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  • ifia Japan 2016「遺伝子組換え作物・食品のリスクコミュニケーション」

     2016年5月20日、第21回国際食品素材/添加物展・会議(ifia2016)でセッション「遺伝子組換え作物・食品のリスクコミュニケーション」を開きました。講師は、明治大学 中島春紫教授でした。食品メーカー、分析会社、行政など多くの方が参加しました。


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    お話の主な内容

    1.遺伝子組換え作物とは
     遺伝子組換え技術の定義のポイントは「異なる生物のDNAを入れる」というところ。アグロバクテリウム法では、土壌微生物を介して、異なる生物のDNAを目的の植物組織に導入する。それを培養してカルスという細胞に塊にする。カルスから植物体にできれば、遺伝子組換え植物ができあがる。
    その栽培の手順は、閉鎖系温室、特定網室(ここまでを二種使用という)、隔離ほ場(ここからを第一種使用という)という順序で、一般圃場に出した時の環境影響評価を行う。第1種使用からは、近隣の畑がないかなどの条件が入ってくるので、試験栽培も大変。大量の審査資料も作成する。
     最も多く使われているのは、遺伝子組換え除草剤耐性ダイズと害虫抵抗性トウモロコシ。日本への輸入量は、国内の米の生産800万トンの2倍にあたる。
    ① ダイズ
     除草剤耐性とは、除草剤の効果を働かないようする酵素EPSPSを植物体内で作らせる。EPSPSは土壌微生物が持つ酵素でヒトへの安全性は食品より安全で、土壌での残留性がなく生産者にとっても使いやすい。
    トウモロコシは草たけが高く雑草の心配はないが、アワノメイガといって、植物体の中に入り込むガの幼虫の被害が大きい。殺虫剤を散布するが、ズイに入り込むと効果はないので、きめ細かく5回くらい散布し中にはいられないようにする。
    殺虫成分は、卒倒バチルスという毒素で、蝶の仲間に効く、甲虫に効くなどの種類がある。バッタ、クモ、ヒトには影響を与えず、有機農業で使われている。散布回数は5回から1回でよくなる。
     世界の遺伝子組換え作物の栽培面積は1億8000万ha。日本国土3,700万haの約5倍。これは世界の耕地面積の14%。増加はだんだん飽和してきている。世界でみると、ダイズの8割、ワタの7割が遺伝子組換え。トウモロコシは耐性が出ないように、非組換えトウモロコシの栽培面積も確保しながら栽培されている。
     
    流通
    ミシシッピー川により集められた穀物は、ニューオリンズに向かい、輸出用のタンカーに積み込まれる。ニューオリンズには日本もJAグレインズを構えている。
     組換えでないトウモロコシやダイズは契約農家にプレミアムをつんで栽培してもらっている。プレミアムは2-3割くらいらしい。
    5万トン積めるパナマックスという大きな船が1週間に4回、日本に穀物を運んでいることになる。これが途絶えたら、日本の酪農は壊滅する。
     遺伝子組換え農家数の増加に対して、大企業の圧力だという説があるが、実際に彼らはメーカーの安全性の説明を聞いて納得し、選択し、利益をあげている。
     
    2.遺伝子組換え食品の表示と安全性確認
     表示は組換え、不分別(遺伝子組換え作物と非組換え作物の分別流通管理をしている)、組み換えでない3種類。食品からの導入DNAやそれによってつくられたタンパク質が検出できない食品(油、醤油など)は表示義務の対象外となっている。日本で販売されている遺伝子組換え食品は、通販で販売されている納豆、ドライ納豆だけ。
     TPPに合意すると表示義務がなくなるという人がいるが、日本の表示は情報提供のためだから表示義務でなくなることはない。非組換えという表示は禁止になるかもしれない。
    日本の安全性確認は厳しい。たとえば、遺伝子組換えパパイヤの承認に10年かかった。リングスポットウイルスの被害でハワイのパパイヤが壊滅状態になった。ウイルス抵抗性パパイヤを組換え技術でつくり、特許放棄し、農家に配布した。日本は、導入遺伝子がパパイヤの染色体のどこに入ったかの情報を要求した。パーティクルガンで3か所に分散していたので日本では承認すぐにされなかった。
     食品安全委員会の毎年行われるアンケート調査では、2010年から不安は減っている。生協のデータをみると、不分別表示食品はよく売れている。ゴールデンライスというビタミンAを強化した米、青いバラ(バラには赤とオレンジの色素しかない。青い色素を作る遺伝子を入れた)は日本国内で商業栽培されている唯一の遺伝子組換え作物。
    青いカーネーション 日本発でコロンビアで栽培中。花言葉は「永遠の幸福」として結婚式用で使われている。
     
