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第22回談話会「食の安全性」レポート

2006年10月13日(金)、談話会が開かれました。お話は筑波大学遺伝子実験センター長の鎌田博先生による「食の安全性」でした。天然の植物の体内でも毒素が作られること、健康によい食品だと信じられていても、新しい科学で覆ること、リスクという視点で食をみなおすよい機会となりました。

鎌田先生 鎌田先生


お話の概要

私の専門は植物の形態や遺伝子の研究です。アグロバクテリウムによる遺伝子組換えの研究をしていた関係で、厚生労働省の遺伝子組換え食品の安全性審査の指針つくりに関与することになり、多くの消費者にも説明する機会を持ちました。その他に、教育目的で行う組換えDNA実験の指針の改訂にも関わり、理科教員を対象した研修会を継続的に行ってきています。

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植物体内でできる毒素
虫や動物に対する植物の防御機構があるので、植物は体内で毒素をつくります。虫が食べているから安全という人がありますが、虫がかじるとファイトアレキシンなどの毒素が生じます。例えば、
ナス科の植物にはアルカロイドという毒があり、ジャガイモの芽や日があたって緑になった部分に、毒素ができる。
油糧植物であるトウゴマにはリシンがあり、出血を起こす。油を絞るときに、それらの成分は取り除かれるので、油は大丈夫です。
マメにはプロテアーゼインヒビター(消化酵素などの蛋白質分解酵素の活性を阻害する物質(タンパク質))があり、消化不良を起こす。このようなプロテアーゼインンヒビターのような物質を抗栄養素という。このインヒビターはたんぱく質なので、失活(活性を失わせる)させるために加熱して食べる。
日本古来の野菜でそのまま食べられるものはミツバくらい。わらびやトチの実を灰汁抜きして食べるように、工夫して食べてきた。
昔の品種がいいという話がよく出るが、昔のナタネにはバセドー病(甲状腺肥大)の原因となるエルシン酸がかなり大量に含まれていた。今は、カノーラというエルシン酸の少ないナタネの品種がカナダで作られ、それが一般的に使われており、スーパー等でもその名前をよく見かける。

カビ毒
・麦につくカビ(麦角菌)には、麦角アルカロイドという毒素があり、強い血管収縮作用を持っているため、凍傷の時と同じように指先から徐々に壊死がおこります。中世、「聖アンソニーの業火」と恐れられ、多くの死者を出す原因になりました。当時は聖地巡礼に行くと症状がよくなると言われましたが、これは、巡礼先で麦角菌のついた麦で作られたパンを食べなかったためでした。この毒素は熱にも極めて強いので、パンとして食べても症状がでます。今では、このカビが付かないように管理され、タンカー等での輸送時にこのアルカロイドが発見されると、タンカーごと輸出国に返します。(そのほかにも多様なカビ毒がありますが、)カビ毒の含量は有機栽培のものが最も多く、普通の栽培のもの、組換えのものの順で少なくなるという報告もあります。

アレルギーについて
アレルギーというものはある特定の食品を食べる人口が増えると増えていきます。アレルギー誘発性の全くない食品はほとんどないはず。離乳食に使うバナナでもアレルギーになる人もいます。必要なのは、アレルギー患者にわかる表示です。

みんながいいと思っている食品
みんなが健康にいいと思っていたものが、科学的にそうでないこと、逆に健康被害を起こすとわかったものもあります。
健康食品:ダイズイソフラボン入りの健康食品はいいと思われていたが、サプリメントとすると摂り過ぎの可能性が出てきて、摂取しすぎないように、という注意が出た。
環境ホルモン:貝のメス化などのニュースが取り上げられたが、人の健康に影響があるとする科学的なデータはない。
天然物:アカネ色素は天然物だが、発がん性があることがわかり、発売禁止になった。同じく、ビタミンを多く含むことでかつて家庭の庭でも広く栽培されたコンフリーも販売禁止になった。
健康によいモロヘイヤ:花をつけると強心配糖体ができる。牛に食べさせて死んだのでわかった。愛知県ではモロヘイヤの強心配糖体の量を測っている。
目の治療に使っていたジギタリス:強心剤としての効果があり、食べられない。
エディブルフラワー(食用花):水仙にはアルカロイドがあり水仙の花は食べられない、安全だとわかったものしかエディブルフラワーとして使ってはいけない。
野草ブーム:花が咲いていないと、ニリンソウとトリカブトはよく似ているので、間違えて食べて死ぬ人がいる。

