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つくば農場見学会が開かれました

7月22日(木)、昨年に引き続きつくば農場見学会を開きました。連日の猛暑の中、30名の参加者(今回、締め切り後に申し込まれてお断りした方はごめんなさい)と元気に行って参りました。新聞記事を見ていらした方が多く、私たちのイベントに初めて参加してくださった方がほとんどでした。嬉しいことです。特に帰りのバスでの参加者のご意見、感想は大変、意義深いものでした。このニュースの最後にすべて掲載いたしましたので、どうぞ、お読みください。

見本園

米、穀物、雑草の見本園があり多様な植物の実物を見学できるようになっています。穀物見本園ではダッタンソバ、アマランサなど、最近の健康食品ブームでよく耳にする名札が並んでいました。口に含むと、ステビアの葉は驚くほど甘く、レモングラスは爽やかなレモンの香味がありました

つくばリサーチギャラリー

つくば農林団地に集まるすべての研究所の紹介の展示の他に、夏休み向けの日本の農業の歴史に関する特別展示がありました。
大変興味深かったのは、米について見ると、収量は100年間で2倍半、労働時間は8分の1になっていることです。タイ米が輸入されて話題になった平成5年の凶作では373Kg/10aで昭和40年代のレベルまで落ち込みました。農業の著しい進歩は明治20年代に農家の努力によりはじまります。保温折衷苗代、飯山式育苗室(ビニールハウスのようなもの)が作られ、田植えを少しでも早くし、収穫も早くすることで、寒冷地での栽培が可能になりました。明治中期に考案された、米粒の比重を用いた選別法は今も使われています。日本の農業は大変な努力の末、省力、増収に向かって進んで来たのです。

労働時間は8分の1!

鶏の飼料になる遺伝子組換えイネ


遺伝子組換えイネの試験栽培

トリプトファンを高めた遺伝子組換えイネが約5a栽培されていました。畑を掘ってビニールを敷いて水田が作られています。できて数ヶ月なのに、アメンボが泳ぎ、トンボがやって来て、今ではヤゴが水中では暮らしています。栽培目的はニワトリに食べさせて効果を調べる試験のための、30Kgの飼料を得ることです。イネを人や鳥の害から守り、風を弱めて花粉の飛散を減らすために目の粗い網がかけてあります。開花期も一般より1ヶ月遅れになるように調節して栽培を開始、開花期には周りにモチゴメの鉢植えをおき、交雑の実験も行いました(交雑するとできたもち米が白濁するキセニア現象を観察する)。

遺伝子組換えイネの試験栽培

遺伝子組換え農作物が研究・開発されるときには、初め、水や空気の出入りが管理される閉鎖系温室、次に非閉鎖系といって網戸がついた温室で栽培する。それぞれの段階での環境への安全性に関する試験項目をクリアしたものが、隔離圃場で栽培される。
隔離圃場では人と物(遺伝子を組み換えた植物、土、水など)の出入りが管理され、常時施錠してあります。場内では専用の長靴を履くので土が外に持ち出されることはありません。場内で使用した物や植物は焼却処分されます。現在は農業生物資源研究所の遺伝子組換えイネと民間企業の遺伝子組換え除草剤抵抗性トウモロコシが栽培されていた。くらしとバイオニュースでお知らせした遺伝子組換えジャガイモは残念ながら栽培が終了していました。遺伝子組換えイネも栽培されていました。
遺伝子組換えジャガイモ試験栽培説明会

モニタリング圃場で説明を受ける。今年はダイズが栽培されている。隣の圃場では花粉飛散と交雑に関する研究のためにトウモロコシが栽培されている モニタリング圃場におけるダイズと雑草の生育の様子。向かって左の草丈が高いのがダイズの普通品種(エンレイ)、右は遺伝子組換えダイズ。除草前なので、畝と畝の間に雑草がびっしりと茂っている。

