米国大使館が主催した標記セミナーが3月29日(月)福岡、31日(水)大阪、4月1日(木)札幌、2日(金)東京で開かれました。4回のセミナーではアメリカから来日した農業生産者4名と日本の生産者1名が講演し質疑応答が行われました。遺伝子組換え食品に関する有識者によるセミナーは何度も行われてきましたが、日米の生産者の立場から語られるものは初めてでした。札幌と東京のセミナーを取材しましたので、今回は日本と米国の生産者の講演の概要を、次回は質疑応答を2回に分けて報告します。
講演をした生産者は米国から4人、日本からはひとり(福岡と大阪は長友氏、札幌と東京は角田氏)でした。
米国農業連盟協会(非政府、非営利、無党派農業生産者団体、会員数は550万人)会長。テキサス・ヒューストンでコメ栽培と牛飼育をしている。
バイオテクノロジーでは目的形質を導入するが、従来法だと目的外の遺伝子が変化することもある。世界の情勢を見ても初め慎重だったEUの対応も変化してきている。
環境から考えると、耕地はもう増やせない。また米国の農業生産者の平均年齢は58歳になっている。農業生産者の高齢化問題は日本も米国も同じで、バイオテクノロジーを用いた魅力的な農業を通して平均年齢の低年齢化することを期待している。農薬散布量が減ることもメリット。
バイオテクノロジーの利用は消費者と環境にメリットをもたらす。
インディアナ農業会会長。トウモロコシ、ダイズ、小麦を生産。
遺伝子組換え大豆の作付けは500haで1997年から出荷。現在は100%組換えに切り替えている。販売用の本格栽培を始める前に、2年間実験栽培を行った。
娘ふたりと妻で農場経営しており、生産者にも消費者にも利益がある「Win-Winの関係」を目指している。
遺伝子組換え大豆を利用してコスト削減ができた(除草剤量が減る、不耕起栽培で労働量が減る)。それまではトラクターの往復は6-7回だったが遺伝子組換え大豆を用いてからそれが3回に減り、収量もあがった。
遺伝子組換え種等は安全な種、均質な生産物、農薬の使用を少なくして、安く大量に消費者に届けられ、環境にもよい。
インディアナ州は雨が多いので不耕起栽培だと土壌の侵食、表層土壌の肥料が失われなくてよい。消費者の信頼が重要だと思う。
オレゴン農業会会長。ベリー類、かぼちゃ、花の苗、鉢花などの小規模果実生産者。
オレゴン州はラズベリー、木材製品などで日本に市場を開き、信頼関係を築いてきた。日米の消費者ともに製品への期待が高いのは同じ。
ウィルスにかかった桃、梅は焼却しか対処する方法がないので、こういう分野でのバイオテクノロジーの応用は期待できる。
1970年から父は灌漑用水の再利用を始めた。私は3代目の生産者として、次世代によりよい農業生産の機会を与えたい。
オクラホマ農業会会長。ワタ栽培と牛飼育。
今回の訪日で最も有益だったのは日本の生産者との交わり、特に大阪の家族三代のミニトマト生産者(親子、孫)に会えたことと彼らの誇りある姿が印象的。
日米共通の問題は都市化による、農業地、牧草地がなくなることだが、これは農業をしていては土地の収益性が低いからだと思う。
ワタ栽培では遺伝子組換えワタを用いると3-4割増収し、農薬散布は10回から3回になりコストが下がる。これは、革命的なことだ。
バイオ作物懇話会代表。同会には現在700名の全国の農家が加盟している。1997年から日本農業再生のきっかけを探りながら若い農業後継者に夢と誇りを残せる農業のために何ができ、何が必要かを考えている。新技術の導入や試験栽培をしながら勉強会をしている。
日本の農業生産者の70%が65歳以上、高温多湿な日本では農薬なしの農業は考えられないのに、消費者は有機農業、無農薬栽培の実態を知らずにそれらを要求している。農薬を使いたくないのは農家の方が強く望んでいること。
日本では手間隙かけた農業でなければ高品質の生産物は得られないが、市場での価格は安く、結局子どもには継がせられないという結論になってしまうのが現実。
(有)角田農園代表取締役、(有)ハッピーファーム。
遺伝子組換え大豆を平成14年度に1ha北見で試験栽培をした。
