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  • バイオカフェレポート「日本酒の科学」

     2016年1月15日、くらしとバイオプラザ21事務所にてバイオカフェを開きました。お話は明治大学農学部教授 中島春紫さんによる「日本酒の科学〜楽しみ方とたしなみ方」でした。お話のあとは12本の日本酒の試飲、冷酒とお燗(50度)の比較を行いました。


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    中島春紫さんのお話
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    本日の教材

    お話の主な内容

    いろいろなお酒の作り方
    お酒には単発酵と複発酵がある
    ① ワイン(単発酵)ブドウの果汁の糖が発酵する
    ② ビール(単行複発酵)大麦が発芽した麦芽がデンプンを糖化する。そこに水を加え(麦汁)、発酵する
    ③ 日本酒(並行複発酵)蒸した米を麹でもろみにする(糖化)。清酒酵母を加えて、発酵させる。
    アルコール濃度がある程度以上高くならないのは、10%のアルコールのためには20%の糖が必要。糖が濃いと浸透圧で酵母が働かない。微生物が働ける浸透圧の限界から、糖濃度が決まり、その半分がアルコール濃度となる。
     
    麹菌
    日本では国の花として桜、国の鳥はキジ、国の蝶はオオムラサキなどが決まっている。同様に日本醸造学会は2006年、国の菌を黄麹菌(アスペルギルス・オリザ)と定めた。ゲノム配列もわかっている。
    麹菌は酵素の生産力が高く、研究者も日本に集中している。胞子は5ミクロンくらいで、核は平均して2-3個あり、発芽も早い。麹菌は食品の醸造に使われ、人の役に立つ。
    ・黄麹菌(華やかでフルーティな味わい。Phが低くても生える):清酒、味噌、醤油、みりん、焼酎
    ・黒麹菌(力強くどっしりした味わい):焼酎
    ・白麹菌(まろやかでやさしい香り):焼酎
    ・紅麹菌:中国・台湾の発酵食品
    一方、麹カビはアスペルギルス属で病気になるものがある。
     
    酒造りの流れ
    玄米を精米して白米にし、これを蒸す(蒸米)。蒸米に麹菌をまぜて米麹をつくり、蒸米にまぜる。これを3回に分けて行うと三段仕込みとなる。ここに水を加えてもろみにする。
    もろみをしぼって清酒にする。火入れして乳酸菌を殺して乳酸ができないようにする。
    普通酒は、火入れと瓶詰前で2回殺菌する。火入れしていない酒を生酒といい、瓶詰前に殺菌する生酒を生貯蔵酒という。
    このような、酒、味噌、醤油(発酵食品)の作り方、麹菌の純粋培養技術(生酛 きもとづくり)が室町時代に確立した。パスツールより500年早い!
    実際には、杜氏(とじ)に率いられる蔵人(くろうど)のチームで作業をする。チームごとに、できる酒にも特徴がある。越後杜氏は淡麗辛口、広島杜氏は芳醇で少し甘め、土佐杜氏は辛口など。
     

    酒米は食べておいしい米ではない。米粒の真ん中の白い部分を芯白といい、酒米は芯白が大きくデンプン部分が多い。一般には外側を30%削り取る。そのうちの10%が糠で残りの20%はおせんべいの原料(米粉)になる。吟醸は40%を、大吟醸は50%を削り取ってしまう。大吟醸の米粒は小さく白く美しい粒になる。
    お米そのものの含水率は15%だが、洗うと20‐30%になる。炊いた米の含水率は60‐70%になる。これでは水分が多すぎるので蒸す。蒸し米含水率は40%。蒸した米は急いで冷まさないといけない(蒸米さまし)。このために仕込みは寒い時期に行う。
    米は酒母米(酒母を塗った米)、麹米(麹を塗った米)、掛け米(もろみ仕込みに使う米 蒸米の70%を用いる)の3つの使い方がある。
    麹米は専門店から購入した麹の胞子でたねつけする。麹の専門店をもやし屋さんと呼び、日本には2つある。
    酒母米は蒸米に酵母を生えさせたもので、蒸米の7%くらいを使う。酒母米と麹米には山田錦、五百万石など2倍くらい高い酒造好適米を使う。
     
