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公開講演会「科学・技術への理解と共感を醸成するために」が開かれました

5月21日(金)、日本学術会議講堂において、日本学術会議主催(共催:日本科学技術ジャーナリスト会議他)で標記講演会が開かれました。第1部では講演会、第2部ではパネルディスカッションが行われました。これを傍聴しましたので主な内容を報告します。

第一部 講演会

「なぜ、いま、ここに?」日本学術会議会長 黒川清
「とくに人材の育成について」総合科学技術会議議員 阿部博之
「社会と理科離れ」筑波大学名誉教授 白川英樹
「産業界の視点から見た理科教育の在り方」本田技研工業(株)取締役相談役 吉野浩行
「科学者へ望むこと」朝日新聞論説委員  高橋真理子
「科学技術・理数教育の新たな展開」文部科学省科学技術・学術政策局基盤政策課長 倉持隆雄
 

白川先生のお話の概要

科学者は研究費だけで社会と連なっているのではなく、科学・技術への理解と共感を醸成するために連なっている。科学と技術の違いは社会に役立つだけでなく自然のからくりを知る喜びがあることである。このような姿勢を育てる場としての家庭の役割は大きい。


吉野氏のお話の概要

本田技研が行っている子供を中心とした技術に対する理解を深めるためのプログラムの事例紹介。環境ワゴンというモノつくりの体験コースでは、車が出向いて行くもので、年間17、000人が参加している。ロボットのアシモが学校を訪ねるコースは大変人気があり、他にロボットコンテストのスポンサーもやっている。このような事業は有意義だが、費用がかかり、受験を含めた学校制度との軋轢、産業界と学校のギャップなどの問題をはらんでいる。


高橋さんのお話の概要

科学・技術の歴史を見ると、原爆は科学者の良心を、遺伝子組換え技術は科学者集団の責任を、クローン技術は社会も参加して考えるという姿勢の必要性をそれぞれ問うている。
世界の科学ジャーナリストの歴史は、1992年日本での世界科学ジャーナリスト会議開催で始まる。第2回会議は1999年世界科学者会議(ブタペスト)の時に開かれ、この世界科学会議では、「知識のための科学」「平和のための科学」「開発のための科学」「社会における科学と社会のための科学」が宣言された。
一方、日本の科学ジャーナリズムは大手新聞社内で原子力について記事が書ける部署として生まれた経緯がある。
日本の科学者は欧州の科学者がキリスト教との戦いの中で育ってきていることに対し、対立の経験を持たないので、社会との対話は不得手だが、これからは一方向啓蒙でなく双方向対話の時代である。


第2部 パネルディスカション

司会    室伏 きみ子 日本学術会議会員

パネリストの主な発言は次のとおり。

○井上 和子  日本学術会議会員
 こどもが言語を操る力が先天的にプログラムされていると考えると一見関係のない言語学も科学と考え方が非常によく似ている。

○本間 典子  東京大学大学院医学系研究科助手
院生の時にリバネスという会社を学生だけで設立し、千葉県白井市の教育委員会と連携して小学生と遺伝子組換え実験を含む「生命って何?」という6ヶ月の授業を行った。教育学の先生に通訳してもらいながら現場の先生とカリキュラム作りをし、生徒、学生、教師、保護者、それぞれに学ぶ所があった。

○北澤 宏一  科学技術振興機構理事
市民には科学を知る権利と知る必要がある。人の多様性を尊重しつつ、NPOが行うような多様なプロモーション活動への支援の実施が必要。

○高橋 真理子 日本科学技術ジャーナリスト会議副会長、朝日新聞論説委員
せっかく科学ジャーナリストを目指して勉強しても職がないという問題がある

○佐々木和枝  お茶の水女子大学附属中学校副校長
小中学生は理科が好きなのに、高校生は理科嫌いになり、私の専門の化学は人気最下位の科目になってしまう。見えない現象を考えるときには子供の時からの教育が大事。

○川合 知二  大阪大学産業科学研究所教授
科学と技術が混同して使われている(原爆は技術で、キュリー夫人の発見は科学)。これからはバイオテクノロジーのような総合的な見方をする分野が人気になるだろう。科学者は最先端技術の話をわかりやすく話すことができるので、これを活かして小学生の母親に科学好きになってもらえるように語っていくのがよい。

○黒田 玲子  総合科学技術会議議員、東京大学大学院総合文化研究科教授
ブタペスト宣言で社会と科学の関わりの重要性が述べられたが、実際には科学や技術に対して判断できる個人をつくるためにはインタープリターが必要。インタープリターの資質は科学の現場経験があり、感動でき、表現力の豊かな人。

○嶋田 実名子 花王株式会社広報部門社会・文化グループ部長
 経団連の社会貢献費は300社で37、600万円で、企業でも科学・技術への理解醸成に努力している。わが社では、出前実験(乳化実験など)による先生応援プログラムを作ったがあまり応募がない。今は知り合いの先生中心にボランティアの社員が行っている。最近、先生の海外研修プログラムを始めたこちらは順調な滑り出し。

○文部科学省科学技術・学術政策局長 有本 建男
先端技術や専門的なことについての理解は難しいので、ある程度まで科学者が説明し、そこからは「この人なら信用できる」という信頼関係や共感が科学と市民の溝を埋めることになるのだと思う。

各スピーカーの意見が述べられた後、討論に入りました。

官と学の関係者がいたために、外部と協力して、教育のあり方を検討していくという意味でカリキュラム作りから関わった本間氏の報告は今後が楽しみであるという意見がでました。また、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)、SPP(サイエンスパートナーシッププログラム)実施のための書類作りは、ただでさえ忙しい現場の教師には負担が大きすぎ、よいプログラムでも申請を避けたいという本音もあるようです。一方、先生方にもある程度は申請書類作りなどに慣れてもらいたいという対立した意見もありました。会場からは、科学への理解を進める具体的な方法として、各学校のPTAや校友会などを利用して、自由な学習や教育の場をつくって行こうという積極的な提案もあり、参加者ひとりひとりに自分のできること考えるように促す意見も出ました。

学者ばかりの厳しい組織という印象を持っていた日本学術会議がこのように社会と関わる開かれた姿勢を示した意義は大きいと思いました。このような認識が産官学に広がることが望まれます。

 




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