12月18日(土)〜19日(日)と研修会が開かれました。18名の参加者のうちのほとんどは茨城、東京、神奈川の家庭科の先生です。この研修会を開いた筑波大学遺伝子実験センターでは、家庭科教育なしにバイオを身近に学んでもらうことやそれを広めることはできないと考えていました。けれど、どのようにしたら家庭科の先生方に関心を持って参加していただけるかが課題でした。今回は茨城県教育委員会、全国家庭教育協会(ZKK)などのご協力により、それが初めて実現しました。「内容の濃い研修で今後も勉強したい」、「思いがけない研修で大変興味深かった」などの感想が寄せられ、参加者の熱心な勉強ぶりが印象的でした。生物学と家庭科という異分野の先生がたのディスカッションはお互いにとって新鮮で実り多いものとなったようです。今後の継続が期待されます。
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1.
遺伝子組換え技術で光る大腸菌を作る実験
指導 東京テクニカルカレッジ 大藤道衛先生 |
各人がふたつずつ大腸菌の入ったチューブを用意し、一方のチューブの大腸菌にだけ、光るくらげの遺伝子を組換え技術によって導入。それらの大腸菌を4枚の異なる培地のプレートにまき、翌日、「組換え大腸菌はアンピシリン耐性を獲得したか」、「アラビノースがあると、組換え大腸菌発光するか」、「組換えはどのくらいのわりあいで起こったか」、「非組換大腸菌はアンピシリン培地に生えたか」、を観察、検討しました。全員、数百から数千のコロニーができ、この数は今までの研修会開催史上、最多ということでした。(大藤先生談)
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実験を指導する大藤先生 |
真剣に実験する先生方に小野先生(右)も感激 |
アラビノースをかけた組換え
大腸菌だけが光る |
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「理科における遺伝子組換え」
都立新宿高等学校 佐藤由紀夫先生 |
理科の教師の多くは家庭科の学習が衣食住、経済、建築学と幅広いものであることを知らない。今日は家庭科の先生に生徒が学ぶ生物学の内容をご紹介したい。
生物Iで学ぶ生物の内容はDNAが遺伝の本体であることと、二重らせん構造であることまでと少ない。新課程の生物IIでは、DNAの塩基配列がたんぱく質のアミノ酸配列を決め、mRNAの暗号表はすべての生物で共通、だから、遺伝子組換えができるという原理までかなり詳しく学習する。3年生で生物IIを履修する生徒は全校生徒の10%。遺伝子組換え実験は土曜の講習で行ったが生徒はとても興味を示していた。
質問1:土曜教室に集まった生徒は?→15名。費用は14、000円くらい
質問2:新宿高校の家庭科の先生は?→今日は、他の勉強会に出席して欠席。せめて同じ学校の教師同士で連携したい
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「遺伝子組換えと社会の接点について」
東京大学大学院農学生命科学研究科 正木春彦先生 |
生物には細胞に核を持つ真核生物と持たない原核生物があり、細胞の大きさでは1000〜10000倍も異なる。また単細胞はそれだけで生物個体であるが、我々のような、多細胞生物は細胞イコール個体ではない。子が親に似る現象が遺伝、親から子に伝わる要素が遺伝子だといわれる。発生初期に生殖細胞(生殖系列)として卵や精子を作る卵母細胞、精母細胞が形成され、遺伝子が保管される。身体を作る体細胞系列は別なものである。ガンなどは体細胞系列で起こるもので、ガンは次世代に受け継がれない。現在の遺伝子治療は、体細胞系列を対象にしているので、遺伝病が子供に伝わらないように、遺伝子治療で根本的になおすことはできない。
遺伝子組換え食品を食べると、自分あるいは子供に悪い影響が及ぶことはないか、という問題については消化、細胞への遺伝子の取り込み、子孫への伝達の問題等に分けて考えることが大切。
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最近の高校事情を語る佐藤先生 |
理科教育を熱く語る正木先生 |
「身近な植物の遺伝子も変化している」
