「女性と農業」セミナーレポート
2015年9月1日(東京)、2日(札幌)、4日(大阪)で、「女性と農業」セミナーが行われました。本セミナーは、アメリカ大使館農務部および在札幌アメリカ領事館の企画により、バイオテクノロジーを使った農業と女性の参画をテーマに、全米トウモロコシ生産者協会の初の女性会長を務めたパム・ジョンソンさんを迎えて行われました。各回ともに、初めにアメリカの農業の概要が説明され、パムさんのお話、女性農業者、栄養士などが加わったパネルディスカッションの三部構成でした。登壇者は以下の通りです。
パム・ジョンソンさん
東京会場
「米国農業の概要」
アメリカ大使館首席農務官 エリザベス・オートリーさん
人口の増加と農業の進歩
昔はひとりの生産者は4人を養えばよかったが、今ではそれが26人になり、現在、アメリカの生産者はひとりで150人以上を養える能力を持っている。これは最も効率的な農業のおかげ。
人が耕していたところに、機械が導入され、フレーバーセーバートマトのような遺伝子組換え作物ができ、大学ネットワークなどの農業の技術革新を支える仕組みができ、農業は発展してきた。
アメリカの農業生産
アメリカは世界第2位の農業国で、輸入でも第2位、そして世界最大の輸出国。耕地面積の3分の1は輸出用農作物を作っており、3分の2は国内消費。
2012年 アメリカの農場は210万戸。日本と比べると、農家の数はほぼ同じで、アメリカの耕地面積は日本の80倍であることがわかる。
トウモロコシとダイズは史上最高値になり、ここ5年間で収益は30%アップ。
最大品目は肉牛だが、それに続きダイズ、モモ、カキ、パイナップル、クルミ、ゴルフ用芝生。
農場経営
生産高が1000万ドル以上が「農場」と定義されている。87%が小規模な家族経営で、企業の経営による農場は4%しかない。売上高が5万ドル以下の農場がほとんだが、4%の農場の売上高はとても大きく、100万ドルかそれ以上。。その4%の農場(数にして8万の農場)の売上高が非常に大きいので、農家の平均売上高を18万7000ドルと押し上げている。。アメリカの農家の半分以上が農業以外で収入をえて農場経営と家族を支えている。農家の40%は20ヘクタール以下の小規模農家。全農家の面積の平均は170ヘクタールだが、中央値は30ヘクタール。
農業は資本集約的で高リスクのビジネス。農家は最新の機械を導入したりリスク保険にも入って農業リスクの分散と生活の安定化を図っている。
アメリカの農業における土地と建物の時価総額は、1.7兆ドル。機械装置の時価総額は、およそ2000億ドル。農地の平均価額は、6550ドル/ヘクタール。特定の農家の売り上げが高い。もっとも大きいのは肉牛。作物ではトウモロコシが4000万ha、ダイズが3000万ha。
生産しているものは多様で、農産物以外に酪農、養鶏、養豚、ナッツ(特にクルミとアーモンド)。
アメリカは資源に恵まれているが、保護もしている。多様な品目が大量に生産されている。
農家の中心は40歳以上の白人男性。女性や人種的少数派が増えつつある。平均年齢は58歳で日本と同じように農家の高齢化が進んでいる。
アメリカの強み
1.広大で肥沃な土地:気候は多様で降水量も豊かである。
2.貯蔵と運搬手段:大きな川が国土を流れかつ海に面する港の水深が深く、船で運び出せる。貯蔵庫、パッキング施設 鉄道 低温輸送技術も進んでいる。
3.食の安全:畑から食卓までのリスク管理を実施。
4.技術革新:常に進歩し、生産高が上がっている。これは科学技術の応用に負うところが大きい。50年間で農業生産性は本当に向上している。
5.適応能力:すべての生産者の変化に対する適応能力が高く、技術改善のメリットを享受できる。
6.農業改良モデル:モデルをつくって、若い農業者の育成プランを進めている。
問題
1.地価の高騰:コーンベルトでは、2008-2009年、地価は10倍以上になり新規参入が難しい。
