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  • コンシューマーズカフェレポート「機能性表示食品制度が始まって」

     2015年7月15日、くすりの適正使用協議会 会議室でコンシューマーズカフェを開きました。話題提供はグローバルニュートリショングループ 代表取締役 武田猛さんでした。機能性表示食品制度が4月に始まり、6月には商品が店頭に登場し、コマーシャルも始まりました。トクホとの違い、制度の特徴などを、具体例を示しながら説明されました。そして、企業責任で表示する制度なので、企業には襟を正してこの制度が定着するように努力してほしいというメッセージが伝えられました。

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    武田猛さんのお話
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    会場風景

    主な内容

    はじめに
    機能性表示食品制度が始まり、本制度を支援、活性化を図っている自治体もある。
    例えば、愛媛県では県内企業の選抜と支援。沖縄県では、県内農産物の機能を試験して、県内企業の活性化を図るなど。
    7月15日現在、53商品の届け出があり、商品名、届出者、評価方法、機能成分の情報がHPに公開された。
    大麦ベータグルカンは3種類のシステマティックレビューが提示されているが「大麦食品普及推進協議会」が実施した研究レビューの結果を使用している。公的機関発のデータは今後も、根拠として使えることになるだろう。
    にんにく卵黄のような、天然素材に近いものが登場できたのも、今回の制度の柔軟性によるところが大きい。
     
    どんな届出表示があるのか
    今回の特徴はわかりやすく、踏み込んだ表現が使えること。「低下」「軽減」などの具体的表現が受理された。「緊張感の緩和」も以前はNGワードだった。「緩和」、「調節」、「改善」が使われるようになった。「保護」も新しいことばである。「生理機能」、「組織機能」に関しても表現できるようになった。「○○に適した」「○○に役立つ」はトクホでも使われていた。睡眠に関して幅広い表現が使えるようになった。
    全体的に主観的な指標による評価が書けるようになった。同じ機能や成分に対しても、企業によって異なる表現を届出している。
    例えば、肌の健康でも、「乾燥を緩和」、「潤い」、「水分量を高める」、「潤いサポート」などと表現が多様になった
    眼の健康では、「ピント調節」、「見る力維持」、「目の調子」、「光刺激から保護」など。アメリカのサプリでは「目の健康」としか書けないが、日本ではその論拠が認められたので、より具体的な多様な表現が可能になった。
    関節痛に関する表現も多様。それに比べて、アメリカは「ジョイントヘルス」のみ。
    今回、メンタルヘルス、睡眠サポートの届出表示が初登場したのも特記事項。
    疲労感の改善に関するものは、トクホにはなかったが、今回、この働きが認められた。
    私は表示のコンサルもしているが、国語力が問われているのだと思う。疾病リスク軽減などの医薬品的効果のイメージにならないように表示を考えなくてはならない。科学がわかり、かつ国語力の豊か人材が求められている。
    一番多いのは生活習慣病予防、特に内臓脂肪・体脂肪が増えないようにする脂肪吸収抑制。
     
    マーケットの大きさ
    脂肪吸収抑制の顕在市場は382億円で、潜在市場(このくらいなら払ってもいいという消費者調査の市場)は1、672億円。まだ市場には成長の伸び代がある。一番多いのはDHA、EPA、マルチビタミン。
    実際には表示の内容を正しく理解せず、企業がうたっている成分の機能とは異なる目的で摂取している消費者がいる。
    今後、市場が拡大しそうなのは、美肌・肌ケア、目の健康に関する食品。
    不眠、抗ストレスはこれまで書けなかったが、表示できることで市場が大きく拡大しそう。この分野は潜在市場も大きい。疲労回復のサプリの潜在市場の2倍にあたる。にんにくなどが期待される。
    顧客ベネフィット(消費者の希望)は、機能性表示食品はQOLの向上、快適な生活、見た目の向上(痩身、美肌など)、不安解消、疾病リスクの低減などだが、意外とお守り的存在(特段体感していないが、継続していると安心する)としての利用が大きい。
    期待ベネフィットからみると、アメリカでは機能が明らかなもの(Condition-specific)が売れている。特定機能は、改善効果が出ないとリピートされない。マーケティングコミュニケーションで理解を進めて継続して利用してもらう事が重要。認知されている成分に対するエビデンスが少なかったり、エビデンスは多くても機能が認知されていなかったりすると普及しない。
     
