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第2回国立科学博物館バイオカフェレポート「動物に学ぶ2」 |
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平成18年9月2日(土)、上野国立科学博物館講義室において、第2回バイオカフェを開きました。スピーチは東京大学大学院・農学生命科学研究科教授森裕司さんによる「動物に学ぶ2〜ペットたちの行動の意味するところは?」で、4月1日に開かれた第1回バイオカフェのパート2でした。はじまりは、高橋晴香さんのバイオリン演奏。
「動物の行動に学ぶ」レポートはこちらです
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高橋晴香さんの演奏 |
森先生のお話 |
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お話の概要 |
私は動物行動学を専門にする獣医師で、これは人間でいえば精神科や心療内科にあたる分野。今日はクイズ形式で行います。第1部は動物の行動の意味、第2部はペットの問題行動に関するものです。クイズに回答していただき、解説をしながら進めましょう。
動物の行動の意味
動物の行動や、動物の示す信号の意味がわかると、上手にペットとつきあうことに役立つかもしれません。
○犬が優位性を示す信号
- 相手の目を注視する
- 耳を前に向けてたて、尾を持ち上げ、頚部の毛を逆立てる。犬歯をむき出す場合もある
- 前肢を相手の背中に乗せたりマウンティングをする。人に前肢をかける姿勢も同じ意味を持つ場合がある
- 高い位置に尿マーキングをしようとする
○犬が服従を示す(相手をなだめる)信号
- 相手から目をそらす
- 耳を伏せ、尾を下げて姿勢を低くする
- ひっくり返って鼠径部(急所)を見せる
- 相手の口先を軽くなめようとする(狼の行動の名残。親が食べて半分こなれたものを吐き戻してもらう子供の狼のおねだりの行動)
○犬の表情変化
FOXは犬の表情を攻撃心と恐怖心の組みあわせで分析した。
- 攻撃心が大きくなると、牙をむく
- 恐怖心が大きくなると耳が後ろにたおれる
- ヒトがニヌにかまれるときは、恐怖心で耳を倒しているときが多い
○犬のボディランゲージ
- 遊びをさそう(前半身を低くする、尾があがる)
- 興奮すると重心があがる
- 攻撃心が芽生えると表情が険しくなる。
- 恐怖心が生じると重心が低くなり、尾を巻きこむ
- 服従姿勢ではおなかを見せる
○猫の表情
Leyhausenは猫の表情を、防御性攻撃と積極的攻撃の要素の組み合わせで分析、理解しようとした。
○猫のボディランゲージ
恐怖心の後退と攻撃心の増大を姿勢から読み取ることもできる
○まとめ
犬や猫のボディランゲージを理解すると、強気に振舞っているのか恐怖によって吼えるのかなど、犬や猫の行動の原因を理解できることがある。たとえば、犬にかまれるのは、攻撃性と恐怖が混ざった状態にあるときが多い。
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会場風景1 |
会場風景2 |
犬や猫の問題行動
問題行動を起こすペットについての相談が動物病院に持ち込まれてきます。これから示す事例について、原因と治療法を一緒に考えましょう
*ウチの犬はかみます。どうしたらいいでしょうか。
犬の噛み付く理由には、1)優位性攻撃行動、2)縄張り性攻撃行動、3)恐怖性攻撃行動、4)犬同士の攻撃行動、5)捕食性攻撃行動、6)痛みによる攻撃行動、7)突発性攻撃行動などいろいろあります。同じ攻撃行動でも、捕食性攻撃行動だけは、感情の高ぶりが伴わず、冷静に獲物をとる行動なので、他の攻撃行動と異なっている。優位性攻撃行動がでるのは自分より順位が低いものに失礼なことをされたときなど。治療法には去勢もあるが、犬で効果が出るのは2−3割。飼い主との信頼関係を築く方が大事。
犬がこどもにかみつく場合の多くは、こどもに慣れていず、怖がって攻撃行動を起こすから。治療方針は、不安の原因をなくすこと。従って、不安を感じている動物をたたくなどの罰を与えると症状がひどくなる。ただし、攻撃行動は学習性要素が強いので、攻撃に成功してしまうと、攻撃行動が行動のレパートリーの中に入ってしまう。
*ウチの犬は留守番をさせると、吼えたり、粗相をしたり、こわしたりします