丹生谷先生 |
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「植物分野の遺伝子組換えについて」
東京農工大学遺伝子実験施設 丹生谷博先生 |
植物の遺伝子組換え技術には、土壌微生物を用いるアグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法。植物の細胞膜に電気で穴をあけて、そこから遺伝子断片が入り込む)がある。身近な例では、よく見かけるポプラのこぶは、アグロバクテリウムが作った腫瘍である。
遺伝子の変化(突然変異)は自然界でもしばしば起こり、サクラの園芸品種であるソメイヨシノでは、花が葉が出るよりも先に咲くように遺伝子が変化している。遺伝子から見れば、全国のソメイヨシノはクローン(同じ遺伝子を持っている)である。
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「組換えDNA実験に関連する法律」
明治大学農学部農芸化学科 中島春紫先生 |
組換えDNA実験指針で定められていた教育目的で行われる組換えDNA実験はカルタヘナ法で定められるものとなった。指針から法律になることで違反したときには罰則が適用される。対象となる生物は生物個体になる可能性のあるものであり、遺伝子組換え生物の定義は複製させることを目的としていることが条件となった。
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「遺伝子リテラシーと海外における遺伝子教育の動向」
東京テクニカルカレッジ 大藤道衛先生 |
遺伝子教育の内容(眼に見えないDNAやたんぱく質を自ら扱い、生命について考える)
・ 生命科学の基本理解:セントラルドグマ、発現調節、遺伝子多型等生命の仕組みを学ぶ
・ 実験科学の見方:コントロールを用いた実験によるものの見方
・ 実験管理:無菌操作、マイクロアッセイなどの基礎技術、廃棄物処理を学ぶ
・ 実験に関わる倫理:個人遺伝情報を扱うことから倫理を学ぶ
米国の遺伝子教育の実例
1993年、クリントン政権のもと「数学・理科の学力向上の活動戦略」が発表された。
企業と高校の連携も行われており、高校生、大学生の3ヶ月インターンシップを行い、成果はプレゼンで発表し、優勝すると奨学金が与えられる。また、博物館で市民が組換えDNA実験を体験できるコーナーもある。
日本でも、文部科学省フロンティアハイスクール事業(2004)などで、教育目的組換えDNA実験が行われている。ニューサイエンスハイスクールは来年から5年計画の新規高校と今までSSHをしていたところの継続が始まる。
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「中学高等学校での遺伝子教育実施方法」
東京学芸大学教育学部付属高等学校 齋藤淳一先生 |
教育目的組換えDNA実験を生物IIを履修している生徒を対象に4時限を用いて行った報告。実験の準備のほか、生徒への事前指導(セントラルドグマ、遺伝子の発現と調節、遺伝子組換えの歴史と原理、バイオセイフティ、試薬の準備、スタータープレートつくり)を十分に行い、緊張感を持って実験してもらう。培地つくりやスタータープレートつくりは有志生徒により放課後に行った。
生徒の感想は、「楽しみながら実感できた」、「考察は難しかったが、面白かった」、「用語の洪水に困惑した」、「クローニングのプロセスがすべて体験できないのが、残念(一番の醍醐味ではないか)」、「生命倫理に言及したうえで実験してほしかった」などだった。
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「家庭科と総合学習をめぐる可能性について」
筑波大学遺伝子実験センター 小野道之先生 |
遺伝子教育と家庭科の接点は食の安全と安心のためにリスクコミュニケーションにある。全高校生に遺伝子教育を体験してもらい、科学的な議論の土台を持つ、新社会人として卒業してもらいたいと考えている。
