12月5日(金)第6回談話会を開きました。スピーカーは私達の談話会にも時々お顔をお出しくださる毎日新聞社生活家庭部編集委員の小島正美さんでした。20名の参加者は、なかなかうかがえない記者から見た記事の読み方など興味深いお話をうかがうことができました。
新聞記事には様々な批判がありますが、どういう狙いで書かれているのか、記事のどういうところに欠陥があるのか、という見方について、いくつかの実際の記事を例にとって紹介したいと思います。
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「?」がついた見出しと記事の根拠について |
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新聞記事の例を示しながら説明される 小島さん |
「洗濯機のカビとアトピー?」という記事がありました。私はアトピー性皮膚炎について取材した経験からカビとの因果関係はおかしいのではないかと思い、その根拠となる発言をされた先生に取材しました。一つしか事例がないことがわかり、このために見出しに「?」が付いたのではないかと思いました。「?」のある見出しを見たときには、根拠がどのようになっているか気をつけて読んでみてください。
談話やコメントが記事の終りについている場合も、本文で書いたことへの「言い訳」の場合があります。
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記事をしっかり読みましょう |
根拠がしっかりしており重要だから1面に載るとは限りません。特ダネとなると根拠があまり確かといえなくても、1面に載ることがあります。記事は見出しだけでなく最後まで読まないとだめです。
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事例が1件しかない場合 |
「強い電磁波は頭痛のもと?」という記事が他紙に掲載されました。私も同じ学会の会場で同じ発表を聞きましたが、根拠となる事例が1件だったことと、他のリスクとの比較、解説されていなかったために、記事にはしませんでした。
しかし、常にいえることは、ひとつの記事を書いたときには、同じ考えを持っていた人は喜ぶし、その反対に書かれて困る人もいるわけです。この場合にも電磁波に危惧を抱いている市民NPOは喜んで記事をコピーして配っていたようです。
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BSEと全頭検査について |
日本では全頭検査をしています。また捨てる部位については、日本では脳、目、脊髄、腸の一部を捨て、欧州では脳、目、脊髄、腸全部を捨てます。腸の全部を捨てると消化器官中を移動中のプリオンを捨てることになり、この方が全頭検査より安全が確保できるという考え方です。日本の農林水産省、厚生労働省も全頭検査は感染源の調査に役立っても、安全面で問題解決にならないことは知っているようですが、なかなか変更できないのでしょうか。
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「中国野菜の残留農薬」の記事の書き方について |
クロルピリホス(有機リン系化合物の殺虫剤で、家庭用から農業用まで広く使用される。シロアリ駆除にも効果がある。「環境gooディレクトリ5000」より)という農薬がほうれん草の基準値の100倍以上検出されたと報道され騒がれましたが、同じ農薬でもりんごの基準値は100倍高く、その値を基に考えると、ほうれん草でもせいぜい2-3倍。私は絶対的な残留量を問題にすべきだと思い、残留量を論じる記事を書きましたが、社内では内容が難しいといわれました。
こういうときはどんな記事にすればよいと思いますか。私は残留量と許容量の一覧表を作って個人に判断してもらいたいのですが、このように書くとわかりにくいといわれそうですね。
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数字の意味 |
魚介類の水銀汚染に関して「魚を食べるとこどもの知能は低い」という記事が出たことがあります。
この記事のもとになった審議会ではマグロが問題になっていました。マグロは国内で50万トン食べられており、マグロの記事が書かれると風評被害が生じることが予想さました。そのせいかどうか分かりませんが、食べられる地域が限定されており、ひとり当たりの食べる数量の高いキンメダイがスケープゴート(いけにえ)になったのではないかと思います。
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新聞の自己規制とクレーム対応 |
新聞社でも風評被害の原因になるような報道にはクレームが来るので、自己規制をしています。
朝刊は前夜10時30分から1時までに3回、送り先によって分けて印刷されるので、3回の印刷の間には見出しが修正されることもあります。
毎日新聞では全部が署名記事なので、クレームや意見も直接記者あてで届くこともあります。問い合わせても、執筆者を明かさない新聞社もあります。読者の窓口はどの新聞社にもあるので、クレームは言った方がいいと思います。満足できる訂正記事は出なくても、次から同じような報道がなくなるので、諦めないでクレームを寄せてください。(文字や数字はすぐに訂正がでるが、内容については社内で始末書を書く関係もあるのか、あまり訂正記事は出されないようだ。取材協力者に記者が直接お詫びしていることもある。)
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新聞記者の気持ち |
自分だけがつかんだニュースは特ダネとして書きたくなる記者の「特ダネ意識」というものがあり、事例が一件でも記事にしてしまうことがあります。逆に他紙がほとんどカバーしている記事が掲載されないことを「特落ち」といって、デスクは嫌います。公平を期すために両論併記にすると、記事としては地味になるので、ボツになることもあります。