分離不安(幼児が親から離されたときに感じる不安。ペットも飼い主と離れると同じ不安になる)でベルクロドッグ(マジックテープのように離れない飼い主とペットの関係)が原因のこともある。飼い主は過度の愛情表現を控え(何気なく外出してしまう。帰宅直後の興奮がおさまったところでペットに挨拶をするなど)、また外出になれさせる(最初の30分を乗り切れるように、夢中になれるおもちゃを与えるなど)
日本人のお別れの挨拶が長いのを見て、ペットの分離不安が増すだろうという予想したフランスの動物学者がいたが、最近はその傾向がみられる気がする。
*前肢ばかりなめて、潰瘍ができてしまいました。
日常生活に問題がでるような極端な繰り返し行動で、常同症、強迫症といわれる。、犬だと尾追い(自分の尾を追ってぐるぐる回る)などがある。何度手を洗っても不潔だと思って満足できないないといった強迫神経障害が人にもある。治療法は不安やストレスの原因を見つけて取り除くことが大事、症状が強いときは、向中枢薬を投与することも有効。しかし、薬は症状を和らげるだけで根本的な治療ではない。
猫がソファに粗相をしてしまいます。
不適切な猫の排泄も不安やストレスが原因のことが多い。体罰は厳禁。不安やストレスを除くことが大事。遠隔罰(天罰;たとえば間違った場所に行くと大きな音がする)も有効。
*コンパニオンアニマルを持つときの注意
個人のライフスタイルにあったコンパニオンアニマルを選ぶことが大事。2〜9週齢までは、親や兄弟から社会のルールやコミュニケーションを学ぶ大切な時期(社会化期)なので、親元で暮らさせる。飼い主も、 将来起こりうる問題行動の予習するとよい。飼い主と犬の絆の構築(飼い主はなにごとにも動揺しないリーダーで、困ったときに助けてくれる存在を目指すべき。これは上司と部下の理想的関係にも通ずる)
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質疑応答 |
は参加者、→はスピーカーの発言
- 飼っているプレーリードッグが撫でているときに急にかみつく→ 猫に愛撫誘発性攻撃行動というのがあるが、ネコが撫でられているときに突然かみつくのは、甘えたい気持ちと、大きな手で撫でられることに対する不安がしだいに葛藤してくるから。猫同士のグルーミングとくらべると、人はストロークが長いので、短くなでるとよいかもしれない。去勢を考えても良いが、去勢による攻撃性の抑制効果には動物種差がある。犬では2−3割と低いが、猫では効果が大きい。ただ去勢では恐怖に由来する攻撃は消えない。
- 猫の品評会のビデオを見たら、不思議なポーズを取っていました→猫のショウのおとはわからないが、ボディビルの人が筋肉を美しく見せるよう特異なポーズをとるように、猫を美しく見える姿勢があるのでしょう。
- 猫が庭にフンをしにくるのだが→その場所が気に入っているのでしょう。日本の飼い猫は1000万頭以上。だが外猫は短命で、東京都の調査によると平均寿命は約2.5歳(死因は交通事故、病気)、猫も外に出さず室内で飼う方が長生きできる。地域猫は住民の理解のもと、それ以上増えないように避妊・去勢をして地域で見守るのが理想。
- 犬にもメタボリックシンドロームはあるのか→犬は猫より多い。犬は集団で狩をしていたころの習性のなごりで、体重の1割もの大量の餌を食いだめできる。だから、餌がふんだんにあると犬は太りすぎになりやすい。猫はもともと少量ずつ定期的に適量を食べる習性なので犬よりは肥満しにくい。犬・猫のえさの改良が進み、今では年齢や健康状態に応じて適切なフードが入手できる。
- ペットフードで十分だというが、私たちの食べているも与えたいと思うのだが→私も講演では、食卓でおかずを分け与えないようにというが、実はわが家では犬に食物を分け与えてしまう。ただし、知識がなくてペットを病気にさせてはいけない。人間が食べているものがすべて動物にとって安全とは限らないので。食べさせてはいけないものを知ることが大切。
- 3匹の犬を飼っていたが、この春、17歳、18歳、18歳で次々となくなった。犬同士で、仲間が死んだ悲しみで、後を追ったような気がするのだが→17-18歳といえば、大往生。悲しみで後を追ったというより、やさしい飼い主のもとで幸福に寿命を全うしたのだと私は思う。ペットが死んだときの喪失感(ペットロス)への理解が足りなくて、傷ついている人も多いという。「虹の橋」という詩が話題をよんでいる。死んだペットたちが、天国に渡る橋の手前の楽園で幸せに遊びながら、いつか飼い主がやって来て二度と離れ離れになることなく一緒に虹の橋を渡れる日を待っているという話。なくなった3匹の犬たちも、今頃きっと楽園で幸せに遊んでいるのでしょう。
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