くらしとバイオプラザ21ロゴ
  • くらしとバイオニュース
  • 多摩六都バイオカフェ「ワリとイケてる!アズキのなかま」

     2015年12月6日、西東京市にある多摩六都科学館でサイエンスカフェ「ワリとイケてる!アズキのなかま」が開催されました。多摩六都科学館のみなさんとくらしとバイオが一緒にバイオカフェを行うのは今回が始めてです。記念すべき始めてのバイオカフェは農業生物資源研究所 遺伝資源活用ユニットの内藤健さんをスピーカーにお迎えし、お話をうかがいました。
    当日は内藤さんが持参してくださった9種類のアズキの仲間の種子を見たり、多摩六都科学館で用意してくださった2種類の最中をいただきながら、お話をお聞きしました。


    写真
    内藤さんのお話
    写真
    会場の様子

    お話の主な内容

    農学研究者を目指した理由
    研究者の仲間から、どうしてアズキの研究をしているの?と質問される。まずは、私がどうして農学の研究者を目指したのか、そしてアズキの研究を始めたのか、その話から聞いてほしい。
    私が中学生〜高校生の頃、ずっと理科、特に物理や化学が好きだった。将来的には大学の工学部に入って機械を作ったり、化学薬品を作ったりする仕事をするのだと思っていた。ところが、高校3年生になる前の春休み、NHKのある番組を見て感動し、人生が変わった。
    その番組では遺伝子組換え作物の特集をしていた。その中で、収穫後に品質が長持ちするように、遺伝子組換え技術で改良した「フレーバートマト」の紹介があった。当時、トマトは熟してから収穫すると、流通の過程ですぐに傷んでしまっていた。そのため、美味しく熟す前、実が青いうちに収穫し、スーパーの店頭に並ぶときに赤く色づくようにしていた。トマトが収穫後に長持ちするようになると、熟してから収穫ができ、トマトの美味しさを最大限に発揮させることができる。フレーバーセーバートマトは当時とても売れた。これを観て、「科学技術で生き物の性質を人の手で変えることができる。それであれば遺伝子組換え技術で砂漠でも育つ植物を作り、緑化ができるのではないか」と考えた。そこで、「これからの時代は農学部だ」と考え、農学部に進学した。
    ところが、大学に入ると、遺伝子組換え植物を使った砂漠の緑化が簡単にはいかないであろうことがわかってきた。理由の1つ目は、遺伝子組換え技術を使っても全く水のないところで育つ植物は作れないということ。2つ目は社会の遺伝子組換えに対する拒否反応。その頃になると遺伝子組換え技術に対する市民の不安もあって、フレーバーセーバートマトはスーパーから消えてしまっていた。万が一、砂漠でも育つ植物を作ることができたとしても、畑で栽培するには組換えでない品種のもののほうが受け入れられる。そういう現実を見たとき、私は高校時代の夢を諦めた。
    それでも私は理科が好きだったし、「知らなかったことを知る」というプロセスが楽しかったので、研究生活を始めた。学生時代、「自分は研究者として何を研究したら良いのか」と悩んだ時期があった。ちょうどその頃、ダーウィンの種の起源を読み、ダーウィンの考えていた進化の深みにはまってしまった。

    生物の進化とDNA
    生物は、そもそも35億年ほど前にはバクテリアのような生き物だった。そこから少しずつ変化していって、様々な生物種が広がり、繁栄した。
    どうしてキリンの首は長いのか?オカピから進化したといわれるキリンだが、「自分の首よ伸びてくれ!」と言って長くなったわけでもないし、「私の子供に高い木の葉を食べさせたいから」と首の長い子を産んだわけでもない。偶然に高い木の葉を食べられるような首の長い個体が産まれた。産まれた環境に偶然マッチして、生存に有利になりキリンとなった。でも良く考えると、首が長いというのは高い木がなければ不便なもの。首が長くなったことが生存に不利になっていたら、そのような個体は消えていただろう。これが進化のプロセスである。鳥の羽も、偶然に飛べる羽ができて、敵の少ない空で繁栄した。では、これらの偶然の変化は何によって起こっているのだろうか?それはDNAの変化である。
    DNAはATGCの文字が一見ランダムに並んでいるように見えるが、この中にプログラムがコードされている。地球上の生物は、どのような生命体も設計図自体はAGCTで書かれている。この設計図が書き換わると、生き物の性質は変わる。人間とチンパンジーの違いは、その設計図全体のATGCの1%の違いによる。設計図の書き換えは、細胞が増える際のDNAのミスコピーによって起こる。それが蓄積されていくことで進化が生まれたと言われているが、それだけでは進化のスピードが説明できない。ではそれ以外に何があるのか?それがトランスポゾン、動く遺伝子である。
    トランスポゾンとは何かというと、DNA配列の中から切り出されて、ほかの場所に入り込んだり、コピーアンドペーストで増えてしまったり、ということが起こる特定のATGCの文字列のこと。これによって設計図が書き換わることがある。トウモロコシには粒の色がカラフルなものがあるが、これもトランスポゾンの性質によるもの。例えば、色が赤くなるためのシグナル遺伝子の中のトランスポゾンが入ると赤くならなくなったり、青くなるシグナルに変わってしってしまったりする。あるいは遺伝子のスイッチ部分にトランスポゾンが入ってしまうと、もっと赤くなれ!というシグナルに変わってしまうこともある。日本で馴染み深いのは朝顔の花の色。斑入りや花びらの形が違うものなどの違いもトランスポゾンによるもの。こういう現象が進化の源になっている。花の形が変わってハチが飛来しやすくなると、個体が増えやすくなり、生存に有利になることもある。
    そういったトランスポゾンの研究をしようと、ジョージア大学のトランスポゾンの専門家の研究室で修行をした。5年間の研究生活でNatureにも論文を出すことができた。しかし、やはり17歳の時の想いが心に残っていた。
     
