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    「福島県の畜産業復興のための消費者意識調査と情報提供」

     2016年11月22日、くすりの適正使用協議会会議室でコンシューマーズカフェを開きました。東京大学大学院農学生命科学研究科食の安全研究センターが平成23年から福島県の畜産業復興のために行ってきた消費者意識調査結果と同センターのリスクコミュニケーション活動について、同センター長 関崎勉さんからお話しいただきました。


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    関崎勉さん
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    会場風景

    主なお話の内容

     本調査は、昨年不慮の事故で亡くなった細野准教授(農業経済学)が中心になって計画し、国内を対象に行ったもので、昨年からはそのプロトコールに沿って継続調査をした。細野先生はサバティカル休暇を利用して、本調査を海外で精力的に展開されておられたとき事故に遭われ、本当に残念。
     
    ⒈ 学校給食に関する調査
     
    福島産牛肉
     牛肉の価格の推移をみると、2011年地震後出荷が止まった時期はデータが途切れている。震災後、全体的に数字が上がってきたが、福島産は2割減くらいでこの差は埋まらない。福島は日本国内の農作物生産量は大きい割合を占めているが、たたかれた値段を東京電力が補償している。ここに税金が充てられ、産地を表示しなくていい国産牛として、安くない価格で流通している。
     
    栄養教諭アンケート調査
    東京、福島を対象とした調査。給食には、学校の調理室または、給食センターで調理しているところがある。材料も一括購入とそれ以外がある。東京には調理室を持っている学校が多く、保護者のリクエストに応えるための対応だと考えられる。
    福島県学校給食での福島産食材の利用は米、牛乳、野菜、果物において、震災前の状態に戻っている。東京は震災前から福島産を使っていなかったが、震災後、本当に使わなくなってしまった。福島では福島県産食材の関連情報をよく見て、保護者会でもよく話題にし、理解して利用している。東京では関心が低い。
    福島県産食材の利用について栄養教諭に尋ねたところ、東京はネガティブ回答が多いが、「保護者の理解が得られたら利用したい、利用してもいい」という栄養教諭は少なくなかった。
     教諭へのリスク知覚の調査では、O157、サルモネラ、カンピロバクターは本当に危険なのに、怖さが正しく認識されていないことがわかる。東京と福島でのリスク知覚に差があるのはカンピロバクター(被害が一番多いのに消費者は侮っている)と放射性物質。放射性物質に対して、危ないと思っている人は東京の方が多い。これは福島における放射性物質の情報提供が多く、検出検査が実施されていることがよく知られているためだろう。生鶏肉の40-90%がカンピロバクターに汚染されているのに、それが知られておらず、扱いも不適切。東京の人は十分に検査されていて、リスクが低い放射性物質の方を気にしている。
     福島県産物の学校給食での利用状況が、東京では震災前に戻っていないが、福島はほぼ復活している。保護者の理解がキーポイントになっている。
     
    保護者アンケート
     保護者へのアンケート調査を計画したとき、協力者を見つけるのに苦労したが、結果的には葛飾区と郡山市の小学校(30-40代の保護者)で協力を得られた。
     福島県産食材の利用に、郡山市は8割以上が、葛飾区では6割弱がポジティブ。利用していい理由は、郡山では「検査されているから」。実際に福島県は日本中でもっともよく福島県産を検査していて、しかも県産品はおいしい。
     食材の受容度と震災後参考にした情報源について尋ねると、福島県産を利用したくなくなった人の情報源はWEBやSNSが多い。逆に利用していいと思った人の情報源は学校の配布物をみたり、講演会と回答したことが多かった。狭いコミュニティでの発信は信頼されることがわかる。マスメディアの逆ということか。
     学校給食で福島県産食材の受容態度は正答率が高い人ほど高く、中途半端な正答率の人はネガティブ。
     東京、福島で検査がされていること知っていれば、応援したい気持ちも働いて、「福島県産を使っていい」という保護者は少なくない。とはいえ、東京の給食では使っていない。きめ細かな情報提供で利用にポジティブになることがわかった。
     