2.高齢化:農業後継者問題があり、農家の大型化、集約化が進行。生産の合理化をはかる必要。
3.労働力不足:果樹園などで収穫しきれなくて放置され、腐敗しているケースがある。
4.天候不順:干ばつ被害が100億ドルに達することもあり、経済的なリスクが高い。
しかし、リンカーンが言っているように「農業ほど、人の職業として価値のある職業はない。叡智をかける価値のある有意義な産業」であるので、これからも守り、改善していかなくてはならない。
札幌会場
大阪会場
「農業と女性」
全米トウモロコシ生産者協会 元会長 パム・ジョンソンさん
全米トウモロコシ生産者協会会長の時に、日本に通商関係の御礼を申し上げるのが目的で来日したことがあり、そのときの桜が忘れられない。日本に再び来られてうれしい。
アイオワ州で6代目の生産者として農業と関わってきて、農業は人となりでもある。私は3人の弟と農場で育った。18歳で親元をはなれて、看護大学に行き、ミネアポリスノースウエスタン病院の看護師になった。そこで夫と出逢い、農場に嫁いだ。看護師をしていたが、二男を授かり、43年間、夫と農業をしてきた。二人の息子が大学卒業後に農場に戻ってきたときは嬉しかった。そばに住む3人の孫とともに農場生活を楽しめてとても幸せ。
42,000農家の会員を持つ団体の初の女性会長になった。複数の商品作物、農村経済、農業の発達、地域の発展に関心を持っており、アイオワ州のトウモロコシ委員会に入り市場開発、研究協力に加わり、委員長になった。バイオテクノロジーチームにも入った。
今は、トウモロコシ輸出連合の理事や米国農務省(USDA)の傘下の財団の事務局長をしながら農業分野での女性リーダーの育成をしている。
トウモロコシ栽培の歴史
祖父母は手で収穫し、収穫したトウモロコシは牛や馬の飼料で使い切っていた。親の世代(1940年代)は機械を使い始め、今、私と夫はGPS機能のある大きなトラクターに夫々乗りながら収穫している。生産量は祖父母の世代の6倍、親世代の3倍になった。
すべては技術や道具のおかげ。研究と技術が全て融合していかないとだめだと思う。
GPSで土壌の形状、Ph、侵食密度などの畑の状態を評価し、人の目で作物の健康をチェックし、適した種を選び、その結果、精密な農業が実現している。
遺伝子組換え作物がいいのか、非組換え穀物をプレミアム価格で売るかを選び、畝を狭くして雑草防除をしたり、良い種を選ぶことで耕作効率を高めるようにしたりする。
遺伝子組換え作物は、道具の一つでしかない。選択肢は増え続け、それぞれ進歩し続けている。農家のくらしも向上し、世界に向けた穀物ができるようになる。
雨の過不足、病虫害リスクは食の安全保障を脅かすが、技術はこれらのリスクを低減できる。食の安全と安心は世界の人に貢献できる。技術によって、自然の脅威に屈せず、食のニーズに応えることができるようになる。
アメリカの農業は多様。我が家ではトウモロコシとダイズをつくっているが、アメリカのトウモロコシは国内と輸出用の飼料やエタノールに使われ、10%がコーンスターチになる。
祖父母の時代は種を取っていたが、私たちは性能のよい遺伝子組換え種子を購入している。除草剤をまくと雑草だけ枯れるので、収穫後に畑を耕さないですむ「不耕起栽培」ができるようになった。これで肥沃な土壌の流亡を防げる。GPS機能を利用し畑の状態をみて、ベストな形で種をまき、世話ができる。土地や水の保全につながる。
バイオテクノロジーについて
遺伝子組換え技術を使った作物を私たちは「遺伝子組換え」と呼んでいる。遺伝子組換えの安全性はWHO、EUで人体への悪影響はなく、二酸化炭素問題に貢献し、環境にもやさしいと評価されている。
栄養面で比較すると有機栽培が特に優れているわけではない。さらに、遺伝子組換えでは栄養価を高め、ゴールデンライスなども創りだせるので、世界の栄養失調の人々を救える。
○メリット1 耐病性
耐病性を付与することでパパイヤ、キャッサバを病害から守った。