ニュースに出てくる食品安全
食品の放射線照射:
放射線による食品殺菌が行われています。海外では香辛料の照射を認め、防カビに使っているので、日本でも認めてほしいという声も出ています。日本ではジャガイモの発芽防止だけにしか認められていません。日本人には放射線という言葉に精神的なアレルギーがあるためでしょうが、カビが生えるリスク、防カビ剤を使うリスク、どれを選ぶかという問題があります。
アクリルアミド:
ポテトチップにアクリルアミド(神経毒)が見つかりました。EUが詳しく調べたら、でんぷんを高温の油で処理すると発生することがわかった。日本の新聞ではあまり取り上げなかった。WHOが調べてごく微量で神経に害は及ぼさないので、あまり問題になりませんでした。

クスリ作りか自然保護か
タキソールはアメリカイチイという針葉樹からとれる化学物質です。同じものを化学合成すると、収量が低く高価につきます。このタキソールは、小児白血病の特効薬ですが、治療に必要な量のタキソールを得るためには大量のアメリカイチイの樹を切る必要があります。自然保護か患者の治癒かという問題が出てきます。このような有効成分を、植物細胞から増やしてとるのか、化学合成をするのか、検討していくのも科学者の仕事だと思います。

リスクの考え方に親しむ
東京都健康安全研究センターの安田和夫氏は「健康被害の1割が健康食品由来。これは、イメージ商法によるところが多い」と述べています・
食品のリスクとリスクコミュニケーションの専門家である唐木英明氏は「食品においてゼロリスクはありえないのに、ゼロリスク商法が拡がるのは困ったものだ」と述べています。
検査をしたからといってゼロリスクが得られるのではありません。大衆迎合型の安心対策はいかがなものでしょうか。みんながリスクの考えをとりいれ、強固な先入観を変えることで、検査などで無駄な対策費を削減できるでしょう。メディアリテラシーを身につけ、批判する目を持って新聞を読むのも大事です。
基礎的な科学的知識を正しく理解し、日常生活に活かすことが「サイエンスリテラシー」で、生物学の知識は日常生活を送る上で必要不可欠です。特に21世紀では、生物リテラシーや遺伝子リテラシーが重要になってきています。生命倫理を含む広範なバイオ教育が大事ではないでしょうか。
欧州人は、わが身は自分で守ると考え、日本人は、安心は政府がくれるものだと思っており、ここに認識の違いがあると指摘する人もいます。
ベビーフードの中に黒いポツポツがあるのを嫌がる人がいるそうですが、それは、しらす干の目玉です。現在は人手をかけてベビーフードからしらす干しの目玉を除いています。これも人件費がかかります。
私は一般主婦の方に、食品に絶対安全がないことを理解してもらいたいと思います。絶対安全を求めていてはリスクの考え方につながりません。

世界で食糧の取り合いが起こる?!
2050年、人口が現在の2倍に増大するとの発表があった。人口の増大に対して食料をどうするかということはずっと議論されています。
中国が食料の輸入国に転じた今、これから、日本は食糧をどこから得るのでしょうか。
日本より高く買うという国だって出てきています。米国では、遺伝子組換え作物などを活用することで、天候の影響を受けずに農作物の収量が安定してきています。
一方、アメリカなどではトウモロコシをアルコールに変換してバイオ燃料として活用する動きも活発になってきています。バイオ燃料にトウモロコシが使われ始めると、日本に食料は回ってくるのでしょうか。日本にもアルコールスタンドが来年にはできると報道されており、でんぷんは食料にまわらなくなり、車の燃料になるかもしれません。それぞれの国が、食料とエネルギーをどのようにするか、よく考える必要があります。

水の安全性も大事
不潔な水が原因で世界のこどもが毎日4500人死んでいます。穀物の栽培には大量の水が必要で、穀物を大量に輸入している日本は、海外の水を大量に使っていることになります。日本は食料の形で、世界の貴重な「安全な水」を大量に輸入していることになります。

海外協力
日本は、発展途上国にお金を出すだけでなく、日本人の研究者が海外に行って貢献すべきで、ことばの壁をこえて国際公務員として働ける人材を送るべきです。

会場風景 全員集合!