    健康食品のマーケットの潜在性
    消費者調査の結果から、消費者が支払ってもいいと思う金額と健康の利用を望む消費者数をかけると4兆2700億円。まだ、2兆7300億円の伸び代があることになる。
    アンケートによると、いわゆる健康食品を使わない理由は、値段が高い、本当に効くか疑いがある、選び方がわからない、副作用が心配、科学的根拠が不十分、医薬品との飲み合わせの不安があげられる。
    健康食品未使用の人の場合は、科学が高い、効果が怪しい、選び方がわからない。
    健康食品を利用したくない人では、上記の理由に「健康食品に頼りたくない」が加わる。
    機能性表示食品制度でメリットが大きい成分や素材はどんなものか
    よく売れるためには効能が理解されること(効能理解)と、よく知られていること(認知度)が大事。乳酸菌、コラーゲン、ヒアルロン酸、ブルーベリーなどは認知も理解も高いので、PRは不要になる。ラクトフェリン、セラミドは認知も理解も低いので、コミュニケーションで欠けている要素を補うと、普及する可能性がある。
    どのようなマーケティングがいいのか。それは、これまでのイメージ戦略よりも直接、正確にベネフィットを具体的に伝えること。
    具体的には、体感しにくい素材の摂取理由を伝える。しかし、顧客満足度は事後評価を事前期待で割ったものだから、事前期待が高すぎても不満につながる可能性がでてくる。
     
    ヘルスクレーム(健康強調表示)制度の国際比較
    表示するには、企画基準型(日本の栄養機能食品やアメリカのNLEA(Nutrition Labeling and Education Act 栄養表示教育法)が該当)、個別評価型(日本のトクホ)、届け出制がある。アメリカのDSHEA(Dietary Supplement Health and Education Act 栄養補助食品健康教育法)と今回の機能性表示食品は届け出制で、日本とアメリカしかない制度。
    DSHEAには、目立つように「FDAが評価していない」ことを表示する、いわば性悪説に基づいている。NLEAは規格基準に従い、無条件又は限定的ヘルスクレームの使用が可能になっている。
     
    安全性評価
    食経験の評価(喫食情報、既存情報)と安全性試験に関する評価(既存情報、安全性試験実施)が行われる。
    喫食実績とは、摂取集団、摂取形状、摂取方法、摂取頻度、日常的摂取量、機能性関与成分の含有量、これまでの販売量、健康被害情報をさし、全項目の情報がなくてもいいが、販売の適切性について科学的に説明できなくてはならない。
    販売実績で評価する場合、科学的根拠となりうる数字はどのくらいか。
    届けられた商品をみると、19商品が自社製品などの販売実績をもって安全性評価をしているが、FDAでは、食経験の目安として最低25年間摂取をあげている。オーストラリア・ニュージーランド食品基準局は2-3世代あれば十分だが、条件によっては10-20年でも十分としている。
     
    機能性表示食品の広告などに関する主な留意点
    消費者庁の検討委員会が6月19日に、発表した。根拠になる法律は、景品表示法、健康増進法、食品表示法で、「実際よりも著しく優良」とか、「著しく事実に相違していない」表示ならばいい。  
    根拠としては、論文1報でも、臨床試験でもいいが、2009年、2007年の論文がつけられてきたのをみると、新しい論文はないのだろうかと思う。査読つき論文だからいいというものでないが、論文の根拠はあった方がいい。訂正して差し替えてもいいが、初めによく確認しておくべき。
    せっかくできた制度を育てるためにも、事業者が自ら見極め判断し、責任をもって判断することが重要。
    企業は、届け出た内容以上の表示をしないこと、トクホと誤認されないようにすること、必要な表示事項を示し(放送)、国が評価してない旨を明らかにして広告を行い、わからないときは関係行政機関に相談すること。
    しかし、イラストによる説明が不適切であったり、説明文のバランスが悪いものもある。自社の医薬品と似たパッケージにして本当の薬の隣に置いたり、届出パッケージに書いていない情報を、店頭でシールで追加するなどはアメリカならNGだろう。
     
    機能性食品制度の利点と課題 
    機能性表示食品制度には、①高い透明性、②機能性表示が具体的でトクホよりも幅広く柔軟に表現できる、③企業姿勢や取り組みがよくわかるという利点があるので、これらの利点が生かされるようにこの制度を利用してほしい。
    一方、疑義に対する解決方法が不明確、届出情報のレベルに企業間で差がある、書類チェックに時間がかかり、情報公開期間60日が守られていないなどの制度面での課題がある。
    企業からみると、受理・不受理の判断基準が不明で、出しなおすたびに指摘が違っていたりする。届け出た情報が今はどの段階にあるのかがわからず、発売日を延期することがある。
    消費者にとっては、届出情報を読みこなすのは難しく、トクホと区別しにくい、広告可能な表現にルールがないのでどのように判断したらいいかわからないなどの問題がある。
    この制度を育てるには、安全性・機能性が担保され、それが適切に表示され、適切な広告と陳列が行われなくてはならない。
     
    企業に求められる責任
    ・責任
    丁寧に説明し 疑義が出ないように努力すること
    ・届出情報の質を高める
    この制度のつくられた根幹を理解し、検討会報告書・ガイドラインをよく読む
    ・消費者の立場に立って
    消費者がわかるように、噛み砕いて書く
    ・グレーゾーンをつくらない
     
