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  • サイエンスアゴラシンポジウム「機能性表示食品制度が始まって1年半」

     2016年11月6日、サイエンスアゴラ2016でシンポジウム「機能性表示食品制度が始まって1年半」を開きました。くらしとバイオプラザ21では、機能性表示食品制度発足前からこの仕組みに注目してきましたので、国内外の機能性食品事情に詳しい武田猛さん、消費者庁長官としてこの制度の設置に尽力され、消費者市民社会をつくる会代表理事として機能性表示食品評価をされた阿南久さんをお招きしてお話をうかがい、参加者みんなで話し合いました。


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        武田猛さん
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        阿南久さん

    「国内外の食品の機能性表示食品制度」
     (株)グローバルニュートリショングループ 代表取締役 武田猛さん

    はじめに
     食品には、一次機能(栄養、カロリーなど栄養素を補給して生命を維持する「栄養機能」)、二次機能(色、味などおいしさを感じさせる「嗜好・食感機能」)、三次機能(生体防御、老化制御など「生体調整機能」)がある。機能性表示食品の機能とは三次機能をさし、これは日本が世界に先駆けて提唱したもの。
     CODEX委員会の健康協強調表示(ヘルスクレーム)には、栄養素機能強調表示、疾病リスク低減強調表示などがある。アメリカには、栄養表示教育法、ダイエタリーサプリメント健康教育法がある。教育法というのがアメリカの特徴。
     今回の日本の機能性表示制度のように機能性を企業が評価するのは、アメリカと日本だけ。この制度は日本再興戦略のひとつとして進められ、アメリカのダエタリーサプリメント健康教育表を参考にしている。
     ヘルスクレームには主に、栄養素機能強調表示、その他の機能強調表表示、疾病リスク低減表示の3つがある。それぞれに規格基準にそって行われる規格基準型、個別評価型、届け出制がある。日本の栄養機能食品は規格基準型の栄養素機能協調表示であり、機能性表示食品制度は届け出制のその他の機能強調表示である。
     
    ヘルスクレーム
     ヘルスクレームとは、FDAが評価し、国が認めるもので、その内容についてABCD評価を行う。有効成分含有量が国が定めた上限と下限の間に入ればいい。Aは無条件でヘルスクレームが認められ、B~DにはFDAは科学的根拠に責任はとれないという立場をとる。
     例えば、Cheeriosはハート形のデザインで心疾患のリスク低減を思わせる。評価はA。どのような食生活の中でこれを摂取すると効果があるかが書いてある。Activeにもハート型のデザインで心疾患リスク低減。
     3つめに例示したBi-Flexはダイエタリーサプリメントであり、ヘルスクレームではなく構造機能表示(Structure Function Claims)として「あなたの膝を育て保護するのを助ける」と書かれているが、同時に「当該表示はFDAの評価を受けていないので、疾病の診断、処置、治療、予防目的でない」と書かれている。日本では国の認めていないことを広告で同時に書いたりはせず、アメリカの打消し表現とはずいぶん違う。
     フランスでは「DHAは正常な脳と視覚機能に寄与する」というように、有効成分名と示して、〇〇に寄与するという書き方をする。
     
    機能性表示食品制度
     機能性表示食品は、特定保健用食品(トクホ)、栄養機能食品とともに、機能性表示ができる「保健機能食品」の中に含まれる。日本の機能性表示食品制度における情報公開の透明性は他国と比べてとても高い。
     トクホも機能性表示食品も有効成分の作用機序は解明されているが、トクホでは「疾病リスク低減」表示が書けるが、機能性表示食品には「疾病リスク低減に係る旨」は書けない。機能性表示食品は、「Aが含まれ、Bの機能がある(ことが報告されている)」という表示になる。
     トクホは、11種類の機能性とその組み合わせ、68社1272商品が認められている。機能性表示食品は24種類の機能性とその組み合わせ、148社482商品が届け出されている。もうすぐ500商品に達するだろう。
     
    機能性表示食品の実態
     届け出されている商品の内、半分弱はサプリメントで、残りは飲料、菓子、乳製品などの形態。
    最も多いヘルスベネフィットは、生活習慣病予防、次は整腸で半分以上をしめる。生活習慣病予防では、中性脂肪減少、体脂肪・内臓脂肪・皮下脂肪減少、食後血糖値上昇抑制、血圧と続く。
     機能性表示食品の科学的根拠は(1)最終製品と用いた臨床試験、(2)最終製品または機能性関与成分に関する研究レビュー。臨床試験を根拠として届け出られた機能性表示食品は40件、研究レビューは443件。
    表示の考え方は次の3つがある。