    酒造り
    (1)麹・盛り
    麹はアンプルに入って売られている。蒸米の20-30%に麹をよくよく混ぜる(麹の種振り)。菌糸がくまなく生え、胞子ができるとまずくなるので、胞子ができないようにして48時間保つ。溶液でないものに均一に混ぜ込むことはとても難しい。そこへ水をいれて麹の働きをとめる。蔵人たちは上半身裸で30度の麹室(こうじむろ)でこの作業をする
    (2)麹・仕舞仕事  
    麹ふたに1.5Kgずついれ、酸素を十分に供給できるようにつききりで面倒をみる。これを48時間行う。こうして麹づくりは完成する。
    (3)生酛造り
    生酛(きもと)造りでは、桶の中に櫂をいれて、麹の菌糸がびっしり生えた蒸米に酒母(蒸米に酵母をまぜたもの)を混ぜ込む。これは元すりという重労働で、この作業を山卸(やまおろし)という。この作業を行わない方法を山廃(やまはい)という。山廃では、米麹に水を入れて、酵素を溶け出させたところに蒸米をいれる。歌う唄によってこの作業の時間をはかる。
    打ち瀬とは、5度以下の寒い日に行うことで、元すりをすると温度で2度くらい上がるが、外気温に冷やされてまた温度がさがる。これを3-4日間続ける。 
    いろいろな菌が生えるようになるが、亜硝酸で雑菌が死滅する。
    最後に乳酸菌が生えてpHが下がる。Ph4になると食中毒の菌は生えなくなる。自分の酸で、乳酸菌も死ぬ。昔は蔵に棲んでいる酵母や乳酸菌(蔵つき)の自然に落ちてくるものが利用されていたが、今では純粋培養された酵母、乳酸菌を投入する。
    (4)酵母  
    全国で優良酵母ができている。低温で発酵すると、アルコール生産能力が高い。アルコールへの耐性があり、アルコール濃度20%位までは死なない(普通は8%くらいで死ぬ)
    アンプルで販売されているのは協会酵母といわれ、広く使われる。
    (5)三段仕込み
    清酒酵母(酒母、モトという)に麹菌が生えた米(麹米)と蒸米、仕込み水を入れることを仕込みといい、3回に分けて酵母を仕込む。1回目を添え仕込み、2回目を仲仕込み、3回目を留仕込みという。留仕込みで酵母の増殖がとまる。初日の添え仕込みの後は、踊りといって、仕込みを休んで酵母を増やす。
    杉樽でつくると吸い込まれてしまうので、今はタンク培養がほとんど。
    アルコール度数が10-12度は淡麗、15-17度は芳醇となる。アルコール濃度が17-19度になったらしぼる。
    アルコール濃度が高くなると泡が減るので、杜氏は泡が消えて水面が見えてきたらしぼる。
    発酵の父といわれる坂口謹一郎博士はこの様子を「うたかたの消えては浮かぶ フラスコに ほのぬくもりて 命こもれり」と短歌に詠まれている。
    (6)上槽
    もろみを搾る判断をするのは杜氏で、袋吊りにして搾ることもある。袋吊り、斗瓶取りは高級なお酒。滴ってきたものを「あらばしり」という。「なかだれ」「なかくみ」「なかとり」とすすみ最後は「責め」となる。責めには雑味が多くなり、荒さが感じられる酒になる。
    (7)火入れ 
    搾った直後の酒の乳酸菌(火落菌)を殺して品質を保つ。60-70度で30分加熱。熟成して瓶詰前にもう1回、火入れする。
    生酒は火入れをしない。絞った直後の火入れをせず、瓶詰前の火入れを一度行う酒を「生貯蔵酒」という。
    パスツールがパスツーリゼーションを開発したのは19世紀。日本の火入れはその500年前。
    (7)本醸造と純米酒
    純米〇〇という酒は醸造用アルコールを加えてない。純米酒は芳醇だが、芳醇すぎることもある。
    本醸造、吟醸酒、大吟醸酒は醸造アルコールが添加してある(アルコール添加酒)という。