ミズーリ州のダウンフォース研究所を訪問したとき、世界の主食の研究やうあ、かんきつ類のグリーニング病の研究をしていた。パパイヤを救済したように、期待したい。
○メリット2 価格
価格を15-30%削減する。とくにダイズ、トウモロコシ、テンサイ。
非組換えのプレミア価格もあり、ブッシェルあたり非組換えトウモロコシは1ブッシェルあたり51セント高い。よい作物を顧客に提供できる
○メリット3 高性能の育種・選抜
遺伝子組換えだと精度が高い選抜・育種ができる。
育種は伝統の技術で1万年行われているが、その中でテオシンテはトウモロコシになった。テオシンテはデンプン、タンパク質をほとんど含んでいなかった。
農業者として、農業研究には資金が必要だと思う。祖父母は良い種を選んで保存していたが、今は良い種を買える。トウモロコシの研究が必要。全米科学財団と一緒にトウモロコシのゲノムマップを作った。その成果は作物の健康、生産量増加につながった。
我が家では1996年から組換え作物を利用。農家だけでなく、消費者、環境に有益だから。
農家の戦いは害虫、雑草、病気、気候(洪水・旱魃)で、2012年、最悪の干ばつがあったがトウモロコシは熱波や風に負けず豊作だった。12フィートの根が水を吸いあげた。従来品種だったら2012年に失業していたかもしれない。
○メリット4 農業機械の進歩
トラクターで毎日、畑を何往復もした後、残った雑草を手で抜いていた。よい思い出ではない。大卒の息子を迎えるには、効率的な農業を用意しておかなくてはならない。
虫害
トウモロコシの害虫はネキリムシ、ヨーロッパタガネ、アワノメイガ。くきが折れ、中は虫食いになり、カビで汚染される。それを手で拾って歩かなくてはならない。
保全耕運
保湿効果のある草を植え、持続可能な農業ができるようにする。次世代にはより良い状態の畑を引き継ぐ。良い畑は大きな遺産。冬の土地を雑草が覆い土壌が吹き飛ばされずミミズが増える。春の準備ができる。肥料もいらない。そこに種をまき、微量栄養素を与える。ゴールは健全で強い作物を育てること。農薬散布回数が減ると燃料も減り、二酸化炭素も出ない。
冬の間、次の植え付けの準備をする。畑のマップを分析し、研修会に参加し、スキルアップにも努める。
我が家の孫のように、世界の子どもにも栄養が足りるようにしたい。私は看護師として、母親として、遺伝子組換えは安全だと考えている。家族全員が、私が栽培した作物、安全で栄養ゆたかな食品を食べている。
いかにして食の安全を守り、栄養を確保し、収入を得ていくか。科学的事実、研究成果に注目し、判断して選んでいくか。
遺伝子組換えは売られる前に人の影響、環境影響を調べられている。全米アメリカアカデミーは2010年報告で、GM作物の安全性、二酸化炭素排出の削減、土壌改善を報告している。
米国科学振興協会(AAAS)も遺伝子組換えは安全だと言っている。
英国医師会は安全性と遺伝子組換えの表示に、科学的根拠はないと言っている。
イタリアの科学者のグループは、1783の論文から有害ではないと言っている。
欧州委員会は130のプロジェクトの結果、組換え技術のリスクは高くないと言っている。フランス最高裁は、遺伝子組換え栽培の禁止を無効にした。これからも遺伝子組換え反対の判断は科学でなく政治的判断だったことがわかる。
米国医師会は、15年以上、遺伝子組換えを食べてきて健康被害なしと言っている。
イタリア最大の調査でもハザードなしと報告されている。
世界の食品安全保障
世界の女性が営む農家をみてきた。ザンビアのエゼスバスピエリという村では、必要量の生産が最大の課題で、遺伝子組換え種子で食をなんとかつないでいる状態だった。世界の生産者の円卓会議で、みんなが健康でよい種子にアクセスしたいことがわかった。
アイルランドでは、乳業用飼料が枯渇したときに、政治的判断でGM餌料を輸入できず牛を処分した。
世界の小規模農業者が遺伝子組換え技術を使っている。世界の飢餓にはGM食料が必要!
