バイオカフェレポート「消毒の豆知識」
2015年9月11日、くらしとバイオプラザ21事務所でバイオカフェを開きました。お話は、丸石製薬株式会社営業本部“感染症対策コンシェルジュ”の和田祐爾さんによる「消毒の豆知識~病気予防の第一歩」でした。「感染対策コンシェルジュ」は消毒薬のノウハウを知ってもらいたいという思いから立ち上がったプロジェクト。これまで500回以上、医療関係者に話してこられた和田さんですが、今回はわかりやすくお話し下さいました。
はじめに平岩利恵さんによるフルート演奏がありました。タイースの瞑想曲などクラシック名曲集のような初秋にふさわしい選曲でした。
和田祐爾さん
佐野利恵さんによるフルート演奏
お話の主な内容
丸石製薬は、医療現場で使われている、マスク式の全身麻酔、ポンプタイプの手指消毒薬をつくっている。病院などで置かれている消毒薬を32年前、日本で初めてつくった。消毒薬には種類があり、使い方もいろいろ。一般市民が入手できる消毒薬には、そんなに種類はないが、よく知って正しく選んでいただきたい。
私たちのくらしと微生物のかかわり
私たちの周りは微生物だらけ。人間は微生物なしには生きられない。微生物には危険な微生物と有益なものがある。
危険な微生物:連鎖球菌、ノロウイルス、HIVウイルス、麻しん(はしか)、インフルエンザウイルス、MERS
有益な微生物:乳酸菌、腸内細菌、皮膚常在菌、各種の発酵菌、抗生物質産生菌
感染症の報道は多いが、①断片的で断定的、②正確さよりインパクト(不安を煽る)、③モノに頼る(対策になる製品の企業の思惑があるかもしれない)、ことがしばしば見られる。
例えば、日本にMERS(中東呼吸器症候群)は入らなかったことになっているが、サーモメーターで体温を見ているだけでは、入国後に発症した人がいたかどうかなど、本当のことはわからない。韓国のような騒ぎにはならなかったことは冷静な対応であった。感染症は経済にも影響する。韓国の観光収支では赤字になり、これは2008年7月以来のことだった。
どこが汚いのか
不特定多数の人が触るものを「高頻度接触面」という。病院の診察券を入れる機械、吊革、エスカレーターのベルト、エレベーターのボタンなど。マイつり皮が販売されているくらい吊革は不潔。トイレを出るときに手を洗わない人もかなり多い。
しかし、菌をすべて排除するのは不可能。感染症防止には感染経路の遮断が大事!
トイレットペーパーを何枚重ねると大腸菌は通らないか、実験した人がいる。11枚だと数え切れないくらい菌が通る。24枚だと1-10個、27枚では通らなくなくなったという実験がある。それよりもトイレの後に手を洗えばいい。流水でもエタノール消毒でもよい。トイレのドアノブは汚いのでドアを閉めた後、もう一度手を洗ればよい。公衆トイレを出た後に携帯用消毒薬を使うのもいい。
共有パソコンのキーボードはいかにも汚い。どうすればいいか、使い終わったところで手を洗えばよい。
吊革につかまりながら使うスマホも汚い。カバーを洗ったり、本体を拭いたりする。
医療従事者は1シフトで300回の手指消毒が必要というデータがある。集中治療室で必要な手指衛生を流水手洗いでしようとすると計算上は、1時間のうち45分間、手を洗っていなければならなくなる。洗いすぎて手荒れすると、そこに微生物がつきやすくなる。医療従事者には、流水手洗いより、アルコール擦式消毒薬を使う方が奨励されている。
誰でもできるのが手指衛生とマスク。これを厚労省は「お口をカバー(かば)」と「手を洗いグマ」というキャッチフレーズにして励行している。
感染経路
感染源(病原菌)→感染経路(血液、空気、飛沫、接触、媒介虫)→宿主(人間)
○空気感染:結核、麻しん
結核菌、麻疹は窓を開けて空気を入れ替える。
○飛沫感染(咳やくしゃみは2m以内):インフルエンザ、アデノウイルス、髄膜炎、おたふく風邪、MERS、肺炎
飛沫は飛沫核を水分がとりかこんだもので直径が5ミクロン以上。落下速度は秒速30-80cmだが、水分が蒸発して核だけになると直径は5ミクロン以下。落下速度は秒速0.6-1.5cmになり漂うようになる。
○血液・体液(医療従事者の針刺し事故など):HIV、B,C型肝炎ウイルスなど
○接触感染:黄色ブドウ球菌、MRSA、腸炎、胃炎
血液・体液・排泄物・吐しゃ物を扱う時は手袋を着用し、手袋をはずした後に手を洗う。
身の周りにあるウイルスでRSウイルス(いわゆる子どもの風邪)、ノロウイルス(最近は夏も多い)、ロタウイルス(お腹の風邪)、アデノウイルス(のどが痛くて高熱、プール熱、結膜炎など)、インフルエンザウイルスは、飛沫感染か接触感染と考えてよい。
わかりにくい用語
滅菌:すべての生きた微生物を殺滅。
消毒:病原微生物を感染しない程度に少なくなる。医薬品のみ。
殺菌:菌を殺す。