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    講師のお話に熱心に耳を傾ける参加者
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    ビーカーにうつして恒温槽で加熱

    楽しみ方・たしなみ方
    (1)利き酒
    利き酒ちょこを使う。日本酒を鑑定する人は北向きの部屋で行う。
    国税庁の酒類総合研究所が東広島にある。15人で1000本くらい鑑定する。1割が金賞で2割が銀賞になる。
    (2)ラベルの見方と楽しみ方
    精米歩合: 白米の玄米に対する重量の割合で精米の程度がわかる。
    日本酒度: 比重。糖分が少ないと浮きを浮かせて調べる。甘いと比重が重いので浮き高く浮いて目盛がマイナスになる。
    酸度: 乳酸、コハク酸、りんご酸によって生じる酸味。酸度が高いと濃くて辛口になる。アミノ酸度: アミノ酸の総量でコクの指標になる。アミノ酸度が高いと重い。1.0以下はすっきりしている。
    日本酒は酸度と日本酒度の組み合わせを楽しむ。日本酒デビューしたい人は、吟醸酒の生酒がおすすめ。アミノ酸度の低いほうが日本酒に慣れていない人は飲みやすい。純米酒はビギナーには飲みにくい。水を入れたりして、自分のおいしいところをさがす。
    (3)いろいろな日本酒
    にごり酒:麹をろ過していない。
    ひやおろし:春にできた酒をひと夏こして熟成して秋に出す。アルコール度高め。
    原酒:しぼった酒に水を入れない、アルコール度数は17度。水を入れて16度にしてもいい。
    (4)特定名称酒
    「吟醸酒」に精米歩合60%以下の米を用いる。醸造用アルコールを添加するときは白米重量の10%以下とし、低温で発酵させる。吟醸香は、酢酸アミル、カプロン酸エチルによる芳醇な香りで、低温で発酵させるためにエステルができて芳香がでてくる。
    吟醸酒だからといって、吟醸臭がするとはかぎらない。
    米だけで作る酒を「純米酒」、精米6割以下は「吟醸」、精米5割以下は「大吟醸」という。   
    (5)たしなみ方
    ワインは温度が決まっているが、日本酒は決まっていない。一般にお酒は温めると香りが広がる。燗をして味がよくなる酒を燗映えのする酒という。
    吟醸酒、大吟醸は温めると香りが飛ぶので冷で。生酒はきんきんに冷やす。
    芳醇な酒は燗にむいている。安い酒は50度くらいがいい。ベテランの燗番(お燗をする係の人)は水面の上がり具合で温度がわかるそうだ。
    冷酒はガラスの器で飲んでほしい。濃すぎると思ったら水を加えるとよい。加える水は、造ったときと同じ水がいいという。今日はミネラルウォーターを用意している。魚の卵や生牡蠣はワインより日本酒が合うと思う。
    今日の試飲用の12本の中には、何本か原酒がある。原酒は濃すぎると思うので、日本酒初心者には水割りがお勧め。
    多賀治のようなガス感のある酒のお燗はだめ。今日のお酒では鳥海山が、香り、甘さ、酸味、なめらかさで一番人気だろうと思う。上善水如は活性炭で淡麗辛口に仕上げてある。大七は昔ながらの山卸しをしているお酒で手に入りやすい。燗が向いている。
    一般に、燗をするなら、玉乃光など芳醇で甘口の純米酒がいいと思う。

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    記入用紙を片手に飲み比べ
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    中島先生によるまとめ
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