2010年1月23日(土)18時より、季寄せ蕎麦 柏や(東京都三鷹市)で、草の根バイオカフェを開きました。お話は、秋田県立食品総合研究所長 高野靖さんによる「蕎麦屋で語るだしの話〜“アミノ酸”と“核酸”」でした。参加者はアミノ酸と核酸の相乗効果を調べる官能試験をしたり、前菜を使ったクイズをしたり、和食のフルコースとアルコールを頂きながらお話をうかがったり、話し合いもするという盛沢山のプログラムを楽しみました。
高野さんのお話 | 官能テストのコップ |
2種類の溶液を紙コップに入れ、1種類目のコップに赤シール、次の種類のコップに青シールをはっておきます。会場を二つに分けて、廊下側を1班(10名)、壁側を2班(11名)にしました。一班は赤のコップを一口飲んでから青コップから1口飲み、2班は青いコップを1口飲んでから赤いコップから1口、飲みます。赤いコップの方が濃いと思った人を尋ねると、2班の9名が手をあげ、青いコップの方が濃いと思った人を尋ねると1班の全員(10名)が手を挙げました。
赤コップには、0.002%のグルタミン酸ナトリウム、青コップには0.002%のイノシン酸の溶液が入っていました。
これは、アミノ酸と核酸の相乗効果といって、ふたつが口の中で合わさったときに、味を強く感じることを指します。会場でも、赤、青のコップによらず、2杯目の方を、ほぼ全員が濃く感じたのはこのためです。
クイズのお料理 | 店主の岩崎守利さん |
料理長飯塚武夫さんの説明 | 会場風景1 |
5種類の前菜の中に昆布出しをつかったものと、かつおだしをつかったものがひとつずつ入っていて、これを参加者全員で試食してから、当てるクイズをしました。
前菜のこんだては
・新筍の土佐煮
・初そら豆
・鴨ロースのたまり漬け
・海老の黄身焼き
・聖護院大根の柚子味噌がけ
でした。柏や社長岩崎守利さんから正解が紹介され、こぶ出しが使われたのが、聖護院大根、かつおだしが使われたのが新筍の土佐煮でした。ほとんどの人が正解しました。
しらない人どうしも話しがはずんで… | 本日貸し切り |
昆布でつくられたグルタミン酸ナトリウムというアミノ酸と鰹節からつくられたイノシン酸という核酸は両方一緒になるとうま味が増す相乗効果がある。
鰹節のできた歴史、種類、味の特徴などの説明の後、そばやのだしについて研究して、だしの工業化に挑戦し、見学にいったお蕎麦屋さんで、その技術の見事さを知ったことなどのお話でした。
参考ページ: 「うまみの秘密“アミノ酸”と“核酸”」
お話の合間に、調理長の飯塚武夫さんから献立の説明がありました。「柏やでは、雄節、雌節、宗田節を厚く削ったものを使っています。料理によって使い分けており、前菜の聖護院大根に昆布だしをつかったのは鰹節のだしだと煮ている間、色がつくから。土佐煮には、血合のある鰹節を使って、しっかりうま味を出しました。懐石料理では血合のない鰹節を使ったりします」
- 古い鰹節を食べさせられたことがあるが、鰹節の日持ちはどのくらい→鰹節そのものは100年くらいもつのではないか
- 1匹のかつおからどのくらい鰹節がとれるのか→重さは5分の1になるので、5キロのかつおから1キロの鰹節がとれて、それは4つにわけるので、250グラムくらいの雄節と雌節の背節、腹節の合計4個できる。
- かつお以外のだしにどんなものがあるのか→さば、うるめいわしなどがあるが、それぞれに特徴があり、好まれる地域がある。かつおだしは広く好まれているので、工業生産にあっている。
- イワシの方が安いと思うが→イワシはとても傷みやすく扱いにくい。日本では浜のおばさんたちがイワシをさっと茹でるから、私たちもいろいろに食べられるが、海外ではさっとゆでたりしないので、アンチョビペストか飼料しか作れない。
- カリマンタン島はどこですか→インドネシア。マレーシアとブルネイのあたり
- 南方の鰹節もカビづけするのか→モルジブの一部はやっているが、他は行っていないようだ。
- 干しシイタケからは出しがとれるが、生シイタケからは出しはとれない→干しシイタケ、干し貝柱など乾物から出しが出る。中華料理はこれをよく使うが、これらの干したものは気仙沼のサメのヒレまですべて日本人が考えだした。43種類のうま味(池田菊苗博士による昆布だしのうま味であるグルタミン酸、小玉新太郎博士による鰹節のうま味であるイノシン酸、国中明博士による干しシイタケのうま味であるグアニル酸)の発見者がすべて日本人であることと関係があるのか。。。。
- 赤・青カップの官能テストでは第1班も第2班も2杯目に飲んだカップ(第1班は青、第2班は赤)の味が濃いといった。これは、錯覚だったのか。それとも第1版班の青、第2班の赤のカップの方に味の濃い液を入れておいたのではないか→みなさんが来られる前に、この会場でグルタミン酸ナトリウム0.2mgとイノシン酸0.2mgを、それぞれ1リットルのミネラルウォーターのペットボトルに入れて溶かして、作った。両方が混ざらないように、途中で手を5回洗って注意を払って作っているので、混ざったり、濃度が調整できていないことはないはず。そこの作業を見ていただけばよかったですね。
- 味の素はいつから作られて、どうやって作るのか→1908年、池田菊苗博士が昆布のうま味(グルタミン酸)を取り出し、鈴木三郎助が1909年に池田先生の特許を使わせてもらい味の素社の前身を設立した。初めは小麦のグルテンというたんぱく質を分解して作ったが、戦後、安い大豆が入ってきて、油を絞った後のたんぱく質を分解してつくるようになった。副産物である油を使って味の素はマヨネーズを作り始めた。副産物まで利用することが重要。
- 昭和30年代からは、ブラジルのサトウキビ粕、インドネシアではタピオカやキャッサバを原料にした発酵でグルタミン酸などのアミノ酸をつくっている。
- かつおだしは西洋料理で使うか→使いません。イタリアにはガムルという魚醤があったが、コロンブスのもたらしたトマトが使われるようになってすたれてしまった。トマトには値段の割にアミノ酸(うま味)が多く含まれている。
- 漁醤にはどんなものがあるのか→タイのナンプラ、ベトナムのニュクマムなどは国を挙げて売っている魚醤。秋田のショッツルもおいしい魚醤だと思うが、秋田の人は引っ込み思案なのか、売り込もうとしなくて私は残念だと思っている。