科学的な根拠がそろっていなくても、ニュースは早いことも大事なので、根拠が多くないことを示した上で書いた方がいいと思いますし、わかったときに訂正すればよいと私は思っています。
科学部の記者の場合7-8割が理系ですが、天文や薬学等といろいろです。記者の専攻が文系か理系かより、じっくり調べていろいろな人の話を聞ける記者であることが大事だと私は思っています。
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日本人は新聞情報を利用しているので責任を感じてほしい |
- 私は新聞をとっていないが、読売新聞が900-1000万、朝日が800万、毎日が400万と購読されているといわれている。インターネットの発達の割には、購読者数は減らなかった。日本はまだ新聞の情報に頼っている人が多い。
- 記者クラブには限られた記者しか入れない仕組みになっている。そこで配られるプレスリリースをそのまま記事にするのはいかがなものか。新聞記事が原因で危険が生じることもあるので、一字一句に心をこめてほしい。
- 日本の五大紙は欧米の10-20倍ほど読まれているのだから責任を認識してほしい。
- 新聞で勉強しようとしている人にとって一度入った情報は消えにくいのでその責任を感じてほしい。
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クレームについて |
- 新聞やテレビは倫理規定などを作って示すのがいいと思う。
- クレーム対応の流れを公開してほしい。
- 新聞報道によって被害をうけた人を救済する組織があるといいと思う。
- あまりにひどいという連載があっても、クレームはいわないですめばその方がいいというのが購読者の気持ち。執筆者を明らかにしてくれないとクレームをいってものれんに腕押しの気持ちになるし、クレームをいうと恨まれるのではないかと不安にもなる。
- デスクは責任を持って記事を選んでいるので、クレームが来なければ今の方法でいいと判断してしまう。人権問題はクレームが多く来るが、科学関連の記事にはまずクレームが来ない。たとえば犯罪で亡くなった被害者のプライバシーなどは新聞社内でも議論になることがある。
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一方的な報道や不完全だと思われる報道について |
- 有機農業は万能のような報道を見ると、世界中が有機農法を始めると餓死者が出るだろうに、と思う。
- フォローアップ記事や肯定的な記事はどうすれば書いてもらえるのだろうか。
- 購読者の気を引かないといけないので、新聞は当たり前のことは書きにくい性質があるのではないか。
- 情報というものは発信源から受け手に届くまでに必ず伝言ゲームのように不正確になるものだ。
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購読者の態度 |
- 記事をちゃんと読まずに、見出しだけを見てわかった気になっている購読者は困ったものだ。
- シンポやフォーラムに参加する関心の高い市民にも、見出しをつなげた情報で満足している人がいる。
- 日本人には問題を誰かが解決してくれるだろうという姿勢があるが、しっかり新聞を読まないといけないと思う。
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情報を提供する立場から |
- 宣伝っぽいのも否定的な立場も嫌だと思いつつ、消費者を意識しながら報道している。
- 中立でありたいと思うほどに資料を作るときに苦慮している。
- 人に何かを伝える文章を書くと自分の主観が入る難しさ、苦しさを感じている。
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学会の関わり |
- 学会として提言や意見書を新聞に発表するなどの対応は日本では難しい。
- 米国のように、有志でいいから日本の学会も新聞に見解が出せるといいと思う。
- バイテク関連の記事を見ていると正確さを意識していると思えない。こういう解説には学会、協会などがあたって解決をはかるといいのではないか。
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海外の新聞 |
- マスコミ自身がマスコミの姿勢を問う記事を見かけ、その中で新聞の使命は今、知るべき情報を伝えることといっていた。
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事実の報道と不安の誘導 |
- 環境ホルモン学会の発表で新生児の臍帯からPCBが検出されるという報告があった。実害はないので、不安をあおる結果になることが予想されるときには記事にしないのは問題があるかもしれないが、どういう書き方をするのがいいのだろうか。
マスコミ報道については今までのくらしとバイオプラザ21の談話会でも、一方的な報道が多いとか、センセーショナルな記事ばかり扱うというような意見や感想が出ていましたが、小島さんのお話から現場で文章を書く方の気持ちが少なからずわかった気持ちがしました。正確に偏らずに取材して記事を書くことは簡単なことではありません。それは情報提供を行っている談話会参加者達も、くらしとバイオのホームページ作りでも、日々感じていることです。「記者が文系、理系出身であるかにかかわらず、じっくり調べていろいろな人の意見を聞く」という姿勢は私達も学んでいきたいものだと思いました。
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小島さんと参加者のみなさん |