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第1回バイオカフェ(国立科学博物館)レポート

4月1日(土)18年度になって初めてバイオカフェを、初めての上野国立科学博物館講義室で開きました。初めての場所での開催に不安を感じていましたが、お子さんを交えて50名もの方が集まってくださいました。スピーカーは東京大学教授の森裕司さん。動物の嗅覚についてお話をうかがい、参加者から我が家の犬や猫の話に発展。終わりに、同館広報課の濱田浄人さんからのご案内があり、参加者は館内展示の見学へと移りました。
始まりは、今村恭子さんと寺井庸裕さんによるバイオリンとチェロの演奏。動物に関係づけて、13種類もの動物が登場する「動物の謝肉祭」(サンサーンス作曲)からおなじみの「白鳥」が演奏されました。次に3つの鳥を題材にした「ニワトリとカラスと白鳥」(堤政雄作曲)というにぎやかで楽しい曲が演奏されました。

今村さんと寺井さんの息のあった演奏 森先生の優しいお話し振ぶり


森先生のお話

動物行動学とは
私たちの研究は「人との関係の中で動物を捉える」こと。動物を表す言葉の多さからその国の動物と人間のつきあいを調べることができる。日本では、馬なら雄馬、雌馬、子馬といった感心を組み合わせた言葉、牛も雄牛、雌牛、子牛の3種類。ところが、英語の馬(ホース)には、スタリオン(雄)、メア(雌)、フィリー(雌の子馬)、ポニー(雄の子馬)、ジェルディング(去勢した牡馬)と言葉の種類が増える。アフリカのある部族では牛を表すことばは2000種類あるという。こうしてみると、日本人はこれまで動物とあまり深いつきあいをしてこなかったのかもしれない。しかし現実には、日本で飼われているイヌやネコの数は2、000万頭をこえた。

生命の灯火と動物の子育て
地球に生命が誕生したのは、約38億年前。恐竜の絶滅(6500万年前)、人類出現(500万年前)、現代人類の出現(10万年前)などの進化の歴史の中で、「生命の灯火」は誕生から今日まで一度も切れず、受け継がれてきたことになる。それは、動物がこどもを生み、育ててきたことを意味する。
生まれてくるこどもの状態は動物によって異なり、馬は妊娠期間が11ヶ月で、1頭ずつ成熟した形で生まれるが、イヌは2ヶ月で、目も見えない状態で生まれる。
イヌはよその子犬も育てるおおらかな母性行動を示すが、羊の親子は絆が強く、排他的。羊は群れから離れて出産し、出産直後にこどもをなめてこどものにおいを記憶し、群れに戻った後も、自分のこどもだけをにおいで識別して育てることができる。

動物の夫婦
鳥はつがいをつくるが、哺乳類ではジャッカルなどの例外を除き、約95%が一夫多妻制。
けれど、一夫多妻でも一夫一婦でも、雄雌の生まれる割合は半々になる。
力のある雄はハーレムをつくり子孫を残し、雌は力のあるオスを選んで力のある子孫を残そうとする。こうして生命の灯火は受け継がれている。

脳の研究と動物行動学
ヒトと動物の脳の違いは質的なものでなく、量的な違い。
脳には、本能に関わる基本的な脳(辺縁系、海馬)と、理性に関わる新皮質(脳の外側とがあり、本能の部分ではヒトとイヌは同じだが、たてまえの部分では異なっていることになる。
本能(生得的)行動を理性でどれだけ制御できるかが、進化の度合いで異なる。
進化論を唱えたダーウィンは、イヌが怒ったり服従姿勢をとったりするときに、それをヒトが理解できるということは「共通の根っこ」があるに違いないと気づいた。

動物のにおいによるコミュニケーション
動物がにおいでコミュニケーションをしていることは、みんな知っているが、今日は人間にもにおいは大事だということをお伝えしたい。
ヒト、羊、ネコの「嗅球」(におい情報の一次処理センターのようなもの)を比べると、ヒトの嗅球は小さく退化してしまっている。ヒトは視覚発達の中で嗅覚を切り捨て、ヒトのにおいの世界は貧しいものになってしまった。動物のにおいの世界の情報量はずっと多く豊か。

ヒトにもフェロモンがある
女子寮で月経の同期化が起こるドミトリーエフェクト(寄宿舎効果)の発見から、ヒトにとってもフェロモンという情報は重要であることがわかった。また、男性のわきの下の分泌物に含まれる物質で女性の視床下部が活性化されることが脳の画像診断によって観察された。同時に男性同士では活性化しないこともわかった。
Tシャツ実験といって、2日間着用した50人の男子学生のシャツのにおいに対する女子学生の好みを調査したところ、体臭の好みには個人差があること、好みは遺伝的な近縁度に依存することが遺伝子レベルでわかった。
ヒトはにおいで自分との近さを判断しているらしい。においは心の奥底に響くもので、情動や自律機能と密接な関係があることを、脳の構造が物語っている。嗅覚系と視床下部・辺縁系の構造的・機能的リンクもわかってきた。
においは原始感覚に訴える情報である。

安心フェロモンの研究
動物は仲間のにおいをかぐと心が落ち着く。
ストレスを受けるといろいろなことが起り、不安が大きくなり、免疫機能、QOLなどが低下する。このようなときに薬によらず、安心フェロモンを嗅覚系がとりいれることで心身のリズムをコントロールすることも可能になるのではないか。医療の分野でも匂いの働きは応用できるかもしれない。

会場風景1 会場風景2


質疑応答
(・は参加者、→はスピーカー)

