バイオカフェレポート「ヘアケアってなに~毛髪の科学から白髪染めまで」
2015年11月1日、千葉県立現代産業科学館で、バイオカフェを開きました。お話は花王株式会社ヘアケア研究所主席研究員 小池謙造さんによる「ヘアケアってなに~毛髪の科学から白髪染めまで」でした。お話の途中で、松本宗雄さんのヴィオラ演奏(ヴィバルディ「冬」など)がありました。
小池謙造さんのお話
松本宗雄さんのヴィオラ演奏
お話の主な内容
ヘアケアの基本
日本人の髪は本来は美しいものなので、ヘアケアとは「髪を傷めないためにどうするか」が基本である。濡らした状態は傷みやすいので、濡れているときに引っ張ったり、こすったりすると致命的なダメージになる。ドライヤーで乾した後、冷風で冷やすと熱のダメージが軽減される。ヘアアイロン(約180度)も熱のダメージに注意が必要である。
ヘアカラーはアレルギーのリスクがあるので、予めパッチテストをした方がいい。ヘアマニキュアは外から絵具を塗るイメージなので、ダメージが少なく、アレルギーのリスクも減る。
髪の毛はタンパク質からできている。生玉子だと思って優しく扱ってください。ダメージとは、タンパク質が変質すること。卵が目玉焼きになったり、腐った牛乳は元に戻らない。傷んだ髪は元通りにできない。
毛髪の基本構造
○キューティクル:キューティクルとは、毛髪の外側の固いタンパク質の層で、濡れると弱くなる。欧米人と日本人とでその硬さが異なる。花王は1970年代から「キューティクルケア」という言葉を使ってきた。
キューティクルの表面に脂が結合しており、これが滑らかさ、艶に関係する。ヘアカラーをすると、この脂がとれてしまい、滑らかさが失われてしまう。
○コルテックス:キューティクルに包まれた内側の層。ケラチンを含み、髪に柔軟性を与える。
○メデュラ:ヒトも含めて動物の毛の中心の空洞のこと。動物網ではこの空洞は保温効果がある。
〇構造:コルテックスのタンパク質はらせん構造をしている。1950年ころノーベル賞受賞者のクリックは3本鎖、ポーリンは1本鎖を提唱したが、2本鎖構造である。1981年、フレーザーが分子からマクロな状態までの髪の毛の構造をモデルとして発表している。
〇毛髪の太さ:花王で日本人2万人(10代~60代)の毛髪の直径を調べたところ、女性の太さはあまり変化しないが、男性は10代をピークに徐々に細くなることがわかった。セイヨウオトギリソウ(アスチルビン)やt-フラバノン入り育毛剤を使うと毛髪を太くする働きがあることもわかっている。
日本人の髪
日本人の髪は古来、「ぬばたまの黒髪」といわれる。ぬばたまとはヒオウギの真っ黒い実のことであり、黒さを表す枕詞。この黒さはメラニンによる。欧米人はメラニンが少ない。日本人の髪は3-8%のメラニンを含む。東アジアの中国人、朝鮮人、日本人は直毛で、断面が円形の黒髪である。東南アジアのタイ人は東アジア人の髪より細い。様々な民族によって、髪の断面の形、太さ、メラニンの種類と量は異なっている。たとえば、日本人は太くて直毛だが、アフリカの人は強いくせ毛である。面白いことに、キューティクルの厚さは人種によらず同じである。
日本人の毛はまっすぐ。現代日本人のノーパーマの230人を調べたところ、半分が直毛だったという調査がある。直毛の定義は、カール半径が4cm以上であること。
毎日シャンプーするようになったのはここ20年くらい。昭和30年代は週1回程度、江戸時代は月に1回の洗髪がせいぜいであった。
古来、日本人のヘアケアは髪をとかすことだった。洗髪をあまりしていなかった時代には、とかすことによって地肌の脂を髪にうつすことができ、地肌の脂を除去して清潔にしていた。その皮脂を使う固める髪型として、日本髪がある。髪をとかす文化の集大成が日本髪といえるだろう。
