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遺伝子組換えカイコの第一種使用等に関する説明会開かれる

 2015年6月26日に、群馬県蚕糸技術センター(前橋市)にて、同センターと農業生物資源研究所(生物研)合同で、遺伝子組換えカイコの第一種使用等に関する説明会が開催され、飼育試験の目的、飼育時の生物多様性への配慮、安全管理体制など説明と、参加者と意見交換が行われました。

 カイコの遺伝子組換え技術は2000年に開発された、日本発の技術です。現在、遺伝子組換えカイコを利用した物質生産の分野では、診断薬や動物用医薬品、化粧品などへの応用はすでに実用化され、今後、拡大が見込まれています。
蚕糸技術センターでは付加価値の高い蚕糸業の展開を目指し、2000年から生物研との共同研究を10年以上行ってきました。昨年2014年から、生物研の施設内(つくば市)で蛍光緑色タンパク質を繭糸に含む遺伝子組換えカイコの第一種使用等(閉鎖系ではない施設での飼育)が開始され、遺伝子組換えカイコの環境(生物多様性)への影響がないこと確認する試験が行われています。それらの知見も合わせ、蚕糸技術センターと生物研は、実用化に向けた第一歩として蚕糸技術センターにおける遺伝子組換えカイコの第一種使用等を環境省・農林水産省に申請していました。そして今年5月に承認されたので、実際に飼育実験を始める前の市民説明会の開催となりました。これは自治体による遺伝子組換え生物の第一種使用等の初めての事例です。くらしとバイオでも、今回の群馬県における飼育実験を経て、組換えシルクの流通・販売される日が来ることを期待して、取材に伺いました。
 
 説明会では、まず蚕糸技術センター・須関浩文所長から挨拶がありました。同センターはカイコ品種の保存、開発、農家が飼育するカイコの卵生産などの養蚕技術のみならず、製糸技術までトータルで研究開発している、国内公設機関では唯一の組織とのこと。須関所長は「今回の第一種使用等は、今までにない特徴的なシルクを生産する遺伝子組換えカイコの実用飼育に向けた取組みである。地元の養蚕農家の方も出席してくださってありがたい。また地方としては初めての遺伝子組換えカイコの飼育実験であり、多くの方々にご理解、応援をいただきたい。」とコメントされました。
引き続き、生物研の町井博明理事からも挨拶がありました。シルクそのものの性質を改変した材料は、軟骨材料や人工血管など医療の分野での応用に国内外の企業から期待されているとのことで、町井理事は「遺伝子組換えカイコの技術が開発されて、「蚕業(産業)革命」が起ころうとしている。先端技術を利用して産官学が一緒になり、糸からメディカルまで広い分野で新たな蚕業が広がることに貢献することが、生物研の役割と思っている。」と話されました。
 
 その後、養蚕業と遺伝子組換えシルクの開発状況、遺伝子組換えカイコの生物多様性への影響評価、安全管理体制、具体的な飼育実験の計画の説明が各担当者からされました。そして最後に、実際に第一種使用等を行う隔離飼育施設の見学が行われました。

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説明をする生物研 河本さん 説明をする蚕糸技術センター 桑原さん
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質疑応答の様子

お話のおもな内容

 「養蚕業をめぐる国内外の動向と遺伝子組換えシルクの開発状況について」農業生物資源研究所 遺伝子組換えカイコ研究開発ユニット 冨田秀一郎さん
かつて、日本は生糸の生産大国でしたが、1930年代に輸入国に転じてしまった。この時代に国内の産業構造に変化が起こった。その後、輸入品との競合に負けて、養蚕業は衰退してしまった。

 カイコの有用性については、繭糸をたくさん作ること。繭糸はほとんどがタンパク質であるので、言い換えればカイコはタンパク質の生産能力が高いと言える。そこで、カイコを物質生産の工場として使えないか、という試みが始まった。現在、病気の診断薬や化粧品などに遺伝子組換えカイコが作ったタンパク質が使用され、販売されている。今後は医薬品や医療器具の原料に利用しようと考えている。上記の診断薬や化粧品に応用されている遺伝子組換えカイコは、閉鎖された(拡散防止措置が執られた)施設で飼育されている。

 一方、シルク素材の開発も進められている。今回飼育実験を行うカイコが作る蛍光シルクのほかにも新しい性質の絹糸を作るカイコも開発されており、これまでに着物、ニット製品、ドレスなどが試作され、利用したいという要望が多くある。ただし、このようなシルク素材を産業化するためには、遺伝子組換えカイコの繭を大量に、潤沢に供給する必要がある。そのため、今回の第一種使用等で、農家で大量に遺伝子組換えカイコを飼育、繭を生産するための枠組みを作ろうということ考えている。閉鎖されていない施設で飼育しても生物多様性への影響がないか、そして飼育した遺伝子組換えカイコの作る繭の品質の確認などのデータを集め、農家での飼育につなげていきたい。