これから50年間に過去1万年分に上回る食糧が必要。中間層が増えて肉食が増える。
(ブラジル飢餓撲滅特命委員会)
農家はツールと技術を改良し、土壌保全をし、食料を増産する。
ノーマン・ボーローグ博士はノーベル平和賞受賞者で、みどりの革命の父。米とコムギの品種改良で世界の飢餓を救った。笹川財団と一緒になって、アフリカの緑化にも取り組んでいた。
森林伐採から森林を守るには、森林伐採が食料生産のためであるを知り、穀物の研究を始めた。そこで、品種改良の専門家として、働いた。
情報サイト
ジャガイモ、リンゴ、オレンジなどを病害虫から守るにはGMが必要。持続可能な農業のために科学技術が必要。
コモングランドというWebサイトを全米トウモロコシ生産者協会などでつくった。食料についての対話の場になっている。時間をとって懇談の機会をつくる。
消費者と生産者をつなげたい。顧客の理解を促す。
農場経営に私は責任を感じている。バイオ技術に期待し、より安定して安全で十分な食糧供給できることが世界中の人の願い。
これからも世界の科学者、女性の生産者と出会っていきたい。
東京登壇者
札幌登壇者
パネルディスカッション
三会場ともに、日本の生産者、栄養士、消費者団体などが加わりました。パムさんの生き方に関すること、バイオテクノロジーに関すること、農場経営に関することなど、多くの質問が参加者から寄せられ、パネリストとともに話し合いが行われました。ことに次のような回答が印象的でした。
「1日1ドルで暮らす人々が世界にいること思うと、こういう人たちがバイオテクノロジーを利用した農業ができるといいと思う」
「男女に関係なく家族で対等に農業に関わってきて今日があると思う」
「国によって気候や規模は違っても、よく観察して適した作物を選ぶのが大事だと思う。経済も考えて、遺伝子組換えも含めて選択すればいいと思う」
「遺伝子組換え種子は高いけれど、開発企業には利益をあげて、さらによい種子を開発してほしい」
登壇者一覧(敬称略)
話題提供 パム・ジョンソン(9月1日、2日、4日)
○9月1日(於 アメリカンセンター 東京)
米国農業の概要説明 在京アメリカ大使館首席農務官 エリザベス・オートリー
モデレーター 特定非営利活動法人 くらしとバイオプラザ21 主席研究員 笹川由紀
パネリスト 生産者 飯村典子
栄養士 尾崎智恵
食のリスクコミュニケーション円卓会議 市川まりこ
生産者 パム・ジョンソン
○9月2日(於エルプラザ 札幌)
米国農業の概要説明 在札幌米国領事館 首席領事ジョエレン・ゴーグ
モデレーター 特定非営利活動法人 くらしとバイオプラザ21 常務理事 佐々義子
パネリスト 生産者 大舘ゆかり
管理栄養士 榊房子
生産者 パム・ジョンソン
○9月4日(於ANAクラウンプラザホテル大阪)
米国農業の概要説明 在京アメリカ大使館首席農務官 エリザベス・オートリー
モデレーター 大阪府立大学生命環境科学研究科 准教授 山口夕
パネリスト 生産者 久保充己
コープこうべ 伊藤潤子
生産者 パム・ジョンソン
大阪会場2