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EUにおける遺伝子組換えトウモロコシの承認と
日本国内の事情

 1月26日欧州委員会(EU)はシンジェンタ社(スイス)の害虫抵抗性の遺伝子組換えトウモロコシを食品として承認したと発表しました。
 欧州委員会では1998年から新しい遺伝子組換え作物の承認作業をやめていました(モラトリアム)が、これを解除したために承認作業が再開されたからです。
 今後、このトウモロコシは農相閣僚会議においても検討され、承認されると食品として流通することになります。ただし欧州各国それぞれで承認されなければ市場に出すことはできません。一部の国で商品化されないことも起こるかもしれませんが、その場合には拒否する理由をその国は欧州委員会に示さなくてはなりません。
 今まで米国で作付けされていた遺伝子組換えトウモロコシのほとんどは飼料用でしたが、今回承認されたトウモロコシがスイートコーンと呼ばれるヒトの食用の品種であることが注目されています。なお、この品種のトウモロコシは日本では2001年すでに承認されて、リストの23番目に記載されています。

 厚生労働省HP:遺伝子組換食品

 世界の遺伝子組換え作物の作付け面積は昨年秋の国際アグリバイオ事業団(ISAAA*)の発表によると、7年連続2桁の伸びを続け6770万ヘクタール(日本の国土面積は3700万ヘクタール)になりました。上位5カ国は米国、アルゼンチン、カナダ、ブラジル、中国で、その9割以上が南北米大陸に集中しています。お隣の中国でも害虫抵抗性遺伝子組換えワタが280万ヘクタール作付けされ、これは世界の遺伝子組換え作物の4%にあたります。

 日本では平成15年7月1日現在55種類が安全性審査を通過しています。アズキ、アルファルファ、イチゴ、イネ、カーネーション、カリフラワー、キク、キュウリ、コムギ、ジャガイモ、ダイズ、タバコ、テンサイ、トウモロコシ、トマト、トレニア、ナタネ、ノシバ、パパイヤ、ブロッコリー、ペチュニア、ベントグラス、メロン、レタス、ワタの25品目の植物の安全確認が「農林水産分野における組換え体の利用のための指針」に基づいて2003年までに行われてきました。
 この指針の第2章第2組換え植物 2評価項目(2)生殖・繁殖様式及び遺伝的特性、雑草性についても模擬的環境利用、開放系利用のための安全性評価が行われています。
 また5組換え植物の取り扱いに係わる作業要領(1)組換え植物の栽培管理等においても他の種苗などに混合しないような植え付け方について審査されています。

 農林水産省HP:農林水産分野等における組換え体の利用のための指針
 農林水産省HP:遺伝子組換え植物の安全確認状況(平成15年5月23日現在)

 しかし、遺伝子組換えと表示された食品は出回っていませんし、北海道農業研究センターでの遺伝子組換えイネ試験栽培のニュースでもお知らせしたように、日本国内では農林水産省、厚生労働省が安全性審査を既に行った遺伝子組換え農作物栽培に対する反対運動が、交雑の不安などを理由に起こっています。

 組換えイネの収穫が行われました(北海道札幌市)

 農林水産省農林水産技術会議事務局では平成15年12月26日「第一種使用規定承認組換え作物栽培実験指針(案)」についての意見・情報の募集を行い、平成16年1月23日にこの提出を締め切りました。
 第一種使用規定承認作物とは厚生労働大臣によって食品及び食品添加物としての安全性が承認されたもの、農林水産大臣によって飼料及び飼料添加物の安全性が確保された作物のことです。この指針は、このように安全性の確保された農作物の栽培、種子の管理、収穫物の扱いなどに関する指針で、たとえば栽培によって近隣の植物と交雑を起こさないように広く間隔をあけたり、袋をかけて花粉が飛ばないようにするようにと指導しています。
 以下は同指針(案)2交雑防止措置(1)隔離距離による交雑防止措置で示されている距離です。

栽培実験対象作物 同種栽培作物などとの隔離すべき距離
イネ 20m
ダイズ 10m
トウモロコシ
(安全性承認作物及び飼料安全性承認作物に限る)
600mまたは防風林があるときは300m
西洋ナタネ
(安全性承認作物及び飼料安全性承認作物に限る)
600mまたは花粉及び訪花昆虫のトラップとして、栽培実験対象作物の周囲に、1.5m幅の非組換え西洋ナタネを開花期間が重複するように作付けた場合は400m

 また次のような報道も行われています。

2003年 8月   滋賀県知事が遺伝子組換えの規制を条例化すると発言。
2003年 11月   岩手県が遺伝子組換え作物の研究中止を発表。
2003年 12月   茨城県では国の承認を受けた物でも一般圃場で栽培しないように要請。
2004年 2月   北海道では遺伝子組換え作物の栽培禁止条例を作ると発表。

 遺伝子組換え植物に厳しい姿勢をとり続けてきたEUでも交雑の安全性などが十分に検討され、遺伝子組換え農作物を承認するようになってきたこと、海外で実際に作付けした遺伝子作物が環境へ問題になるような影響を及ぼしていないことからも、日本の状況をもう少し冷静に科学的に考える必要はないでしょうか。
 私たちが昨年7月28日に、筑波の試験場のイネの見本園を見学したときには非組換えイネが数十センチ間隔で45種類も植えられていました。稲は自家受粉なので、数十センチ間隔で植えても交雑はほとんど無視できるので、ここで収穫される種は保存用として用いられるとうかがいました。

 つくば農場見学会(7月28日)開催報告

お米の品種45種が1列ずつ植えてある稲見本水田(手前)と役に立つ作物が植えてある畑作物
お米の品種45種が1列ずつ植えてある稲見本水田(手前)と役に立つ作物が植えてある畑作物

 イネの従来品種がこのように作付けされてきたこと、現在も作付けされていることを考えると、一例だけで論ずるつもりはありませんが、指針(案)に示されている20mの間隔距離は余りにもかけ離れているのではないでしょうか。

 欧米の研究開発と実用化の動きを鑑み、日本の研究開発、安全性審査した成果の有効な使い方を考えたとき、このような数字をあげた指導の意味を私達はどのように受け止めたらいいのでしょうか。

ISAAA
発展途上国における農業バイテクノロジーの普及と安全性確保を目的とした国際的なネットワークを持つ非営利団体。







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