    ⒉ 全国調査 
     2011年11月から毎年行っている。調査会社を入札で決めた結果、日経リサーチ、日本リサーチセンターがモニター調査を受託してきた。年代、地域に配慮して日本の平均的な意識調査を設計した。やり方は放射性物質をめぐる情報提供を行ったうえで意識調査をする。
     
     例えば、被災地産品に対する価格評価を調べると、放射性物質が基準値以下の場合と検出されない場合で差が出た。被災地復興の応援の気持ちをもって買うという人もいれば、検出されなくてもタダでも買わない人もいる。
     
    リスクへの認識
     「放射性物質とそのリスク」「ベクレルとシーベルト」「健康影響」「基準値」などについての質問をしたところ、震災直後は放射性物質に対する理解は上がったが、知識量は年々、下がってきていて、関心も低くなっている。しかし、福島県の正答率はダントツで高い。福島県で繰り返し情報提供が行われているからだろう。
    来年度は小学校から放射性物質の教育が行われている広島県、長崎県で調査したい。
     
     
    小売業、食品企業への信頼は平成24-27年と高まっているが、自治体、政府への信頼は落ちてきている。震災直後は消費者団体が信頼されていて、政府も企業も、信頼は低かった。小売業や食品企業における放射性物質管理に対する満足度が高くなると、値段が高くなってもいいという人が増える。管理体制についてみると、特に食品事業者への信頼は改善されている。
     リスクが高いと認知する人ほど、基準値以下でも検出せずでも食品の評価は低い。つまり買わない。例えば、原子力発電所からの距離でリスク知覚を表すと、管理体制に満足している人ほど、原発から遠くなくてもいい(リスクを高く見積もらない)と思う。管理体制に対して満足感を持っていれば応援したい気持ちも強まる。放射性物質の管理体制に関する満足度はある程度の割合で維持されている。
     自由回答への回答率は、(内容にかかわらず)回答者の気持ちが表れる。震災直後は95%だったが、今年は5%くらいだった。震災直後は95%の人たちが何かを書かずにいられない気持ちだったのだろう。
     消費者の関心を食中毒関連分野と放射性物質関連分野でみると、食中毒は食中毒菌汚染への関心がダントツで高い。放射性物質では、土壌の除染対策。除染した土壌を除去して汚染していない土壌を入れたために、肥沃な土壌が失われ栽培に不向きな畑になってしまったという問題が残る。両分野ともにリスクコミュニケーションの必要性は認められている。 
     情報提供(静止画より動画)すると正答率があがることも分かっており、リスクコミュニケーションは有効。
     
    ⒊ サイエンスカフェなどのリスクコミュニケーション活動
    食の安全研究センターでは次のようなリスクコミュニケーション活動をしている。
    (1)インターネットで作成した動画を公開し、情報提供
    (2)サイエンスカフェ 
     参加者は20人くらい。センター1階のカフェで開催し、飲み物代は参加者負担。1時間半で延長しても2時間まで。
    ファシリテーターが、再度の説明を求めるなどし、参加者の気持ちになって発言し、参加者の発言を促す。スライドは30枚くらいで、意見交換を重視。
     レポートはテープをおこし、臨場感があるものを公開。
    放射線関連のイベントレポート http://www.frc.a.u-tokyo.ac.jp/safety/radioactive_material/eventreport/
    (3)食の安全クイズ 
    テーマはBSE,で、初心者コース、上級者コースがあり、修了証書を発行する。
    クイズのサイト http://www.frc.a.u-tokyo.ac.jp/quiz/
     
    ⒋ 消費者庁での食の安全に関するリスコミ研究会
     消費者庁で食の安全に関するリスコミ研究会が3回開催された。私は座長として関わっている。例えば、放射性物質に関する食品に関するアンケート結果を福島県民と他の県の人も一緒に集計されていた。現場の人と他県の人の意識には差があるはずで、データ処理でこのような差を加味した処理についての検討が必要ではないかという話し合いをしている。