     食品安全委員会遺伝子組換え食品専門調査会で安全性について、科学の立場のみで審査する。実務管理(リスク管理)は厚労省と農水省。遺伝子組換え作物の環境影響評価は、7世代をみて安定性を評価する。
    アレルギーについては、患者さんのIG抗体との反応性のクロスチェックで評価する。これまでに、その先の段階まで試験をしなくてはならなくなった食品はない。
     メディアに登場している話題をみてみましょう。トリプトファン事件は遺伝子組換え技術でつくったもののせいだといわれているが、トリプトファン過剰摂取による代謝異常だったらしい。
     セラリーニ(フランスの研究者)によって遺伝子組換え飼料を与えたネズミにがんができたという報告があり、それがかなり報道された。10匹しかやっていないのは動物実験のルールに反しているので、生データを要求したが、セラニーニは応じられず、論文は取り下げられた。
     一方、マークライナスは、2013年オックスフォード大学で開かれた農業会議で「科学を理解したら、遺伝子組換え技術に問題がないことがわかった」として反対運動をしたことを謝罪した。これはかなりインパクトがある出来事だった。
     
    遺伝子組換え技術を用いた食品添加物
    遺伝子組換え微生物がつくる食品添加物は遺伝子組換え食品の安全性評価基準で評価する。
     
    ・微生物は自然界でも交雑や水平伝播で遺伝子を交換する現象がある(ナチュラルオカレンス)。ナチュラルオカレンスは同一種や近縁種の遺伝子を入れた場合(セルフクローニング)は製品で区別がつかない。これらは遺伝子組換えとしない。自主判断の基準が厳しすぎるという意見もある。
    ・遺伝子組み換え微生物がつくった非タンパク質性添加物を、培養液から、菌体を除去したり、結晶にしたりして高度に製精して得た時(高度精製品)は遺伝子組換えとみなさない。自主判断ができるように規制緩和作業中。
    ・遺伝子組み換え微生物の菌田井が残存する場合は遺伝子組換え食品の安全性評価基準で評価することになっているが、申請はない。
    ・食品扱いの非タンパク質性高純度化合物は遺伝子組換え食品として扱う。
    組換え生物を利用した添加物
     
    3.NBTへの対応と課題
     遺伝子組換え技術でつくられた台木に、接ぎ木するものは組換えでないとき、できた果実はGMか?りんごは実ができるようになるのに10年かかる。だから果樹の育種は何10年もかかるが、早期開花遺伝子を使うと、3か月で実がつく。つぎ木や早期開花遺伝子を使ったものは、最終段階で従来育種と区別がつかない。自己申告に頼ることになる。
     遺伝子を操作するとき、DNAの目的の位置に切れ目が入れられるのが大事。ゲノム編集技術のポイントは決まった所に切り目をいれられること。DNAを切断したときの非相同末端連結ではそのまま元通りにつながるが、欠失や挿入が高頻度で起こる。ゲノム編集ではこの高頻度に起こるエラーを利用する。
     今、最もよく用いられているCRISPR/CAS法では、ガイドRNAが働いて決まった場所を正確に切れるように導くは34アミノ酸の繰り返しが18回あるタンパク質で、13-14番目のアミノ酸を任意に変えられるので、任意の配列を狙える。DNAの二重鎖を切ることができるのは、CRISPR/CASもTALLENも同じ。
     ダイズの食用油は安くて広く使われているが、不飽和脂肪酸が多く酸化しやすい。ダイズに不飽和化酵素ゲノム編集技術で働かないようにすると、リノール酸の合成が停止され、オレイン酸を多く含むダイズができる。この品種は遺伝子組換え作物でないと認められた。これだと水素添加しなくてもマーガリンをつくることができるようになる。
     アルゼンチン、EUなどプロセスベースで考える国では遺伝子組換え技術として扱うが。プロダクトベースで考える国では遺伝子組換え技術を用いた作物に対する安全性試験(費用約10億円)が不要になる。NBTを使ってできた作物は、遺伝子組換え作物かどうかを最終的に調べられないので、プロセスベースの国でも摘発はできない。今、関係者が検討しているところ。
     
    遺伝子組換え技術を使った魚
     キングサーモンの生長ホルモンの働きをするような遺伝子を導入した大西洋サケがつくられた。パナマの山の上のタンクで飼育するため川に逃げ出しても熱帯の海で冷水を好む大西洋サケは生育できず、3倍体なので子どももできない。環境への影響において問題はないとされている。
    2015年11月 FDAが認可した。安くておいしい鮭が安くておいしい鮭が食卓に上るようになるかもしれない。


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