    忘れられない1枚の写真
    農学の研究者が最優先で取り組まないといけないのは食料危機の問題。17歳の時、ピューリッツァ賞を受賞したカメラマンの1枚の写真を見て衝撃を受けた。飢えでもう歩けなくなり、うずくまった子どもをコンドルが狙っている写真。アフリカ地域では日常茶飯事のように起こっていることだが、このような子どもを一人でも減らさないといけない。2050年には世界の人口が90億人を超えるが、その時点で飢えに苦しむ人は8億人と予測されている。栄養不足人口も増えると言われており、このままではあの子どもが減るばかりか増えてしまうのではないか。「農学博士を取った自分はトランスポゾンの研究をこのまましている場合なのか?」と思った。食料生産を増やさないといけない、そのためにも地球上の農地を増やさなくてはいけないと考えた。
    しかし、現在、一番障壁になっているのは塩害。灌漑施設は地下水をくみ上げて農地に水を撒くのだが、この時、農地には地下水に含まれる微量な塩分が残ってしまう。これが繰り返された結果、塩害が起こる。ひどい場合には土地表面が塩で真っ白な、何も植物が育たない土地になってしまう。日本の農地面積がおよそ400万ヘクタールなのに対して、世界の灌漑農地2億8,000万ヘクタール。そのうち2割が塩害、3割が塩害予備軍と言われており、将来的に灌漑農地の半分が無くなってしまう可能性がある。食料生産のために農地を増やさなくてはいけないのに、逆行している。メソポタミア文明が起こったのは小麦の栽培を始めて食料がたくさんあったから。今の時代、神殿は砂漠の中にあるが、元々はローマ帝国の食料庫で砂漠ではなかった。それが灌漑により塩害で砂漠になったことがわかっている。
    現在、地球上には塩害で農作物が栽培できない土地が約8億ヘクタールあるといわれている。その他、土壌が酸性あるいはアルカリ性の土地がそれぞれ約40億ヘクタールずつ、乾燥して治水しなければ農業ができない土地が約50億ヘクタールある。合計すると地球上のおよそ135億ヘクタールは土壌の問題で農業ができないことになる。植物にとって土壌は弱酸性で育つが、酸性になると根が伸びなくなり、枯れてしまう。逆にアルカリ性になると栄養成分が水に溶けなくなるため、根から吸収できずに枯れてしまう。世界の耕地面積は現在およそ15億ヘクタール。現状では農地をこれ以上広げることが難しい。私は「このような現状を変えることができないであろう」という諦めと、「それでもどうにかしなくてはいけない」という気持ちとで葛藤しながら、ポスドク時代は進化の研究をしていた。
    そのような気持ちを抱えながら次の仕事を探していたら、日本でアズキの研究者の公募があるのに気づいた。最初に見たときに、なぜアズキなのか、日本人にとってはアズキが大事なのはわかるが、学会に行ってもアズキの研究なんて聞いたことがなかった。調べてみると論文数は世界全体でも数は少なく、ダイズの研究の1/200ぐらいしかなかった。アズキの研究をしていたのは農業生物資源研究所の遺伝資源センターというところで、様々な作物の種子を集めて保存している。病気が流行ったり、気候変動が起こったときに、新しい環境に適応できる作物を探すためのストックとしている。これを知って、自分の目指している研究ができるのではないかと思った。
     