    1. 最終製品を使った臨床試験を根拠とする
      Aという成分が含まれるので、Bの働きがあります
    2. 最終製品に関する研究レビューを根拠とする
      成分Aにが含まれるので、機能性Bがあることが報告されています
    3. 機能性成分に関する研究レビューを根拠とする
      成分Aが含まれていて、AにhはBの働きがあることが報告されています。
     複数のベネフィットを含む、ダブルトクホ、トリプルベネフィットの機能性表示食品も届け出られている。
     
    サイエンスと表示の考え方
     FDAやEFSAでは表示と科学的根拠に関する考え方のガイダンスを示している。
    臨床試験が行われていない場合、最終製品に含まれる成分と研究レビューの成分は同等か。同じ成分でも表示の書き方が違うときに正しく読み取れるか。こどもへの臨床試験結果が高齢者の場合でも同等に扱うことが出来るかなどの年齢の問題を考慮する必要がある。
     情報を見極める方法として「PICO」の考え方を身に付けるといい。
    P (どんな人が対象か。自分は該当するか)
    I (どんなことをしたら入手できるか)
    C (何に比べて。ほかの食品と機能性表示食品を比べて)
    O (どうなった。機能性表示食品を利用してこうなった)
     グローバルニュートリショングループでは、届け出された40件の臨床試験についてPICOをモノサシにして整理を行った。
     成分が入っていなかったりするのは業界の信用にかかわるので、企業には頑張ってもらいたいし、消費者には選ぶときにPICOの考え方をあてはめてもらいたい。


    「消費者の“選択力”アップ」
         一般社団法人 消費者市民社会をつくる会代表理事 阿南久さん

    はじめに
     機能性表示食品制度が始まる以前は、消費者に保健機能を情報提供できるのは、栄養機能食品とトクホだけだった。そのため、事業者はその根拠を開示できず、使う消費者も不安だった。
    また、健康食品の中には、エビデンスがしっかりしているものとイメージだけで販売されているものが混在していた。機能性表示食品制度はこうした玉石混交の状態を整理することが目的でつくられたと言ってよい。
     「くすりとの飲み合わせは?」「アレルギーは大丈夫?」「どれを選べばいいの?」 
     混然とした状況で消費者トラブルも多かったので、消費者庁で注意喚起のチラシをつくった。例えば「1粒飲むだけ!超かんたんダイエット!?」のような根拠もなくダイエットを標ぼうする広告にだまされないでといったもので、メッセージは「食事制限も運動もせず、楽して痩せることはあり得ません」、「バランスの良い食事、適度な運動、それが健康の維持増進の大原則!」等とした。 
     また、高齢者に健康食品を強引に売りつけるといった悪質商法に気をつけて!といったチラシもつくった。機能性表示食品制度を広げ発展させて、こうしたトラブルを少しでもなくし、消費者利益を守っていきたい。
     『食品表示法』は多様な人の意見を聞き、目的(食品の安全性と消費者の食品選択の機会の確保)と、基本理念に、消費者の権利の尊重と自立支援という“魂”を明記して制定した。機能性表示食品制度もこの理念のもと、育てていきたい。
     もともと機能性表示食品制度は規制改革実施計画と日本再興戦略の中で提案された。トクホとの違いは事後チェック制度と文献調査の導入(トクホは事前チェック)。機能を表示できる。
     
    機能性表示食品の表示の方法
    〇パッケージの表
    ・機能性表示食品であることを明記する(ことば)
    ・届出番号(数値)
    ・届出表示(機能については届け出た内容の表示、消費者庁長官の個別審査を受けたものではない旨の表示)
    〇パッケージの裏
    従来の表示(原材料、内容量、賞味期限、製造者名など)と栄養成分表示に加えて以下を表示する。
    ・一日の摂取する量の目安、摂取方法
    ・医薬品でないことを明記
    ・病者、未成年者、妊産婦、授乳中の方を対象に開発された商品ではないことを明記
    ・バランスの良い食生活が大切であることを明記
    ・連絡窓口
    これらを見て消費者には選んでほしい。
     
    科学者委員会の設置
     「消費者の選択に役立てられること」と「企業にがんばってもらうこと」を目的に本委員会設置。事業者に求めるのは情報収集とエビデンスの確かさを検討することにした。
    消費者庁に届出された情報と根拠としている論文をチェックし、科学委員会と企業との質問や意見、企業からの回答や見解をやりとりする対話を重視した。科学者委員会の負荷は大かった。
     