「魏志倭人伝」(3世紀 中国人が書いた)に、当時の日本の風俗が書かれている。お酒が好きで、礼儀正しい人々だと書かれている。日本の男は刺青をし、海で鮫に襲われないようにしている。女性は髪をまげて束ねている。魏志倭人伝の記事は日本最古のヘアケアのデータである。
日本人のヘアケア
現代日本では、ほぼ毎日洗髪するのが当たり前で、ダメージケアに着目したシャンプーは3分の1くらいある。
1950年代、お風呂屋に袋入り洗髪用の石鹸を売っていた。シャンプーは、固形石鹸→粉末→液体と変化している。昔は洗髪頻度が低く、1960年ころの広告では、「5日に1度はシャンプーしよう!」といっている。そのような洗髪頻度が低い時代に、メリットはふけの悩みにこたえたもの。
日本の洗髪の頻度は毎日が9割以上、中国人や他のアジア人は週に2-3回だから、日本人ほど髪の毛を洗う人種はいない。ただし、濡れた状態がダメージを引き起こすこともあるので、あまり頻度は高くない方がいいかもしれない。ダメージを感じている人はシャンプーを選んでください。
加齢と髪染め
キューティクルの表面の脂が毛髪を守っているが、これがヘアカラーでとれてしまい、脂分がなくなることがダメージにつながる。加齢で髪にうねりがでるとつやがシャープでなくなる。ダメージもうねりの原因になる。
キューティクルが痛むとリフトアップと呼ばれる状態となり、ささくれだって鱗が見えるようになる。シャンプーの回数が増えて地肌の脂が少ないので、ブラッシングは最小限にした方が良い。
ヘアカラーは、日本では1990年代から急増した。日本ワールドカップを機に男性にも髪染めが広がる。染めると明るい印象になるが髪のダメージは増える。
ブリーチ:メラニンを壊して明るい色になる。
酸化型ヘアカラー:基剤の過酸化水素を混ぜる。
ブロンドには少し赤いメラニンがある。赤いメラニンはモジリアニの「赤毛の女性」に登場するが、アイスランドには赤毛の人がいる。
白髪はメラニンがない。ヘアカラーでは、メラニンの前駆体を髪の毛に入れて髪の中で作らせる。3回くらい使っていると色が出てくる。メラニンの原料を月桂冠と共同で開発した。メラニンの中間体をつくろう!としている。
褐変麹にメラニンの産生能力があることがわかった。DHIで髪の毛を染める技術をつくった。キューディクルの中まで徐々に染まり、ナチュラルな色になる。やめると徐々に戻ってくる。ヘアカラーのように毛髪のダメージや皮膚が染まる不利点がない。
会場風景
会場風景
話し合い
- 毎日シャンプーはよくないのか→長い髪が絡まりやすいので、無理に洗うのが一番よくない。毎日洗うなら優しく洗うのが大事。一方、はちまきの部分に洗い残し、すすぎ残しが残りやすいので、よくすすぐことがポイント。シャンプーはつけて流せば髪の汚れが落ちるので、髪はあまりこすらず、地肌をこすって、しっかり地肌、髪をすすぐことを心がけてほしい。
- 男性用シャンプーと女性用の違いは→男性はメントール系のシャンプーが好み、さっぱりとしたタイプでも髪が絡まる心配がない。女性はコンディショニング成分が入らないと長くて絡まりダメージになる。また、女性用のヘアカラーは色が8-10種類くらいないとだめ。男性は2色で足りる。男性は選ぶのに迷わない方がいい。
- 髪染めの男性用品と女性用品の成分の違いは→しくみは同じ。男性はせっかちだから染まりが速い方が好まれる。たとえば5分で染まるような商品がある。
- 男性、女性の髪のちがい→男性は少し太いが、基本は同じ。
- 男性用と女性用の養毛剤の違いは→男性型脱毛症では男性ホルモンがあると毛が生えない。リアップは男性ホルモンを抑えて発毛する。女性の髪は一般的にはなくならないので、発毛促進よりも、育毛ということに重点が置かれている。