話し合い
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • アクリルアミド、トランス酸は世界で話題になるのに、日本で騒がれない、その逆もあるが→マスメディアの取り上げ方によるのではないか。
    • 組換え作物の栽培を自治体が規制している。有識者の議論によるはずなのに、専門家が大衆迎合的に動いたのか→委員会メンバーに消費者も入っている。専門家が対立する場合もある。一般的に、行政がとりまとめを行うと恣意的な部分が出るかもしれない。議論をつくして全員が納得する形で作ることは一般的にはなかなかできない。北海道は道産が売れないと困るという懸念があった。米国、OECDの安全性の議論を聞かずに、日本の遺伝子組換え食品安全性のガイドラインを科学者が議論して作った。できた原案は国内外で差はなかった。自治体は恣意的な方向付けがあって、科学者の意見が反映されないこともある。
    • 植物のプロテアーゼインヒビターは人間に効くか。薬になるだろうか→ダイエットにはなるかもしれない。
    • 野生の植物のルーツはどうやってたどって、原産地を決めるか→中世の頃、植物探検家が世界中の植物を探索し、遺伝的変異が多い場所が原産地だろうと考えて、突き止めていくやり方で決めていった。ナス、ジャガイモの原産地もそうやって決められた。今でも本当のルーツについて議論が起こる。ペルーにジャガイモの世界的な研究所があったり、トウモロコシの研究所がメキシコにあるのは、そこが原産地であるため。
    • サツマイモの原産地はメキシコだといわれるが、大昔からサツマイモを主食にしているのはジャワ島の原住民。日本へは、ジャワ島からまわってきたものもあったようだ。現在世界的に普及しているのは粉質系のサツマイモ(ぱさぱさしていて焼き芋にしてもあまりおいしくない)で、ジャワ島のものは粘質系である。昔の日本には粘質系のサツマイモ(焼き芋にするとおいしいタイプ)があった。
    • 文化人類学によると、コンチキ号の航海の成功により、インディオが南太平洋の島々にサツマイモを運んだと考えられている。
    • ヤム芋とはどんな芋か→東南アジア原産で、東南アジアで広く栽培されている。
    • 遺伝子組換えと変異は違うのか。組換えになったとたん市民は嫌う→遺伝子組換えは遺伝子を別な生物に入れて性質を変えること。抗生物質耐性は微生物同士の接合伝達で抗生物質耐性遺伝子が微生物間を移行する(自然界で見られる遺伝子組換え)。生物体の中で起こっていることは変異も組換えも遺伝子が変化して起こる。品種改良や突然変異では、生物体の中でなにが起こっているのかはわかっていない。専門家は組換えは育種技術の延長、反対派は外から入れたので育種でないという。遺伝子の変化という点でみると、ある種の土壌微生物が自身の持つ遺伝子を植物に入れることで、毛状根が生えるようになる例もある。野生のタバコの遺伝子の中にこの菌が遺伝子を入れ、花の咲く時期が変化して植物の進化がおきた例もある。遺伝子の変化という点では、突然変異でも遺伝子組換えでも同じだと思う。
    • 遺伝子組換えは人為的な遺伝子操作だと思う→遺伝子の変化が自然界で起こるか、試験管の中で人為的な操作を加えた遺伝子を入れるかの違いしかないと私は思う。人為的に、目的を持って変化をさせるところが違う。人工的かどうかは本質でなく、どんな遺伝子を入れたかどうかが大事である。微生物の遺伝子操作では、遺伝子をノックアウト(破壊)して効率的に目的物質を作らせることがあり、ノックアウトの点では自然界で同じことが起こっているだろう。それらは、途中で人為的な操作をしているのに、最終的に作られた微生物と同じものが自然界でもできるので、審査の対象外になっている。途中で遺伝子操作を少しでも使ったら、対象にしておいて、違いがなければ後から規制をはずしたほうがいいと思う。
    • 虫が食べるとファイトアレキシンができるが、これは次世代に伝えられるのか→一部の葉が食べられたら、植物体全体でファイトアレキシンをだす。食べられた葉を犠牲にして植物体のほかの部分を守る。
    • 鳥がドクガを食べると死ぬことがあるが、ドクガを食べないことをどこかで学習するらしい。怖いものが遺伝子にうめこまれているという知識が遺伝するのか→記憶する、学習する、面白いところだと思う。しかし、毒素を植物が出すと、虫は、特定のもの(毒素など)を食べられる虫に進化する。これには植物は対抗できない。