    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 放射性物質が「基準値以下」か「検出されず」という食品において、消費者の意識の差が大きいということだが → 「検出できず」の意味が理解されてない。機械の精度や検出時間で結果は変わる。人体から4000ベクレル出ていることに知られていない。一袋のお米から検出されただけで価格が下がった。ネガティブ情報に人はとびつき、長く印象に残る。
    • 福島県では基準値以下とNDTの差は出ているのか → 福島県でも「検出できず」は好まれる。福島県立農業総合研究所で水産物以外は地域ごとに毎日検査した結果をアップし、新聞に載せている。水産試験場も公表している。米は全袋検査をしている。地域ごとに自主検査をしているところもある。いずれの結果もオープンにしている。
    • 検査値の説明はどんな風にするのか → 農業試験場は定期的に配布物を出している。学校ではその結果を配布物に掲載しわかりやすく伝えている。農林水産省、環境省、食品安全委員会も現地では講演会などを高頻度で行っているので、地元の安全意識は高いが、他県までは手が回っていない状況。
    • 小規模で顔が見えているコミュニケ―ションは信頼されるというが、小学校の父母会に介入試験をやったらどうか。または保健所の乳児検診など全員がいくところで介入試験ができたらいいのではないかと思った。栄養士さんの協力も期待できるのではないか → 市町村レベルでのリスクコミュニケーションは有意義だと思おうが、派遣する講師の数も増やすようにしないといけなくなるだろう。  
    • 震災後、今は意識が固定化される時期だから大事だと思う → いろいろな形態のコミュニケーションがいいと思い、サイエンスバスツアーを実施した。牛農家を見学し、県営焼肉屋に行った。当たり前のことが一般市民はわからないことがわかった。汚染されてしまった日本の飼料を避けて、カナダの稲わらを使用した話をした酪農家もいた。飼われている家畜の餌は管理されて与えられていることが理解されていない。きめ細かい飼料の管理がおいしい肉をつくるために行われ、いろいろな工夫、努力がなされている。
    • 東大サイエンスカフェの参加者はどんな人 → 3-4割はリピーター。一般の主婦、行政、生協、食品会社。
    • 質の高い情報を子育て中のママに伝えられたらいいと思う。今もBSEのせいで学校給食に牛肉がでない → 学校給食は文部省の所管になるので、働きかけが難しい。
    • オーガニック流行で寄生虫被害が増えている → 寄生虫の実害を知らない人が多すぎる。よく伝えるべき。一般に消費者は1年たつと忘れる、これは新しい情報をとり入れていくこととつながっているが、新しい情報への入れ替えに負けない位情報を提供しないとだめ。例えば食べてはいけない草を春先に食べてしまう食中毒がある。例えばイヌサフランとギョウジャニンニクの間違い。毎年、季節前の情報提供が必要。
    • 福島の消費者意識調査はいつまで続けるのか。ゴールはどこか → 予算が続く限り行うのがいいのではないかと思うが、10年が節目ではないかと考えている。
    • リスクの意識が震災前の状態に戻ることがゴールではないか → ゴールのイメージとしていいご意見です。
    • アンケートで「リスクについて考えたこともない」人が増えている。考えたことがない人が増えるのはよくないと思う。
    • 寝る子を起こす質問にはネガティブ回答が誘因される傾向があると思う。
    • リスク知覚で3つの病原菌は危ないとわかっていても、よくある食中毒菌のような身近なリスクの情報提供までは手が回らない状況になっているのではないか。まな板に熱湯をかけるなどの自分でできる具体的な衛生的な管理の仕方も教えるべきだと思う → サルモネラ中毒について。サルモネラは腸管内にいるが、食中毒のときの菌はどこから入るのか。工場ではラインが分けられている。例えば、BSE以降、危険部位の除去は徹底されていて、作業する部屋も分けるくらいラインは分かれている。家庭での汚染も考えられるかもしれない。
    • 正確な話をする人の数が限られているが、福島の結果をみると情報提供の成果が表れていると思う。福島で行われている情報提供をyou tubeに載せたらどうか → 情報の拡散も考えていくべきだろう。研究者は論文をだすのには慣れているが一般の人への情報提供の方法がわからない。広報の専門家に多くの研究者、研究機関が協力してほしいと思っている。

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