・フェロモンは近親度が近いと安心するというが、近縁の縁組はよくないとされていることと矛盾するのではないか→生きていくためのモードと繁殖のモードは異なる。普段のくらしでは仲間が大事。しかし、繁殖では、同じ遺伝子だと病気で全滅するかもしれず、自分と異なる遺伝子をもつものとのこどもの方が病気への抵抗力が強くなるかもしれないなどの理由で遺伝的に離れた相手を得ようとするようだ。
・イヌが喜んでいる顔をしているときに、本当に喜んでいるのだろうか→動物にも喜怒哀楽はあるのかというのは難しい問題で、動物種によって多彩な表情を出せるものとそうでないものがある。イヌは耳を倒す、眉間にしわをよせる、牙をむく、シッポをふるなど、表情がわかりやすい。怖れを示す様子は哺乳類で共通している。同様に威嚇や攻撃性も種を超えて共通しているが、喜びの判定は難しい。
一般に高度な動物ほどコミュニケーションが発達している。例えばイヌとネコの祖先は共通で森でくらしていた「ミァキス」という動物。草原に出て集団で大きな動物の狩りをしたイヌの祖先は役割を分担するためコミュニケーションが重要になり、群れの中には秩序も生まれた。一方、ネコの祖先は単独のハンターで小さなネズミなどを獲っていたので待ち伏せたり、つめをひっこめて歩いたり、木に登る能力を得た。
・私たちのイヌ、ネコの好みは→昔はイヌを飼っている人が多かったが、ネコが世界的に増えてきている。散歩、ほえ声、猫はまとめ食いをせずに留守番ができるなど、飼いやすいためだと考えられる。
・我が家のネコは確かに飼いやすい。いい子だからだと思う
・女性の脳がある種のにおいで活性化し、男性は活性化せず、ホモセクシュアルのヒトは両方に活性化したというが、ホモセクシュアルは遺伝するのか?→ジェンダーはナイーブな問題で議論の的。性的な嗜好の生まれる理由として文化的、社会的環境が強調されていたが、その中にあって生物学的背景があると信じて研究している人もいる。
カリフオルニアの研究者がエイズで亡くなったヒトのSDNという脳の部分を調べたら、同性愛者の男性の脳の大きさは女性に近かったという報告があった。それが結果なのか原因なのかの決着はついていない。目に見える脳の形で機能に影響があることが示唆された。
・女性にはにおいの好みがあるというが、女性が好きだと思うにおいを持つ男性は、その女性のにおいを好きになるのか→オスの基本的生殖戦略は数うてばあたる方式で、男性は理論的には生涯に1000人のこどもを残せるが、女性は10人くらい。オスの進化のパターンは多くの子孫を残す「求める性」でメスは「選ぶ性」。
メスのクジャクは求愛するオスが次々に尾羽を広げたときに、一瞬にして尾羽の目玉模様の数や大きさなど識別して相手を選ぶ
メスは選ぶ性であるために、女性の方が嗅覚が鋭い。ヒトにも個人の体臭をかぎわけられる人がいるが、その多くは女性。原始社会では、においで配偶者を選んでいたかもしれない。
・ビーグル犬を飼っていたが、お風呂が嫌いだった。せっかくきれいにしても、泥の中で転げまわったりした→動物は変わったにおいをつけて巣に持ち帰って、情報を交換する。あるいはシャンプーのにおいを泥で落とそうとしたかもしれない。一般に動物の砂浴びなどは外部寄生虫の駆除に関係する行動とも考えられている。
・我が家の犬がおじいちゃんの枕にだけ体をこすりつける→男性ホルモンは性腺からでるアンドロジェンといわれるステロイドの1種で、そのひとつであるテストステロンはヒト、犬、牛でも全く同じ。メスのエストラジオールというホルモンの構造もヒト、ネコ、犬で全く共通。フェロモンにはホルモンの形を変えたものも含まれるので、犬が枕に体をこすりつけるのは、共通のホルモンあるいはフェロモンのせいとも考えられるのではないか。
・ネコ小屋を作って外ネコの世話をしている。家で飼っているオス猫がネコ小屋に来た子猫を親子でないのに、よくなめて世話をし仲良く行動している→一般にオスネコは子殺しをするので注意が必要といわれているが、ときには子煩悩なオスネコもいて母ネコのように世話をすることもあると聞く。
・牛が狂牛病になったのは、草食動物に骨粉など与えたせいではないか→スクレーピーやBSEは生産効率を重視して人間が骨粉など不自然なえさを与えたための人為的な病気と考えられているが、そもそもプリオンは生体の中でどんな働きをしているのかわかっていない。病気の原因はプリオンが異常な形になって起こることしかわかっていない
・牛に雑穀ばかりあたえると死んでしまう→牛は第一胃に微生物をかっていて、繊維を分解して生きているので、人間がよかれと思って栄養価の高いものばかりを与えると病気になったりすることもある。



科学博物館からご案内 濱田浄人さん

博物館は物的証拠を保存、展示する所なので、生きている姿を見ていただけないのが残念ですが、標本も多くを語ります。ここ、科学博物館には80人の研究員がいて、350万点の標本があります。研究員は実際にフィールドに出かけ,自然の様々な現象について研究しています。土曜、日曜の11時及び2時にはその研究員による解説もあります。ぜひ見ていただきたい展示として、1階の展示の中の「熱帯の1本の木にどれだけ虫がいるか」がユニークです。1本の木に住んでいた虫の標本を展示してあり、研究の現場の一端を物語るものでもあります。帰りに寄ってみてください。

~花見客でいっぱいの上野で初めてバイオカフェ。多くの方々にお楽しみいただくことができました。上野の科学博物館は一度では見切れないくらい多くの展示があります。私達もまた、バイオカフェを科学博物館で開きたいと考えており、皆さまのご参加をお待ちしています。~



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