モニタリング圃場では「遺伝子組換え農作物を考えるコンセンサス会議」の要望に応えて、遺伝子組換え作物を長期間栽培して、圃場の生物相への影響を調査しています。今年は、1)遺伝子組換え技術によって除草剤抵抗性を付与されたダイズと日本でよく栽培される普通品種のエンレイというダイズを隣接して栽培しています。組換えダイズと普通品種の試験区域で出現する雑草の違い、集まる虫の違い、土壌の微生物の違いを調べており、今まで3年間行っていますが、両者間で明らかな差異は見られません。隣の圃場では、2)遺伝子組換えトウモロコシからの花粉飛散による遺伝子の拡散を明らかにするための研究が行われていました。ここでは、遺伝子組換え体を用いないで、市販されているトウモロコシの普通品種、ハニーバンタム(粒が黄色、風上側)とシルバーハニーバンタム(粒が白色、風下側)が並べて栽培されていました。花粉が飛んで交雑するのは組換え農作物に限ったことではありません。交雑すると白い粒に黄色い粒が混じる現象(キセニア現象)を利用して交雑の様子を調べるために、この2種類を並べて植えています。今まで得られた結果では50メートル離れた場所での交雑率は0.2%程度です。これは、白い粒のシルバーハニーバンタムの雌穂におよそ500粒の実が着くとすると、その中に1個の黄色粒が着く確率になります。交雑と天候の関係も調べるために畑の真ん中に風向、風速を記録する装置が設置され、気象の研究者も一緒に調査にあたっています。


講演会「遺伝子組換えを用いた作物育種」 講師 田部井豊

1. 遺伝子組換え技術と従来育種との違い
今でも交雑育種が品種改良の最も重要な技術ですが、品種改良の材料となる遺伝資源に目的とするものがないときは変異の拡大(突然変異、胚培養、細胞融合、遺伝子組換え)を行って目的とする材料を作出します。
茨城県大宮町のガンマフィールドでは人家のない高い土手に囲まれたところでコバルト60からの放射線を当てて突然変異を起こして新しい品種を作ってきました。例として純白系のエノキダケ、ゴールド二十世紀(病気に強いナシ)があります。
遺伝子組換え技術を使うと、もとの性質を変えずに新しい形質を加えることができ品種改良の可能性が高まる。しかし、遺伝子組換え技術を用いずに目的の品種が得られるならば、この技術を用いる必要はない。

2. わが国における遺伝子農作物の安全性評価
 生物多様性への影響評価はカルタヘナ法で、食品と食品添加物については食品衛生法で、飼料は飼料安全法でそれぞれ審査している。
新しい植物が日本の環境に入ってくると、周辺野生生物の駆逐する場合、花粉によって近縁野生種と交雑する場合、有害物質を産成して周辺生物に影響を及ぼす場合が想定され、越境してくる遺伝子組換え植物の生殖特性や雑草性などを細かく審査して環境への悪影響が出ないように管理する。
食品としての安全性は組み換える前と意味がある差がなければ、同程度に安全と考える。心配されるアレルギーについては、今まで知られているアレルゲンと構造が似ていないか、人工胃液・腸液での容易に消化できることを確認して、新たなアレルゲンになる可能性の有無を確認する実験を行う。

3. 遺伝子組換え農作物の利用状況
GM作物栽培面積は1996年から40倍に増え、米国、アルゼンチン、カナダ、ブラジル、中国など18カ国で商業栽培されている。害虫抵抗性のトウモロコシやワタ、除草剤抵抗性を持つ大豆、ウィルス抵抗性パパイヤ、色変わりのカーネーションなどがある。

4. 開発。実用化が進められている遺伝子組換え農作物
スギ花粉症を緩和する米、ビタミンAを強化した米、血糖値によってインスリンの分泌を促す糖尿病対策米など、様々な研究も進んでいる。

5.遺伝子組換え農作物の社会的受容を進めるために
遺伝子組換え農作物が好まれない理由で考えられるものとして、遺伝子を組換えると怖い、マスコミの責任(危険とする記事のみを載せる、根拠が明らかでない反対運動などがある。農業と消費者が乖離しているため農業生産にメリットのある組換え農作物を消費者がよいものと理解できない、科学者の説明不足、わかりやすい情報提供の不足などの問題もあるが、本当に必要な技術かどうかを皆でよく考え、遺伝子組換え食品を避けたい人の権利とこれを栽培したい人の権利が共存できるようにできるとよい。