    安全性について(届出情報の質の向上のために)
    ・販売実績だけで評価を終りにしない。
    ・同じ成分でも形態を変えると機能が変わることがあるので、注意する
    ・安全性については企業任せでアメリカより甘い制度だと認識して自分に厳しく。
    ・ネガティブ情報もすべて届ける。
    ・医薬品との相互作用もすべて記載する。
    ・二次情報に記載されている情報を勝手に削除したりしない。
    ・リスク情報はすべて掲載する。
    ・機能性表示の合理性をはっきりと書く。
     
    機能性について(届出情報の質の向上のために)
    ・信頼性の低い論文を科学根拠にしない。
    ・被験者数が決められた根拠が書かれた論文を選ぶ。そうすればNが不足という指摘はないはず。
    ・群間比較が行われているか、プライマリーエンドポイントの群間比較かを確認する。
    ・機能性関与成分の同等性についてちゃんと書くこと。
    ・出版バイアス評価の有無を確認する。
    ・プライマリーエンドポイントで評価されているかを確認する。
    ・エビデンス総体の十分な論文数があるかを確認する。
    ・客観性にかけるエビデンスではないか(自社の論文だけはよくない。
     
    表示の在り方(届出情報の質の向上のために)
    ・届出表示の一部を利用するときは、消費者に優良誤認をさせないように注意する。
    ・科学的根拠がない文言は書かない。
    ・いわゆる健康食品と区別するために、プラスの印象になるような商品名を工夫する。
    ・アメリカの事例を見習って、機能性を掲載するなら、「国が審査していない」と表示する。
     
    機能性表示食品程度を見守る体制を構築するために
    企業責任を意識した米国の事例
    〇CRN(Council of Responsible Supplements)
    ニュースレターなどで、科学、規制、法律、交際問題の分野での専門知識とアクションを提供する。会員企業の協力でWGなどを実施。安全性、有効性だけでなく、Advertising Review Programで宣伝・広告の正確性を確保するための監視強化自主プログラムで広告もみている。問題広告の報告は公開されている。
    ビタミンDの一日推奨摂取量に異論を唱えたり、オメガ3に関する論文に反論するなど、意見発信も行う。
    〇ODS(Office of Dietary Supplements)
    ダイエタリーサプリメントに関する研究支援、評価。安全性、有効性をみている。
    ボタニカルリサーチセンターでは植物由来製品の調査・研究をしたり、ビタミンDイニシアチブでは、ビタミンDの重要性を発信。ビタミンDには50億から600億に市場が拡大している。ハーブ類の標準物質をつくったり、ラベルのデータベース(機能別 成分別)を構築したり幅広い活動をしている。他にオメガ3などの有意義な研究成果もあげている。
    〇コンシューマーラボ
    サプリメントの品質評価機関で、レビューの結果を公開することで一定の抑止力になり、粗悪品を追い出す機能を持つ。日本でも2005年にから活動開始。

    質疑応答

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • トクホとの違いは国のお墨付きの有無と考えていいか → そうです。
    • 機能性表示食品と薬との差は何か → 対象者が疾病に罹患している人。
    • 事業者は薬を作りたいのか → 本制度の目的は健康の維持・増進。
    • 機能性表示食品の質が向上すると薬に近づくのか → 使わなくていい人は使わないところが重要。トクホのコーラを高校生が飲む必要はないように。
    • 顕在市場はどうやって調べたのか → 5万人を選んで体脂肪抑制目的で買ったものは何かを調べ、日本の人口比率に合わせて推計した。
    • 使わなくていい人もお守り的に使うのでは → 財布は限られており、余り増えないだろう。
    • ドラッグストアやコンビニでトクホと機能性表示食品が脈絡なく並んでいる。並べ方にルールはないのか。売り場を希望できるのか → 小売が判断。シール追加はメーカーの希望。
    • 意識しないと見分けがつかない → 何百種類になったら、機能別陳列になるかもしれない。
    • 広告のルールはあるのか → 産業協議会の自主ルールを作成予定。メーカーが従うかどうかは不明。あるシンポジウムで、消費者庁はガイドラインは作らないと発言していた。
    • 広告のポジティブリストを出すべきだと思う。
    • 届出内容は一般市民には難しすぎる → 評価はアカデミア中心で行う。だめなところを指摘するより、よい食品に賞を与えるといい。臨床試験、システマティックレビューを評価する。そのための審査を科学者が担う。認証制度協議会に、企業はハイクオリティ認証を依頼するようになるだろう。
    • 農産物は → 例えば、トマトのリコピンの場合成分のレビューでいいはずだが、「トマトのリコピン」しかダメだと農水はハードルをあげているようだ。産地、収穫時期のばらつきをどうするか。植物工場で安定的にできるものは扱いやすいかもしれない。みかんが期待されている。
    • アメリカでの医師会、栄養士、薬剤師の関与は → 日本医師会はこの制度に反対している。逆にアメリカは眼科医はルテイン、歯科医医者はキシリトールなどを奨励している。 
    • 機能性表示食品精度を作ったということは、政府は混合診療をめざしているのか → 医師会、処方箋薬業界はこの制度に反対している。未病を標的にしているところはいいと思う。
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