「遺伝子組換えカイコの生物多様性影響評価」農業生物資源研究所 遺伝子組換えカイコ研究開発ユニット 河本夏雄さん

 生物多様性影響評価の話をする前に、この後の説明がより分かりやすくなると思うので、まずはカイコの一生と、実際の飼育の様子を動画で見ていただきたい。(5分弱の動画がありました)カイコの卵は種や蚕種と呼び、養蚕農家で飼育する蚕種は専門の業者が作る。飼育は蚕種から3〜4齢になるまで共同飼育所でまとめて飼育し、農家に配布する。農家はそれぞれ桑畑を所有しており、その桑を収穫して与えながらカイコを飼育する。できた繭は製糸会社へ出荷され、保存しやすいように熱乾燥される。その後、糸になる。従って、農家では成虫にならないので、成虫が農家から野外に出てしまう可能性は極めて低い。また、カイコは自力では生きていけない生き物で、もし野外に出てしまったとしても鳥に食べられたり、蟻にたかられたりして死んでしまうことも確認している。

 カイコの特徴を前提とし、遺伝子組換えカイコをどのように飼育するのかはカルタヘナ法に基づいて管理する。カルタヘナ法では外に出る可能性がある扱い方の第一種使用等等と、外に出ないように管理して扱う第二種使用等がある。診断薬や化粧品の製造に利用している遺伝子組換えカイコは第二種使用等で飼育している。今回の説明は第一種使用等等での飼育で、将来的に農家で遺伝子組換えカイコを飼育しても生物多様性に影響がないことを確かめるための科学的データを収集する。

 生物多様性への影響評価の観点は、競合における優位性、捕食性、有害物質の産生性、交雑性の4つ。交雑性について、カイコと交雑可能な野生の蛾であるクワコへの影響を評価する。クワコは奄美地方や沖縄以外の日本各地に生息している。人間が引き合わせてやると、カイコのメスは野外にいるクワコのオスと交尾が可能。そこで自然界で実際に交雑が起こっているのか、全国各地で採取した3,600頭のクワコの遺伝子を調べたところ、遺伝子交雑は見られなかった。養蚕が盛んな地域のクワコにも交雑したデータは得られておらず、カイコとクワコの交雑の可能性は極めて低いことが分かった。今回の第一種使用等等において、外に廃棄する桑の枝などの飼育残渣に混じったカイコが野外に出る可能性が考えられる。そこで、念のために飼育残渣は粉砕機で細かくし、カイコが残っていても死んでしまうように処理をしてから廃棄することで、クワコとの交雑を防止する。


「安全管理体制について」 農業生物資源研究所 安全管理質 立石剣さん

 今回の飼育実験は、蚕糸技術センターと生物研の合同での飼育実験なので、安全管理体制も両方で連携して行うことになる。

 遺伝子組換え生物の取り扱いについては、カルタヘナ法に基づいて法令対応している。遺伝子組換えカイコの実験については生物研と蚕糸技術センター、両方に設置された業務安全委員会において審査し、適正な研究の実施と安全確保ができるような体制にしている。

 万が一の事故発生時においても、両者ともに連携が取れるよう、緊急連絡体制をとっている。クワコとの交雑がないことをチェックするモニタリング調査は生物研で責任を持って行うことになっている。前橋市とつくば市で場所は離れているが、連携はしっかりとって進める。

「平成27年度飼育実験計画について」 群馬県蚕糸技術センター 蚕糸研究係 桑原伸夫さん

 今回の第一種使用等での飼育実験の目的は、一言で分かりやすく言えば、組換えでないカイコと組換えのカイコとで違いが無いかを確認することと、生物多様性に影響がないかしらべること。実際の飼育には地元の養蚕農家も参加する。
飼育するのは繭糸のフィブロインに蛍光緑色タンパク質GFPを発現するようにした遺伝子組換えカイコ。遺伝子組換えカイコの第一種使用等を行う隔離飼育区画ではカイコ幼虫の3齢以降から繭生産までを行い、その他の作業は第二種使用等の施設で行う。収穫した繭は一度冷凍することでサナギを殺し、成虫にならないようにする。飼育期間は7月から10月まで、その間で2回飼育を行う。

 隔離飼育区画は関係者以外が入らないようにフェンスで囲み、その中に施設を作った。養蚕農家の蚕室に似せた、ビニルハウスのようなパイプハウス蚕室を作り、カイコの幼虫が外に出たり、クワコ成虫が中に入らないように内側全体を網で囲った。ここで20台の飼育台を置き、6万頭のカイコを一度に飼育することができる。そのほか、プレハブの蚕室(既存施設を改修)、飼育残渣を処理するパイプハウスを作った。第二種使用等をしている施設からカイコを運び込む際には、カイコが外に出ないように蓋の閉まる箱に入れて移動させる。