- 花王の海外の研究所では外人向けのシャンプーをつくるのか→欧州では欧州人(白人)向けと思われがちだが、実際アジア人もアフリカ人も欧州にはいるので、そちらの評価も必要となる。
- 花王の製品は全世界の人にあうか→アフリカの人の毛髪と日本人のとは、だいぶ異なるので、日本人向けのものはアジア人には良いが、他の人種では合わない可能性もある。
- 白髪の出る年代の違い→7年で髪は生えかわる。その時、毛を作る細胞は働くが、メラニンを作る細胞がさぼると白髪になる。メラニンを作る細胞の有無で白髪になる。メラニンを作る細胞は死にやすい。若白髪は毛を生やすときにメラニンを作る細胞が休んでいると出てくる。
- メラニンを作る細胞の強さは遺伝か→しっかりとした研究されていないが、親が白髪だと子どもも白髪となるような状況もあると思う。一方、禿は遺伝するというのは研究結果がある。
- ヘアカラーとヘアマニキアの違いは→ヘアカラーは過酸化水素と染料を混ぜるタイプで、黒髪を茶髪にでき、皮膚は染まりにくい。一方、アレルギーを起こす恐れがある。安全の確認のために、使用前(48時間前)にパッチテストを必ず行うこと。ヘアマニュキュアは黒髪を茶髪に染められない。脱色できない。絵具をつけるのと同じ原理だから皮膚も染める。ヘアマニキュアは、皮膚が染まりやすいので使用時に注意が必要。これ以外に、一時染めというのがある。
- 一時染めは表面だけに付着し、洗えば落ちる。
- ヘナ染めの成分は植物性と言われるが、実は、染料の安全性には注意が必要で、アレルギーのリスクがあると考えるべき。ヘナはオレンジ色の色素なので、茶色にするには強く染めることが必要になる。
- プールの塩素は髪に影響を与えるか→与える。ヘアカラーとプールは両方でダメージが蓄積するので、ヘアカラーは2、3か月に1回行い、ダメージのほとんどないヘアマニュキュアで、時々色を整えるのがいいのではないか。プール後のシャンプーは、あまりこすりすぎないように丁寧に洗うのがいい。
- コンディショナーとトリートメントの違い→コンディショナーもリンスも表面を整えて絡まりを防ぐもの。昔、シャンプーの残り成分をすすぐのためにリンス(すすぐという意味)が作られた。現在では、髪の表面をなめらかにする洗い流すヘアケア剤のことを総称してコンディショナー言う。
- トリートメントは髪の表面につけて5-30分放置して、中まで剤をしみこませる。洗い落とさないタイプもある。すなわち表面だけがコンディショナー、中まで作用するのがトリートメントです。
- リンスインシャンプーは?→髪の表面はマイナスに荷電しているので、コンディショナーでプラスにし、電気的に中和して滑らかにする。リンスインシャンプーの中のリンス成分は効果が弱く、コンディショナーと同じレベルにはならない。シャンプーよりはやや表面がなめらかになる程度。旅館等のリンスインシャンプーは、ほとんど効果はないと思う。女性の方は、旅行にはお気に入りのコンディショナーは持っていった方がいいと思います。男性は一般的に髪が短いのでリンスインシャンプーでもなめらかな効果を感じられるでしょう。
- ヘアカラー成分がしみこむと湿疹がでる→まず、皮膚の異常は感作(アレルギー)の可能性が高いのでヘアカラーの使用を止めてください。ヘアマニキュアに変えてください。一般的な話として、おでこへクリームを塗るのは、皮膚を染まらなくするためのものです。が、成分が頭皮から入る分は防げないので、安全性のリスクがあります。使用時に、かゆみや刺激があったらアレルギーの恐れがあるので、まずは使用を中止してお医者さんに相談してください。