    評価・結果
    評価は、「A」「B」「C」と「見解不一致」の独自基準に沿って行った。
    A は「十分な科学的根拠あり。RCT論文やシステマティック・レビューで有効の判定がある論文が5つ以上ある」とし、16製品がこれに該当した。
    B は「有効性についてかなりの科学的根拠あり。RCT論文2つ以上。最終製品でのRCT論文が1つ」とし、40製品が該当。
    C は「有効性についてある程度の科学的根拠あり。RCT論文が1つ。2つ以上あるが、有効と無効が拮抗」とし、15製品が該当。
    8製品については「見解不一致」とし、A、B、C判定と同様に、それぞれの言い分についてプロセスを公表した。
    総括すると、71製品は委員会の評価基準に適合していたが、8製品の届け出は評価基準に適合しておらず、何回か意見交換したが合意に至らなかったという結果になった。
     多くの機能性表示食品は趣旨にそった届出がなされているが、一部の企業は委員会や他の多くの企業とは異なった解釈していることがわかった。
     科学者委員会の質問や意見を受けて、届け出を変更したり、ふさわしくない論文を取り下げた企業があり、民間からの指摘でまますますよくなることがわかった。科学者委員会と企業の共同作業だったと思う。
     消費者からはわかりやすい情報提供や企業の姿勢がわかったことへの感謝の声が多く届いた。
     
    事後チェック
     最近、トクホでは取り消しがあった。新しい知見が得られると機能性食品においても取り消し、取り下げもありうる。
     今は母数が少なくても、母数が増えてくると効果が期待できないことがわかってくることもある。システマティック・レビューはやったから終わりではない。受理後、1年に1回程度は論文検索してアップデートしていくべき。また、抽出部分、エキス成分は溶媒などで成分がかなり違ってくる。論文で扱われている成分と自社製品のものが一致していないことが問題になったときは検討すべき。
     
    まとめ
     機能性表示食品を買うときはキャッチコピー以外をちゃんとみること!機能性の種類、内容などを見てください。もちろん、バランスのとれた食生活が一番!
    バランスのとれた食生活を定量的に評価するために役立つ資料「栄養成分表示を活用しよう」が最近消費者庁から公表されている。
    例えば、自分の代謝量を知っておくと、自分がどのくらいが必要で、どのくらいだと過剰かなどを知り、考える目安になる。そうすると、食生活の改善から始めることになり、運動して、代謝を促進するようになってくるはず。
    機能性表示食品は、自分で自分の健康と食生活の状況を知ったうえで、補助的に利用するもの。情報はすべてと言っていいほど開示されている、消費者の選択眼が最重要。
     アカデミアにも声をあげてもらいたいと思う。


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    話し合い
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    会場風景

    話し合い

  • は参加者、→ はスピーカーの発言

    • 生鮮食品の機能性表示にはどんなものがあるのか。 → JA三ケ日の温州みかんなど4商品。産地と品質が関係する。他の3件はダイズモヤシ。水耕栽培で天候に依存せずにイソフラボンを含有する。栄養機能食品としても届け出られているものもあり、これからの分析データの蓄積が大事。
    • システマチック・レビューには毎年新しい論文が加えられるのか。 → 企業が再レビューして消費者庁に報告するべきである。
    • グレーゾーンなら機能性表示食品を取り消すような仕組みを作ってはどうか。 → 仕組みを作らなくても企業のモラルとしてできるのではないか。 → 誰かが取り消させるのは難しい。消費者が買わないことで意思表示することが大事。だが、今の段階では機能性表示食品制度に参加した企業は、確かなエビデンスを確保するために努力し、人々の健康増進に貢献しようとしている点で評価できると思う。これに比べ、この制度にのらない、のれない、根拠も示さずに商売している企業をどう淘汰していくかが課題。
    • PICOで判断するには消費者のリテラシー醸成が重要だが、表示を読んで理解できない高齢者などを切り捨てるのではなく、くすりでいえば薬剤師のコミュニケーションにあたる役割が必要でなないか。町の中で高齢者などが相談しやすい存在という意味。 → 健康食品管理師は育成されているが、相談に対応するための体制整備が課題。アメリカのダイエタリサプリメント制度は「教育法」であるところを日本でも見習ってほしい。 → アドバイザリースタッフといって、健康食品やサプリメント関連4団体の認定資格がある。この資格だけでは食べていかれない。
    • かかりつけ薬局のように、機能性表示食品については文部科学省、厚労省、消費者庁で横断的にやってほしい。 → 機能性表示食品制度は性善説なので、信用できる会社、商品を消費者に選んでもらいたい。業界サイドもそれを手伝う。
    • 機能性表示食品制度でも、最終製品の臨床試験をしたほうが商品能力になると思う。 → 自社でやると大変。適切なシステマチックレビューならよいと思う。研究レビューで示された成分と自社製品中の成分の同等性を示すことが重要。グローバルニュートリショングループでは届出られた臨床試験の論文をPICOにそって整理している。
    • バランスのよい食生活が重要なので一日の摂取量を想定しやすい表示がほしい。

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          会場入り口

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