質疑応答
  (→は田部井先生の発言)

質問1.安全イコール安心ではないと思うが。
→安全を継続していくことで安心につながるのではないかと考えている。

質問2.ひとつの米にいろいろな形質が加えられてアレルギーにならないか
→複数の特性を加えるのは従来育種でやってきたこと。代謝系が異なるものについては、それぞれの安全性を確認するのは当然であるが、さらに複数の代謝系を合わせることで、生じる副産物ができたりする場合はそれを考慮した安全審査が行われる。

質問3.民間企業で遺伝子組換え技術が応用され発展するには。
→国民の受容が進むことが第一。それと同時に、独立行政法人が必要な特許を押さえなど、日本企業へのハードルを低くすることが必要であると思う。

質問4.草食動物の牛に共食いをさせてBSEが出た。蛍のルシフェラーゼ(光るために働く酵素)を入れた植物もBSEのような問題がおきないか。
→ルシフェラーゼは、はじめは動物の遺伝子が植物で働くかを調べるために利用され、現在は遺伝子が導入されていることを調べるために使われるため、食品に使われることはない。
意見:日本における組換え作物の規制は縦割り行政であることに問題があると思う。
→カルタヘナ法は6省共管の法律。省庁によって考え方が違うことがあり困ることもあるが、協力して組換え技術を安全に利用していこうとするもの。

質問5.ヒト幹細胞の研究が許されたが、研究への規制は緩んでいくのか。
→国際的な競争の問題がある。遺伝子組換え技術は初め最も厳しく管理し、研究が進むにつれて不要な規制はしないという方向でやって来た。植物の組換えでは、ヒト幹細胞ほど倫理問題は深刻でないと思う。しかし、倫理問題も考えて行くべきと思う。


田部井先生を囲んで


帰りのバスでの参加者の声

  • 除草剤抵抗性遺伝子農作物は除草剤とセットで使用しなくてはならないので、嫌な感じを持っていたが、自給率を高めるためには遺伝子組換え技術は必要だと思った。
  • 聞くほどに不安がなくなることはなかったが、反対するだけでなく勉強していきたい。
  • 研究の場を見て組換え技術の意味を考えさせられた。今までとは別な角度で考えていかなくてはいけないと思った。
  • 組換え技術に賛成。圃場で見た穴だらけのキャベツと元気な組換えトウモロコシが印象的。
  • 市民は安くていいものがほしいが、今はメリットが見えてこない。
  • 「安全を続けることが安心につながる」という田部井先生のことば一番印象に残っている。
  • 不安は残っているが、理解は一歩一歩進んでいると思う。
  • 田部井先生のお話がまとまっていてよかった。情報の中身を知らされていなかったことに気付いた。
  • 遺伝子組換え技術についてはよくわからなかった。安全だ、安全だといわれると安心できない気持ちになる。
  • 見学できるよい機会を得て感謝。除草剤を使った上での「安全性」があることがわかった。組換え技術には賛成。若い人たちにこれから議論していってもらいたい。
  • 先端技術というものが好きなので、組換え技術にも賛成。環境と農薬は一緒に議論できるが、組換え技術を好き嫌いで議論するのはおかしい。
  • 生物多様性を守るために、研究者の方たちにがんばってほしいと思った。
  • 隔離圃場が見られて嬉しい。組換えジャガイモがなくて残念だった。日本の行政の縦割りの仕組みに問題があることを感じた。
  • 組換えを悪い物だと思っていたが、これからは組換えについて勉強しようと思った。
  • 研究の現場を見て、研究の大変さがわかった。大学生たちにしっかりしてもらいたい。
  • 研究者は気を使って不自由な思いをして研究をしていると思った。ここでの研究は研究のための研究でなく、農業のためにされていることもわかった。研究者が不自由な思いをしないで組換えの研究をすすめられるようにしてあげたいと思う。
  • バイオテクノロジーは土壌の浄化にも役立つことを知った。
  • 仕事柄、商品として扱っているトウモロコシを実際に見られてよかった。
  • 念願の隔離圃場を見られてよかった。不安は消えなかったが、こういう機会には参加していきたい。





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