7月8日、十勝合同庁舎体育館(帯広会場)において食の安全・安心条例(仮称)案に対する地域意見交換会(主催:北海道)が開かれました。以下、帯広会場の取材と他の会場の参加者のレポートをあわせて報告します。
※地域意見交換会は7月1日から13日まで道内7箇所(札幌、苫小牧、函館、釧路、帯広、網走、旭川)で開かれ、事前登録した道内外の人が参加し、条例案骨子に対する意見を発表しました。
会場ではパブリックコメント募集のお知らせ(7月25日締め切り)と参考資料としてBSE,食品表示,遺伝子組換え食品等に関する新聞記事のコピー集が配布されました。
(参考)「北海道における遺伝子組換え作物の栽培に関するガイドライン」に基づく遺伝子組換え農作物試験栽培に関わる実施条件検討会(第2回)は8月17日に開かれます。
|
意見交換会(帯広会場)に参加して |
参加者は100名弱。24回の発言の中で名乗った方に限ってみると生産者や加工業者の方の発言が7回でしたが、他の会場に参加された方の報告を総合すると、一般に北海道の札幌近辺の意見交換会には消費者が多く、東部では農業関係者が多く、発言内容も異なっていたようです。北海道でも消費者は生産の現場を知らないということなのでしょうか。日本の農業を考えるときは、生産者の声に耳を傾けることを忘れてはならないと思います。
|
|
帯広会場にて |
|
意見交換会(経緯説明) |
北海道庁農政部道産食品安全室から「BSE,食品表示などの問題が起こり、道民の食の安全・安心を守り信頼できる関係を築いていくための条例を作ることになった。今後、意見交換会、パブリックコメントを通じて道民の方と共に条例を作る所存である。消費者基本法が7月1日に改正され、そこにも述べられているように、積極的に行動する消費者の責務も盛り込みたいと考える。」という経緯説明がありました。
(→は主催者側の回答を示す)
(挙手し、住所、所属、名前を述べて一人3分以内に発言すること)
条例全般について
○この条例を通してどういう農産物を作るのか、目標が明示されていない。
○何が安全・安心なのかが不明瞭。検討するメンバーの人選が曖昧だからだと思う。見直しは誰がするのか。
○「努めます。推進します。」という文章ばかりが並んでいるが、ヒト、モノ、カネがつきまとう。緊迫財政で厳しいと思うが、資金の裏づけを示してほしい。
有機栽培について
○農家にとって有機認証料は5万円かかり、表示にもコストがかかるので、直接払いにしてほしい。
表示について
○道産品の認証制度は慎重に扱い、北海道の企業が元気になるようにしてほしい。JAS法は穴だらけで優良誤認も多い。缶コーヒー、福建省のウーロン茶に国産品と書いてしまうJAS法に追随していいのか。道産品の生き残りのために真剣に考えてほしい。JAS法に頼らない、道独自の表示方法を考えてほしい。
→認証制度における道産品の定義は主たる原料が道産で道内の工場で製造したものと定義している。認証制度、優良誤認を起こさせるようなものは罰則か取り消しがあるでしょう。
○大手生協で遺伝子組換え不分別の油などが販売され、不分別表示の食品がじわじわと市民権を得ている。アンケートで8割の消費者が不安を感じるというデータを判断の根拠にしていいものか。
○JAS法では加工食品は表示の対象外。せっかく条例を作るなら、法律の枠を超えて大豆の生産地表示を盛り込んでもらいたい。そこまで書くと消費者もわかりやすい
BSEについて
○BSEについて国が20ヶ月前は検査しないと考え方を提示した。これは日本の全頭調査の考え方に反すると思うが道庁ではどう考えるのか。→食品安全委員会に従う。
土壌に関すること
○堆肥のリサイクルについて。汚水処理したものや発酵させたものの重金属残留など調べないで、堆肥として認めているのは問題がある。食品につながるので連鎖して調べてほしい。
○畑作、酪農も土が大事だということが条例骨子に抜けている。土壌作りがしっかりすれば環境問題も縮小すると思う。
○硝酸体窒素の問題がある。畜産廃棄物処理も改良しないと地下水汚染がおさえられない。十勝産野菜から高濃度の硝酸が検出されている。今ある技術の再検証はしているのか。
減農薬について
○何に対する減農薬なのか矛盾を感じる。本気で農薬の使用を減らすならば総使用量を10年後に半分にしようという目標を立ててやっていくべきで、そうすれば消費者も努力を認めるだろう。
○道農政部安全室で総使用量の数字をおさえているのか。
→クリーン農業は取り組んで10年。農薬使用量は減っている。現状を常に調べて進めていく必要はある。
○毎年の農薬使用量は減っているが、希釈する倍率をかんがえると、実際の使用量は5倍くらいに増えていると思う。使用する農薬の量が減っているということはないのではないか。
6月の農薬工業会の速報でも増加している。
*農業工業会の15,16年度の5月の出荷概況を調べました。数量累計は1%減っていましたが金額累計は3%伸びていました。
これからの農家の目指すこと
○子供にプライドを持って食べさせられるものを作ろう!が自分の基準。クリーン農業はわかりにくいので、循環型農業ということばを入れてはどうか。
○9人の孫が農業をやりたがっているが、彼らが私と同じような農薬を使わない手作業の農業を希望してやっていけるとは思えない。
品種改良について
○今までの突然変異を期待してきた品種改良に限界があり、農薬や肥料を減らせなかった。一部の一生懸命に作っている農家の努力に寄りかかっていることに気付いてほしい。いろいろな技術が北海道の進歩のために使えるような条例を作ってほしい。