除菌:業界自主基準で大腸菌と黄色ブドウ球菌を100分の1に減らす。はじめの菌が多ければ消毒にはなっていないこともある。
抗菌:菌を発育しにくい環境にすること。
防腐:微生物による食物の変質を抑えること。菌が生育しにくい環境をつくる。
静菌:菌の繁殖と死滅数がバランスして平衡状態になった状態。
制菌:抗菌に近い。増えないかそれ以下にする。
消毒はなぜするのか
周りの人に感染させないことと、自分が感染しないこと。
感染力は菌が少なければ弱くなる。
消毒しても抵抗力が弱い人(易感染者)は感染するので、医療現場では易感染者レベルで消毒薬を選ぶ。
一般家庭でも使えるのは、次亜塩素酸(漂白剤)、消毒用エタノール、ポピヨンヨード(ヨードうがい薬など)、塩化ベンザルコニム(逆性石鹸)など。
感染経路を遮断するのが大事なので、加湿器に消毒剤を入れることがあるらしいが、効果は低いし咽を傷めるので、絶対にだめ。部屋に消毒用エタノールを広範囲にまくのもよくない。
インフルエンザにかからない方法
・マスク:周りに人がいないときは不要。2m以内に咳をしている人がいるとき有効。咳をする人の飛沫を飛ばさないようにかけるべきだが、防御にもなる。看護師さんには顔が見える透明マスク、小児科用のマンガのマスクもある。N95というプロ用のマスクがあるが、大流行のときに医療従事者用が不足するので買い占めないこと!N95はトレーニングやフィットテスが必要。テストでは、甘い飛沫を使ってそれを吸いこまないかを確認してから使用するもので、一般の人には使いこなすのが難しい。
一般の方は、サージカルマスクで十分。ただしマスクをはずしたあと、手を洗うこと!
・手からの飛沫感染を遮断
・糞便からの感染の遮断
・加湿:非常に乾燥している部屋だと飛まつ核が漂い、感染が起こりやすい。
・手指消毒:インフルエンザウイルスに対しては流水手洗いとアルコール消毒併用。
・うがい:うがいだけでインフルエンザを防ぐのは無理。のどの粘膜にウイルスがついて短時間で体内に入る。飛沫を吸い込んで20分以内のうがいは有効かもしれない。過度のうがいで喉を荒らすとウイルスがつきやすくなる。流し場で集まって上を向いてうがいすると飛沫をうつし合うのでなるべく離れておこなう。
病院に行く時は
医療が進んでいるのに院内感染がなくならないのは、抵抗力の弱い人が救えるくらい医療が進歩し、ある意味、弱毒菌に院内感染するほど抵抗力が無くても、原因の病気を治せるようになったから。
基本は、病原菌はヒトに付着し、増えて感染するので、遮断すればいい!
院内感染は日和見感染が多く、抵抗力の弱い人がかかる。感染性の病気の人は見舞いを患者さんのために控える。患者さんの接触前後には手指衛生をする。かばんを床に置かない。これだけで患者さんを助けられる。日和見感染菌をもつ在宅医療の家族が注意することも同じ。
会場風景2
会場風景2
まとめ
アルコール消毒は手洗いより早く、効果がでる。
インフルエンザ、ノロウイルスはマスク、手洗い、うがい、免疫力を高めておくことで、ある程度防げるはず。おたふく風邪などをもらいにいったり、加湿機に消毒薬を入れたりしてはだめ。
ノロウイルスでは、人から人への感染が多い。老人ホームや保育所での手指消毒が重要!
食中毒防止では、生ものを避ける、手を洗う。
防菌防黴学会でつくった「菌・カビを知る防ぐ60の知恵」(株式会社化学同人社)をぜひ読んでください。
話し合い
- 鼻を出して、口だけにマスクをかけている人がいるが → 鼻からも飛まつは入るが、自分からの飛沫を防止する掛け方だと思う。みなさんは鼻と口を覆ってください。
- アレルギーにならないためにある程度、不潔な方がいいという人がいる → 衛生仮説。うちの子供は泥んこ幼稚園で育ちましたが、基本は清潔です。
- 手でくしゃみをおさえる代わりにひじでおさえるのはどうか → 手はその後に物に触るので、手よりは肘がいい。本当は手でも肘でもなく、ティッシュで覆ってください。
- イオンを発生する加湿空気清浄機はどうか → 自分は検証していない。設置している病院もあるが、院内感染はが減っているかどうかはわからない。
- エタノール手指消毒のポンプは開栓後、揮発しないのか → ポンプに仕組みがあって、(メーカーによって差があるが)1年はアルコールがとばなくなっている。
- ジェルタイプは → ジェルを手に塗って15秒間保てれば菌は死ぬ。強くすり込むかどうかはあまり関係ない。
- ウエルパスを購入したい → 医療用なので病院しかおろしていない。ノロウイルス対策で一般用も販売しているが、おいている一般薬局は多くない。薬局での取り寄せてください。
- 40-50年前のこどもは消毒しなくても丈夫だったと思う → 食中毒などの報告が今より少なかったのではないか。
- トイレのウォッシュレットは不潔ではないか → 議論が十分ではない。流す前にふたをしめると飛沫が飛びにくいという報告はある。