    アズキの多様性
    日本の農耕地の8割は水田。将来的に日本も砂漠になってしまうか?雨が降れば塩分を流してくれるので、日本は大丈夫だと思う。塩害への対応はとてもお金が掛かる。大きな企業が植物工場を作り、人工の光で野菜を栽培している。しかし、発展途上国には設備投資などに十分な予算を取ることは難しい。まずは作物の耐塩性品種を作るほうが良いと考えた。
    アズキは黄色い花が咲き、その後にさやが伸び、熟すとさやが開いてマメが出てくる。イネやムギ、ダイズなど主要な作物は弥生時代に中国で栽培されていたものが日本に入ってきた。アズキは縄文時代の日本人が栽培していた、という説が有力。日本人が独自に栽培化したと考えている。田んぼやあぜみちに野生のアズキやツルアズキという小さな植物がたくさん生えている。西日本には特に多く生えている。
    アズキの仲間にはいろいろな作物がある。例えばもやしの原料になる緑豆。細もやしの原料はブラックマッペというマメ。ササゲはヘソの周りが黒い。十六ササゲというササゲがあるが、これは1本のとても長い鞘の中にマメが16個入っていることからこう呼ばれている。アフリカのバンバラマメは落花生のように土の中にさやが入ってマメができるが、1つのさやに1つの豆しか入っていない。バリ島やパプアニューギニアにある赤ササゲは地上部にはマメができて、根は芋になる。
    栽培種のほかに野生種、いわば雑草のアズキの仲間は現在104種ある。アフリカ大陸ではアズキの野生種の探索は十分でないので、アフリカ大陸を探したらこの数はもっと増えるかもしれない。この104種のアズキの野生種を見たとき、私はとても驚いた。それは、先ほども話しをした農業、食料の問題の多くにアズキが対応できるかもしれないからだ。今日は104種の中から6種のアズキの野生種を紹介したい。
    1つめはハマアズキ。海の波をかぶるような浜辺でも大群落をつくる。2%の食塩水をかけて育てても、他のアズキは枯れるがハマアズキだけは生き残る。学名がVigna marinaなので、仲間内では“マリナちゃん”と呼んでいる。
    2つめは芋をつくらないアカササゲの一種。土壌の酸性度が低いところが好きで、pH3の条件でも良く育つ。
    3つ目はエクシリスという名前のアズキ野生種。タイの西部には石灰岩の岩場が広がっている地域があり、その岩肌に生えている。石灰岩は強いアルカリ性を示す。エクシリスはアルカリ土壌に強い。
    4つめはインドに生育しているアズキの野生種。インドでも内陸では乾燥地域があり、そういった土地で地下水を求めて地下深くまで根を伸ばす。通常、植物の根っこは中心の太い根から細い根が枝分かれするが、このアズキ野生種は枝分かれがなく、中心の太い根だけがある。土壌が乾燥しているので、枝分かれしても水分も栄養分も吸収できないため。
    5つ目はミャンマーに生育している、ムンゴという水害に強い野生種。アズキは水害に弱いのだが、この野生種は根が水浸しになり、酸欠になると地下でなく地上に向かって根を伸ばし、酸素を得るようになる。
    6つめはスチプラセア。これは害虫に食われにくい。
    これら様々な特徴をもった野生のアズキの仲間が存在することを知ったとき、これはすごいことだ、これはやれる!と思った。17歳の時の夢を思い出した。


