品種であれば5%まで容認され、また飼料では日本での未承認品種であっても,アメリカで承認されているものについては1%まで許容している。
     
    最近の新しい品種改良技術
    日本ではスギ花粉症を治療するためのコメや無花粉スギなどが開発中。GMイチゴで作ったイヌの歯周病予防薬としてのインターフェロンは実用化されている。
    最近は「遺伝子サイレンシング」と言って、遺伝子を働かなくする技術も使われている。例えば、海外で開発された、切っても切り口が茶色くならないリンゴ。茶色くなる原因のポリフェノール酸化酵素の働きを抑えるため、わざとその酵素遺伝子断片を入れて、その遺伝子の働きを抑えるコサプレッションという技術が使われている。遺伝子がたくさんあると、反応がどんどん進むように思えるが、実際は反応が止まる。これは生き物の不思議な反応。
    また、生物はDNAからコピーされたRNAの2本鎖部分を見つけると、分解することが分かっている。これはウイルスを殺すための作用。こちらの手法では、目的のRNAとは逆向きのRNAが作られるようにして2本鎖RNAを作らせる。このRNA干渉と呼ばれる技術を利用して作られた、インネイトポテトというものがある。ジャガイモの切り口が時間とともに茶色くなってしまうのだが、それを抑えるだけでなく、アクリルアミド産生の原因であるアスパラギン酸や還元糖の含有量を抑えたジャガイモ。そのほか、RNA干渉を利用して低カフェインコーヒー、低ソラニンジャガイモなども開発されている。先ほど紹介したフレーバーセーバートマトも広い意味ではRNA干渉を利用して作られたもの。エチレンという植物ホルモンにより、細胞壁を分解するポリガラクツロナーゼという酵素が生産されることで、トマトがいたんでしまう。そこで、ポリガラクツロナーゼ遺伝子と逆向きのRNAが生産されるようにアンチセンスDNAをトマトに入れて、ポリガラクツロナーゼを作らせないようにしたもの。
    さらに、今はゲノム編集という技術が登場してきた。これからはこの技術が使われると思う。これはDNAの塩基の並びを、狙った部分だけを書き換えることができる。特徴は、狙った部分を書き換えるための道具となる遺伝子を入れるが、欲しい性質の作物ができれば入れた遺伝子は必要なくなるので、最後には交配をして取り除くことができる点。
    アメリカではゲノム編集技術を利用して作った作物は、自然突然変異でできたものと同様なので、組換えではないという考え方が強いようで,実際にゲノム編集技術を使って作られた、茶色くならないマッシュルームはGM作物や食品の規制対象ではないと判断された。
    ゲノム編集技術は育種だけでなく、医療の現場でも研究が進んでいる。ゲノム編集で改編した白血球を身体に戻す遺伝子治療などの研究が進んでいる。
     
    GM食品の表示について
    GM原材料を一定以上に含む加工食品は表示義務があるが、表示をしなくても良い例外もある。油やしょうゆ、水飴のように組換え遺伝子が検出されないものには表示義務がない。このことから、私たちは実は知らないうちに、GM作物を摂取している現状がある。
    GM作物で唯一加工されずにそのまま生で販売されたのが、先ほど紹介したパパイヤ。数年前にコストコで発売されたレインボーパパイヤには「遺伝子組換え」というシールが貼られた。
    現在、米国では全国基準を作り、GM食品の表示する方向で議論が進んでいる。ただし、これは文字で書かなくてもバーコード表示などでも良いとなっているようだ。


    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • GM植物を作るとき、植物の個体に再生するのに必要な期間はどのくらい?  → タバコでは無菌培養始めてから2-3か月ぐらい。植物の種類、葉や根などどの箇所を使うかで違ってくる。
    • 品種改良について、掛け合わせて都合のよいものを探してくるようなことをイメージしていた。それと対象的に、ゲノム編集技術では様々な付加価値のある作物が作られていくように思うのだが、消費者への働きかけはどうなっているのか?  → 食品安全委員会にはリスクコミュニケーションの部門もあって、消費者向けにHPで説明を行っている。個別の対応はまだ追いついていない。
    • GM作物に関係する特許の問題について。工業製品については、特許は“取ったもん勝ち”というイメージがある。GM植物も同じ?大企業が持っている?  → 基本的に価値のある技術であれば、どこでも特許は取ると思う。GM作物については安全性の申請と同時進行で特許を取る作業を進めていることもあると思う。

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