    • 消費者はゼロリスクを求める。メディアは過剰なリスクを訴える。過剰なリスクを訴えて利益を上げている人もいる。測定機器もリスクに関わる機器などはよく売れる。これを消費者にどう伝えるか→どんな説明にも反対する人がいる。反対を訴えることを仕事としている人もいる。発言を禁止できないので、みんなが相手にしなくなるしかない。多くの人にリテラシー教育を広げるしかない。食品添加物の話と同じで、天然の添加物は安全だと信じている人が多いが、よく知られている防腐剤の1種はナナカマドから抽出されたものである。かびない、くさりにくいナナカマドの性質を調べ、腐りにくくする物質の化学構造を明らかにし、それと同じものを化学合成すると、合成添加物だと言って嫌う人が多い。どうやって話していくと理解されるのだろうか。笹の葉に包むと腐りにくいことはよく知られており、笹から抽出した物を合成して合成添加物(防腐剤)にすると嫌われるだろう。
    • 外資系企業で広報担当をしている。組換えは安全だといい続けてもだめで、安全とはどういうことか、リスクとは何かから始めないとだめだといつも感じている。そういう活動をしたいと思っていたので、参考になった。
    • ジャガイモのグリーンの部分が毒だと知らなかった。毒なものがあれば、もっと知りたい。
    • (報道では)サイエンスフィクションと本当のサイエンスが混ざっている。
    • 生物学は大事だと思った。今日は目からウロコ→大事な生物学、生活するためにある生物学が大事だと思っている。立命館高校では生物学ではなく、生命学を教えている。先生が熱心にどれくらいとりくむかが大事だと思う。文部科学省ができるのは生物を必修にすることぐらいではないか。
    • 鳥や虫が植物を食べると、植物は防衛物質を分泌するといっても、一度食べた鳥は知っているが、違う鳥はまずいことを知らない→食べられた植物自身が死んでも、その植物はまずいことを鳥が覚えてくれれば、同じ植物でも他の個体が食べられなくなり、生物の種としては残るだろう。
    • 他の国と日本の消費者は違うのか→マスコミの情報の流し方に問題があると思う→(ベビーフードに対する消費者の)苦情にシラスの目だと毎回説明すればいいのに。行政が100%安全の幻想を作ってきたように感じる。
    • 虫のついた野菜は安全だと思っていた。毒の花があるのを知らなかった。リスクの大きさに対して、日本人はゼロでないとみんな一緒という考え方をしている。自然放射能の中でくらしていることがわかってもらえない。背景を伝える努力をしたい。
    • 科学的に正しく伝えるのは難しい。会社ではバイオに詳しい方なのに、何もしらなかった。
    • (海外から入ってくる)日本の食糧は海外できれいな水を使っている。研究者派遣で貢献しないといけない、という意識を自分達が持っていない。理科教育は耳が痛い→教育で取り組もうとする時、生物の先生は組換えを理解していて正しい知識を教えても、家庭科の先生は反対のことをいう。学校が一体化して、栄養士、社会科、家庭科、理科の先生達がまとまって考え、教えていかないといけない。
    • 報道の正しさや先生の間の対立を見極められるような生徒になってくれればいい。
    • 何塩基変ったら同じでないのか、リスクアセスメントのための科学者の役割、純粋科学のための科学者の役割、社会がどう考えたらいいのかを次の機会にお話してもらいたい→国の委員会がいろいろあって、科学者は信念を持って伝えている。何塩基の変化をよしとするかのすり合わせはできない。
    • 行政迎合しない科学が大事→理学部の先生達はサイエンスが好き。国立の研究所は行政に近いところにいる。科学者が交流する場があることが大事だと思う。
    • どういう議論をしているかを市民に伝えるべき→行政官は正確に伝えるのが大事なので、発言しにくい。科学者もうまくはできない。
    • 行政官はやろうとしないようにみえる。
    • 行政は間違えてはいけないと思っている人が多く、間違いを認めることが許されないと思っている行政官もいるが、行政官も間違えることをわかってほしい。
    • 規制省庁は間違えを認める勇気がないのではないか
    • 植物が葉を食べた時に信号を出すというのは感動した。内容がいいので伝えたいが、どうやって伝えるのか、どこで、だれが伝えるのか。条件をどのように整えるのか。
    • いろいろな活動を通じてリテラシーの向上を目指しておられるが、メディアの影響も大きい。メディアに対して感じていることは→日経新聞は数字で現実を伝えているので、私はよく切り抜きする。科学者の見解をマスメディアが書くときは恣意的になりやすい。報道リテラシーが問われるべきだろう。
    • 鎌田先生の敵となるものは何か→私にはあまりフラストレーションがない。サイエンスリテラシーはみんなに身につけてもらうしかなく、考えるのは受け取る人の問題だから、印象に残るようにするのがいいのではないか。これから、コミュニケーターを目指すみなさんに助言できるとすれば、自分の経験からは、スピーカーが面白いと感じながら話すことが大切だと言うことです。



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