 今年はパイプハウス、プレハブ蚕室ともに1回につき遺伝子組換えカイコを54,000頭、組換えでないカイコ6,000頭ずつに飼育を2回予定している。

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隔離特定飼育区画出入り口 組換えカイコを飼育予定のパイプハウスの中

話し合い 
  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • カイコに与える桑について、幼虫の時期によって与える桑の葉の状態は違うのか?  → 地域ごとに適した桑品種があるので、それを栽培して与えている。終齢はたくさんの桑を食べたほうが大きくなるので、十分量を与えるようにしている。
    • 地域振興として養蚕が使えないかと考えている。できれば通年飼育したい。桑の葉のない時期は人工飼料があると聞いている。コストが見合わないそうだが、何が良い方法はないか?また種の供給は可能か?  → 桑は寒くなると落葉するので、桑の葉が無い時期は人工飼料で飼うしかない。ただし、繭から糸をとるのでは経済的に難しいと思う。種については将来的に供給が可能になると考えられるが、その場合は事業化が必要である。
    • 今回の飼育実験に参加するのはどこの養蚕農家が何件ぐらい参加するのか?  → 前橋市内の養蚕農家3軒が参加を予定している。
    • ここでデータを取ったあとの手続きについて、養蚕農家で遺伝子組換えカイコを飼育するための申請を国に出すと思うが、誰が出すのか?農家が申請を出すとなると負担になるのではないか?  → 遺伝子組換え農作物を流通させる場合は制限を設けず、どこで栽培してもいいような許可が得られている。カイコは前例がないので断言はできないが、どこかでまとめて申請し、飼育方法を限定して許可をもらうことになると思う。場合によっては飼育場所、施設についてもなんらかの条件を求められるかもしれない。
    • 残渣の粉砕について、具体的にどのくらいのサイズになるから大丈夫だ、と言えるような数字はあるか?  → 何センチとまで具体的には規定されていない。ただし、試験をしたところ、破砕機にかけてしまうと全部死んでしまうことを確認している。
    • 今回の飼育実験でできた繭は何かに使うのか?  → 共同で事業を進めている中で試作品作成に使う予定。一般に販売する予定は無い。
    • 生物研で昨年から始まった第一種使用等との違いは?他の地域でもやらなくてはいけないのか  → 昨年から生物研で行っているが、規模が小さい。今回の蚕糸技術センターでの第一種使用等では施設等の規模が大きく、より農家での飼育に近い条件で評価ができる。パイプハウスは生物研になく、生物多様性に影響がでないことがわかれば、現在農家が持っている蚕室でも飼育可能というデータがとれる。また、つくばとは残渣処理の方法も違う。どちらがいいのか、検討する。
    • 自分は茨城県から来た。遺伝子組換えカイコの飼育について県に相談しようとしたが、茨城県には養蚕の担当者がいない。もし、飼育を始めるとすると、生物研や群馬県から種をもらえるのか?  → 現在は組換えカイコの種の配布はしていない。共同研究という形では行うこともあるが。ただし、将来的には多くの地域で使ってもらいたいので、対応できるようにしたいと思っている。
    • 群馬県は第二種使用等から第一種使用等に戦略を変えたのはなぜ?  → 第二種使用等だと施設にコストがかかる、飼育できる頭数が限られていた。第一種使用等であれば飼育頭数も増やせ、今の農家の施設が使えるので、その方針でいきたい。
    • 実用化されるのは、最短でいつごろか?  → 一般の農家による飼育に関する申請を出す必要がある。その後の審査の進み具合にもよる。来年申請できて、審査がスムーズに進めば再来年ということも考えられる。実際に申請し、審査が始まらないとわからないので明確にはいえない。
    • 飼育中、例えば最悪の場合で水害や竜巻で飛ばされて遺伝子組換えカイコが外に出てしまった場合の安全性の対策は?世間ではまた十分に認知されていない生物が外に出てしまうと不安に思う人もいて、世の中の人から疎外されてしまうことになるのでは。   → 遺伝子組換えカイコが野外に出た時にどうなるか、ということも検討した上で申請した。交雑の可能性は極めて低いこと、交雑したとしても次の世代は生きていけないと考えられる。そのためにもまずはモニタリングが重要と考える。もし、交雑が確認されたような場合は、専門家から意見をもらいながら対応していく。交雑して卵が生まれたとしても、近くにエサとなる桑がなければ大きくもなれない。
    • 今後、実用化に向けた申請はどこにするのか?  → 飼育した遺伝子組換えカイコや繭の用途により異なってくるが、糸として使うのであれば農水省と環境省となる。

    この後、隔離飼育実験施設を見学、実際に内側から網を張り巡らされたパイプハウスや、飼育残渣を粉砕する処理室などを見学しました。