    写真
    アズキの遺伝資源の一部
    写真
    日本でアズキといえば和菓子

    野生種のアズキの遺伝子を利用する
    では、具体的に何ができるのか。塩に強いハマアズキを母親に、塩に弱いアズキと掛け合わせれば、それぞれの性質を受け継いだ子どもができる。さらにそれらを掛け合わせて孫を作っていくと、その中から塩に強い孫がでてくる。その設計図を調べ、設計図のどこに塩に強い遺伝子があるのかをつきとめる。設計図がわかればそれを取り出してダイズやイネ、小麦に入れることで、今は作物が栽培できない土地で栽培できる作物ができるのではないかと考えている。
    孫の設計図を調べるには、父と母の設計図がわかっていないといけない。そこで、アズキの設計図を詳しく調べようと考えた。すべての設計図であるゲノムを解析するのはとても時間と予算がかかる。イネはすべてを調べるのに15年かかった。しかし、現在は次世代シーケンサーという、1台3千万から1億円ぐらいする装置が開発され、5年で調べることができる。実はアズキのゲノム解析については終了し、最近論文として成果を発表した。この時、植物体も種子であるマメの部分も大きくなる遺伝子も発見した。このことは“大小豆”、大きなアズキができるかもしれないと新聞にも記事が出た。
    最終的には、先ほど紹介した6種類の野生種がそれぞれの環境に適応するのに必要な遺伝子を調べることが目的。まずは塩害について対応するために、塩に強いハマアズキを使って研究を進めている。ハマアズキは、淡水の川辺に生えていたホソバハマアズキが、偶然に塩に強くなったことがわかっている。ハマアズキとホソバハマアズキを掛け合わせて孫を作って、それを栽培する。塩水をかけても生き残る個体残った孫のゲノムを調べてみると、1番染色体の1箇所、たった1箇所のATGCの書き換えだけがハマアズキの設計図だと塩に強い性質を決めていることがわかった。これを他の植物で再現できれば、耐塩性の植物ができるだろうと考えている。
    ヒナアズキというアズキの野生種がある。宮古島に多く生えている。宮古島では多くの観光客が灯台を目指して歩いていくが、私たちは地面をみて歩きながらアズキの仲間を探しにいく。ハマアズキの生育場所よりも海から離れているが、潮風にさらされているのである程度の耐塩性はある。ハマアズキは波に乗って島間の移動ができる。ヒナアズキとアズキを比べると、1番と2番の染色体に違う設計図があることがわかった。三箇所目が変わると海水でも生きていけるのではないかと予想している。耐塩性以外の性質についても、同じような作業を進めて、新しい作物を作っていきたい。とはいえ、先ほど話をした課題の全部に対応できるまでにいたらないと思う。それでも1割でも良いので農地として使えるようになれば、13億ヘクタールの農地を増やすことができる。そうすると使える農地が15億から28億ヘクタールにまで増加する。これはとても意味のあること。


    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 根が芋になるアズキは日本でも栽培できるのか?実績あるか?  → このアズキは畑では育たない。自分たちは温室で育てた。
    • ハマアズキは、塩濃度が高い土壌では、土壌に含まれる塩分を吸収し、細胞のなかでキレートして無害化することで育つようになるのか? → 吸い上げて、細胞の中の液胞に溜め込むことで耐塩性になっている。  
    • 耐塩性のアズキはファイトレメディエーションに利用できるか?  → 植物の根っこが届く範囲でしか浄化できないので、うまく利用できないのではないかと思う。ただし、野生種であるハマアズキを、人が栽培しやすい作物にすることで食用として利用できるのではないかと考えている。
    • 紹介されたアズキの野生種は、食べられる?味は美味しい?  → それぞれの地方では食べているという報告があるので、食べられるのだと思う。味は様々で、地域で好みの味も違ってくる。現地の人たちは美味しいというマメも、自分たちが食べるとそうでもなかったりする。個人的にはハマアズキは美味しくなかった。ヤブツルアズキはアズキの風味が強いが、食べ過ぎるとおなかを壊す。
    • 遺伝子組換えとはどういうもの?悪いものもあるというが・・・  → 遺伝資源は世界共通の資源だったけれど、その土地固有の財産というように変わってきて、なかなか海外からその地域の野生種が手に入りにくくなってきた。しかし、そのような野生種がこれまでに見つかっていない、有用な遺伝子を持っていることもある。遺伝子組換えを使えばそのような有用な遺伝子も利用できるので、今後の食料生産を考えると有用な技術と思う。
    • ヤブツルアズキ、食べ過ぎるとおなかを壊すという話だったが、どの程度食べるとおなかを壊すのか? → おしるこで2杯分ぐらい。
    • 今日の話しを聞いて、数日前に見た、アズキのゲノム解読のニュースの意味が良くわかった。今後の研究の予定は?今日紹介された6種の野生種のゲノムを全部調べる必要がある?  → 1種類のアズキで基本になるようなきれいなデータが取れれば、ほかのアズキはそれを元にして調べていけばよいので、より安い値段で解析ができる。実際に作物のアズキできれいなデータが取れたので、それを基にして、これからはほかのアズキの野生種についても調べていきたい。
    • 遺伝子を切る、というのは制限酵素のこと?逆につなぐときは何でつなぐのか?  → 切るのは制限酵素などが切る。切れたDNAを修復する機能を生き物は持っていて、それも酵素がつなぐ。
    • アズキの研究を進めていき、実際に農家さんが育てられるものができたら、まずは日本で新しい品種を作り、どの後に海外に持っていくことになるの?  → 正式にはそのような流れになる。品種登録をしなくても栽培されている品種は多い。
    • ダイズとアズキの違いは?  → おおよそ2000年くらい前に別の作物になった。染色体が倍化して、アズキとダイズの交雑は今ではできない。アズキの粒が大きくなるための遺伝子はわかっているので、ランダムに突然変異を起こさせ、必要な遺伝子を持っている個体を選んでくることで、大きなアズキができてくるのではないかと期待している。
    copyright © 2016 NPO法人くらしとバイオプラザ21