○遺伝子組換え技術は品種改良の一方法でしかなく、要は農薬を減らせるような性質が付加できる品種改良がなされること。
○農薬を減らそうにも農薬、肥料を大量に使うことを前提に作られた品種なので、減らすことができない。
○品種改良の方向が農薬を減らす方向でなく、多収量を目標にした安易な方法であった結果が今の残留農薬や河川汚染。品種改良の目標を明示すべき。
遺伝子組換え農作物について
○遺伝子組換えの先進的な取り組みはすばらしい。組換え規制については、「理解がえられなければ」を削除し、国には輸入種子の情報公開を求めてほしい。
○遺伝子組換えは安全だといわれても、耐性菌、アレルギーの問題がある。遺伝子組換えあずきは開発しないでほしい。
○遺伝子組換え技術でコメのアトピー性皮膚炎などを軽減させる可能性がある農作物を作ることができるのに、そういう子供たちを救う可能性を否定していいのか。ヒトインシュリンも組換え技術でできていて、恩恵にあずかっている人たちが多くいる。
○院内感染は遺伝子組換え技術を用いるときに抗生物質耐性マーカーを使うせいだという話を聞いたことがある。
○アメリカではダイズを食べる習慣が余りなく、トウモロコシは飼料だから、問題にならなかったのに、主食にする小麦では販売を中止したと聞くと安全性に不安を感じる。
○遺伝子組換えを恐れている。大事なことはこどもに安心して食べさせられる食品を作っていきたい。遺伝子組換え、農薬の勉強もしているが、科学者が100%安全というまでは自然界に放してほしくない。
○自分は研究者。札幌会場では、遺伝子組換え食品絶対反対の声が大きかったが、消費者というものはそのときの気分で好きなものを買う。遺伝子組換え農作物は農薬を減らすために作られたものだと理解している、安全性も精査されている。生産者はどう思っているだろうか。
その他
○ダイオキシン、畑作のカドミニウムなどの問題点も明らかにして、問題に取り組む姿勢を示してほしい。
○農家への参入の規制が厳しく、農家が切磋琢磨するための競争原理が働かず、その結果として農家は国家頼みの姿勢。
○食品の安全・安心の基準は発言者ひとりひとり違い、その差も大きい中でこういう条例を作ることは難しい。食の安全・安心の基本的議論がないまま、制度、仕組みが先行していると思う。
○豆腐屋を営んでいるが、昨年、大豆や豆類が凶作で、十勝産大豆が大手に買い占められてしまった。農業者には手厚い保護があるが、加工業者には保護がない。優秀な農作物の保管、貯蔵についても考えてほしい。
○農業改良普及センターの機能を最大限に生かすようにしてこの事業の啓蒙、推進、窓口業務をやってほしい。
|
札幌会場参加者からの報告 |
参加者は100名余。条例で「食の安全・安心」とあるが安全・安心の定義が明確にすべきという意見から、道産品の定義(道でとれたものか、道内加工品も含むのか)といった、定義の問題の他に、農薬や化学肥料によって畑がだめになっている、という生産者の声が聞かれた一方で、有機には多大な労力がかかり、その分コストに跳ね返る、道や消費者はそのことを理解して、きちんとした対応をしてくれるのか、という意見もあった。遺伝子組換え作物の栽培に関しては、消費者は不安だから栽培禁止を求める、明確な理由を述べずに、栽培禁止を求める意見が消費者団体等から多数出された。中には、人の食糧だけではなく、飼料の自給率は非常に低く、輸入飼料に組換え飼料が混入している、従って、組換え飼料輸入を差し止めを要望する意見も出された。
|
釧路会場参加者からの報告 |
参加者は40名弱。条例を作るなら、背景もはっきりさせ、「努めます」などの文言でなく、もっと具体的な目標数値を入れ、実効力のあるものを作るべき。現状では家畜の飼料のほとんどが輸入であり、日本の自給率について、道はどうのように考えているのかを示してほしい。明らかに問題のあるBSEや残留農薬と、「漠然とした不安」という遺伝子組換えを同列で述べるのはおかしい。数年後には行政が「組換え推進」に変わるのではないか。遺伝子組換えについては、「消費者や生産者の理解が得られなければ」をはずし、基本的に屋外での栽培は禁止にしてほしいとする一方、有機作物の安全性に不安があるので、安全性試験を行ってほしいという意見もありました。
|
網走会場参加者からの報告 |
発言のほとんどが農業者であるのが特徴。
新しい技術への取り組みについて、農家が遺伝子組換え作物を栽培できないのは困ったことで、農家も試験をやる必要があるし、新しいことを試みる人に手をさしのべる制度こそが必要。土壌については、有機農業だと動物由来の堆肥が多く、土壌や河川の汚染源になっていたりする。薬剤処理をした建築廃材、抗生物質の入っている鶏糞を堆肥として土に返すのは問題。さらに、クリーン農業・有機農業は安全という神話はあり得ないし、このために現実に小麦には病害防除な必要なカビ毒が出ている、現実的対応が必要な状態。農林水産省、厚生労働省が栽培や食べることを許可しているものに、道庁が科学的な検証を必要とするというのならそれらを示すべき。縦割りではなく横断的な取り組みが必要な問題を多数決で決めようとするのはおかしい。心情である安心と科学で扱う安全はきちんと分けて考えるべき。
|
消費者の立場からの意見 |
消費者からは、輸入されている遺伝子組換え食品は不安でも、分からずに食品を食べさせられている。組換えの花・作物に関わる新技術を学べる機会を道は作り、表示の監視体制を整備して欲しい。子供に安心な食事を与えたい。曲がったキュウリは買わないなどの消費者の意識改革も必要。 |