理科教員のための組換えDNA実験教育研修会を開催してきたが、実施したのは参加者のうち50%。これでも高い方であるという。人、予算、機材、情報、カリキュラム、など様々な問題がある。これらの中で、人とカリキュラムの問題に関しては、理科と家庭科などの他教科が総合学習の時間を共催することで解決できないかと考えている。例えば、家庭科の教科書の中には、表示について適切に記述され、遺伝子組換え食品についてのディベートの指導を行っているものもあり、関心は高いはず。
教育目的組換えDNA実験の支援体制を作っていきたい(中国地方や岐阜県などではコンソーシアムができていて、機材貸し出し、教授法や実験講座のノウハウを伝授している)キーパーソンの顔が見える連携をするのがいいと思う。
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笑顔が絶えない中島先生 |
「高校生たちと準備から行う遺伝子 組換え実験」斎藤先生 |
鎌田先生の話術は名人芸 |
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「遺伝子組換え食品と表示」
筑波大学遺伝子実験センター 鎌田博先生 |
生物リテラシー教育や遺伝子リテラシー教育を広めるのに、食品の専門家である家庭科の先生方と協力していきたい。消費者には食品の安全性確保に関する知識と理解を深めてもらいたい。
普通の食品の安全性とはなにかを考えてみよう!みなさんはこんなことをご存知だろうか。
- ジャガイモ、トマトはアルカロイドという毒性物質を作る
- 油糧植物であるトウゴマの種子には毒性の強いリシン(生物兵器になる)が含まれている
- 日本には灰汁抜きをしなければ食べられない食品がある
- 日本の昔のナタネ品種には甲状腺肥大を起こすエルシン酸が含まれている。エルシン酸を減らした品種としてカナダで作られたのがカノーラである
- 食品アレルギーはよく食べられている食品(卵、牛乳、ダイズ、小麦、そば、米等)に多い
- 植物は虫や動物に食べられないように毒物をつくる。虫がたべているから安全とはいえない。逆に、虫に食べられることで毒物をたくさん作ることがある
- ダイズに含まれているイソフラボンは定義から考えると、環境ホルモンのひとつである
- 有機食品ではO−157による食中毒やカビ毒の発生がときどき起こる。米国、欧州では有機食品は規制の対象になっている。
- 麦角菌が麦に感染して発生する麦角は極めて毒性の強い毒素(麦角アルカロイド)をつくる。麦角アルカロイドは熱に安定な猛毒である。麦角の発生を抑えることが、麦の食品としての安全上最も重要である
- アフラトキシンはピーナッツなどにつくカビがつくり、熱に安定な猛毒(カビ毒。強い発ガン物質)である。2003年にはイギリスで有機栽培のトウモロコシでかび毒が検出され、販売禁止になった(有機食品だからと言って必ずしも安全なわけではない)
- アカネ色素には発がん性があり、販売自粛になっている(天然色素なら安全というのはあたらない)
- ビタミンの豊富な野菜として一次盛んに家庭でも栽培されたコンフリーは、肝臓障害を起こすことがわかり販売禁止になった
- 高温で処理したポテトチップには、アクリルアミド(神経毒)が含まれる(ただし、その含量は極めてわずかなので、食品の安全上は問題はない。食品としての安全を考える際には、摂取量を考えることが最も大切である)
(1) 米国の中学、小学校の生物学教育はどうか。
中学校で電気泳動や形質転換をやっていたり、博物館で小学校向けや実験キット販売などをしているが、国全体の教育の水準には開きがある。
(2)博物館での組換え実験はP1施設とみなされるところで行われているのか?
光る大腸菌の実験は安全なので、規制の対象に入っていない。
(3)米国の生命保険の加入について?
遺伝子検査が加入の条件になっている保険もあるが、遺伝子検査に関して遺伝カウンセラーを養成して対応し、リテラシーをあげる努力をしている。遺伝情報の意味を学ぶことはライフスタイルの構築にもつながると考えられている。
(4)精神的サポートは遺伝カウンセラーだけか?
倫理に関することは学校教育にも取り込まれている。日本でも遺伝カウンセリングのできる人材の養成が始まっているが、不足している。
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先生方も生徒の気持ちで |
集合写真 |
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