雑草との戦いで苦しんでいたので、農林水産省、厚生労働省が許可している除草剤抵抗性組換え大豆を栽培し除草剤の効果をためしたいと思った。予め約束して開花前に除草剤の効果を確認した上ですきこんだのに、北海道庁などから反撃を受けており、現在のガイドラインの動きの引き金に自分のしたことがなっているのなら、残念である。
品種改良は自然界で起こりえないことを行っていることなので、従来の品種改良と遺伝子組換え技術は同じだと思っているし、放射線照射による突然変異体作出に比べると組換えの方が安全だと育種研究者が言っているのは正しいと言える。
どうして組換えは嫌われるのか。消費者の心情から察するところ実用化は難しいだろうが、ルールを守って可能性のある技術の研究を続けるべき。
有機栽培の農家から遺伝子組換えの作物への反対が強い。有機栽培を20年研究しているが、エネルギー多消費型、コストがかかる栽培方法だと捉えており、有機だから安全だという理論はおかしく、あくまで成分分析を行って比べるべきだと考えている。
有機栽培の人で農作物の成分分析などのデータを持っている人にあったことはないが、同じ農作物でも栽培法で成分は変わるはずだから、そういうデータがあるとよいと思う。
農業は環境負荷産業である。不耕起栽培による省エネルギー、燃料費節減は注目に値する。
日本の食糧自給率を40%から少しでも高くしたい。安い農産物を提供していきたい。バイオの研究が進むような世論の動きを願っている。
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(独)農業生物資源研究所 田部井豊先生(東京) |
日本では、通常の議論は開発者、研究者、消費者の間で行われてきたので、生産者の声が加わった今回の企画はすばらしく、特に日米の農業者からの声を聞くことができてよかった。日本政府の規制の状況から考えて、今のような試験栽培が規制されて安全性の評価のための栽培すらできなくなるのはいかがなものか。研究できる環境を残しておくべきだと思う。
組換え研究に関わってきているので、この技術を進めていきたいと思い絶望的になりながら頑張っている。議論を公開にしてメリット、デメリットの議論をしていきたい。この会がその一助になるようにと願っている。
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北海道大学名誉教授 冨田房男先生(札幌) |
人や環境に対する安全は皆がほしいと思っている。
今回の北海道のガイドラインのような組換え作物を、作物の特徴を考えることなく、またやり方も無視した一網打尽に禁止というやり方は科学的根拠がなくおかしいと思う。
きちんと管理すれば、有機栽培も、従来法も、バイオテクノロジーを活用した農業も共存できるはず。また栽培者にもそれぞれ国の基準に従って何をやるかと言う自由がある筈である。組換えだからということで特別視することは、全く根拠がない。
日米を問わず生産者にとって、バイオテクノロジーを活用すると農薬散布や草取りの労働が大幅に軽減されコストダウンにつながるというのは共通のようでした。国際競争における日本農業の産業としての生き残りや、世界人口が今後増加し続けたときの食糧問題を考えるとき、この「コストダウン」が非常に重要なのだと感じました。また有機農業はエネルギーを多く消費しコストも高いというお話でしたが、自給率の低い日本は有機農業だけに頼って10年、20年後の食料は大丈夫なのでしょうか。日本の消費者の求めに応じて、世界の農産物輸出国は遺伝子非組換え農作物を、いつまでも安く大量に栽培してくれるのでしょうか。「本当の環境保全型農業とは何か。」ということについても、考えなくてはならないと思いました。
スピーカーの講演後に行われた質疑応答は次の更新時にお伝えします。
交雑に関わる質問が中心でしたが、農家、研究者、消費者のそれぞれの立場の方の本音が語られ有意義でした。どうぞお楽しみに。
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日米の生産者の方々とコメンテーターの冨田先生 (於 在札幌米国領事館・札幌アメリカンセンター) |